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O plus E 2018年Webページ専用記事#4
 
 
アントマン・アンド・ワスプ』
(ウォルト・ディズニー映画 )
      (C) Marvel Studios 2018
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月31日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー公開中]   2018年7月24日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  2作目も絶好調,1.5cmから24mまでの変幻自在が楽しい  
  当欄で大きな役割を占めるマーベル・シネマティック・ユニバース (MCU) 作品の第20作目であり, 12作目『アントマン』(15年10月号)の正統な続編である。この3年間にMCUは8本も作られたことになり,今年に入っての3本目である。以前にも述べたように,今年はMCU誕生の10周年記念の年であり,どの作品にも相当気合いが入っている。よって,もう観る前から,完成度の高さは保証付きである。となると,マーベル・ファンにとっては,他のMCU作品と比べてどれだけ独自性を出して魅せてくれるかがポイントであり,当欄としては,どれだけ多彩なCG/VFXを繰り出してくれるかが興味の的となる。
 主人公は,前科がある元泥棒でバツイチ男のスコット・ラングで,天才科学者ハンク・ピム博士の屋敷に忍び込んだことから,博士の開発したスーツを着用して体長1.5cmの蟻男「アントマン」に変身し,スーパーヒーローとして活躍する。その顛末を描いたのが前作であった。その前作からこの本作までの間に,アベンジャーズたちが二手に分かれて対立する13作目『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)にも登場し,キャプテン・アメリカ側に組みしていた。でありながら,19作目『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18年Web専用#2)には登場しなかった。これはアベンジャーズ・チームから除名された訳ではなく,すぐに本作が控えていたからだろう。その証拠に,来年公開の22作目『アベンジャーズ4(仮題)』に登場することが既に公表されている。
 表題中の「ワスプ」とは,アントマンと同様にスーツを着用し,縮小して活躍する相棒である。「ああ,前作にも登場したクロオオアリのことか」と思われるなら,それは違う。あれは「アントニー」で,本物の蟻という設定だ。「ワスプ」は牝の羽蟻であり,黒いワスプ・スーツを着用したスーパーヒロインの名称である。前作のラストで,ピム博士が中断していた女性用新型スーツを完成させ,娘のホープ・ヴァン・ダインがそれを着ることが予告されていた。その予告通り,本作ではスーパーヒロインの2代目ワスプが,しっかりアントマンのパートナーとして登場する。前作で当初対立していたスコットとホープは,既にすっかり打ち解け,本作では何やら恋人同士の雰囲気まで醸し出している。『アベンジャーズ4』にもカップルとして登場するようだ。
 冒頭のスコットの夢に,死んだはずのピム博士の妻で,ホープの母であるジャネットが登場し,極小の量子世界に閉じ込められたままであることが判明する。本作は,初代ワスプであったジャネットの救出劇であり,博士の開発した「量子トンネル」を狙う謎の美女ゴーストとの闘いを描いている。
 監督は,前作に引き続きペイトン・リード。勿論,主要登場人物の3名(スコット,ホープ,ハンク)として,ポール・ラッド,エヴァンジェリン・リリー,マイケル・ダグラスが続投している。M・ダグラスは悪役の印象が強く,正体は敵の親玉かと予想する人が多いようだが,本シリーズに限って,それはない! しっかりアントマンとワスプを見守る善良な科学者である(笑)。
 初出演組では,素顔のジャネットは後半まで登場しないが,出演者リストを見れば,ミシェル・ファイファーが演じることは容易に想像できるだろう。姿を消し,何でもすり抜けられる敵役のゴースト役にはハンナ・ジョン・カメン,ハンクの元同僚のビル・フォスター役にはローレンス・フィッシュバーンが配されている。なかなか好いキャスティングだ。
 冒頭はバツイチのスコットと愛娘のキャシーによるホームドラマ風で始まり,前作同様,全編でコメディタッチが貫かれている。最近のアベンジャーズ・シリーズは,シリアスでダークな物語設定が多いが,この明るさは嬉しい。スーツで変身しない時は,少しドジな元泥棒で,最愛の娘にはぞっこんという設定が生きている。『デッドプール』シリーズもコメディタッチだが,あれほどオフザケではない。同じようなアメコミものの中で,上手く個性を描き分けていると言えよう。
 ピム博士の量子研究所やその研究成果に,何となくもっともらしい科学的解釈が付されているのも楽しい。忍者ものやマジックもので,技の種明かしがついているのに近い感覚だ。筆者らの世代がかつて楽しんだ手塚マンガの未来もののようなワクワク感がある。SFはダークにならずに,かくあって欲しいと思う。
 ただし,いくら縮小を続けたとはいえ,どうやって原子より小さな量子世界にまで到達するのか合点がいかない。それじゃ,縮小される人間の細胞は,原子でなく一体何で構成されるのかと考えると変なのだが,まあ固いことは言わずに楽しむことにしよう。
 以下は,当欄の視点での論評と感想である。
 ■ 全編を通じて,CG/VFXシーンが満載だ。他作品よりも一段と多く感じるのは,小さくなったり,大きくなったり,CG/VFXでしか表現できない派手なシーンが多いからだろうか。先に担当社名を挙げておくなら,主担当は前作同様にDNEG (Double Negative)で,他にScanline VFX,Luma Pictures, Method Studios, ILM, Cinesite, Rodeo FX, Digital Domain, Lola VFX, Rise VFX, Crafty Apes等々,実際に多数社が参加していた。プレビズはお馴染みのThird Floorで,随所でその威力を感じた。3D変換も最大手のStereo D社の他に,DNEGの3D部門とLegend 3D社も参加するという力の入れようだ。マスコミ試写は2D版しか上映されなかったが,3Dならさぞかし楽しかっただろうと思うシーンが多々あった。
 ■ アントマンもワスプも,縮小された身体の大半はフルCGでの描写だろう。ワスプには羽があるので,自ら飛べるのが大きな特長だ。飛んで着地して,動く場面でもアントマンとは明らかに動きが違う(写真1)。スーツ姿で,アントマンを上回る身体能力という設定だが,いかにも女性らしい動きだ。見事に描き分けているなと,動作の違いを眺めて楽しむのも一興だ。
 
 
 
 
 
写真1 黒スーツで羽のあるワスプが,包丁の側面をひた走る
 
 
  ■ 一方のアントマンの基本サイズは身長1.5cmだが,本作では,60cm,5.5m,24mの大きさに変身する。身長24mはまるでガリバーで,笑いを誘う(写真2)。この間の変幻自在ぶりがスピーディで,スタイリッシュで,頗る楽しい。他のスーパーヒーロー映画では観られないアクションシーンである。巨大化した蟻たちの登場シーンも,ごく自然で,何やら当たり前のように見てしまう(写真3)。他では,敵役のゴーストが透明になり,二重写しや壁やビルを通り抜けるシーンも好い出来映えだ。最近のCG技術では何も難しくはないが,ビジュアル演出が秀逸だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 これが身長24mに変身したアントマン。まるで「ガリバー旅行記」だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 巨大化しかCG製の蟻を見ずに演技する俳優も結構大変そう
 
 
  ■ キャラだけでなく,建物にも注目だ。ピム博士の量子研究所は4階建てのビルであるが(写真4),これが何と,キャリーバッグ・サイズに縮小でき,丸ごと持ち運びできてしまう(写真5)。これまたアイディアが秀逸で,拡大縮小の楽しさが満喫できるシーンである。その中で,何が実物で何がCGかは,メイキング映像を見ない限り,まず分からない。VFX Breakdown映像がネット上で公開されているので,種明かしの愉しみもある。
 
 
 
 
 
写真4 どっちみち縮小するなら建てるだけ無駄だと,
玄関だけ作って(左),実物大ビルはCGで描いている(右)
 
 
 
 
 
写真5 このシーンでは,縮小された研究所が実物で(左),ハトがCG製だ(右)
 
 
  ■ 前作では小さなラボ内の描写を褒めたが,本作の研究所の内部は更に進化し,ビジュアル的にも相当凝っている(写真6)。色々な小物のデザインも悪くないが,注目は量子トンネルのデザインだろう(写真7)。これは実物大のセットが組まれ,1,300個のRGB LED照明がコンピュータ制御で点滅できるという。ラボ内はあらゆるデザインが素晴らしいと感じたが,その一方で,量子世界内の描写は今イチだと感じた。誰も見たことはなく,全くの想像上の産物とはいえ,もう一工夫あっても良かったと感じた。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 量子研究所内部のデザインが秀逸。かなりの部分がVFXで描かれている(下)。
 
 
 
 
 
写真7 見せ場となる量子トンネルは,実物大セットが組まれた
(C) Marvel Studios 2018
 
 
  ■ 量子研究所はサンフランシスコにあるという設定であり,シスコ市内や郊外の光景が頻出する。その俯瞰シーンの撮影には,ドローンが多用されていると感じた。その一方で,市街地でのアクションシーン現場は,本物ではなく,街の大半をデジタル化したCGセットだと見て取れた。といってもバレバレな出来映えではなく,かなりレベルは高い。ラストバトルにも,他作品とは一味違う新鮮さを感じた。何が違うか,上手く形容できないが,間違いなく新しい。では,そこまで褒めておいて,なぜ最高点評価ではないのかと言えば,これはMCU内での相対評価であり,次回作以降のさらなる進歩に,を残しておきたいだけである。  
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