O plus E VFX映画時評 2024年4月号

『REBEL MOON — パート1: 炎の子』

(Netflix)



オフィシャルサイト[日本語]
[2023年12月22日よりNetflixにて独占配信中]

(C)2023 Netflix


2024年4月4日 Netflixの映像配信を視聴


『REBEL MOON — パート2: 傷跡を刻む者』

(Netflix)




オフィシャルサイト[日本語]
[4月19日よりNetflixにて独占配信中]

(C)Netflix


2024年4月20日 Netflixの映像配信を視聴

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


B級スペースオペラ大作は, ネット配信の2部作で登場

 O plus Eが紙媒体の月刊誌であった頃,紙幅制限はあったものの,メイン記事の取捨選択にはさほど苦労はしなかった。2010年代の初め頃までは,かなり早い時期にマスコミ試写があったので,掲載作品を調整できたからである。ところが,VFX大作の多くが日米同時公開となり,試写も公開間際が増えてしまい,月刊誌にとっては辛い時代になってしまった。止むなく,誌面掲載を断念し,Webページでだけ紹介した映画もいくつもあった。
 隔月刊時代を経て,紙媒体は休刊になって以降,Webページ主体なり,いつでもアップロードできるので,昨年からは公開月単位で「○月号」と括ることにした。そうなっても,本数の多い短評欄は問題なかったが,メイン記事の数が乱高下するようになってしまった。2023年9月号の5本の翌月は,たった1本しか該当作品がなかったのである。さすがに1本では淋しいので,何とか2本は用意するように努めている。
 この4月号も2本を予定していたが,『陰陽師0』を短評欄に移さざるを得なくなってしまった。こういう時のために用意してあったのが,ネット配信映画の本作である。2部作で,パート1は昨年12月22日から配信されていたが,パート2の配信開始がまさに今月でぴったり穴埋めできたのである。内容的に抜群の秀作とは言い難いが,宇宙SF映画で,VFXの質と量は語るに値する。監督・脚本は,ザック・スナイダー。当欄ではもう何作も紹介してきたお馴染みである。作品リストを見て驚いた。彼の劇場公開用長編映画8本は,すべて当映画評のメイン欄で紹介していた。加えて,製作や製作総指揮で参加した5本もすべてメイン欄で紹介済みであった。CM畑出身者だが,CG/VFXの使い道は完全に把握している監督であることは,この実績からも保証できる。
 過去作を振り返ってみよう。長編デビュー作『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04年6月号)はゾンビ映画だった。同分野の創始者の名匠G・A・ロメロ監督の同名作をかなり大胆にリメイクしていた。2作目『300』(07年6月号)はスパルタの勇者達の武勇伝で,CG/VFXの大胆な利用で絶賛を浴びた。これが大出世作となり,『ウォッチメン』(09年4月号)『ガフールの伝説』(10年10月号)『エンジェル ウォーズ』(11年5月号)と立て続けにビジュアル重視の実験的作品に挑戦する機会を与えられ,当欄はいずれも以上の評価を与えた。
 この実績を評価され,MCUに対抗するDCEUの統括約となった。自らは『マン・オブ・スティール』(13年9月号)『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16)『ジャスティス・リーグ』(17年12月号)を生み出し,「ワンダーウーマン」「アクアマン」「ハーレー・クイン」の単独主演作も製作/製作総指揮を務めた。筆者は,この中での「スーパーマン」の扱いと暗過ぎる描き方に賛同できず,何度も苦言を呈した。また,スナイダー監督が自己都合で『ジャスティス・リーグ』を途中降版した功罪も既に述べた。現在では,DCEU全体の興行的不振のA級戦犯扱いされることがあるかと思えば,デジタル配信された『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』(21)が高評価を受けるなど,なかなか多難な監督人生を歩んでいる。熱烈ファンも多く,実力ある監督であることは間違いない。
 さて,この2部作は,1960〜70年代にSFの主流であった典型的な「スペースオペラ」(宇宙が舞台の冒険活劇)である。筆者がそれに批判的であることは,『流転の地球 -太陽系脱出計画-』(24年3月号)等で述べた。「砂の惑星」が原作の『DUNE』シリーズが格調高いのは,ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の実力と高い見識による例外である。単に宇宙を舞台にした安易な企画は,B級映画になってしまいがちだ。本作に関しては,それを逆手にとって,徹底してB級テイストで押し通すオリジナル作品で,ザック・スナイダー監督の20年来の構想だという。 子供時代に 『スター・ウォーズ (SW)』(77)に感銘を受けたこの監督は,そのスピンオフ作品を作ることが生甲斐であった公言している。まずルーカス・フィルムに持ち込んだところ,SWサ-ガ正史の製作中であったために断られ,次いで『300』以降の全作品の配給会社であるワーナーも興味を示さなかったという(恐らく,DCEUに専念するよう言われた)。既にDCUへの方針変換を決めたワーナーとは関係が切れていて,新たにNetflixをホームグランドに選んだのは正解だったと思う。
 ネット配信映画には,むしろB級タッチで気楽に観られる映画の方が向いている。批評家が褒める格調高い作品を映画館で姿勢を正し,かしこまって観るのとは違う。ソファーで横になって観ればいい。家族や仲間とわいわい声を出しながら観てもいいし,深夜に1人で観るもありだ。後述するが,全8話のような連続ドラマでなく,2時間余×2の2部作にしたのも正解だと思う。そんな映画なのである。

誰が見ても『七人の侍』+『スターズ・ウォーズ EP4』

 パート2の配信開始は約4ヶ月後であったが,まとめて2本分同時に撮影していたことは間違いない。スナイダー監督の念願の映画化であるから,1本分では尺が足りず,語り尽くせない。さりとて,全8話,計400分程度のドラマシリーズだと4人 × 2話ずつ監督するのが定番だが,やはりすべて自分で細部まで演出し,編集まで点検したかったのだろう。それで2部作になったと思われる。

【物語の概要】
ある銀河系の星々を「マザーワールド」なる帝国が支配していた。その辺境にある巨大ガス惑星マラの小さな衛星ヴェルトの農村が,物語の中心となる舞台である。村民たちは,慎ましやかに小麦を栽培して暮していた。ある日,冷酷無比な司令官ノーブル提督が率いる巨大な軍艦ドレッドノート(字幕では,弩級艦と表記)がやって来て,大量の小麦を差し出すよう要求する。それを拒んだ村長は直ちに殺された。提督は10週間後に収穫を取りに再訪すると宣言し,見張りの兵士達を残して立ち去る。
 主人公は,他の星からやって来てこの村で平穏に暮していた女性コラだが,帝国軍の兵士が村娘を犯そうとしたのを止めに入って戦闘になり,ほぼ全員を殺害してしまう。コラの正体は,濡れ衣を着せられ,お尋ね者になっていた女戦士アースレイアスであった。兵士達を殺害した以上,帝国軍の報復は必至であり,戦うしかないと決意した。コラと農家の監察官ガンナーの2人は,共に戦ってくれる戦士達を求めて,他の惑星や衛星を訪れ,帝国の支配者たちに恨みをもつ強者5人のスカウトに成功する。
 こうして結成された7人のチーム「レベルズ」が衛星ヴェルトに戻る途中で,裏切り通報でノーブル提督らの待ち伏せに遭う。激しい戦闘が繰り広げられるが,からくもコラは提督を倒して,反乱軍レベルズはヴェルト星に凱旋する。ところが,瀕死のノーブル提督の身体は帝国を支配する摂政バリサリウスの元に転送され,最新バイオ技術で復活していた……。とここまでが,パート1である。
パート2はもっとシンプルだった。まず,提督の復活の詳細が映像化されて登場する。続く前半では,コラを含め,7人の戦士の過去が詳しく語られる。戦闘用アンドロイドのジミーは,かつて帝国の王に仕えていたが,王が暗殺されたため反乱軍に加わる。5日後にやって来るという帝国軍に対して,村人達も立ち上がって準備を進め,後半1時間弱はラストバトルが延々と続いた。さすがザック・スナイダーとうならせるVFX満載のスペクタクルで,予定通りの勧善懲悪で決着する。ところが,これで完全に大団円かと思いきや,パート3がありそうな含みも持たせている。
「Rebel」は「反逆者,反乱兵士」の意であり,ヴェルトは惑星ではなく,衛星なので「Moon」なのだろう。農村を守るために他所者の7人組が結成されるというのは,誰が見ても黒澤明の『七人の侍』(54)の焼き直しである。そのハリウッド・リメイクの『荒野の七人』(60)を見て感激したザック少年は,後に日本映画の原典があることを知り,それを『スター・ウォーズ』とミックスさせようと考えたらしい。
 では,SW的な要素はと言えば,まずコラとガンナーがタイタス将軍の情報を得るため立ち寄ったプロヴィデンスの宇宙港都市の酒場のシーンだ。奇妙な異星人達が集うのは,言うまでもなく,『SW EP4』に登場するカンティーナのシーンのパロディである。また,女剣士ネメシスの二刀流の紅い剣は,ライトセーバーそのそのものだ。アンドロイドのジミーは,C3POを彷彿とさせる。少し残念なのは,ノーブル提督の軍服姿はナチスの将校風で,ダースベーダー的ではなかったことだ。主人公もルーク・スカイウォーカー風ではなかった。女戦士コラにしたのは,最新3部作『SW EP7〜9』のヒロインのレイをイメージさせようとしているのかも知れない。
 という風に,オマージュやパロディ・シーンを探しながら楽しむ徹底したB級テイストの映画である。そうなると,新規性,斬新さを求める批評家の評点は低く,筆者もまたそれに近いが,観客(ネット視聴者)の満足度は低くないと思われる。

【主要登場人物とキャスティング】
 2部作での総製作費は$166millionで,通常のハリウッドメジャー作品の2倍以上は優にある。粗製乱造気味のNeflix映画では,破格の大作扱いだ。それでも,スナイダー監督が手掛けたDCEU作品の1本分以下である。VFXスタジオは大手数社を使い,かつ大規模なオープンセット組むには,そう潤沢な額ではない,となると,著名俳優は使わず,俳優のギャラを削減するのが手っ取り早い。名前を知っている出演俳優は僅かだった。
 主演のコラ役には,ソフィア・ブテラが抜擢されている(写真1)。アルジェリア系フランス人の女優兼ダンサーで,『キングスマン』(15年9月号)では,両足が金属製の義足の殺し屋役を演じ,ユニークなアクションで観客を魅了した。その後は,スパイ映画『アトミック・ブロンド』(17年11月号)で主演のシャーリーズ・セロンとの同性愛の愛人エージェント役,ダンス映画『CLIMAX クライマックス』(19年Web専用#5)で22人のダンサーを束ねる振付師役が印象に残っている。本作が,彼女の代表作と見做されることは間違いない。
 相手役でコラと恋に落ちるガンナー役には,オランダ出身のミキール・ハースマンが配された(写真2)。TVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』の司令官役が代表作だが,当欄の紹介作では『ガーンジー島の読書会の秘密』(19年7・8月号)が目立つ程度だ。こちらも,女性主人公と恋に落ちる相手役である。


写真1 戦闘能力抜群の主人公コラ
写真2 コラと行動を共にし, 愛し合うガンナー

 スカウトされてチーム・レベルズに加わるのは,帝国軍の元将軍タイラス(ジャイモン・フンスー),動物と話せる鍛冶屋の勇者タラク(スタズ・ネアー),サイボーグ女剣士ネメシス(ペ・ドゥナ),傭兵軍団を率いるダリアン・ブラッドアックス(レイ・フィッシャー)とその姉のデヴラ(クレオパトラ・コールマン)の5人で,名の通った俳優はいない。悪役も,王を殺して帝国を手に収めた摂政バリサリウス(フラ・フィー),指揮官ノーブル提督(エド・スクライン),その右腕のカシアス司令官(アルフォンソ・ヘレラ)等で,こちらも大物はいない。
 声だけの出演者を見て驚いたのは,アンドロイドのジミーの声優だった。何と,オスカー2度受賞の名優アンソニー・ホプキンスではないか(写真3)。落ち着いた渋い声であったが,C3POの甲高い声をイメージしていたので,逆に違和感があった。声の印象の違和感では,ノーブル提督の日本語吹替えは優しい紳士的な口調過ぎて,悪人の声には不釣り合いだった。無名の俳優が多かったので,決まった声優の割り当てから外れていたためだろう。


写真3 このロボットの声が, 何とアンソニー・ホプキンス

 劇伴音楽は,好い出来映えだった。他のスナイダー作品もそうだが,スナイダー監督はビジュアル面だけでなく,音楽にも一家言あるようだ。そう言えば,『マン・オブ・スティール』や『バットマン vs スーパーマン…』では,贅沢にも御大ハンス・ジマーを起用していた。本作の音楽担当は,ロック分野出身のジャンキーXLで,最近,映画音楽にも積極的に参加している。『バットマン vs スーパーマン…』の共同作曲でハンス・ジマーの薫陶を受け,『ゴジラvsコング』(21年5・6月号)や今月号の別項『ゴジラ×コング 新たなる帝国』,来月号の『マッドマックス:フュリオサ』の音楽も彼が担当している。

特異キャラ設計とVFXには見どころは多々あり

 Netflixでパート2を視聴していると,そのまま約28分の『REBEL MOON:ユニバース誕生の舞台裏』が始まる。監督はご自慢の特撮風景やVFX利用のメイキング映像を見て欲しいようだ。その他にも,VFX担当の各社から「VFX Breakdown」や「Behind Scenes」の映像がいくつもYouTube等に投稿されている。その豊富な資源を利用し,多数の画像をまじえて見どころを解説する。

【武器とクリーチャーのデザイン,オープンセット撮影】
 ■ 武器のデザインから入ろう。まずは,かなり大きめのコラの拳銃だ。彼女がヴェルト星に着陸した宇宙船に残っていたという代物で,見事な装飾が施されている(写真4)。さすが,摂政バリサリウスに養女となり,稀代の女戦士アースレイアスとして育てられた彼女に相応しい武器である。発射されるのは銃弾ではなく溶岩流で,人体を貫通して焼き焦がす危険な銃器のようだ。レベルズの戦士が手にするライフル,一回り大きい重機関銃,帝国軍の砲門等々,多数の重火器が登場するが,数え切れなかった(写真5)。それらの部品はCADデザインし,3Dプリンタで出力して,組み立てたという。見かけは重そうだが,軽い素材を使っていて,取り扱いやすかったと思われる。


写真4 宇宙船から見つかったコラの銃。溶岩流を発射する。

写真5 (上)レベルズ愛用のライフル, (中)農民の女性も扱える重機関銃, (下)帝国軍の砲門

 ■ SWを真似るだけあって,クリーチャー類のデザインには力が入っていた。デザイン統括者は90体も担当したという。特殊メイクや顔だけがCG,躯体全体がCG等々,実現方法は千差万別だ。酒場の犬男の顔は特殊メイクだが(写真6),惑星シャラーンのレヴィティカ王の顔はCGで,俳優のFacial Capturingで表情を描いている(写真7)。アンドロイドのジミーは,基本的にはブルースーツを着た細身の俳優が甲冑をまとって演技しているが,頸,肩,腰のくびれを表現するため,CGを適宜重畳描画している(写真8)(写真9)。特に力が入っていると感じたのは,蜘蛛型ヒューマノイドのハルマーダと黒い怪鳥のベヌーである。この2体については,次のVFXコ-ナ-で詳述する。


写真6 この醜悪さは地顔ではなく, さすがに特殊メイク

写真7 こちらはCGで, 俳優の表情をFacial Captureしてマッピング

写真8 俳優が中に入って演技し, 頚, 肩, 腰はCGを重畳描画

写真9 こちらは全面的にCG利用で描画している

 ■ 武器やクリーチャーに注力している反面,小道具類ではあまり斬新なデザインはなかった。SFであるのに,全体的に古風である。ヴェルトの農村は,大きなオープンセットを構築して,村の建物を建てている。出演者の1人が「19世紀のノルウェーの村みたい」と言うほどだ。帝国軍がなぜ小麦をそこまで重要視するのか分からなかっが,オープンセット内に畑を作り,小麦の種まきから収穫までを行ったという。小麦の穂が美しく色づき,収穫する映像はすべて本物であった訳だ。全撮影期間は152日に及んだから,それも可能であったのである。

【その他のCG/VFXの見どころ】
 ■ 重火器も多彩であったが,軍艦や宇宙船も負けずに多彩であった。弩級艦「キングズゲイズ」は静止画で観ると大きさが把握しにくいが,動画で見るととてつもない大きさだと感じる(写真10)。大きさの実寸は不明だが,船首の形状は「宇宙戦艦ヤマト」の影響を受けている(写真11)。大き過ぎて地上に着陸することはできず,複数の降下艇が村に降りてくる(写真12)。この降下艇にも戦闘能力がある。大半はCG描写だが,1機だけ大きさ15mの実機を制作したという(勿論,飛べないが)(写真13)。一方,宇宙港で知り合ったカイがコラとガンナーの惑星巡りに提供する輸送用宇宙船は,もっと大きく,諸元が判明している(写真14)。他にも何種類かあったが,全部は覚え切れなかった(写真15)。いずれも単に宇宙空間を進むだけで,ミレニアム・ファルコン号のように空間をワープする機能はない。デザイン的にも少し野暮だ。


写真10 宇宙空間だと小さく見えるが, かなり巨大な戦艦

写真11 船首部の形が戦艦ヤマトに似ている。
(上)コラの宇宙船が弩級艦に向かう, (下)コラが爆破に成功

写真12 (上)弩級艦から降下艇が降りてくる,(下)小麦を受け取りに村に到着

写真13 1機だけ作った実物大を使うとすれば, このシーンか?

写真14 (上)弩級艦より小さいが,結構な大きさ, (中)いざ宇宙港から出発, (下)惑星ニュー・ウォディに到着

写真15 (上)不時着したコラの宇宙船, (下)応援に来た傭兵軍団の戦闘機

 ■ ユニークなクリーチャーは,惑星ダガスで数百年生きてきたハルマ-ダで,上半身は人間,下半身は蜘蛛型のヒューマノイドという怪物である。グリーンバックのスタジオ内で台座の上に俳優を載せて移動させ,下半身はCGで描いている(写真16)。このハルマーダの宿敵ネメシスも単なる女剣士ではなく,奇妙な形の足をもつサイボーグであった(写真17)。VFXで制作陣が最も力を入れていたのは,惑星ニュー・ウォディに住む黒い怪鳥ベヌーを勇者タラスが乗りこなすシーンである(写真18)。一見大きなカラスだが,大きな翼を拡げて飛翔する姿は他作品でよく見かけるドラゴンに近い(写真19)


写真16 (上)ハルマーダのデザイン, (中)合成位置を調整, (下)完成映像

写真17 二刀流のサイボーグ剣士ネメシスの足は少しユニーク

写真18 気性の荒い怪鳥ベヌーに話かけ, 心を通わせる

写真19 大きな翼で飛翔するシーンの撮影風景

 ■ 各惑星の景観で異色だったのは,採鉱惑星ダガスだった。まるで化学プラントを思わせる威容だが,天然資源のコバルトを採掘するためこんな鉄骨だらけの設備になるらしい(写真20)。形状や機能で面白かったのは,罪人(?)を捕まえて自律移動するロボット(名前は不明)だった(写真21)。VFX技術的には特筆に値しないが,遊び心で描いたのだろう。デザイン的に感心したのは,惑星ゴンディヴァルの未登録交易ターミナルだった。宇宙空間に板状の敷地が並んでいて,ここが交易のマーケットらしい(写真22)。こちらも技術的には何でもないが,センスの良さを感じたVFX シーンだった。


写真20 (上)3人がかりで支えて撮影, (下)完成映像

写真21 これが未登録交易ターミナル。ノーブル提督が待ち伏せしていて,戦闘が始まる。

写真22 採鉱惑星ダガスの光景。噴煙で空が汚染されている。

 ■ 少し古臭い意匠設計の中で最も斬新に感じたのは,ほぼ死にかけていた提督を復活させるシーンである(写真23)。医学的/生命科学的にどんな措置なのかの説明は全くないが,ビジュアル的には秀逸だった。本作のCG/VFXの主担当はFramestoreで,副担当はWeta FXとScanline VFX, その他Luma Pictures, Rodeo FX, Mammal Studios, Day For Nite等々,一流どころが参加していた。


写真23 瀕死のノーブル提督をニューロ転送し,最新技術で復活させる
(C) Netflix

【総合評価】
 同じSF大作でありながら,先月の『流転の地球 -太陽系脱出計画-』(24年3月号)は一見もっともらしい科学的根拠のオンパレードであるのに対して,スペースオペラの典型である本作では,そんな屁理屈は考えようともしていない。上記の交易ターミナルは宇宙空間に浮かんでいるように見えるが,その説明は全くない。そもそも各惑星も衛星も,大気も重力もまるで気にしていないし,宇宙服は全く見かけない。能天気なスペースオペラの真骨頂であり,お気楽に荒唐無稽な物語を描き,武器や宇宙船だけを考えてれば済む訳だ。大半の観客は,物語の展開や結末を楽しめれば満足するのであるから,お気楽設定も娯楽映画には好都合だと言える。
 お尋ね者になる前に養父に命じられてコラが行った行為に対して,パート2の終盤にタイタス将軍から驚くべき事実が明らかにされる。それを突き止めようとすれば,パート3に続くことは明らかだ。まだその製作予定は公表されていないが,スナイダー監督は既にパート4までの物語を書き終えているそうだ。
 その前に,今回の2部作のそれぞれのディレクターズ・カットが配信予定のようだ。現在のパート1は148分,パート2は122分で,一般向きであったが,それぞれ約1時間増で,一旦カットした暴力シーンやアダルト向きのシーンを復刻するという。劇場上映なら,再度入場料を払って見る気はしなくても,月額料金固定のネット配信なら思わず見てしまう契約者は多いに違いない。いつ配信開始なのか気にしなくても,視聴履歴があるのでNetflix通知が届くし,その通知に気付かなくても,Netflixに接続しただけで誘導されてしまうと思われる。


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