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O plus E誌 2011年9月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『日輪の遺産』:原作は浅田次郎の初期の長編で,太平洋戦争終結間近に軍幹部からの密命で隠されたマッカーサーの財宝を巡る物語だ。戦時中と現代を往き来するが,物語の展開はさほど複雑ではない。原作の約半分,学徒動員された20名の少女たちの悲劇に特化している。しっかりとした構成と演出のまっとうなドラマで,出演者たちの個性が光る。陸軍将校役の堺雅人もいいが,軍曹役の中村獅童がもっといい。無骨で粗野な下士官役がピッタリだ。現代に登場する八千草薫やミッキー・カーチスの若い時代を演じる俳優が,面影を残した顔立ちなのも嬉しい。原作はまだ文体が粗く,少し読み難いが,映画はいかにも「浅田ワールド」らしく脚色されていて,涙を誘う。亡霊が登場するのも定番だ。
 ■『ハンナ』:名子役が一作毎に俳優として成長して行く過程を見るのは楽しいものだ。『つぐない』(07)『ラブリー・ボーン』(09)で達者な演技を見せたシアーシャ・ローナンが,本作では,16歳の少女ながら,高い戦闘能力を備え,CIAの包囲網と渡り合う主人公を演じる。メルヘンチックなフィンランドの森から始まった物語は,モロッコ,イタリアを舞台にしたロード・ムービー,バイオレンス・アクションと化し,最後はちょっと怖いグリム童話の世界へと趣きを変える。監督は,『つぐない』で彼女を起用したジョー・ライト。先の読めない展開で観客を翻弄する。非常なCIA捜査官役のケイト・ブランシェットの悪役ぶりがハマっていて,オチも見事に決まっていた。さてその後,この主人公がどのようにして生きて行くのかが気になるところだ。5年後に,同じ俳優でこの後日譚を作って欲しい。
 ■『レイン・オブ・アサシン』:『レッド・クリフ』(08&09)のジョン・ウー監督が,ボンド・ガールのミシェル・ヨーを主演にすえた武侠活劇大作だ。原題は『剣雨』。舞台は明王朝時代で,達磨大師のミイラを巡っての争いが主題だが,至るところで『グリーン・デスティニー』(00)の影響を感じてしまう。詩情性,音楽性は乏しいものの,ジョン・ウーらしい武術対決のアクションの見せ場はたっぷりある。物語の背景を語る導入部は淡々としていてややもの足りないが,その分,中盤以降は,さあここからだと言わんがばかりの展開となる。相手役のチョン・ウソン(鄭雨盛)は韓国のモデル出身の大柄なイケメン男優で,マーシャルアーツも卒なくこなしていたが,ミシェル・ヨーとは年の差(11歳も若い)があり,カップルとしては少し不自然に感じた。
 ■『ライフ −いのちをつなぐ物語−』:英国BBC製作,ギャガ配給でヒットした『アース』(08年1月号)の続編ともいうべきネイチャードキュメンタリーで,今回のテーマは「いのち」だ。既にこの分野でBBC Earthブランドは確立し,色々なTV番組でその断片を目にするが,劇場版映画となると厳選されたシーン揃いである。製作期間6年,3,000時間に及ぶ映像から選んだ90分だから当然である。「よくぞ撮った!」と感心したのは,「断崖をかけるアイベックスとそれを追うキツネの攻防」「ステディカムで撮影したグンカンドリ対アカハシネッタイチョウの空中戦」「超スローモーションでのトビウオの海上飛行」等々だ。ただし,感心はするが,感動度は『アース』よりも落ちる。松本幸四郎・松たか子の父娘による日本語吹替版で観たが,オリジナルのダニエル・クレイグのナレーションも聴いてみたかった。
 ■『グリーン・ランタン』:本来なら今月号のトップで語ってもいいVFX大作なのだが,どうもそういう気になれなかった。DCコミックからの映画化作品で,お馴染みのスーパーヒーローものである。「グリーン・ランタン」とは全宇宙の秩序を守る警察機構のことで,地球人類の代表者として選ばれた平凡な若者が,スーパーパワーを手にして悪人たちと戦う。物語は宇宙の彼方の惑星から始まり,地球上の普通の若者が超能力に目覚めるという典型的なパターンで,CG/VFXも満載である。それを詳しく語る気になれないのは,主演のライアン・レイノルズが貧相で魅力に乏しいからか,いくら宇宙レベルとはいえ,大仰過ぎて阿呆らしいからか。クリーチャー類のデザインも凡庸で,醜悪だ。全くワクワクしないし,何も新しくないし,フェイク3Dによる3Dも冴えない。同じワーナー作品でも,ハリポタ最終編とは大違いだ。
 ■『探偵はBARにいる』:東映としては本作にかなり力を入れているのだろう。作家・東直己のデビュー小説の題名中の「バー」を「BAR」に変えたのも,その題名のロゴもセンスがいいし,紙マッチを模したプレスシートも洒落ている。主演の探偵役に,とてもヒーローには見えない大泉洋を抜擢し,松田龍平とコンビを組ませたのが正解だ。ヒロインの小雪の魅力に負けていないし,西田敏行,高嶋政伸,竹下景子,石橋蓮司といったベテラン助演陣と堂々と渡り合っている。松田龍平というのは不思議な俳優で,癖のある主演を支える役に回った時に存在感を発揮する。札幌・ススキノだけが舞台というご当地ものだが,東京にはない味がある。ミステリーやサスペンス性は今イチでも,このコンビの魅力を発揮するシリーズに育って行ってもらいたいものだ。
 ■『アジョシ』:韓国映画は分かりやすい。ラブロマンスは,典型的な美男美女の組み合わせで,映画でしか有り得ない出会いや不慮の悲劇に直面する。一方,ヒーローが登場するアクションものは,イケメンで強い主人公が,極悪非道の醜男たちを痛快に薙ぎ倒し,カタルシスを感じさせてくれる。本作の主演は,キムタク似のウォンビン。兵役と手術治療から久々に銀幕に復帰した後の『母なる証明』(09)では,難しい役どころで新境地を見せてくれた。本作では徹底的にカッコいい。麻薬事件が絡み,隣家の少女を助けるという設定はリュック・ベッソン監督の『レオン』(94)を意識したものだが,展開も結末ももっとシンプルだ。敵役の兄弟は,見事なほど憎々しげな容貌の嫌な奴だ。一方,少女役のキム・セロンは,かなりの芸達者だが,どうせならもっと可愛い少女を起用した方が良かったかと思う。
 ■『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』:既視感溢れる映画だ。上述の『レイン・オブ…』と紛らわしいが,この副題と主人公の衣装から,ブルース・リーへのオマージュ映画はこちらだと分かる。「白い詰襟」のスーツは『ドラゴン怒りの鉄拳』(71)以来の定番だし,「黒い仮面の戦士」のカトーの姿は,年初の『グリーン・ホーネット』(11年2月号)でも見たばかりだ。想像したよりも物語の規模は大きく,1920年代後半の上海での日本軍人との攻防を描いている。その点では,本号で別掲の『シャンハイ』からの既視感も多いものの,比べると本作のB級ぶりが目立ってしまう。普通のドラマ部分では,主演のドニー・イェンが今一つ魅力に乏しい。それでも,クライマックスでのカンフー・アクションの切れ,彼の上半身の筋肉美を観たら,それまでの不満は吹っ飛んでしまう。カンフー映画は,それさえあればいい!
   
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