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O plus E誌 2017年4月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』:昨年の『この世界の片隅に』(16年12月号)以来,国産アニメを馬鹿にしてはいけないと思い,本作にも期待をかけた。少女コミックが原作でなく,オリジナル脚本でワーナー配給作品だったから尚更だ。結果を先に言えば,惜しい。実に惜しい。主人公は女子高生で,夢と現実が交錯するというSF設定は悪くない。絵は和製アニメの標準レベルで,物語の骨格も悪くない。最大の欠点は,主人公のセリフや表情も,あまつさえ音楽までもが余りに幼稚過ぎる。この監督は,春休み公開の本作の主要観客層を,小学校低学年だけと決めつけているのではないか? 自動運転技術に関する知識もプアで,HMDもロボットの造形もお粗末過ぎる。ハリウッド資本,英国VFXスタジオのパワーで実写映画化したら,はるかに素晴らしい作品になったのにと思いつつ観ていた。激励の「喝!」の意味を込めて,評点は低めにした。
 『3月のライオン 前編』:原作は羽海野チカ作のコミックで,間欠的に現在も連載中だが,これを前後2部作で実写映画化した作品だ。将棋がテーマで,中学生でプロ棋士になった少年が主人公(神木隆之介)と聞くと,当然『聖の青春』(16年11月号)と比べたくなる。ただし,本作はフィクションで,3姉妹の家庭との交流も描いたドラマとなっている。例によって,事前予習として原作コミックを多数レンタルしてきたが,1巻目で放り出してしまった。女性コミック特有のコマ割りやセリフは,評者とは肌が合わない。同じ原作者の『ハチミツとクローバー』(06年6月号)も酷評したように,どうも生理的に嫌悪感を抱いてしまう。前編は,原作のテイストを色濃く残していて,将棋と家庭ドラマの雰囲気がマッチしていない。演技も皆下手に見えた。
 『同 後編』:後編に入って,見違えるような躍動感が感じられた。絶好調の大友啓史監督の演出が冴えわたり,原作の不快感を吹っ飛ばしてくれた。棋戦場面と2つの家庭内の愛憎劇,相容れない2つの要素を,大谷翔平の二刀流のように両立させている。それが終盤は並行して進行し,やがて溶け合う。見事だ。対局シーンの描写が克明で,棋士の和服や対戦場所の選択も凝っている。宗谷名人(加瀬亮)と心友・二階堂四段は,誰が見ても羽生善治と故・村山聖がモデルだ。後者を,染谷将太が特殊メイクで演じているとは見えない。まるで,お笑いタレントの彦摩呂か日村勇紀だ。クライマックスで戦う後藤九段(伊藤英明)は,強いて言えば,米長邦雄・永世棋聖がモデルだろうか。かく左様に,将棋ファンも楽しめる力作に仕上がっている。
 『サクラダリセット 前篇』:本作も前後篇2部作だが,後篇の公開が少し先なので,前篇だけを語ろう。河野裕作の青春ミステリーの実写映画化で,特殊能力をもつ者たちが住む咲良田市が舞台のSFドラマだ。主人公の浅井ケイ(野村周平)は過去の記憶を完全に保持する能力をもち,ヒロインの春埼美空(黒島結菜)は世界を3日分巻き戻すリセット能力をもつ。いかにもゲーマー世代を意識した超能力であり,能力の組み合わせで敵を倒す様子は,RPGのアイテム収集を思い出す。一旦セーブすれば,世界を再現できるのはPC感覚とも言える。「リセット」はパラレルワールドへの分岐と考えられるが,となると「未来予知能力」と矛盾してくる。この辺りの理論武装がもう少し欲しかったし,高校生中心でなく,もっと大人の映画にしても良かったと思う。『グランド・イリュージョン』(13)のテンポと『インセプション』(10)のクオリティで語れば絶賛できたのにと言うのは,ない物ねだりだろうか。
 『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』:1963年11月ダラス遊説中にジョン・F・ケネディ大統領が暗殺され,葬儀が執り行われるまでを,ファースト・レディのジャクリーン夫人の視点から描いている。たった4日間の物語ながら,前半と後半でまるで印象が違う。ナタリー・ポートマンではおよそジャッキーには似ていないと思ったが,髪形と表情,口調で見事に化けている。当時の衣装,クルマの再現は完璧に近いし,ホワイト・ハウス内部の描写も興味深い。見慣れた暗殺シーンとは違うアングルからの銃撃直後の場面も新鮮だ。淡々としたドキュメンタリー風の進行が,中盤以降一変する。葬儀を取り仕切り,パレードの形態を巡って側近とぶつかる様は,ジャーナリストであった彼女の凛とした態度が強く打ち出されている。なるほど,アカデミー賞主演女優賞候補に相応しい熱演だ。その半面,かなり脚色されていて,少し演技過剰だとも感じた。
 『ムーンライト』:言うまでもなく,今年のアカデミー賞作品賞受賞作だが,迂闊にもこの重要作品を4月号の本誌で紹介し損ねた。締切に間に合わなかったのではない。既に授賞式前の2月9日に試写を観終えていたのだが,当初の公開予定が4月29日であったので,5月号紹介で十分と思い,3月31日公開に早まったことを知らなかったのである。薬物中毒で荒んだ母親から虐待を受け,学校でも日々苛めに合う気弱な黒人少年が,唯一親切にしてくれた同級生男子に心を寄せ,やがて自らの内なる同性愛指向に目覚める物語だ。映画は時間順の3つの時代に分かれた3幕構成であり,1人の主人公を,3人の俳優が順に演じるというスタイルである。洋の東西を問わず,肌の色にも関係なく,このような苛めが存在することにやるせなさを感じるが,彼の内面的成長を丁寧に捕えたバリー・ジェンキンス監督の手腕には感心した。授賞式でのハプニングや,人種的偏りに対する前年度の埋め合わせとの評価は,本作にはむしろ気の毒だ。低予算映画で,LGBTという一般的日本人には馴染みのない世界を描いているが,良作であることは間違いない(個人的には,やはり『ラ・ラ・ランド』の方が作品賞に相応しいと思うが…)。政治的配慮云々の議論以前に,こういう映画を作ることを認める米国映画人の良心,心意気に敬意を表したい。
 『はじまりへの旅』:こちらは,主演のヴィゴ・モーテンセンがオスカー・ノミネートされていた作品だ。電気もガスも水道もない森林の中に住む父と6人の子供(男女各3人)が登場する。この家族構成だけでも個性的だが,毎日の厳しいサバイバル訓練,物凄い読書量に驚く。心の病で実家に帰っていた妻(母)が自殺したとの報せに,4日かけてワシントン州からニューメキシコ州への旅に出る。下界の文明に触れた彼らのドタバタが楽しく,ロードムービーとして秀逸だ。脱文明を主張するお固いインデペンデント系映画かと思いきや,ユーモアたっぷりで,家族ドラマとしても逸品と評価できる。父と子の絆,亡くなった妻との愛が主題で,生真面目な長男,父親に反発する次男の描き方が出色だ。欲を言えば,女の子ももっと個性豊かに描いて欲しかった。終盤,気分一新で父親は髭を剃るが,V・モーテンセンは,顎髭がある方が断然似合っている。
 『ハードコア』:ユニークな映画だとは聞いていたが,なるほどユニークだ。大事故に遭遇し,大きく損傷した肉体に,人工的な腕,脚,眼球等を取り付けて甦った男ヘンリーが主人公である。マシンの特殊能力を得た彼が,妻をさらって逃げた悪の組織と戦う壮絶なアクションのオンパレードだ。全編が完全一人称視点で描かれているので,ヘンリー自身は手や足しか映らない。激しいアクションの連続であるため,この視点だと何が起こっているのか把握しづらく,殊更目が疲れる。やっぱり,映画は普通のカメラワークやカット割りの方がいいなと感じる。異色映画として,評論家筋の評判は良くても,なかなか一般観客の評価は得にくいだろう。ただし,冒頭で登場する手術室のシーンのビジュアルは出色で,目を見張る鮮やかなデザインだった。
 『LION/ライオン ~25年目のただいま~』:兄とはぐれて迷子になり,インドから豪州タスマニアの家庭の里子になった少年の物語だ。Google Earthを使って故郷を探し当て,母親と再会するとは,見事な現代風脚本だと思ったが,これが何と実話である。前半の迷子になり,回送列車での長距離移動,孤児として生き残り,里子に出るまでの物語が抜群に面白い。20年後の大人になってからの物語は少し中だるみするが,最後の再会シーンに感動する。エンドロールで流れる実在の人物たちの映像も印象的だ。2人の母親に囲まれる姿に再度感動する。子役も本人も可愛い。やはり可愛くないと里子でも成功しないというのは,少しつらい現実なのか。育ての母親役のニコール・キッドマンがアカデミー賞助演女優賞候補で,注目して観たのだが,大して出番がなかった。これでノミネートとは過大評価だと思ったが,実在の人物の価値観への賛辞が加味されているのだろう。表題の「ライオン」の意味は,最後に分かる。
 『バーフバリ 伝説誕生』:スケールの大きな力作だ。2015年のインド映画で,同国の歴代興収No.1ヒットである。インドは多言語国家だと知っていたが,映画も多数の言語で作られ,国内言語間で吹替版が存在することは,本作の解説で初めて知った。本作はややマイナーなテルグ語で作られ,タミル語版やヒンディー語版も作られたという。伝説の戦士バーフバリの物語で,親子3代の因縁の戦いや美貌の女戦士アヴァンティカとの恋を描いている。古代の大きな宮殿や広大な戦場が舞台となる物語を映画化できるのは,国内映画市場に活気がある証拠だ。日本映画界の現状では,とてもこうは行かない。映画作りの文法的にはオーソドックスで,少し古風だ。それでいて,最新のCG/VFXもふんだんに使われている。ILMやRhythm & Hues等のハリウッド系スタジオを含め5カ国16社約600人のクリエータたちが参加している半面,戦場シーンでは5,000人以上のエキストラを投入している。そうと知っていれば,メイン欄で語るべき映画なのだが,本作を観たのは締切の2日前で,もはや短評分しか紙幅が残っていなかった。
 『メットガラ ドレスをまとった美術館』:表題は,米国NYのメトロポリタン美術館の服飾部門が主催する企画展の開始日に行われるファッションの祭典の愛称である。毎年5月の第1月曜に開催され,世界中のセレブが同年のテーマにちなんだ最新のドレスで登場する。ファッション界のアカデミー賞と言われる所以だ。映画は,2015年のイベント企画やデザイン,飾り付けの舞台裏を描いたドキュメンタリーだ。仕掛け人は VOGUE誌名物編集長のアナ・ウィンターで,相棒はキュレーターのアンドリュー・ボルトン。この2人を中心に回転するチームの奮闘ぶりは興味深い。ただし,同年の企画展テーマの「鏡の中の中国」は,さほど感心しなかった。我々日本人は日頃から中国文化に接しているためだろうか。そして,5月2日当日にやって来たセレブ達のファッションには,ただただ圧倒された。目が覚める思いとはこのことだ。やっぱり,NYは凄い!
 『人生タクシー』:この映画は,2度観ることをオススメする。1度目は何の予備知識もなく,ただしセリフは注意深く,一言も見逃さずに観る。2度目は(時間がなければ,最初から)この監督の経歴や過去作品,現在おかれた状況をしっかり学んでからである。イラン人のジャファル・パナヒ監督は,政治的理由で20年間映画製作することを禁じられ,奇抜な方法で世界の映画界にメッセージを送り続けている。本作は,監督自身が運転手を務めるタクシーに,市井の人々が乗り合わせて交わした会話を,車内設置されたカメラが捉えたという体裁をとっている。死刑制度論議,路上強盗,交通事故,停職処分を受けた弁護士等々,様々な人物が登場する。実録風に見せているが,すべては計算され尽くした台本と演技で,まだまだ民主化が進まないイランの実情,人々の生活を描き出している。ベルリン映画祭金熊賞は,同業者からのエールと支援への証しなのだろう。
 『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』:米国を代表する絵本作家であり,園芸家であったターシャ・テューダーのライフスタイルを克明に描くドキュメンタリー映画である。2008年に92歳で逝去しているが,生前に当人が語った映像記録を基に,新たに撮影した映像が加わっている。当人は生粋の米国人であるが,本作は,日本人監督(松谷光絵)&スタッフによるにKADOKAWA映画である。生誕100年に当たる2015年から日本各地を巡回する展覧会が開催され,その最後を飾るクライマックスが本作という訳だ。56歳になって,バーモント州の人里離れた奥地に18世紀風のコテージを建てて移り住み,相棒のコーギー犬を飼い続け,好きな時に絵を描き,自然を生かした庭園作りを楽しむというスローライフの実践者である。なるほど,若い女性にも人気だが,人生の後半にさしかかった初老の女性達にも大人気というのが,分かる気がしてきた。ただし,その人気は本当の意味での「共感」ではなく,「憧憬」だろう。大都会の生活に疲れた人々には,彼女の生活を垣間見ることは一服の清涼剤であっても,とても簡単には真似出来ない。元は上流階級の出身で,絵画の才能に恵まれ,経済的な余裕と強い意志があるゆえできる生活である。美しい庭をバックに彼女が肉声で自らの人生観を語る光景は魅力的であったが,筆者には,約2時間の映画は苦痛であった。編集に抑揚がなく,平板で単調だったからである。ナレーションをつけ,45分程度にまとめたTV番組に適した素材だと感じた。  
 
  (上記の内,『ムーンライト』『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』は,O plus E誌には非掲載です)  
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