O plus E VFX映画時評 2024年9月号

『エイリアン:ロムルス』

(20世紀スタジオ/ウォルト・
ディズニー・ジャパン配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[9月6日より全国ロードショー公開中]

(C)2024 20th Century Studios


2024年8月19日 大手広告試写室(大阪)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


旧作の伝統をしっかり引き継ぎ, 期待を裏切らない最新作

 この映画の題名も今秋公開となることも,かなり早い時期から知っていた。言うまでもなく,SFホラーの分野で大きな足跡を残した『エイリアン』シリーズの最新作である。大いに楽しみにしたのは,シリーズ全体の平均レベルが高く,まず外れはないと予想できたからだ。ところが,米国公開が始まり,国内のマスコミ試写の直前になって,大きな誤解をしていたことに気付いた。新作が登場するたびに,第1作『エイリアン』(79)を成功させたリドリー・スコット監督の名前が登場し,彼のインタビュー記事もあったので,第1作の前日譚である『プロメテウス』(12年9月号)『エイリアン:コヴェナント』(17年9月号)の続編であり,スコット監督自身がメガホンをとる3部作の完結編であると思い込んでいたのである(実際に,3部作の話があった)。本作の監督・脚本はフェデ・アルバレスであり,このフランチャイズ内ではスピンオフ作品扱いだという。
 その後,国内公開が近づいてから,驚き,かつ感心したことがある。本シリーズの過去作を紹介する記事の多さだった。映画専門雑誌やネット上の映画紹介サイトで特集記事が組まれるのは当然として,YouTubeやFacebookにも,個人が本シリーズの見どころや思い入れを語る記事が猛烈なスピードで溢れ始めた。「エイリアン・オタク」がこんなにいたのか,ここまで愛されているシリーズなのかと,改めて感心した。公開後は,ネタバレを含む感想の投稿が雨後の筍のように出て来るに違いない。
 当欄は,後日再読する価値のある資料性の高い記事を求める読者が多いため,最近,類似作やシリーズの過去作を概観する紹介記事を書くように努めてきた。紙媒体での紙幅制限がなくなったので,筆者自身の整理とメモも兼ねて長い記事を書き,それを公開している訳である。昨年は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(23年5月号)『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(同6月号)『ハンガー・ゲーム0』(同12月号)を,今年に入ってからは『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』(24年3月号)『猿の惑星/キングダム』(同5月号)『バッドボーイズ RIDE OR DIE 』(同6月号)『怪盗グルーのミニオン超変身』(同7月号)『ツイスターズ』(同8月号)を,その意識で書いた。
 この『エイリアン』シリーズもそうするつもりであったが,エイリアン愛は熱心なネット民には勝てない。よって,当欄としては,マニアックな評価は避け,CG/VFXの視点からの評価に徹することにした。

【過去作の概要と評価】
 以下の①②…は,製作&公開順の番号である。その後の章でも作品名代わりに,この番号を引用する。

◆正規シリーズの時代順での整理
⑦『プロメテウス』(12)
[監督:リドリー・スコット,主演:ノオミ・ラパス,想定年:AD2093]
[概要]原始時代,エンジニア(異星人)が地球上で人類を創造する。21世紀末,考古学者エリザベスらは古代遺跡の壁画に啓発され,プロメテウス号で惑星LV-223 に到着する。彼女は未知の生命体を妊娠するが,それを排除し,アンドロイドのデヴィッドと共にエンジニアの母星に向かう。

⑧『エイリアン:コヴェナント』(17)
[監督:リドリー・スコット,主演:マイケル・ファスベンダー,想定年:AD2104]
[概要]宇宙植民船コヴェナント号は,謎の信号を受信し,近くの惑星に着陸する。そこで異生物の襲撃を受けるが,デヴィッドが救いの手を差し延べる。難を逃れた人類学者のダニエルズは,当初予定のオルテガ星に向かう。

①『エイリアン』(79)
[監督:リドリー・スコット,主演:トム・スケリット,想定年:AD2122]
[概要]宇宙貨物船のノストロモ号は緊急信号を受けて,惑星LV-426に向かう。凶暴なエイリアンが船内に侵入し,女性航海士リプリーと猫だけが生き残る。彼女は本船を爆発させ,冷凍睡眠器に入って脱出艇で地球に向う。

⑨『エイリアン:ロムルス』(24)
[監督:フェデ・アルバレス,主演:ケイリー・スピーニー,想定年:AD2142]
 本作。内容は後述。

②『エイリアン2』(86)
[監督:ジェームズ・キャメロン,主演:シガニー・ウィーバー,想定年:AD2179]
[概要]リプリーは57年間,宇宙を漂った後に救出され,地球に戻る。地球人の入植が進む惑星LV-426に異常発生の報せで,彼女は海兵隊と共に再度LV-426に向う。多数のエイリアンに襲われるが,最終的に生存者数名が宇宙戦艦スラコ号で地球への帰路に着く。

③『エイリアン3』(92)
[監督:デヴィッド・フィンチャー,主演:シガニー・ウィーバー,想定年:AD2179+α]
[概要]スラコ号に事故が発生し,切り離された脱出艇が流刑惑星に不時着し,リプリーだけが生き残った。脱出艇に産み落とされた卵からエイリアンが生まれ,宇宙刑務所の囚人たちを襲う。エイリアン・クィーンに寄生されたリプリーは自ら溶鉱炉に身を投じて命を絶つ。

④『エイリアン4』(97)
[監督:ジャン=ピエール・ジュネ,主演:シガニー・ウィーバー,想定年:上記の200年後]
[概要]軍の実験宇宙船オーリガ号で,残されたリプリーのDNAからクローンの「リプリー8号」が再生され,その中から軍事利用できるエイリアンが抽出される。養殖したエイリアンは制御不能になるが,リプリー8号がそれらを全滅させ,貨物船ベティ号に乗り移った数名が地球に生還する。

◆番外編(プレデターとの共演)
⑤『エイリアンVS.プレデター』(04)
[監督:ポール・W・S・アンダーソン,主演:サナ・レイサン,想定年:AD2004]
[概要]地球の南極の地下600mに古代ピラミッドがあり,宇宙から来たプレデターの成人儀式として,ここで宇宙最強の生物エイリアンと戦う。人類は傍観者のはずが,調査隊がエイリアンに襲われる。戦いは人間と共闘したプレデターが勝つ。

⑥『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』(07)
[監督:グレッグ&コリン・ストラウス,主演:スティーヴン・パスクァール,想定年:AD2004+α]
[概要]南極から舞台はプレデターの宇宙船内に移る。船内で混血のプレデリアンが誕生し,猛威をふるう。この宇宙船がコロラド州の森に墜落し,そこにプレデター側からエイリアン掃討専門のクリーナーが送り込まれる。田舎町全体を巻き込む大パニック映画となる。

◆シリーズ全体の傾向と評価
 上記のように整理すると,よくも同じような設定の映画を何本も作ったものだと思う。緊急指令で未知の惑星に向かったり,地球に帰還するはずの宇宙船が異常を来したりが何度も出て来る。番外編を別にすれば,エイリアンと戦うのは惑星上の基地が少し,宇宙船やその脱出艇内が大半であった。一難去った後は,冷凍睡眠装置に入り地球に向かうというのが定番となっている。
 それでいて飽きさせないのは,SFサバイバルホラーとしても出来映えが,いずれも水準以上であるからだ。エイリアンの形態変化が,(a)卵状態の「エッグチェンバー」,(b)顔に貼り付き寄生管を挿入する「フェイスハガー」,(c)宿主の胸部を破って登場する「チェストバスター」,(d)成体の「ゼノモーフ」,という標準形が確立しているので,観客が安心して定番パターンを愉しめる。その上で,新作で少し異なる変種を見せてくれるのを心待ちにしていると言える。見事なフランチャイズ戦略である。
 もう1点注意すべきは,多くの作品でアンドロイドが登場することだ。①のアッシュ,②③のビショップ,④のアナリー・コール,⑦⑧のデヴィッド等である。いずれも精巧に出来ていて,一見しただけでは人間と見分けがつかない。他の乗組員も気付かないほどだ。即ち,CGで描く必要はなく,生身の俳優が演じれば実現できる訳である。本作には新しいアンドロイドが登場するのか,どんな役割を果たすのかが注目ポイントである。
 ①の惑星LV-426で,人類は初めてエイリアンの存在に気付いた。ところが,番外編によると,その何千年も前からエイリアンは南極に眠っていて,100年おきに地球でプレデターと戦っていたことになる。こんな解釈では興醒めなので,凡作の番外編は忘れることにしてもいいだろう。
 本作の公開に合わせて,米国のWrapがシリーズ全9作のランキングを発表した。順序は以下の通りである。
        ①>②>⑦>⑧>③>⑨>④>⑤>⑥

 エイリアン・オタクなら,それぞれ独自の評価があり,異論があると思われる。ちなみに,筆者の評価は以下の順である。
        ⑦=②≧①>⑧≒⑨>④>③>>⑤>⑥

 シリーズ原点の①②が秀逸なのは衆目の一致するところだが,当欄では構想の壮大さとビジュアル面の斬新さで,⑦を高く評価している。もっとも,R・スコット監督自身が33年後に「じゃんけん後出し」で描いたのだから,後付けの理屈で枠組みを拡大でき,その間のCG/VFXの進歩を考えれば当然とも言えるのだが…。本作に関しては,全9作品のほぼ真ん中の平均点的な出来映えだと感じた。
 全9作は,現在Disney+の定額料金で見放題である。今回改めて①〜③を見直したが,①のシガニー・ウィーバーが若くて可愛い。②で凛々しく戦う女となる。③の坊主頭には畏れ入る(笑)。

【本作と概要とシリーズ内での位置づけ】
 予告編の公開時から,本作の時代設定は①と②の中間であることが公表されていた。映画は,①でリプリーが爆発させたノストロモ号の近くの宇宙空間から,無人探査機が何かを収集し,ある研究施設にそれが持ち込まれるところから始まる。この収集物からエイリアンが続々と登場するという伏線で,第1作と本作は繋がっているという宣言である。
 本編の設定年は2142年で,舞台は地球から遠く離れたLV-410のジャクソン星の資源採掘の鉱山都市である(写真1)。シリーズ全体で何度も登場するウェイランド・ユタニ社が,労働者に劣悪な環境での過酷な労働を強いていた。主人公は,20歳の女性レイン・キャラダイン(ケイリー・スピーニー)で,鉱山労働者の1人であり,亡父が遺したアンドロイドのアンディ(デヴィッド・ジョンソン)と暮らしていた。アンディのルックスは黒人男性で,弟としてレインを守るようにプログラムされていた。


写真1 これが舞台となるジャクソン星。隕石群の輪がある。

 疫病が蔓延し,治安が悪い環境から,誰もが別の惑星への移動を望んでいたが,会社は契約を理由に移動許可を出さなかった。ある日,レインは元カレのタイラー(アーチー・ルノー)から,惑星ユヴァーガへの脱出計画への参加を求められる。会社の貨物宇宙船を盗み出し,惑星の上空にある使用済の宇宙ステーション「ロムルス」に向かい,そこから冷却睡眠装置を調達してユヴァーガに向かうという計画だった。ロムルスのセキュリティ突破にはアンディが必要で,他にタイラーの妹で妊婦のケイ(イザベラ・メルセード),従弟のビヨン(スパイク・ファーン),ビヨンの恋人で宇宙船を操縦できるナヴァロ(アイリーン・ウー)が参加し,計6名のチームとなった。
 貨物宇宙船は無事ロムルスに到着し(写真2),ステーション内の設備は再起動できた(厳密には,ロムルスとレムスの2区画に分れていた)。冷凍睡眠装置も調達できたが,それを稼働させる燃料が不足していることが判明した。稼働中の大型装置からそれを抜き出そうとしたところ,保存されていて休眠状態だったフェイスハガーが動き出してしまう。後はお決まりのチェストバスターの出現,成体のゼノモーフの恐怖へと続く……。


写真2 貨物宇宙船を盗んで宇宙ステーション「ロムルス」に向かう

 物語展開の中では,アンディにロムルス内のアンドロイドのチップを組み込んだところ,レインを守るというプログラムが書き換えられてしまうことや,①のアッシュと同型の「ルーク」なるアンドロイドが登場し,アンディはその指揮下に入ることなどが描かれている。アンディがエイリアンのサンプルを会社に提出することを強いられたり,ロムルスは隕石群に衝突して破壊されるが,貨物宇宙船は目的とする惑星に向けて旅立つこと等も,まさに定番の筋立てである。誰と誰が生き残るかも容易に想像できる。新たなエイリアンはと言えば,終盤にしっかりと登場する。これは後述する。
 本作はスピンオフ作品とされているが,言葉がおかしい。「スピンオフ」は,正規のシリーズが進行中の場合に,そこからはみ出した作品に使うべき言葉である。本作は,新たな主人公が登場するというだけで,正規シリーズの一部と考えて良い。リプリーが宇宙空間を彷徨っている時期の出来事であり,前後関係の矛盾はない。他のシリーズにありがちな,「マルチバースでの出来事」という言い訳も要らない。強いて矛盾を探せば,2142年にロムルス内に多数のフェイスハガーを保存しておきながら,2179年の②にエイリアンの存在が伝わっていなかったことである。乗組員全員が襲われて死亡したゆえ,この宇宙ステーションでの出来事が伝わらないまま,放棄されてしまったと解釈することができる。本作の終わりに惑星ユヴァーガに向かった生存者は,貨物宇宙船を盗み出したのであるから,ロムルスでの出来事を会社に報告するはずはない。よって,②で生存者のリプリーが何度説明しても,誰も地球外生命体の危険性を理解しようとしなかったという前提は守られている。
 まだ発表はないが,本作の続編製作の可能性は十分あり,本作を起点とした新シリーズの登場も期待できる。

【監督,主要登場人物のキャスティング】
 御大リドリー・スコットは製作に回り,監督・脚本に抜擢されたフェデ・アルバレスはウルグアイ生まれで,現在はLA在住の中堅どころである。サム・ライミ監督に見出され,同監督の名作『死霊のはらわた』(81)のリメイク作(13)でデビューしただけあって,これまでのところホラー一筋である。ヒットした第2作『ドント・ブリーズ』(16)は当欄で紹介したつもりだったが,個人的に観ただけだったようで,当映画評でこの監督を取り上げるのは初めてである。人気シリーズをきちんと仕上げ,観客満足度も高いと思われるので,今度様々な大作でも起用されることだろう。
 主演のケイリー・スピーニーは,『プリシラ』(24年4月号)でプリシラ・プレスリーを演じていた女優だ。現在の27歳だが,同作で14歳の可愛いプリシラを演じていたので,本作の20歳のレインは十分に通用する。結婚後のプリシラとレインでは随分イメージが違うが,エルヴィス好みの髪形と厚化粧にしたプリシラは作られた顔であり,本作の方が自然な顔立ちだと思われる(写真3)。ホラー系の主人公に美女はつきものなので,シリーズ化することは大賛成だ。来月紹介する『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では準主役の扱いだが,事実上の主演と言える重要な役柄で,まさに旬の女優である。


写真3 レインとアンディ。弟には見えないのだが…。

 ロムルスに向かう6人の内,他の5人の助演陣は誰も知らなかった。ほぼ無名の俳優ばかりだ。出演履歴を見ると,ケイ役のイザベラ・メルセードが『トランスフォーマー/最後の騎士王』(17)に出ていたようだが,映画も駄作だったゆえ,全く記憶にない。
 アンドロイドのアンディ役,デヴィッド・ジョンソンの実年齢は31歳で,C・スピーニーよりも4歳年長である。顔立ちもそう見える。ところが,字幕でもプレスでも,レインとは「弟」としての絆があるとなっている。英語では単に「Brother」である。ボデイガード的役割なので「兄」とは言い難かったのだろうが,20歳のレインに対して,このルックスで16歳の弟と思えというのは無理がある。ちなみに,Wikipedia日本語版では,当初はレインが妹であったのに,現在はアンディが弟的存在と書き換えられている。国内配給会社の方針に従ったのだろうが,配給会社の解釈の方がおかしいと感じる。
 同じくアンドロイドのルーク役は,どうやって演じさせたのだろう? ①の悪役アンドロイドのアッシュと同型という設定なので,顔は①で演じたイアン・ホルムに似せている。既に同氏は故人であるので出演はできないし,存命であっても45年後の高齢者の顔をデジタル技術で若返られるには無理がある。この対処法は,CG/VFXの項で詳述する。

【美術セットとアニマトロニクス】
 本作は時代的に①と②の間と設定しているだけあって,随所でこの秀作2本への敬意が感じられる。美術セットのビジュアルデザインでも①や②に似せている。本作の貨物宇宙船の狭い通路やロムレスの内部のデザインは,①の脱出艇やノストロモ号の船内を真似たのだろう(写真4)。ただし,宇宙船ノストロモ号に比べて,ロムレスは宇宙ステーションだけあって空間的に広く,多数の区画があるので,観ている側も窮屈感がない。


写真4 (上)暗く狭い通路は①の脱出艇にそっくり
(下)八角形基調のデザインはプロメテウス号を踏襲している

 宇宙船の外観もしかりで,①②のイメージを踏襲しているためか,全体的に古くさい。ロムレスの外観などはまさにそうだ(写真5)。前日譚で時代的には前のはずなのに,⑦のプロメテウス号,⑧のコヴェナント号の方が,外観も船内もモダンに感じる。もっとも,本作の冒頭で登場する研究施設やそこにあった機材は,さすがSF映画と思わせる近未来デザインであった。①にはそういう研究施設は登場しないので,制約がなく,自由に描けたからだろう。


写真5 ロムルスのミニチュア模型を点検するアルバレス監督

 同様に過去作になく,本作だけに登場したのは,鉱山都市の労働者のための歓楽街である(写真6)。どうということのない夜の繁華街なのだが,宇宙SF映画には珍しい光景であり,楽しかった。


写真6 鉱山労働者のための繁華街。宇宙SF映画には珍しい光景。

 上述のエイリアンの4形態は定番であるので,デザイン的に自由度が入り込む余地はない。アレバレス監督は,CGで描かず,極力実物を使って撮影したと言う。操り人形のパペット方式ではなく,ラジコン操縦のアニマトロニクス製のエイリアンのオンパレードである。そのメイキング映像が公開されているが,確かに実物大模型を作って,遠隔操作で動かしている(写真7)(写真8)。見ているだけでも楽しい。


写真7 チェストバスター(上)とフェイスハガー(下)のアニマトロニクス

写真8 複数体作られたゼノモーフとカメラリハーサル

 監督は,質感を高めるために,CGに頼らず,手作りの怪物にしたことを強調している。写真9のようなシーンを見せられると,誰もがリアルだなと感じる。ただし,大半は暗いシーンなので,ここまで質感を強調する必要はない。いや,最近のCG技術をもってすれば,同等の質感提示は十分可能である。実物であることを重視するのは,監督の拘りに過ぎないか,映画宣伝のためのセールストークと思われる。実際には,CG描写は随所で見られた。ゼノモーフには俳優名もクレジットされていたので,俳優が演じていたシーンもあったのだろう(写真10)。完成映像ではシーンに応じて,この3種を使い分けるのが賢い選択である。実物の方が勝るのは,目の前に醜悪なエイリアンがあると俳優が演技しやすい程度のことである(写真11)


写真9 フェイスハガーとゼノモーフ。このライティングで見ると質感は高い。

写真10 頭部を被った俳優が演じているように見える

写真11 こんな怪物が目の前にあれば, 俳優の恐怖の演技も真に迫る

 この種のアニマトロニクスは,最新技術でも高度な技術でもない。本シリーズでCG製のエイリアンが登場したのは④からであり,それまで①〜③は,今回のような模型やアニマトロニクスを使って撮影していたのである。CG製の恐竜が話題になった『ジュラシック・パーク』(93)では,CG描写は約15%程度に過ぎず,大半はミニチュアか実物大模型のアニマトロニクスであった。約20年前でもCG利用をウリにしていたのに,CG/VFXが当り前になったこの10年は,CGを使っていないことを宣伝文句にする映画が増えている。本作の場合,CGは全く使っていないとは言っていないのに,CG製エイリアンは皆無のように書いている記事がいくつも見られる。当欄にとっては嬉しくない現象である。

【CG/VFXの出番と見どころ】
 本作は,他のSF大作に比べてCG/VFXの比率が少ないのは事実だが,それでも入手可能な画像/映像の範囲内で,デジタル処理の出番を紹介しておく。
 ■ 装置を作動させたため,ロムルスの保管場所から,何かが飛び出す(写真12)。それが水面下を進み,ジャンプしてビヨンの顔に貼り行き,ファイスハガーだと気付く(写真13)。前者は,まず間違いなくCGだろう。後者は,簡単な絵柄だから,CGでもアニマトロニクスでも容易に描くことはできる。同じく簡単な例は,ケイが体内の異変を感じ,自らX線照射して体内にチェストバスターが潜んでいることを確認するシーンである(写真14)。勿論,X線映像の影の形からチェストバスターだと識別できる訳ではなく,我々がこんなところにいるのはそうに違いないと思うだけであるが。


写真12 エイリアンサンプルの保管庫から, 何かが飛び出した模様

写真13 水中からジャンプした怪物が顔面を襲う

写真14 自らX線照射して, 胸部でチェストバスターがいることを確認

 ■ 同じく単純な合成だが,印象的だったシーンをもう1つ挙げておく。ロムルスの内に備わっていたライフルの一丁をアンディから手渡され,その使用法をタイラーがレインに教えるシーンである。この銃は,①②に登場する銃よりもモダンで,機能も優れていた。銃床尾部を手前に引き出し,肩をその部分にはめ込む構造になっている(写真15)。この肩当て部分があることにより,発射時の反動を肩で受け止めて,衝撃を吸収する働きがあるようだ。銃床にラバーパッドを貼り込んだり,肩に担ぐ方式は採用されているようだが,こんな方式は見たことがない。銃器に詳しくないので,軍隊では既に実用レベルなのか,実例はなくてもコミックや他の映画で描かれているのかは知らないが,わざわざこのシーンを挿入するということは,斬新なデザインなのだと思われる。このライフル銃には通常の光学式スコープはなく,小形映像モニターが具備されている。この画面が照準器になっている(写真16)。デジカメに付いている液晶モニターのようなもので,クロスカーソルで照準を合わせる訳である。手持ちカムコーダーに覗き込む小型液晶モニターが付き始めたのは1990年頃のことであるので,1979年公開の第1作ではこういうアイデアは思いつかなかったのだろう。液晶パネルはバックライトが必要だから,実用的には有機ELパネルの方が好ましい。この数cm角の画面に表示されている動画像は,実時間表示でなく,後処理での嵌め込み合成である。


写真15 (上)タイラーから電子銃の操作方法の指導を受ける
(下)銃床尾部を引き出し, 肩に被せて構える

写真16 スコープには小型モニターがあり, 画面内の十字カーソルで照準を合わせる

 ■ レインはこの銃を見事に使いこなして,エイリアンを撃退する。この銃は通常の銃弾を発射するのではなく,極短パルスの高周波電子ビームを敵に照射する「電子パルス銃」とのことだ。この方式の電子銃はガン退治の医療用に研究中だが,2142年ともなると軍事用に実用化されているかも知れない。攻撃的なエイリアン相手なら許されるだろう。この方式は,体内に化学変化を起こして患部を焼くことを目的としているが,それでは映画として面白くないので,レインがゼノモーフを倒す場面では火花が描き加えられている(写真17)。②のリプリーの激しいガンファイトを意識した演出なのだろう。②でリプリーが海兵隊員に教えられて使う銃は,1台で銃弾発射と火炎放射が切り替えられる方式になっていた。当時CGはまだないが,この火炎も特撮技法で描き加えられている。火炎では古過ぎるので,本作では斬新な電子パルス照射にしたと思われる。この部分も時代が逆転していることになるが,そんな僅かな矛盾は不問でいいだろう。この種の銃撃を受けてフェイスハガーやゼノモーフが破壊されるシーンはアニマトロニクスという訳には行かないから,CG製のエイリアンであるはずだ。終盤の大掛かりな戦闘シーンのゼノモーフはほぼ全てCG製だと思われる(写真18)


写真17 電子パルス銃なのに火花が出ている

写真18 後半のゼノモーフとの激闘。縦横に振り回す長い尾は, CG描画と思われる。

 ■ さて,お待ちかねの新種のエイリアンに言及しよう。ネタバレになるので詳しくは書けないが,人間とゼノモーフの混血という設定である。かなりの長身で,見事なまでに醜悪だ(写真19)。劇中に名前は出てこなかったが,エンドロールには「Offspring」と書かれていて,ロバート・ボブロツキーなる俳優がキャスティングされていた。元バスケットボール選手で,飛び切りの長身のようだ。さりとて,直接彼が演じていた訳ではない。レインと比べると3m以上の高さになるので,彼の演技をMoCapして,動きデータをCGモデルに適用したと思われる(写真20)。レインに至近距離で迫るシーンは上半身だけなので,この俳優が直接演じ,後でVFX加工したのかも知れない(写真21)


写真19 これが人間との混血エイリアン。かなり醜悪。

写真20 かなり長身で3m以上はある(この映像は未完成版)

写真21 このシーンは長身の俳優が演じ,VFX加工したと思われる
(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 残るは,アンドロイドのルークを①の撮影時の俳優イアン・ホルムの顔で描く問題だ。写真22は,①の終盤に登場するシーンである。裏切り者のアッシュがアンドロイドだということが発覚し,首から上を引きちぎられ,放り投げられる。その部分はラバー製の精巧な頭部が使われている。写真22は,よく見ると,俳優が床下から顔と片手だけを出して演技しているのだと分かる。②で下半身を失ったビショップも,実物大上半身人形を使っているシーンと,顔だけ写して俳優に演技させているシーンを巧みに使い分けていた。本作のルークもエイリアンに襲われ,上半身だけになったアンドロイドである。離れたカメラ位置からの撮影には,アニマトロニクス利用で対処できる。彼が滔々とロムルス内の過去の出来事を語るシーンはそうは行かない。いかにも話している顔面表情が必要となる。エンドロールは確認できなかったが,IMDbの当該ページでは,以下のように記されている。

  Ian Holm: Rook (facial and vocal reference)
  Daniel Betts: Rook (facial and vocal performance)

おそらく,①や他の映画でのイアン・ホルムの登場場面からCG幾何モデルを作成し,顔面の皮膚テクスチャーは複数の既存映像から画像生成AIで作成したと思われる。そうして作成した「デジタル・イアン・ホルム」に,現役俳優ダニエル・ベッツの顔の演技をFacial Capturingしたデータを適用したと考えるのが合理的だ。音声も同様な手順で,ダニエル・ベッツのセリフをイアン・ホルム風に加工しているのだろう。ちなみに,こうした方法で再現することを,遺族の諒解を得た上で実施したそうだ。さすがハリウッド大作だけのことはあるリアリティ表現だと感心した。


写真22 第1作の終盤近くのシーン。演じてるのはイアン・ホルム。
(C)2079 Twentieth Century-Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

 ■ 本作のCG/VFXの主担当は老舗ILMで,他にWeta FX,DNEG, Fin Design+Effectsが参加している。実力スタジオ揃いなので,それ自体に問題はないが,前作『エイリアン:コヴェナント』のCG/VFXの主担当はMPC,副担当はFramestoreで,他にAnimal Logic, Rising Sun Pictures, Luma Pictures, Lola VFXが参加していた。1社も重複させず,すべて入れ替えたというのは珍しい出来事である。「20世紀フォックス」時代に委託されて蓄積したエイリアンデータを,ディズニー傘下の「20世紀スタジオ」が再利用することは,契約上許されていないのかも知れない。


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