O plus E VFX映画時評 2025年7月号
(注:本映画時評の評点は,上から,
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の順で,その中間に
をつけています)
ようやく,この映画の紹介記事に着手できる時間になった。『F1/エフワン』(25年6月号)の冒頭で述べたように,当映画評のメイン記事は映画公開日より後になることを断った。そして,その当の『F1/エフワン』をアップロードし終えたので,本作に着手できるようになったという訳である。
掛け値なしで,今年最も期待した映画である。いや,2年前からずっと待ち焦がれていたといっても過言ではない。その事情は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3 (GtoG3)』(23年5月号)の最後を読んで頂ければ分かる。迷走して不評であったDCEU (DC Extended Universe)を強制終了させてリセットし,新設の「DCスタジオ」が新たにDCユニバース(DCU)を開始すると聞いてから2年半以上になる。その総指揮を任されたジェームズ・ガンCEOが,第1作にアメコミヒーローの原点である「スーパーマン」を選び,CEO自らが監督・脚本を担当するとあっては,期待するなと言う方が無理だ。
その杮落としの大作となれば,中途半端な作品にはできず,3年弱かかることは理解できた。待たせている間の広報戦術も巧みで,小出しで出て来る複数の予告編が驚くほど刺激的であった。公開が近づいて,伝わって来たJ・ガン監督のコメントが嬉しかった。「究極の善人である,原点に忠実なスーパーマンにしたかった」であり,「子供も大人も,愛する地球に生きるすべての人を守り救うため,日々戦うスーパーマン」とのことだった。当初の題名『Superman: Legacy』からシンプルな『Superman』になったことからも,原点帰りの意図が読み取れた。DCEUでヘンリー・カヴィルが演じたダークな「鋼鉄の男」が大嫌いであった筆者は,これぞ「正統派スーパーヒーロー映画」で,監督と思いは同じだと確信した。
さて,待ちに待ったマスコミ試写を観ながら,途中での印象は「?! ?! ?! ?! ?! …」であった。全編を観終えた後,配給ルートの担当者から感想を求められると,通常は自分の本音メモをすぐに送るのだが,本作ではそれをしなかった。いや,「できなかった」と言った方が正しい。筆者が予想していた「原点帰りの映画」とかなり違っていたからである。『F1/エフワン』のように,期待外れの「凡作」であった訳ではない。むしろその逆で,中身が濃過ぎて,しばし頭の整理ができなかった。登場人物が多く,すぐには敵と味方の区別がつかず,しかもそれぞれが様々な技を繰り出すので,CG/VFXに関するメモも取り切れなかった。「GtoGシリーズ」を堪能させてくれたJ・ガン監督ならこれくらいは当然と考えるべきなのに,筆者の予想のレベルが低過ぎて,何を褒めれば良いか瞬時には分からなかったのである。
かくして,公開日翌日にシネコンに出向き,同じ日にIMAXで2度観て,ようやくしっかりメモを取れた。思いは「さすが,J・ガン」である。以下,大好きな「スーパーマン」への思い入れを込めての感想と評価である。
【過去作の概観と思い入れ】
DCコミックスへの初登場は1938年で,原作者はユダヤ系移民のジェリー・シーゲルである。日華事変の翌年,第2次世界大戦より前であるから相当に古い。アニメ,TVドラマ,映画を合わせると,かなりの映像作品になるそうだが,大きな影響を与えたのは,以下である。
①TVシリーズ『スーパーマン』 (52-58):日本での放映は1956〜60年(TBS)で,小学生時代に毎週食い入るように見た。家庭にTVが入ると,まず最初に熱心に見たのが,この米国製TVドラマだった。冒頭ナレーションの「弾丸よりも速く,力は機関車よりも強く,高いビルディングもひとっ飛び!」から,それに続く「空を見ろ!」「鳥だ!」「飛行機だ!」「いや,スーパーマンだ!」「そうです(中略)正義と真実を守るため,日夜戦い続けているのです」まで今でも宙で言える。主演はジョージ・リーヴスで,子供にはさほどハンサムでない中年男に見えた。スティーヴ・マックイーン主演の『拳銃無宿』(58-61),クリント・イーストウッド準主演の『ローハイド』(59-65)に熱中するのはそれよりかなり後だった。
②『スーパーマン』(78):名匠リチャード・ドナー監督の大傑作。大スターのマーロン・ブランドがクリプトン星の父親ジョー・エルを演じたことが話題になった。主演は大抜擢された新人クリストファー・リーヴで,体型もルックスもコミック版と生き写しだと絶賛され,大ヒットした。続編『スーパーマンII 冒険篇』(81)は内容も興収も悪くなかったが,その後の『スーパーマンⅢ/電子の要塞』(83)と『スーパーマンⅣ/最強の敵』(87)はお粗末だった。
③『スーパーマン リターンズ』(06年9月号):監督は『X-Men』シリーズのブライアン・シンガー。19年ぶりの新作だが,時系列的には上記の2作目の続編である。前シリーズの主演C・リーヴは事故で重度の身体障害者になった後,既に他界していたが,彼にそっくりのブランドン・ラウスが主演に抜擢された。これが最大のセールスポイントだったが,そこそこのヒットに終わり,続編は作られなかった。
④『マン・オブ・スティール』(13年9月号):DCEUの1作目で,監督はザック・スナイダー。物語もスーパーマンのコスチュームも暗く,何よりも主演のH・カヴィルが好きになれなかった。DCEU内の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16年3月号)『ジャスティス・リーグ』(17年12月号)でも,彼が継続出演した。当欄は「早く彼を降板させろ」とまで書いている。その一方,ロイス・レイン役のエイミー・アダムス,地球上の育ての親役のケヴィン・コスナーとダイアン・レインはぴったりで好ましかった。
他作品でのH・カヴィルは格好良く,アクションスターとしても上々だ。『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(18年Web専用#4)のCIAエージェント役,『ARGYLLE/アーガイル』(24年3月号)の諜報員アーガイル役は様になっていた。それでは,なぜそんなに彼のスーパーマンを嫌ったのかと言えば,DCEUでの役柄設定が暗く,原点の明るいヒーローにほど遠かったのが最大の理由である。さらに,彼の顎割れ顔や身長が,C・リーヴ演じる②の「スーパーマン」と全く似ていなかったので,生理的に毛嫌いしたのだと思う。
ちなみに,身長と初公開時の年齢は,①〜④の順に
身長:188cm, 193cm, 190cm, 185cm
年齢:38歳,26歳,26歳,30歳
である。米国人の中で,頭1つ大きくないとスーパーマンらしくない。顔もコミック版から逸脱するのも好ましくない。
筆者の『スーパーマン』(76)への思い入れを語っておこう。映画評論家として,アンケートでオールタイムBest 3を問われた時には,いつも以下のように答えている。
1. 『ベン・ハー』(59)
2. 『スティング』(73)
3. 『ロード・オブ・ザ・リングス』3部作作(01-03)
映画批評家の中には,意図的に余り知られていない単館系の映画を挙げる人物が多いが,筆者の場合は素直によく知られたヒット作ばかり挙げている。図らずもアカデミー賞作品賞受賞作ばかりだ。これは,主役の演技,脚本,音楽,編集等を総合した映画全体の評価である。好きな映画(楽しく,個人的に何度も見たくなる映画)のBest 5は以下である。
1. 『スーパーマン』(78)
2. 『ターミネーター2』(91)
3. 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)
4. 『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(75)
5. 『大脱走』(63)
もう25年以上前の話であるが,このBest 5を披露した時に,聴衆の何人かから,「自分も同じだ。『スター・ウォーズ』 (77)よりも『スーパーマン』(78)の方が好きだ」と言われた。「SWファンには自らのオタクぶりを気取るところがあるが,『スーパーマン』ファンは純粋にスーパーヒーローの活躍が痛快で,真の娯楽映画好きだ」「それには,主演は断じてクリストファー・リーヴでなくてはならない」で意見の一致をみた。講演会終了後,その数名と居酒屋に向かい,盛り上がったことは言うまでもない。
SWシリーズは,リブートせず,どんどんシリーズを発展させて行く。一方,007シリーズは何度もリブートし,平気でジェームズ・ボンド俳優を入れ替える。米国人の中でも,「C・リーヴ=スーパーマン」のイメージを捨てられないファンが多かったため,③にB・ラウスが起用されたのだろう。その意味では,本作が成功を収めるかどうかは,主演のデヴィッド・コレンスウェットから,C・リーヴの残像を感じるかにかかっている。彼の身長は193cm,年齢は32歳である。少なくとも身長的には合格だ。
【本作の物語展開】
3世紀前,30年前,3年前,3週間前,3時間前等々の出来事の列挙から始まる。まもなく,予告編で見慣れたシーンが登場する。傷ついたスーパーマンが雪の穴に横たわっていて,愛犬クリプトに助けを求め,地中から巨大な氷柱が出現するシーンである(写真1)。地下の「氷の要塞」(孤独の要塞)で4体のロボットの手当てを受け,黄色い太陽の照射で彼は元気を取り戻す(写真2)。米国の同盟国ボラビアが隣国ジャルハンプールを侵略するのをスーパーマンは許せなかった。その侵略を阻止しようとしたところ,「ボラビアのハンマー」と闘って破れたのであった。
30年前,惑星クリプトンの滅亡前に両親から地球の送り込まれたカル=エルは,米国カンザス州スモールビルのケント夫妻に育てられ,3年前にクラーク・ケント(写真3)としてデイリー・プラネット紙の記者として働き始めた。同時に,超人スーパーマンとして市民を助け,正義の味方として人々から敬愛されていた。誰もがよく知る物語設定はざっと語られるだけで,本作では,既にクラークの正体は同僚の記者ロイス・レイン(レイチェル・ブロズナハン)に知られ,その上で彼女と恋人関係になっていた。
宿敵がレックス・ルーサーであることも定番だが,本作では大富豪の天才科学者(ニコラス・ホルト)として登場する。彼はリック・フラッグ・シニア将軍(フランク・グリロ)ら政府関係者にパイプがあり,スーパーマンが地球征服を目的として送り込まれた異星人であること,ボラビア国の政治に介入していることを理由に,スーパーマンを殺害することを政府に認めさせた。
ルーサーこそが政府転覆と世界征服を目論む極悪人であったが,陽動作戦として,怪獣やスーパーマン並みの戦闘力をもつ「ウルトラマン」(日本の円谷プロ製のヒーローとは無関係)を市中に放ち,それがスーパーマンの地球侵略の一環であるかのように世論操作する。最初,敵か味方か分からなかったジャスティス・ギャングの3人(Mr.テリフィック,ホークガール,グリーン・ランタン)はやがてスーパーマンの味方するようになる。さらに,ルーササーによって息子を人質に取られていて,クリプトナイトでスーパーマンを苦しめたメタモルフォ(アンソニー・キャリガン)もルーサーに反旗を翻す……。
以上がざっとした概要だが,感覚的には上映時間の3倍近い中身だと感じた力作であった。スーパーマンは正義の味方でありたいと思う余り,時々行き過ぎた言動で誤解を招き,ロイスとも口論になる。完全な人間でないという描き方が,本作の大きな特徴である。スーパーマンの出番が多いので,クラーク・ケントが殆ど登場しない。一件落着後,その間クラークは一体どこにいたのだということにならないかと,観ている側が気になった(笑)。電話ボックスはなくて良いが,クラークからスーパーマンへの変身シーンは見たかったが,それがない。ジャスティス・ギャングは今後のDCU作品に登場することは確実と思われる。その分,彼らの性格や得意技も描かれていて,内容が盛り沢山となっている。
【監督と主要キャスティング】
今更紹介の必要はないと思うが,一応J・ガン監督の経歴にも触れておこう。ミズーリー州セントルイス生まれのアイルランド系米国人で,6人兄弟の内,4人が俳優や脚本家として映画業界に関わっている。1990年代後期から俳優兼脚本家として活動を始め,『スクービー・ドゥー』(02年8月号)『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04年6月号)等の脚本で頭角を表わした。監督デビュー作はSFホラーコメディ『スリザー』(06)だったが,その後の2本も当欄では取り上げていない。一躍注目を集めるのは,MCUのGoGシリーズ3本である。途中でディズニーから解雇されたが,出演者やファンに署名運動で3作目で復帰したことは,もはや業界内の伝説になっている。その解雇期間中にライバルDCEUの『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党, 集結』(21年Web専用#4)の監督・脚本を担当し,大ヒットしたことも伝説に磨きをかけた。同作は当映画評の年間No.2であり,☆☆☆評価をしている。
スーパーマン/クラーク・ケント役のD ・コレンスウェットは,テレビドラマやネット配信のドラマシリーズ出演を経て,ようやく『Pearl パール』(23年7月号)で主人公パールに映画を見せる映写技師役,『ツイスターズ』(24年8月号)で悪徳地上げ屋を演じ,少し名前が知られるようになった。本作の主人公は勿論大抜擢である。結論を先に言えば,顔はB・ラウスほどC・リーヴに似ていないが,体躯が堂々としているので,赤と青のスーツ,赤く長いマントを着けただけで十分スーパーマンに見える。クラーク・ケント姿もそれらしい。少なくとも,H・カヴィルよりは格段によく,十分合格点であった。
ロイス・レイン役のR・ブロズナハンは,Amazon配信映画『アイム・ユア・ウーマン』(20)の主役,『クーリエ:最高機密の運び屋』(21年9・10月号)でCIA職員,『アマチュア』(25年4月号)では主人公チャーリーの妻役と準主役級であったので,大抜擢というほどではない。不美人ではないし,知的な感じはするが,個人的にはやや不満だった(写真4)。②シリーズのマーゴット・キダー,④シリーズのA・アダムスのような愛らしさがない。最近はこういう自己主張がある女性像を描くのが主流なのだろう。ホワイト編集長は,名前に反して黒人俳優のウェンデル・ピアースだった。④シリーズのローレンス・フィッシュバーンもそうだったから,むしろ違和感なく,自然なキャスティングに思えた。クラークやロイスの同僚の写真記者ジミー・オルセンは気さくで愛すべき青年だが,演じるスカイラー・ギソンドは見事にジミーのイメージにぴったりだった。『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』(15年3月号)『リコリス・ピザ』(22年5・6月号)に出演経験がある若手男優である。過去作では3枚目的な役割で出番も多くなかったが,本作ではルーサーの愛人のイブ(サラ・サンパイオ)に思いを寄せられる「モテ男」だ。彼女からルーサーの機密を入手する重要な役であった。
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レックス・ルーサー役には,②がジーン・ハックマン,③がケヴィン・スペイシーなる熟年の大物俳優を配し,悪役が似合っていた。④は若手のジェシー・アイゼンバーグを起用して意外性をもたせていた。本作のニコラス・ホルトはその中間的な年齢だが,冷徹な天才科学者ぶりが際立っていて,従来と異なるタイプの「最強の敵」であった(写真5)。かつての『X-Men』シリーズで4度「ハンク・マッコイ/ビースト」役を演じているが,彼もまた天才科学者であった。その天才能力の発揮し方の違いを比べるのも一興だが,このルーサーの人物設定が本作の大きな成功要因だと感じた。
ルーサーの手下では,アンジェラ・スピカ/エンジニアの印象が強烈だった。コミック版には少し登場するようだが,映画での登場は初めてである。こちらもJ・ガン監督のパワフルな脚本力が彼女を魅力的に見せていた。演じているマリア・ガブリエラ・デ・ファリアはベネズエラ人女優のようだが,見るのは初めてだった。二重の意味で新鮮に感じた敵であった。
ジャスティス・ギャングの3人は,リーダー格のMr.テリフィックを演じるのはケニア系米国人のエディ・ガテギで,『トワイライト』シリーズの最初の2本と『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11年7月号)の出演経験がある。ホークガール役のイザベラ・メルセードは『マダム・ウェッブ』(24) 『エイリアン:ロムルス』(24年9月号)に出演経験のある若手女優だ。いずれもさほどの実績ではないが,今後のDCUに登場するようで,本作が彼らの出世作となったことは間違いない。3人目のグリーン・ランタンは見るからに年長者で,演じるネイサン・フィリオンはJ・ガン作品はこれが6作目というベテラン男優である。気心知れた間柄ゆえの起用のようだ。
最後に,惑星クリプトンの実父母と地球上の養父母にも触れておこう。前者はブラッドリー・クーパーとアンジェラ・サラフィアンが配されているが,氷の要塞内の記録媒体からホログラムとして登場するだけで,回顧シーンはない。地球上で養父母と少年期を過ごすシーンもないので,両父母とも出番はかなり短い。父ジョー=エル役に,②はM・ブランド,④はラッセル・クロウと大物俳優を起用したので,本作はカメオ出演といえども,『GtoG』シリーズでアライグマの「ロケット」を演じたB・クーパーを配している。一方,本作の養父母役はプルイット・テイラー・ヴィンス,ネヴァ・ハウエルで,いずれもベテラン俳優のようだが,ほぼ無名に近い。④のK・コスナーとD・レインとは圧倒的の俳優としての格が違う上に,かなり高齢に設定されている。母マーサの存在感は薄かったが,父ジョナサンがクラークと並んで座り,息子に与える一言は含蓄が深かった(写真6)。こんな大作の名シーンに登場するとは,老男優P・T・ヴィンスにとっては長い俳優人生で最も思い出に残るシーンになったことだろう。
【SFとしてのガジェットと戦闘パワー】
■ 冒頭から最も印象的であったのは,スーパーマンの「氷の要塞」である。過去作ではすべて北極圓として描かれていたのに,本作では南極大陸の地下となっていた。その理由は明示されていないが,様々な高性能機材や医療設備まである大掛かりな要塞を地下に設け(写真7),ルーサ一らが大型機を着陸させる(写真8)には南極の方が向いているという判断なのかも知れない。少し驚いたのは,氷柱(もしくはクリスタル)の描写である。地下から出現する場面だけがCGで,その他は発砲スチロールでセットを製作したという(写真9)。
■ そこに待機していてスーパーマンの世話をするロボット4体は今回初登場だ。乳児のカル=エルの宇宙船で運ばれて来た訳はないから,何らかの方法で最新機材もロボットも製作されたのだろう。あまり人間風にせず,かつ宇宙人風でもなく,いかにもメカ的な古風なロボットのデザインである(写真10)。皮肉なのか,偶然なのか,DCEUの統括役で自ら④を担当したZ・スナイダー監督の『REBEL MOON』2部作(24年4月号)に登場するロボットにかなり似ている。同作では,人間が中に入って演技し,最終的にはVFX補強するか,フルCGに置き換えていた。本作のメイキング映像では,監督がこのロボットに触れている(写真11)。本作のロボットは細身で,人が中には入れないので,遠隔操縦で動かせるアニマトロニクスを作ったのだろう。エンジニアと闘うシーンもあるので,撮影現場ではなるべくそれを使い,完成映像ではCG/VFXで補強/置換したと考えられる。
■ この要塞にスーパーマンを運ぶスーパードッグの「クリプト」は,早くから予告編に登場していて,本作のセールスポイントの1つであった。こちらもどうやって地球に来たかは語られていない。ガン監督の愛犬の仕草を取り入れたというので,てっきり本作のオリジナルかと思ったが,コミック版では以前からあったらしい。俳優名一覧の中に「ジョリーン」とあったので,この名前の本物の犬を使ったようだ(写真12)。その一方で,モーションキャプチャ俳優マーフィ・ウィードが犬として演技し,その動作データでCG製のクリプトを描いたという記事もあった。彼女は,同じガン監督の『GtoG3』にも起用されている。スタジオ内では実物犬のジョリーンが利用され,その動きを真似てMoCapスーツを着用したM・ウィードが監督の意図する正確な動作をし,そのMoCapデータを使ってレンダリングした完成映像が作られたと考えるのが妥当なようだ。
■ 今後のDCU作品のために戦闘能力や利用する武器等で意識しておくべきは,ジャスティス・ギャングの3人である(写真13)。「Mr. テリフィック」はハイテク機器使いの達人で,彼が開発した「Tクラフト」と「Tスフィア」が登場する。「Tクラフト」は空中浮揚して移動する数人乗りの車輌で,後半では彼に代わってロイスが操縦していた(写真14)。色々な武器が備わっているのかも知れないが,デザイン的にもかなり斬新だった。一方の「Tスフィア」は彼の周りを浮遊している人工知能球体で,音声による指令で作動し,ホログラム投影,シールド発生,GPS機能やハッキング,敵への電撃や爆弾としての機能も有しているようだ(写真15)。彼が空中での着座姿勢で端末操作するシーンも印象的だった。
■「ホークガール」は大きな羽をもつ万能型の女戦士で,空中戦闘を得意とする。戦闘棒の先端にはトゲのある金属球があり,これを叩きつけて敵を撃破する(写真16)。この棒は投げつければ,ブーメラン効果で手元に戻ってくるようだ。3人目は「グリーン・ランタン」だが,正確に言えば,これは宇宙警察組織名で,本作に登場するのは,その中の1人のガイ・ガードナーである。この組織の構成員は,魔法の指輪「パワーリング」を使って,緑色の強力なビームで敵を倒したり,ハンマーや大砲等の戦闘メカを作り出したり,シールドを発生させて仲間を守ることもできる(写真17)。『グリーン・ランタン』(11年9月号)でライアン・レイノルズが演じたハル・ジョーダンは同組織に選ばれた青年パイロットで,同じくパワーリングが力の源泉だった。
■ レックス・ルーサーの右腕となって戦う「エンジニア」は,体内に埋め込まれたナノテクノロジーで,身体の一部を武器に変える能力を有している。最も印象的だったのは,両手を回転刃とする使い方で,氷の要塞ではスーパーマン・ロボットと火花を散らした(写真18)。見事なデザインで,勿論,CGでの描写である。その他,腕を剣にしたり,楯を発生させて身を守ったりもできるようで,スーパーマンとの対決シーンでは,複数の武器を切り替えて戦っている。「ボラビアのハンマー」とメトロポリスの市中に登場する「ウルトラマン」は同じであり,スーパーマンと同等の戦闘能力をもつ。いずれもルーサーがドローン操作で操っている。なぜ同等のパワーなのかは劇中で明らかにされるので,ここでは書かない。
■ 牢獄内でスーパーマンを苦しめるメタモルフォは別名エレメントマンで,事故によって体内の元素を鉱物・物質に変換できるようになった超人である(写真19)。クリプトン星由来の力を吸収・変化させる力を持ったことから,身体の一部をスーパーマンの超能力を奪う「クリプトナイト」に変質させたという筋立てとなっていた。終盤,ジャスティス・ギャングに加わることが明示されていたので,今後のDCU作品でこの超人能力を発揮することだろう。
■ 何度も登場して目立つ大型装置は,ルーサーが生み出した円筒状の「ポータル」なる次元移動装置である。と言っても,MCUのようなメタユニバースの乱用でなく,市中を空間ワープしてレックス・コープの社内に入ったり,異次元空間のポケットユニバース(PU)に繋がっているだけである。このPU内の牢獄に多数の人物が囚人として収容されていて,メタモルフォもここにいた訳である。ワープ中の描写はCGであるが,ポータルの入口は実物が用意されていて,俳優たちはここで演技していた(写真20)。
【その他のCG/VFXの見どころ】
すでにかなりのCG/VFXシーンを挙げたが,その他のシーンを列挙しておこう。
■ 「ボラビアのハンマー」はいかにも重そうな戦闘用スーツの怪人で,スーパーマンは叩きのめされ南極に逃げる(写真21)。その要塞で元気を取り戻したスーパーマンのメトロポリスへの復帰後,ルーサーが市中に怪獣とウルトラマンを解き放つ。英語でもKaijuと発音されていたから,日本は怪獣王国と認知されているようだ。怪獣のデザインはごく在り来たりだが,悪くはない(写真22)。表題欄の画像はスーパーマンがこの怪獣から子供を守るシーンだ。巨大な怪獣を支えるシーンのメイキング映像は見ていて楽しい(写真23)。支え切れずに押し込まれて,地中を移動して別の場所から現われるシーンも楽しかった(写真24)。ウルトラマンはハンマーと同じと言いながら,外観は全く異なるダークスーツ姿で胸にUの字がある(写真25)。
■ PU内の牢獄は撮影風景しかないのが残念だが(写真26),多数の独房が立体的に積み上げられた光景は壮観で,CG/VFXによる産物である。個々の独房の中まで点検できなかったが,必ずしも人間でなく,奇妙な生物も含まれていた可能性もある。メタモルフォは自らの変形の1つとして,長い触手がスーパーマンを苦しめる(写真27)。ネット上では「イカ男」と呼ばれていた。彼の子供も普通の人間には見えず,これもCGで描かれていた。
■ CGによる市中の景観描写ではハンマーや怪獣によるビルの倒壊があったが,まずまず無難な出来映えである(写真28)。デイリープ・ラネット社の屋上のシンボルは少しレトロに感じるが,レックス・コープはモダンだった(写真29)。ユニークだったのは,ルーサーが作り出した「次元の裂け目」である。海が割れ始め,裂け目は陸地に到達し,街を二分する(写真30)。一件落着後,スーパーマーマンとMr.テリフックがその修復を行うが,一部修復が完璧でなかった。それを巡る2人のやり取りが笑える。スーパ-マンは徹底した正義の見方であり,民衆の味方であるが,やり過ぎや失言もあり,完璧な人間でない描き方はガン監督が目指したところだ。
■ その他のCG/VFXシーンでは,スーパーマンとロイスが抱き合う部屋の窓の外に奇妙な物体が見える(写真31)。これは人工太陽のSolarisで,次作以降の敵を暗示しているらしい。最終決戦で多数登場する敵は,レックス・コープが雇用した装甲兵士団で,ジェット飛行可能で耐弾・耐久機能のあるラプタースーツを着用していた。このラプター軍団はなかなかの難敵のため,スーパーマンは,一旦地上から自らの限界高度(成層圏の上層)まで上昇し,そこでの極低温を利用した冷気ブレスと熱視線で敵を一体ずつ撃破して行く(写真32)。この一連のシーンの大半は、スタジオ内に各兵士やスーパーマンをワイヤーで吊るして撮影し,それをCG/VFX加工したようだ。さすがラストバトルと思わせるクオリティであった。
■ ワイヤーと言えば,予告編やスチル画像で出回っていたスーパーマンとロイスの空中抱擁シーンもワイヤー吊りである(写真33)。床上での抱擁をグリーンバック撮影し,CG背景に合成して済ませてもよさそうなので,身長差を正確に表現しようとすると,大型セットを組み,ワーヤーで2人を宙吊りにしたそうだ。この高さでのラブシーン演技するのは俳優も大変だ。本作のCG/VFXの担当は,Framestore, ILM, Wētā FXの3社で,プレビスはDay for Nite,3D変換はDNEGが担当していた。
【総合評価とDCUへの期待】
ようやく本作を書き始めると言ってから10日間も経ってしまった。途中で7月25日公開の論評欄映画の紹介を優先させてこともあるが,この大作の正確な記録を残そうとして,海外サイトから情報収集する内で,どんどん膨らんでしまい,多大な時間を費やしてしまったためである。
本作の劇場公開後,一気に紹介&分析記事が増えていた。その大半は,好意的な記事である。J・ガン監督の手腕への賛辞であり,DCUへの期待であった。同時に「スーパーマン」がいかに世界中の人々に愛されている存在であるかも確信できた。正義の貫く姿勢は,かつての米国のシンボルであり,それを正面から描いた作品への賛辞と憧憬である。損得勘定しか考えない現職大統領や,強権と武力で他国を侵略しようとする大国のエゴに対する反発心も感じられた。J・ガンCEOは,今後のDCU作品で描くスーパーヒーローやヴィランをこの視点で描くに違いない。
スーパーマン1人を英雄にせず,多数の登場人物を盛り込んだため,本作は一度観ただけでは全体把握しにいかと思う。今後のDCU作品を観る際に,本作に立ち戻って各ヒーローたちの素性や得意技を参考にして頂ければ幸いである。
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