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O plus E誌 非掲載
 
 
バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月25日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2016年3月22日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  2大ヒーローの対決も,前作同様の失望と憤り  
  もう,この題名だけで,当欄は手ぐすねを引いて待ち受けていた期待の話題作で,当然,4月号のトップを飾っていなければならない作品であった。世界中でほぼ一斉公開とはいえ,ワーナー作品の場合,比較的早く試写を見せてくれるのだが,本作の完成披露試写は,一般公開のわずか3日前の3月22日夜のことだった(それでも,大きな劇場で3D試写してくれるだけ,有り難いことだが)。とっくに4月号の締切は過ぎ,まもなく印刷が出来上がる時期である。それゆえ,止むなく,Webページだけでの紹介となってしまった。
 当欄の熱心な読者なら,本作をどう評価するのか,待ち望んでおられたことだろう。当初は,上記の3日間の先行を利用して,公開日には当ページを間に合わせるつもりだったのだが,どうにもその気になれなかった。同じ日に観た次項の『暗殺教室〜卒業編〜』を優先したためもあるが,なかなかアップしないことからも,進んで書きたい出来映えでなかったことを想像して頂けたことだろう。筆者の印象と評価は,まさにRotten Tomatoesのスコア(3/30現在28%)通りなのである。
 紙幅の制限がないので,事前の驚きと期待,当日の興奮と失望を,ほぼその時間経過の順で語ることにしよう。
 
 
 【企画への驚きと事前の印象】
 製作発表があった時点で,この2人のスーパーヒーロー対決には,少なからず驚いた。ゴジラ・シリーズは昔から『モスラ対ゴジラ』(62)『ゴジラ対メカゴジラ』(74)等,対決ものがごく普通で,洋画でも『エイリアンvs.プレデター』(05年1月号)の2大モンスター対決があったので,驚くほどのことはない。それでもやはり,この2人が対決することはないと思っていた。
 DCコミックスが誇る2大ヒーローであるが,単独ヒーローで何度も映画化されてきた。これは明らかにマーベル・コミックス(以下,MCと略す)の『アベンジャーズ』シリーズへの対抗上で,ついにDCもここまでやるのか,きっと前人気だけで,失敗するぞと感じた。
 違和感の最大の要因は,スーパーマンの地球上No.1の超能力に対して,バットマンは鍛え上げた身体と正義感を持つとはいえ,普通の人間である。まともに戦ったらスーパーマンが勝つに決まっている。活躍の舞台もNYを想定したメトロポリスと,シカゴのイメージがするゴッサムシティで,これを一緒にするのも無理がある。そもそも対決構図にして良いことなどあるのだろうか?
 監督はザック・スナイダー,スーパーマン/クラーク・ケント役はヘンリー・カヴィル,恋人のロイス・レインにエイミー・アダムスというのは,『マン・オブ・スティール』(13年9月号)とそっくり同じ布陣だ。即ち,リブートした新スーパーマン・シリーズ3部作の続編であり,2作目ということらしい。そこに同じDCコミックスのヒーロー,バットマンを取り込んだという訳だ。
 既に『ダークナイト』シリーズ3部作は終了し,バットマン役であったクリスチャン・ベールが再登板することはないと報じられている。となると誰がバットマンを演じるのか,無名の俳優を抜擢するのかと思ったら,何とベン・アフレックだった。演技力では一流と言えず,アメコミ・ヒーローの主役は『デアデビル』(03年4月号) で失敗している(脚本も酷かったが)。最近は,監督として手腕を発揮し,『アルゴ』(12年11月号) がアカデミー賞作品賞を受賞し,将来を嘱望されているのに,まだ俳優業に未練があるのだろうか。昨年,ジェニファー・ガーナーとの離婚が発表され,手続き保留中というから,慰謝料支払いのため,連作に出演して手っ取り早く稼げることを選んだのかも知れない。
 ともあれ,バットマン/ブルース・ウェインを演じるのに,肉体改造して増量し,筋肉粒々たる姿に仕上げたという。予告編を観る限り,なかなか似合っている。
 
 
 【試写開始前の監督のメッセージと内容予想】
 一般公開3日の完成披露試写会は,かなりセキュリティ・チェックが厳しかった。まだ欧米でも一般劇場では公開されていなかったからである。配給会社も気合いが入っていたし,会場はかなりの盛況であった。
 本編上映の前に,Z・スナイダー監督からのメッセージ映像が流れた。日本の観客に日頃の感謝を述べると共に,「サプライズがあるから,後で観る観客のために,絶対にネタをバラすな」という趣旨の挨拶だった。わざわざそう言うからには,『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)でのハン・ソロのような感じだろうと想像できてしまう。
 禁止されたので,まともにその内容を語る訳には行かないが,事前情報から簡単にできる予想を書いておこう。
 ■ 2人が向き合い「世紀の対決」と題したポスター(写真1)の下部には「スーパーマンが悪に染まる」と記されているので,バットマンから観れば,スーパーマンは人類の脅威となる「悪役」らしい。
 
 
 
 
 
写真1 市中で見かけたポスター。対決を強調するとともに,下の文が衝撃的。
 
 
   ■ 当初,2人の対決を前面に出していたが,手渡されたクリアフォルダーには女性が1人加わっていて,「ワンダーウーマン」と書かれている。余り馴染みがないが,どうやら彼女もDCコミックスの人気キャラらしく,ガル・ガドットが演じている。
 ■ 次回作は2017年公開の『The Justice League Part One』と公表されていて,この3人の名前もある。本作で対決しておきながら,次には揃って「正義の味方チー厶 (Justice League)」を結成するようだ(写真2)。言わば,DCコミックス版「アベンジャーズ」である。本作は,その前哨戦という訳だ。
 
 
 
 
 
写真2 これがDC版アベンジャーズらしい
 
 
   ■ それでも,本作で2人が戦うのは間違いない。圧倒的に違う力の差は,どうやって埋めるのか? 以下の方法が考えられる。
(a) スーパーマンがパワーを発揮できなくなるのは,故郷の星の鉱物「クリプトナイト」を近づけられたとき。1978年版の映画では,悪人のレックス・ルーサーがこの鉱物を入手して,スーパーマンを苦しめている。本作では,バットマンがこれを利用するのだろうか?
(b) 前作で倒したゾッド将軍らを生き返らせるか,同様にクリプトン星から誰かを呼んでバットマンの味方にする。それなら力は,バットマン・チームも対抗できる。
(c) 本作でも登場人物にレックス・ルーサーの名があり,ジェシー・アイゼンバーグが演じている。この稀代の悪人が,マインド・コントロールする等で,バットマンとスーパーマンが対決するように仕向け,力を拮抗させる秘策を講じるのかも知れない。

 筆者は,このような予想を立てて臨んだのだが,内容口外を禁じられているので,正解か不正解かは伏せておこう。映画を未見で本稿を読んでおられる読者は,ここまでで止め,映画を楽しまれることをオススメする。
 
 
 【映画を追っての感想】
 まずは,ウェイン夫妻が襲われて殺され,ブルースが孤児となるところから物語は始まる。音響効果の良いシアターだったせいもあるが,冒頭から気合いが入ったサウンドだ。3D上映との相性もよく,さすがハリウッド大作と思える重厚感である。この前に数作,邦画の薄っぺらな音楽を聴いていたから,余計にそう感じた。誰が担当だろうと後で確認したら,やはり筆者好みのハンス・ジマーだった。前作では担当せず,この2作目からの登板のようだ。この監督は,よほど『ダークナイト』シリーズを敬愛していて,その世界観や雰囲気を踏襲したいようだ。
 それもあってか,成人し,闇の騎士として社会悪を退治するベン・アフレック版「バットマン」は,まさに『ダークナイト』シリーズの続編のような感がある。スーパーマン映画にバットマンを取り込んだというより,バットマン映画に敵役としてのスーパーマンを登場させた感じだ。
 ようやくスーパーマンが登場するのは,前作『マン・オブ・スティール』での,ゾッド将軍らとメトロポリス上空で戦うシーンの再現部分からだった。同作の評の「付記」で,筆者は「そんな戦いはクリプトン星か,どこか別の星でやってくれよ。こんなに壊してばかりで,地球にとっていい迷惑だ」と書いた。まさにこれが本作のテーマで,その戦いで自社ビルを壊されたブルース・ウェインは,スーパーマンは人類の敵と見做し,復讐を誓う……。
 といった流れだが,ネタバレを避けるため,2人が対決し,その後,二転三転する物語の顛末は控えておこう。印象としては,2人の対決(写真3)まででこの映画は終えるべきであって,残り15〜20分は余計だ。全156分は長過ぎる。
 
 
 
 
 
写真3 2人が対峙すると,スーパーマンが小柄で,ひ弱に見えてしまう
 
 
 【CG/VFXの評価】
 当欄が語るべきCG/VFXシーンは,数え切れないくらいある。バットマン(写真4),スーパーマン(写真5)それぞれの見せ場シーンをはじめ,2人の対決シーンも,しっかりVFX強化されているし,その後のモンスターとの戦いは,もういやになるくらいのバトルVFXのオンパレードだ。分量は多いが,さして目新しい使い方は見られなかった。
 
 
 
 
 
写真4 こんなに働いて人助けしても,悪人扱いなのは可哀そう
 
 
 
 
 
写真5 人類の希望を託されたバットマン。このレベルのVFXが全編で登場する。
 
 
   強いて言えば,技術的には凡庸でも,スーパーマンが目から光線を発射する姿が印象的だった(写真6)。バットマン側の兵器では,バットモービルは極く普通の出来映えだったが,執事のアレックスが操縦する飛行艇が斬新だった。戦闘機や宇宙船のような動きをするだけでなく,ドローン・モードでの運用も可能だそうだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 元々悪人面の俳優だが,「悪に染まる」がピッタリ来るシーン
(C) 2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC
 
 
   CG/VFXの主担当はMPC,副担当はScanline VFX,Weta Digital, Method Studios等の有力どころで,他に数社の名前があった。最近ぐっと力をつけているScanline VFXの名が2番目に登場し,既にメジャー扱いなのが印象深かった。
 
 
 【全体の印象と個人的な要望】
 映像,音響ともに良くできていて,作品としてのクオリティは低くない。ただし,両スーパーヒーローのこれまでの作品を知らない観客にとっては,分からない部分がかなり多いだろう。アメコミ・ファン,その映画化作品を熟知したファンを前提としているので,本作の大作感が気に入った観客は,せっせとこれまでの作品を観てから,再度本作に辿り着いてもらいたい。
 大作としての品質は認めつつも,評点が低いのは,筆者が個人的に,このシリーズを好きになれないからだ。『マン・オブ・スティール』の続編だけあって,その欠点もそのまま受け継いでいる。もっと正確に言えば,このヘンリー・カヴィルのスーパーマンが大嫌いで,彼を選び,こんな暗い役,悪役をやらせる監督が気にくわない。バットマンはダークナイト(闇の騎士)であるから,これでいいが,スーパーマンは断固として,明るく,世界の平和のために尽くし,常に人から愛される存在でなければならない。コスチュームも,早く明るいブルーに戻して欲しい。そうでないスーパーマン・シリーズなど,糞喰らえだ。
 風貌,体格だけを考えれば,ベン・アフレックをスーパーマンにした方が,まだしも似合っていると思うのだが,絶対そんな入替えは実現してくれないだろう。ジャスティス・リーグのPart 1,Part 2が完成する前に,今秋には,DCの悪役勢揃いの『スーサイド・スクワッド』が公開されるという。ベン・アフレックのバットマンが好評だったためか,彼自身が監督・主演する単独作も企画に上がっているそうだ。
 本作が不評で,興行成績も冴えなくて,ヘンリー・カヴィルを降板させることになるといいなと思う。別の新しい俳優を起用して陽気なスーパーマンになることを期待したい。
 
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