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O plus E VFX映画時評 2023年5月号

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』

(ウォルト・ディズニー映画)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[5月3日より全国ロードショー公開中]

(C)Marvel Studios 2023


2023年5月1日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
2023年5月4日 109シネマズ港北

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


3部作の完結編に相応しい大傑作で, 観客満足度大

 GotG (Guardians of the Galaxy)シリーズ3部作の完結編にして,MCU (Marvel Cinematic Universe)の32作目である。結論を先に言えば,その出来映えの良さに一安心した。というのは,約1年前から「ウォルト・ディズニー映画」と分類する作品群は低い評価が続いていたからだ。とりわけ,『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(23年2月号)『ピーター・パン&ウェンディ』(同4月号)を酷評し,前者ではMCUの「フェーズ5」の基本姿勢に苦言を呈していた。全作品を絶賛する訳には行かず,あくまで評点は相対評価なので,一部が低評価となることに遠慮する必要はないのだが,当欄を支えて来たMCUがそうなるのは少し心苦しかったのである。
 劇場公開の2日前の大阪での完成披露試写会は,ほぼ満席であった。いつもと雰囲気が少し違ったのは,メディア関係者はごく僅かで,一般観客が大半であったからのようだ。よほどの自信作ゆえに,配給会社がこうしたのだろうか。いや,2日前まで試写上映できなかったので,一般試写会と完成披露試写会を兼ねたためだろう。理由はともあれ,上映終了直後に一般観客と思しき若者たちが口々に漏らした本音の感想は,大いに参考になった。
「5年ぶりに感激したわ。MC見直したわ」
「俺,やっぱりマーベル好きやったとわかった」
「前半は訳が分からんかったが,後半はさすがや」
「大満足や。彼女連れて,もう1回見に来よ」
等々であった。MCは,Marvel Comicsの意味だろう。5年ぶりとは何のことか,シリーズの前作GotG2なら6年前であり,『アベンジャーズ』シリーズの大団円『…エンドゲーム』なら4年前のことである。いずれなのかは不明だが,彼にとっては,数年ぶりに素晴らしいマーベル映画に出会ったということのようだ。それには,筆者も全くの同意見であった。
 間違いなく,本作(GotG3)は当初から予定通りの3部作の完結編であり,『…エンドゲーム』に匹敵する満足度だと言える。となると,同作でアイアンマンやキャプテン・アメリカが姿を消したように,本作では誰が死ぬのか,誰が引退するのかの噂や予想も飛び交っていた。それは観てのお愉しみとしておくが,中途半端な終わり方でなく,立派な完結編であることは保証しておく。では,2日前に観ておきながら,なぜこの記事を書くのが公開後数日も経ってからになったのかと言えば,登場人物は多彩,CG/VFXもしっかりとなれば,とても1回観ただけではメモを取り切れず,映画館でもう一度観て,細部を点検する必要があったからだ。さらに,個々の人物の行動とセリフの意味を考えれば,その間に旧作での出来事も再確認してからでないと,しっかりした紹介記事を書けないと痛感した。それならば徹底分析しようと思い,本稿は過去最大の長さの記事になってしまった次第である。
 MCUファンなら,本作は絶対に見逃せない1作であり,しっかり予習してから観て欲しい映画だ。あるいは,筆者同じように,まず一度観てから旧作も確認し,以下を読んでからもう一度映画館に足を運ぶことをお勧めする。今回のこの記事は,そうしたファンを前提に書いている。
 GotGチームが登場する過去作品は以下の通りであり,すべてDisney+の月額定額料金だけで観ることができる。
■『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー (GotG1)』(14年9月号)
■『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス (GotG2)』(17年6月号)
■『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18年Web専用#2)
■『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)
■『ソー ラブ&サンダー』(22年Web専用#4)
■『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル (GotG-HS)』(22)
 上記の内,『アベンジャーズ』の完結編2作にはガーディアンズ・チームも参加したが,サノスの指パッチンで何名かは消滅し,次作で復活している。そもそもGotGメンバーのガモーラはサノスの養女であり,物語に大きな影響を与え,その結果は本作GotG3にも及んでいる。一方,『ソー ラブ&サンダー』では,ガーディアンズたちは少し顔見せしただけでさっさといなくなり,本作には何の影響も与えていない。むしろ,本作の前に是非観ておいて欲しいのは,GotG-HSだ。昨年暮のクリスマスシーズンにDisney+で配信された42分の中編映画であったので,当欄では紹介しなかった。本作と連続して同じスタジオ内で撮影されたので,登場人物の印象は本作とほぼ同じだ。『…エンドゲーム』後のGotGメンバーの状況やノーウェアの様子を知る格好の予習教材である。
 本作の監督・脚本は,言うまでもなく,本シリーズのすべてを牽引してきたジェームズ・ガン監督である。実は,GotG2から本作まで6年もかかったのは,『アベンジャーズ』シリーズが途中に入ったり,コロナ禍があっただけでなく,もっと複雑な事情があったからだ。トランプ批判の急先鋒であった同監督が過去にSNS投稿したジョーク(レイプ,人種差別,ホロコースト,エイズ等に関するもの)が,トランプ支持者に掘り起こされ,これが不謹慎だと判断され,2018年7月に本GotG3の監督から解雇されている。それに対して,まずドラックス役のデイヴ・バウティスタが反旗を翻し,ガン監督の脚本をボツにするなら自分は出演しないと言い出した。さらに,他の主要俳優たちもガン監督の復帰を求める署名運動を支持し,最終的には35万人もの署名が集まって,ディズニーはガン監督の再雇用を認めざるを得なくなったという。なるほど,そんな経緯があったなら,監督も俳優たちもこのGotG3の成功に向けて一致団結する訳である。
 本作は,MCUの「フェーズ5」に2作目とされているが,これは単に公開時期順だけのことで,他のヒーローたちのクロスオーバーはない。「フェーズ5」の主テーマである「マルチバース」も(1点を除いて)登場しない。全くのジェームズ・ガン・ワールドであり,GotG世界内の出来事であるゆえに,安心して観ていられるという皮肉な結果にもなっている。


各々の出番はたっぷり, チームワークもしっかり

 映画本編の内容に移ろう。スター・ロードことピーター・クイルを演じる主演のクリス・プラットを始め,GotGチームのメンバーを演じる俳優はすべて前作までと同じだ。本作で,初登場する敵役の筆頭はハイ・エボリューショナリー(チュクーディ・イウジ)だ。高度な知識をもつ科学者で,あらゆる生物を思い通りに進化させ,銀河系を「完璧な世界」に作り替える野望をもっている。彼に派遣されてガーディアンズたちを襲うのは,金色に輝くソブリン人のアダム・ウォーロック(ウィル・ポールター)で,高い戦闘能力をもっている。以下,登場人物の能力やCG/VFXを解説するのに,多少のネタバレは容赦されたい。

【物語の骨格】
 早くから報じられていたように,この完結編の主役はアライグマのロケットだ。彼が高い知能と戦闘能力をもつに至った過去の秘密が明らかになる。彼は,ハイ・エボリューショナリー(以下,H.E.)に選ばれた実験台動物の1匹89P13で,改造されて天才的な頭脳をもつようになる。実験室から脱走し,傭兵を経てガーディアンになったロケットを許せず,H.E.はアダムを送り込み,ロケットを葬って頭脳だけを取り戻そうとする。
 重傷を負い,意識不明となったロケット(写真1)は,治療を施そうとしても,外力が加わると命を落とすようプログラムされていた。ロケットを救うには,そのコードを盗み出して体内のキルスイッチを解除するしかないと判断したGotGチームは,H.E.の創ったカウンター・アースに乗り込み,銀河系をリセットしようとする敵と戦う……。


写真1 意識不明のロケットを救うことが本作のテーマ

【チームメンバーの役割と戦いの場所】
 1本単独で観ても十分面白いのだが,各メンバーを身体能力や過去作での行動を知っていると,ますます楽しめる仕掛けになっている。ただし,「アベンジャーズ・チーム」のように単独ヒーローの作品がある訳ではないので,知名度は低く,少し事前に整理して知っておいた方が良い。
 1作目GotG1では,当欄でマーベル版「白浪五人男」と書いたように,ピーター,ガモーラ,ロケット,グルート,ドラックスの5人であったが,続編GotG2の後半では,ガモーラの義妹のネビュラ(カレン・ギラン)とピーターの実妹であることが判明したマンティス(ポム・クレメンティエフ)が加わり,ガーディアンズは7人になっていた。本作では,最初からもう2人(?)が加わり,合計9人のチームであることが広報宣伝でもアピールされている。加わったのは元ラヴェジャーズの一員であったクラグリン(ショーン・ガン)と言葉を話す宇宙犬のコスモだ。実は,既にGotG-HSで,実質チームに加わった形で登場している。両者とも第1作目から登場していたようだが,出番も少なく,記憶に残らなかった。本作では,ともにチームメンバーらしい活躍場面がある。
 樹木型ヒューマノイドのグルートは,GotG2では可愛いベビーグルートの姿で登場して人気を博した。そのままの方が良かったのだが,時間経過している設定なのでそうも行かず,GotG-HS時点で既に成長した大人のサイズで描かれ,ロケットとのコンビも復活している(写真2)。1作目から比べると一回り大きくなっていて,変身能力も増し,色々な形状で登場する(写真3)。CGなら如何様にも描けるので便利な存在だ。宇宙犬コスモは一見実物の犬のようにも見えるが,恐らくすべてCGで描いていると思われる(写真4)


写真2 グルートは大きくなり,このコンビも復活

写真3 変身自在で,千手観音のような手で銃を打ちまくる

写真4 ソ連製の宇宙服を着たコスモ。おそらくこれもCG製。

 微妙な登場の仕方だったのは,かつてピーターの恋人だったガモーラ(ゾーイ・サルダナ)だ。『…インフィニティ・ウォー』では義父サノスに生贄にされ,命を落とすが,『…エンドゲーム』では,2014年の「過去のガモーラ」として再登場している。その後,行方不明だったが,本作ではロケットを助けるため探し出され,やはり「2014年のガモーラ」として登場する(この点だけが,マルチバース的だが)。何となく,中途半端な役柄で,本作での活躍場面は少なかった。完結編である以上,一応登場させておこうという配慮で追加されたという感を拭えない。
 詳しい説明がないので,誤解がないように,物語の舞台となる場所に関しても触れておく。本作では,ガーディアンズの本部もメンバーの住まいも人工の惑星「ノーウェア(Knowhere)」にある。過去に資源の採掘場,賭博場としてMCUで何度か登場しているが,サノスによって町は破壊された。その後,カーディアンズたちが権利を買い取って,居住地として復活させたことがGotG-HSで触れられていた。一方,H.E.が生物実験の場として地球に似せて創った惑星が「カウンター・アース」だ。地球に似た欠点ばかりが目立ち始めたので,H.E.はこの惑星を破壊することにして,自らの実験施設だけを巨大宇宙船として切り離し,宇宙空間に移動させる。宇宙船といっても小惑星に匹敵する大きさだが,特に名前はついていなかった。終盤,この巨大宇宙船とノーウェアがどう関係するかが最大の見どころだと言っておこう。
 物語展開の中で感心するのは,GotGチームの全メンバーに個々の能力が目立つ活躍の場を与え,かつチームワークの描き方も秀逸であることだ。この点でも,『…エンドゲーム』に匹敵する出来映えである。9人ものチームとなると,大抵は何人かを混同するものだが,本シリーズは各メンバーのルックスがあまりにも個性的なので,まず絶対に混同しない。本作の前半で最も活躍するのは,これまで脇役的存在であったドラックスで,さすが元プロレスラーが演じていると思える迫力で,敵をなぎ倒す。これは,演じるD・バウティスタがJ・ガン監督復帰の先鞭をつけたことを暗示した演出なのか,それともこの見せ場があったゆえ,彼がガン監督の脚本に拘ったのかは不明だが,思わずニヤリとして観てしまう。新たにメンバー扱いとなったクラグリンとコスモの出番も後半しっかり確保されていた。知性があるとはいえ,宇宙犬に何ができるのかと思うだろうが,これは観てのお愉しみだ。
 ちなみに,メンバー中で筆者が最もお気に入りなのは,マンティスだ。額にある一対の触角の特殊メイクと愛らしい表情がすっかり板についたが,演じているポム・クレメンティエフの素顔はかなりの美形で,現在37歳,カナダ・ケベック州生まれのフランス人女優である。

【CG/VFXの出来映え】
 前2作同様,全編でCG/VFXがたっぷりと使われている。最近のMCU作品では当り前の分量であるが,くど過ぎず,洗練された使い方であるのは,J・ガン監督の手腕だ。
 ■ 前半は,攻めたり,攻められたり,かなり目まぐるしい。観客の少年の1人が語っていたように,余程しっかり観ていないと,どちらが何のために戦っているのか分からないし,敵味方の区別もつきにくい。突入したり,暴れまくったり,その大半でCG/VFXが使われている(写真5)。公開されているスチル画像の殆どは予告編中に登場するものだが,2度観ても「こんな場面はあったかな?」と感じたので,いくつかは予告編だけで,本編ではカットされた可能性も大だ。一撃で身体が吹っ飛んで,逆側の壁に激突するシーンが目立った。今ならワイヤーアクションでなく,ほぼCGで描いていると思われる。一撃で身体が吹っ飛んで,逆側の壁に激突するシーンが目立った。ワイヤーアクションでなく,今ならほぼCGで描いていると思われる。


写真5 突入したり,暴れたり,前半はめまぐるしい攻防の連続

 ■ 復活したノーウェアの街,H.E.の実験施設,ガーディアンズ本部,ロケットの手術室,宇宙船や飛行艇内部のデザインが,いずれも素晴らしい。前2作もかなり凝ったデザインであったが,雑然としていたり,意図的にレトロな感じもものも少なくなかった。本作では,機材や内装のいずれもが洗練されたデザインだ。ピーターが佇む写真6の操縦デッキはその典型だが,前2作で彼が操縦していた小型飛行艇のミラノ号とは明らかに違う。ガーディアンズたちがカウンター・アース向かう際の中型宇宙船(写真7)と同じかどうかも判然としなかった。これは新開発なのか,宇宙海賊ラヴェジャーズから譲り受けたものなのかも分からなかった。


写真6 基地内,船内の機材,設備はいいデザインだ

写真7 カウンター・アースに向かう大型の飛行艇

 ■ 元々アライグマのロケットのCG描写は驚くべきレベルだが,彼が感情を発露する表情の描写が一段と進化していた(写真8)。どのクリーチャーもよくできているが,注目すべきはロケットの回想シーンに登場する3匹,メスのカワウソのライラ(写真9),オスのセイウチのティーフス(写真10),メスのウサギのフロアで,それぞれ言葉を話す(写真11)。いずれもH.E.の実験施設オルゴコープで実験台となっている動物仲間だが,フロアは既にかなり改造されていて,言われなければウサギだと識別できない。ロケットの表情に匹敵するのは,89Q12ライラの表情の見事さだ。自分だけが生き残り,彼ら3人(?)を死なせてしまったことを悔いるロケットに,死後の世界からライラが語りかけるシーンは感動ものだった。ここで涙する観客も多いことだろう。20年以上前に「CGで描いた人間や動物の演技に感動するはずがない」と豪語していた批評家に,このシーンを見せたい思いだ。ロケットが,小さな多数のラクーンたちを見つめるシーンにも,じんと来るはずだ。その他では,GotG2にも登場していた宇宙怪獣アビリスクの出番がたっぷりある。凶暴なはずのこの怪獣を,マンティスが手なずけて味方にするシーンも見どころの1つだ。


写真8 怒り,驚き,哀しみ…ロケットの表情描写が秀逸

写真9 表情が豊かなカワウソのライラ

写真10 心優しいセイウチのティーフス

写真11 既にかなり改造されているウサギのフロア

 ■ CG的には難しくないが,筆者のお気に入りは,「ヤカの矢」の活躍シーンである。元々ヨンドゥ愛用の武器だったが,彼の死後,ピーター経由でクラグリンに受け継がれている(写真10)。赤い光線の軌跡を描き,空間を自由自在の飛び回る光景が痛快かつ爽快だ。本作のCG/VFXの主担当は引き続きFramestoreで,その他Weta FX, Sony Pictures Imageworks, Rising Sun Pictures, Rodeo FX, Crafty Apes,ILM,Lola VFX,BUF,Perception等が参加している。


写真12 クラグリンが手にするヤカの矢は,赤い軌跡を描いて飛び回る
(C)Marvel Studios 2023

【J・ガン監督と今後のMCU】
 チームメンバーの活躍だけでなく,緩急のつけ方が巧みで,J・ガン監督の手腕ばかりが目立つ映画であった。MCUとしては,『…エンドゲーム』と双璧の傑作であると誰もが感じるはずだ。例によって,ミッドクレジット,ポストクレジットで今後の行方を示唆するシーンが挿入されているが,リブートした新シリーズが製作されるとしても,かなり先のことだろう。
 それにJ・ガン監督が関わるかと言えば,ほぼ絶望的だ。というのは,既に昨年秋に同監督がワーナー・ブラザース傘下の「DCスタジオ」の共同会長兼CEOに就任することが発表されているからだ。今後少なくとも4年間は,MCUのライバルであるDCUの総指揮を執るという。ディズニーから解雇されて直後に契約して,監督・脚本を担当した『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党, 集結』(21年Web専用#4)による縁ということらしい。同作は,当欄が評価し,年間総合評価のNo.2に選んだ大傑作であった。悪党集団の特殊部隊のメンバー個々の活躍場面を巧みに演出する手口は,今回のGotG3とそっくりである。既に同氏の監督&脚本で,2025年公開の『Superman: Legacy』が進行中というので,当欄としてはDCUを応援したくなってくる。
 となると,本作が高評価を受けたとしてもMCU「フェーズ5」には何の効果もなく,やはり先行きは怪しい。むしろ強いライバルの出現の方が好い影響を及ぼすだろうが,改めて「マルチバース」などにかまけている場合じゃないだろうと言っておきたい。


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