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O plus E誌 2018年5・6月号掲載
 
 
犬ヶ島』
(20世紀フォックス映画 )
      (C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月25日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2018年2月27日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  監督の異才ぶりが光る,映画通の好みの人形アニメ  
  個性派ウェス・アンダーソン監督の 『グランド・ブダペスト・ホテル』(14年6月号)以来,4年ぶりの新作である。この題で,日本人俳優の名前が何人もあったので,筆者は当初邦画かと思い込んでいたが,れっきとした洋画である。『いぬやしき』(18年Web専用#2)と混同していて,本作の公開日だけ把握していたので,『いぬやしき』のマスコミ試写を見逃してしまった次第だ。異色作という意味では全くひけをとらない。
 普通の実写映画ではなく,ミニチュアセットと人形を使った「ストップモーション(コマ撮り)アニメ」(以下,SMA)である。同監督のSMAとしては,『ファンタスティックMr. FOX』(09)があったが,ブラックユーモアとクセのある演出が,筆者の肌には合わなかった。その後の『ムーンライズ・キングダム』(13年2月号)と上述の『グランド…』には最高点をつけたが,テイスト的には旧作に少し戻っている。それでも本作にを与えるのは,凝りに凝ったミニチュアセットとビジュアルに敬意を表したいからだ。
 一方,監督側は『グランド…』では欧州の文化をリスペクトし,本作では日本映画に深い愛とリスペクトを払って作り上げた映画だという。なるほど,少し奇妙ではあるが,日本の襖絵や版画も多数登場し,日本語のセリフを話す登場人物が何人もいる。
 時代は今から20年後の日本で,ある地方都市・メガ崎市が舞台だ。同市で犬インフルエンザが蔓延したことから,小林市長(野村訓市)は,飼い犬も野良犬もすべてゴミ投棄場所である「犬ヶ島」に送り込んで隔離することを宣言する(写真1)。それから数ヶ月後,市長の甥で養子の小林アタリ(ランキン・こうゆう)が小型飛行機で島に降り立ち,愛犬スポッツ(リーヴ・シュレイバー)を捜すところから,この冒険物語が始まる。
 
 
 
 
 
写真1 ゴミだらけの犬ヶ島も犬たちもすべてミニチュア
 
 
  アタリ少年,スポッツと野良犬のチーフ(ブライアン・クランストン)が主役級である。その声の出演者3人は新起用だが,他のボイスキャストはジェフ・ゴールドブラム,ビル・マーレイ,フランシス・マクドーマンド,エドワード・ノートン,ティルダ・スウィントン,F・マーリー・エイブラハム,ハーヴェイ・カイテル等,アンダーソン組の常連揃いである。日本人俳優では他に,渡辺謙,夏木マリ,高山明,伊藤晃,村上虹郎が配されている。あっと驚いたのは,科学者・渡辺教授の助手役の声に,オノ・ヨーコが起用されていることだ。出番も少なくない。監督は,欧米暮らしが長い彼女の中に,日本的なものを感じているということだろう。
 最もユニークなのは,登場人物も犬もすべて母国語で話せば,それが翻訳セットを通して会話できるという設定だ。即ち,日英間だけでなく,犬と人間も翻訳機で会話できる訳である(写真2)。これは面白い。そのため,セリフには日本語,英語が入り乱れ,字幕や看板文字などは日英両方表記されているのだが,残念ながら,この文字が小さ過ぎて殆ど判読できなかった。
 
 
 
 
 
写真2 犬も人間も翻訳セットをつけて会話する
 
 
  以下,当欄の視点での評価と感想である。
 ■ SMAが中心だが,随所で2D手書きアニメや3D-CGで生成した映像も登場する。使い分けも当を得ている。意図的にギクシャクさせている人物や犬たちの動きが,和太鼓のリズムと連動している。見事なハーモニーで,日本情緒を盛り上げる。音楽担当は監督が4作品連続で起用しているアレクサンドル・デスプラで,『グランド…』と 今年の『シェイプ・オブ・ウォーター』(18年3・4月号)で2度オスカーを得ている。
 ■ 約4年かけて240のミニチュアセットがデザインされ,5つのステージ,44の撮影ユニットで,445日間の撮影日数を要したという(写真3)。総スタッフ数は670人に及ぶ。いずれも見入ってしまう独特の質感で,構図やカメラワークも計算し尽くされている(写真4)。印象的だったのは,写真5のように,平面的な構図で,複数段で横移動が多用されるシーンだ。昔のビデオゲーム画面を模したものと感じられた。写真6のような和風テイスト満載のセットが嬉しい。大相撲のシーンもある。20年後の日本というが,登場するのはむしろ1950〜60年代の戦後の日本だ(団塊の世代には,殊更懐かしく感じられる)。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 ミニチュアのコマ撮りが基本だが,背景はデジタル合成もあり
(上;:撮影風景,下:完成映像)
 
 
 
 
 
写真4 このゴミの山もすべて手作りで。質感が高いのも当然だ。
 
 
 
 
 
写真5 平面的な構図で横移動多用は,昔のゲーム画面風
 
 
 
 
 
写真6 日本文化へのリスペクトを感じさせる光景。まさに昭和だ。
(C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
 
  ■ 当欄の評点はSMAに甘いと言われる。そうかも知れない。今やツールが整備され,熟練アーティストも増えたので,フルCGアニメの方が圧倒的に制作しやすい。それを敢えて,コマ撮りアニメで撮ろうという監督には,余程の覚悟とエキスパート集めの情熱が要る。であれば,作品の細部に魂が宿っていて,それを感じれば感じるほど,高評価になるのは当然のことだ。 今から,DVD特典のメイキング映像を観るのを愉しみにしている。  
 
    
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
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