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O plus E誌 2013年9月号掲載
 
 
マン・オブ・スティール』
(ワーナー・ブラザース映画)
      TM & (C) 2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. TM & (C) DC COMICS
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月30日より丸の内ピカデリー他にて全国ロードショー公開予定]   2013年7月5日 なんばパークスシネマ[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  成功事例に習ったとはいえ,このダークさは疑問  
  本作も典型的なリブート作品だが,ここから新シリーズを形成しようという大事な一作である。『Man of Steel』などという聞き慣れないタイトルで登場したが,何のことはない,誰もが知っているDCコミックの英雄「スーパーマン」のことである。製作・原案は,『バットマン』シリーズをリブートした『ダークナイト』3部作を監督し,大成功で収めたクリストファー・ノーランであるから,表題にまで同じ手法を使ってきたようだ。本作では,自らは製作に退き,監督には『300 <スリーハンドレッド>』(07年6月号) のザック・スナイダーを起用している。共にCG/VFXの威力を知り尽くした人物であり,当欄としても期待度は大きかった。
「スーパーマン」のコミック版は戦前の1938年に誕生し,アメコミ・ヒーローの元祖である。1952年から製作されたTVシリーズが大人気を博し,筆者も小学生時代に毎週観ていた。日本での最高視聴率は74.2%だったという。何度も映画化されたが,1978年のリチャード・ドナー監督作品が大好評で,シリーズ化され,続編も3本が作られた。2006年にブライアン・シンガー監督の『スーパーマン リターンズ』(06年9月号) が登場したが,同作は78年シリーズの第2作に続く物語設定であり,ジョン・ウィリアムズのテーマ曲がそのまま使われていたので,これはリブート作とは言えない。何よりも78年シリーズの主演俳優クリストファー・リーブとそっくりのブランドン・ラウスの起用が嬉しかった。
 本作は,原点帰りしているので,故郷クリプトン星から始まり,故マーロン・ブランドが演じた父親ジョー=エル役には,ラッセル・クロウが配されている。息子カル=エルが地球に来てからの養父母ケント夫妻は,ケビン・コスナーとダイアン・レイン,そしてヒロインのロイス・レイン役はエイミー・アダムスというから,いずれもイメージはぴったりだ。予告編でクラーク・ケントがヒッチハイクで北極に向かうシーンを盛り込む等,78年シリーズを意識させる手口が使われている。
 ところが,残念ながら,筆者はどうにも本作を好きになれない。誤解を恐れずに言うならば,リブート失敗作であると思う。映画そのものの完成度は高く,初めて観るヒーロー作品なら許せるかも知れない。『ダークナイト』シリーズ以降のC・ノーランのファンなら,同じイメージであり,絶賛しても不思議はない。そこまでは認めても,これが皆が大好きなスーパーマンの新作と言われると困るのが,オールドファンの偽らざる心境だ。
 ■ まず,主演のヘンリー・カビルの容貌がスーパーマン向きではない。コミックから抜け出して来たかのようなC・リーブやB・ラウスのイメージを大切にするファンには,それを超えるものが感じられない。
 ■ 物語も暗ければ,コスチュームも暗すぎる(写真1)。これじゃ,旧シリーズでスーパーマンが心を病んで邪悪になった時の色合いだ。バットマンは元々ダークナイト(暗闇の騎士)だから良かったが,スーパーマンやスパイダーマンは,超能力で庶民を助ける明るいヒーローで,拍手喝采の痛快なシーンが不可欠だ。写真2のような晴れやかな姿をファンは求めている。
 
 
 
 

写真1 この暗めのコスチュームも仰々しいロゴマークも好きになれない

 
 
 
 
写真2 それでも,地球を背にしたこの雄姿には惚れ惚れ
 
 
  ■ とは言いながら,CG/VFXの見せ場は少なくなかった。まず,クリプトン星での出来事にかなりの時間が当てられ,そこでの進んだ文明や戦闘の描写にも上質のCG表現が使われている(写真3)。後に地球上で,父ジョー=エルが遺した映像が息子に知識を授けるシーンも,78年版を大きく凌いでいる。VFXの主担当はWeta DigitalとDouble Negativeだから,当然のレベルだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 故郷クリプトン星の描写にも力が入っている
 
 
  ■ 地球上のメトロポリスの描写や,ゾッド将軍とのバトルに関わる表現も上出来である(写真4)。とりわけ,スーパーマンがビルを突き抜けるシーンは見ものであった。このためだけに,新たな破壊シミュレーション・ソフトが開発されている。敵側の戦闘服やヘルメットのデザインは,重厚かつ斬新だが,実際に装着しているのではなく,大半は後でCGが描き加えられている(写真5)。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 この程度の町のCG表現は今や当たり前。その壊し方に新手法を導入。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真5 戦闘服もヘルメットも後からCGで装着(一番上の画像の中央の女性の着衣のみ本物)
TM & (C) 2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED. TM & (C) DC COMICS
 
 
  ■ お馴染みの電話ボックスでクラーク・ケントからスーパーマンに変身するシーンは,携帯電話の時代にどうするのだろうと楽しみにしていたが,それ自体が存在しなかった。新聞記者C・ケントは本作の最後に誕生する。次回作以降,オールドファンを納得させるような映画に変身してくれることを期待しておこう。
 
 
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 付記
 O plus E誌掲載分の上記を書き終え,入稿・校了してから,もう一度この映画の試写会に出向いた。スーパーマン映画に関する個人的な思い入れを排除し,虚心坦懐に映画の組み立て,スーパーヒーローものとしての出来映えを味わい,CG/VFXの使われ方も再確認するためである。なるほど,改めて観ても,映画そのものの骨格はしっかりしている。ヒーロー誕生まで出来事をしっかり語り,主人公の心の葛藤を克明に描く重厚感は,『バットマン ビギンズ』(05年7月号)と同じ手口だとも言える。それ以降,コミックが原作でも同じシリアス路線を採った『インクレディブル・ハルク』(08年8月号)『マイティ・ソー』(11年7月号)と比べても,全く遜色はない。両作品にはキャラに馴染みが薄かった分,素直に高評価を与えたことを考えれば,本作ももっと高く評価すべきだったのだろうか……。
 養父を演じたケビン・コスナーは好い味を出していたし,彼の死後は,養母ダイアン・レインの出番がこの映画に深み与えていた。デイリー・プラネット紙編集長役を黒人にし,ローレンス・フィッシュバーンに演じさせたのも,現代風アレンジで妥当な選択だ。こうした助演陣を充実させたのも『ダークナイト』シリーズと同じ狙いと言えるだろう。
 そのすべてを理解した上で,やっぱり新生スーパーマン映画としては,不満が残った。その理由の1つは,スーパーマンのヒーローとしての痛快さを十分に堪能させてくれない内に,強敵との対決モードに入ってしまったことだろう。この点では,同じリブート作品でも『アメイジング・スパイダーマン』(12年7月号)は,痛快さをしっかり味合わせてくれた。『アイアンマン』シリーズなどは,アーマー・スーツやバトルはどんどんスケールアップしているが,きっちりお遊びの要素が入っているし,爽快感はキープされている。それに比べると,この『マン・オブ・スティール』は余りにも生真面目過ぎる。少年クラーク・ケントが,超能力を行使するのを封じられ,じっと堪えろと言われているのを観ると,こちらまで辛くなるではないか。
 もう1つの欠点は,バトル・シーンが激しく,かつ長過ぎる。スーパーマンもゾッド将軍一味も,パワーがあり過ぎ,動きも速過ぎて,何が起こっているのか,ほとんど視認できないことだ。それでいて大音響で,破壊の限りを尽くしてくれる。それが延々と続く。これでは,バトルの面白さは楽しめず,固唾を呑むのではなく,ただただ一体いつまで続ける気だと傍観しているしかない。「君たち,そんな戦いはクリプトン星か,どこか別の星でやってくれよ。こんなに壊してばかりで,地球にとっていい迷惑だ」というのが,スーパーマン・ファンの平均的な感想ではないだろうか。
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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