O plus E VFX映画時評 2024年11月号
(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています)
見出しの通り,さほど期待していなかったのに,思いがけない楽しい映画で,しかもCG/VFXもたっぷり使用されていた。期待しなかったのは,公開直前まで試写案内がなく,前評判も全く聞こえて来なかったからである。ドウェイン・ジョンソン主演作というので,ヒューマンドラマやラブストーリーのはずはなく,単なるアクション映画だと思い込んでいた。予告編も眺めず,マスコミ試写会場ではプレスシートも配られなかったので,いきなり試写を観たのだが,度肝を抜かれた。このCG/VFXのクオリティなら,何が何でもメイン欄で語るべき映画ではないかと思い,慌ててメモを取り始めた。最後まですっかり楽しめた。
期待を裏切られた既報の『ヴェノム:ザ・ラストダンス』と真逆の結果となった。同作の場合,前作をメイン欄で紹介し損ねたので,「Upcoming VFX Movies」のカレンダーで公開時期を点検して,待ち焦がれていた。おまけにトム・ハーディー主演の3部作の完結編というので,それらしい完成度を期待していた。その出来映えは既に述べた通りである。本作は今なお上記サイトに掲載されていないので,VFX業界もここまでの出来映えと思わなかったのだろう。よって,当映画評のTopページでは,今月の掲載予告にも入れていなかったのである。
概略は,実在するサンタが悪人どもに誘拐されたので,2人組が彼を取り返し,無事に予定通りXmasプレゼントを世界中に配るというものだった。アクション映画であり,CG/VFX満載のエンタメ作品で,しかもこのVFXシーンが頗る心地よい。ただし,本作はVFX映画史に残る記念碑的作品でもなければ,魂を揺さぶられる感動作でもない。典型的なポップコーン・ムービーの域を出ないが,1人で観ても,ファミリーで観ても、誰もが楽しめる季節映画である。
【クリスマス映画の系譜と当欄で紹介した過去作】
言うまでもなく,童話・アニメには,クリスマス,サンタものは多数ある。映画も,欧米では毎年11月下旬以降に何本もクリスマス映画が公開される。劇場用映画の場合,日本では正月興行が主であるので,年明けに観ても白けてしまう。このため,秀作があってもクリスマス映画は敬遠され,本邦公開される作品はごく一部になっている。本作の意義と価値を語るのに,当映画評で取り上げた過去のクリスマス関連映画を概観してみることにしよう。
クリスマス本の名作中の名作は,文豪チャールズ・ディッケンズが1843年に著した「クリスマス・キャロル」だ。既に10数回映画化されているが,最近は意外に少なく,当欄で紹介したのは『Disney's クリスマス・キャロル』(09年12月号)だけである。ロバート・ゼメキス監督が熱心だったフルCGアニメで,実写かと見紛うようなリアリティの高さだった。三夜連続の精霊の登場はほぼ原作通りだが,空を舞ったり,壁を突き抜けたりはCGならでは演出で,3D上映にも適していた。ビクトリア朝のロンドン市内の描写も精緻だった。
原典の名作自体の創作過程を描いた実写映画が『Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』(18年11・12月号)である。現実と小説世界を区別できなくなったC・ディケンズが主人公スクルージ老人に出会い,一緒に小説を創り上げるというストーリーである。勿論それはフィクションだが,映画としては見応えがあった。一方,R・ゼメキス監督の最初のフルCGアニメ『ポーラー・エクスプレス』(04年12月号)もクリスマス映画である。原作は1985年に出版されたC・V・オールズバーグ作の同名の絵本で,村上春樹訳は「急行『北極星号』」と題して国内販売されている。クリスマスを信じなくなった少年を乗せた列車が北極に向かう物語で,多数のサンタやトナカイはCGならではの描写であった。
クリスマス関連絵本としての評価が定着しているのは,Dr.スースが1957年に上梓した「いじわるグリンチのクリスマス」で,2度映画化されている。1本目はジム・キャリー主演の『グリンチ』(01年1月号)である。実写映画だが,当時としては最新のCGをたっぷり取り入れていた。2本目はフルCG版の『グリンチ』(18年11・12月号)で,「ミニオンズ」でお馴染みのイルミネーション・スタジオの作品である。怪人グリンチの緑色が鮮やかで,相変わらずキャラクター造詣やギャグ演出が巧みだった。同作とカップリングして紹介した『くるみ割り人形と秘密の王国』はクリスマス時期の公開を意識したディズニー映画である。1816年発表のE・T・A・ホフマン作の童話「くるみ割り人形とねずみの王様」が原作で,これをディズニー流のファンタジー映画にアレンジしていた。フルCGで始まり,実写ベースに切り替わるが,人物以外はほぼCGで描かれている。
著名な童話や絵本が原作でないクリスマス映画もかなりある。実写ベースのCG多用作『ジングル・ジャングル ~魔法のクリスマスギフト~』(20年Web専用#6)はNetflixオリジナル映画だが,CGクオリティは高く,魅力なオモチャが多数登場する。ファミリー映画として上質だったが,クリスマスとの関連性は余り高くなかった。一方,フルCGアニメの『アーサー・クリスマスの大冒険』(11)は,クリスマス度100%だった。サンタクロース一家の物語で,世襲制のサンタの親子3世代が登場する。北極の地下に世界中へのプレゼントの配送基地があるとの設定になっていた。1人の少女へのプレゼントが未着のため、爺さんサンタと孫で次男のアーサーが,旧式ソリを使って緊急宅配する楽しい物語であった。
ここから完全にサンタが主人公の映画に移る。スペイン映画の『クロース』(20年Web専用#1)は,サンタクロースの誕生秘話とも言えるアニメ映画だ。偏屈なオモチャ職人の老人Klausと若い郵便配達員のジェスパーの間に友情が芽生え,クリスマスに2人で町中にオモチャを配達するというハートフル物語である。映像的には3D-CGツールを駆使した2Dアニメで,アカデミー賞長編アニメ部門にノミネートされていた。
サンタが主人公の実写アクション映画では,メル・ギブソン主演の『クリスマス・ウォーズ』(21年9・10月号)が代表作だ。主人公はアラスカで玩具製造工場を営んでいたが,サンタを信じない子供が増え,経営不振に陥っていた。実は何百年も生きて来た本物のサンタだったが,プレゼントに不満をもった富豪のバカ息子が殺害依頼した刺客がやって来て,武闘派サンタとの壮絶な死闘が展開する。同じく実写アクション映画『バイオレント・ナイト』(23年2月号)も,1100年間生きてきた本物のサンタが主人公だった。イヴの夜に富豪の家に押し入った強盗団と遭遇して,単身で戦う物語である。このサンタは,トナカイと一緒に空を飛べるが,その他の超能力も戦闘能力もなく,力だけが強い肥満体の老人である。
当欄では紹介していないが,本作『レッド・ワン』の主演で製作も兼ねるD・ジョンソンは,コメディ・タッチのお気に入り映画として,『エルフ 〜サンタの国からやってきた〜』(03)と『バッドサンタ』(同)を挙げている。
【物語の概要とRed One】
本作の主人公は,サンタクロースのボディガードのカラム・ドフリト(ドウェイン・ジョンソン)と,やがて彼とバディ関係になる賞金稼ぎのジャック・オマリー(クリス・エヴァンス)で,この2人のW主演映画である。
映画は,まずジャックの子供時代から始まる。サンタクロースの存在など信じない子供であり,いたずら好きで仲間とも打ち解けない嫌みなガキであった。30年後,大人になった彼は,相変わらず悪知恵が働く小悪党で,ハッカー兼賞金稼ぎとして暮らしていた。ただし,最新ハイテク機器の扱いには長じていて,どんな物でも世界中から探してみせるというプロの追跡者(トラッカー)を標榜していた。地質学研究所に忍び込んでデータを盗み出し,それを依頼人に売り渡している。
一方,サンタクロースことセント・ニコラス(J・K・シモンズ)は実在していて,北極に住んでいた。愛称はニック,コードネームは「Red One」だ。これは個人名というより,サンタとしての業務全体を指していて,トナカイが引くソリは「Red One号」と呼ばれている。そのサンタの護衛隊長のカラム(愛称,カル)は,「物流管理・防備局(略称ELF)」の長であり,既に542年もニックに右腕として仕え,年間364日も勤務している。ところが,サンタの存在を信じなくなった子供が増え,「悪い子リスト」の登録数も急増して来たため,業務に疑問を感じ始め,今年限りでの退任を申し出ていた。
イヴの前日,ジャスパーは拉致され北極に運ばれる。彼を出迎えた女性は,国際機関の神話管理修復局MORA (Mythological Oversight and Restoration Authority)のゾーイ・ハーロウ局長(ルーシー・リュー)で,サンタクロースが何者かに誘拐されたので,その居所を突き止めて欲しいとジャスパーに依頼する(写真1)。彼が売り渡したデータが原因らしい。イヴの夜にプレゼント配りが実行できないと一大事なので,サンタの拘束場所を突き止め,救出するミッションが与えられ,カルとコンビを組むことになった。
データ入手の依頼者から,サンタを誘拐したのは魔女のグリラ(キーナン・シプカ)であることが判明する。彼女はサンタの身柄を拘束してクリスマスを破壊し,さらにサンタの魔法パワーを悪用する恐ろしい計画を立てていた。カルは,グリラの元カレで,ニックと仲が悪い義弟のクランプス(クリストファー・ヒヴュ)も一枚噛んでいるのでは疑い,黒い森にある古い城に潜入するが,捕まってしまう。クランパスはヤギの姿をした半神半獣の大男(写真2)で,カルは殴打された上に,サンタの救出依頼は拒絶されてしまう。果たして,カルとジャックはニックを見つけ出して,無事にイヴの夜にRed One業務を完遂することができるのか……。
かなり感心したのは,本作がサンタクロース神話の様々な要素をきちんと盛り込んでいることである。サンタの居場所が北極であることは元より,クランパスとグリラを登場させていることが特筆に値する。「クランパス」は,ドイツやオーストリアから東欧にかけて伝わる伝説上の生物で,クリスマス期間にセント・ニコラスに同行するが,悪い子に罰を与える恐ろしい存在だという。即ち,クリスマスのダークサイドである。一方の「グリラ」はアイスランドの民話に伝わるクリスマスの魔女である。真の姿は巨体で醜く,力持ちの鬼女で,複数本の尻尾が生えているという。Wikipediaには,かなり詳しい解説が載っている。
本作独特のサンタ一家の設定も楽しい。ニックは,世界中の子供たちの性格や行動を全て記憶しているが,配るプレゼントは夫人のミセス・クロース(ボニー・ハント)が管理していて,イヴの夜は司令室で的確な指示を出している。サンタ業務は激務であり,プレゼントを配り終えるのに4億3,000万カロリーも要するので,ニックは日々500回のショルダープレスで筋トレに励んでいる(写真3)。夫人の掛け声に合わせてバーベルを上下させる姿が微笑ましい。
クリスマスのプレゼント管理を北極の基地で行っているというのは,上記の『アーサー・クリスマス…』に似ているが,本作では北極の地下ではなく,透明な巨大ドームで覆われた都市となっている。また,Red One基地はプレゼントの保管倉庫と配送管理センターであるだけでなく,プレゼントの製造工場能力ももっているという設定である。この基地では妖精や鬼たちが,それぞれの役目を与えられて働いている。
クリスマス映画は,ほぼ勧善懲悪か仲直りのハッピーエンドと考えて良いので,サンタ救出の過程やクライマックスの攻防は省略して,結末を記しても大きなネタバレにならないだろう。本作でも当然サンタは救出され,世界中へのプレゼント宅配は遂行されるが,その描写が見事の一言に尽きる。この映画を見せれば,サンタクロースの存在を信じる子供たちが増える可能性も大である。
【監督と主要登場人物のキャスティング】
監督のジェイク・カスダンの近作は,D・ジョンソン主演の『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(18年3・4月号)とその続編の『ジュマンジ/ネクスト・レベル』(19年Web専用#6)で,彼とはこれが3度目のタッグである。この2作よりも,本作の方が格段に面白い。父親のローレンス・カスダンも監督&脚本家であるが,ホィットニー・ヒューストン主演の『ボディガード』(92),『スター・ウォーズ』シリーズのEP5〜7や『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(18年Web専用#3)の脚本担当として知られている。一方,本作の脚本担当はクリス・モーガンで,『ワイルド・スピード』シリーズの3作目からD・ジョンソン主演の『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(19年Web専用#4)までの7本の脚本を担当している。
主演のD・ジョンソンに関しては,もはや多くを語る必要はないだろう。今では彼が絶大な人気を誇るプロレスラー「ザ・ロック」であったことを知らないファンも少なくないようだ。映画俳優に転じて,(声の出演やカメオ出演を除いても)出演作は40本近くになる。圧倒的にアクション映画中心だ。本作は体躯の大きさ(196cm, 118kg)がウリの役であるが,アクションは少し控え目だった。
W主演のクリス・エヴァンスは,マーベルコミックの実写映画化の初期シリーズ『ファンタス・フォー』シリーズのヒューマン・トーチ役で名前が知られるようになり,MCUの『アベンジャーズ』シリーズのキャプテン・アメリカ役で大ブレイクした。『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(11年10月号)を初めとする単独主演作が3本,「アベンジャーズ」を冠したものが4本,その他のカメオ出演まで含めると計10本である。約10年間。この役での彼を見続けていて,すっかりその姿や目に焼き付いている。
お恥ずかしいことに,筆者はこの映画が始まってかなり長い時間,ジャスパー役が彼だとは分からなかった。細面で髭を生やした小悪党からは,あの正義の味方で筋骨隆々たる「キャプテン・アメリカ」だとは気付かなかった。大男のD・ジョンソンが横にいて,着痩せして小柄に見えたからかも知れない(写真4)。こうやって見ると,あまり個性のない顔だ。そろそろ別の役でイメージチェンジしたいところだろうから,本作でそれには成功したとも言える。
一方,サンタ役のJ・K・シモンズは,個性的な人気助演俳優として出演作品数は極めて多いが,オスカー受賞作『セッション』(15年4月号)の鬼音楽教師役の印象が強烈だった。それでも,元々顔も声も個性的なためか,どの映画で見てもすぐ彼だと分かる。サンタ役には向いていないようにも思えたが,筋トレのシーンを観れば,このキャスティングは正解だと納得する。その配偶者役のボニー・ハントは既に還暦を過ぎたベテラン女優であるが,最近はピクサー作品の声の出演が多い。本作のミセス・クロースは,強烈な個性のサンタを内助の功で支える役であり,結構似合いのカップルであった(写真5)。
ゾーイ役のルーシー・リューは,中国系米国人女優で,『チャーリーズ・エンジェル』シリーズのエンジェル3人娘の1人マンディが代表作である(写真6)。最近では,『シャザム!~神々の怒り~』(23年3月号)に出演していて,神アトラスが地球に送り込んだ恐怖の三姉妹の次女カリプソを演じていた。
クランパス役のクリストファー・ヒヴュはノルウェー人の男優だが,当欄で触れるのは初めてだ。ハリウッド映画にも多数出演していて,昨年の『コカイン・ベア』(23年9月号)ではハイキング中にクマに襲われる男性役だったようだが,覚えていない。覚えていても,今回はかなり特殊メイクを施していたので,気付かなかっただろう。かなり背の高い男優のようだが,さすがに写真2のように196cmのD・ジョンソンよりずっと背が高いとは思えないので,何らかの細工をしていたと思われる。
魔女グリラ役のキーナン・シプカは,まだ24歳の若手米国人女優だが子役出身で既に10本以上に出演している。最近の『ツイスターズ』(24年8月号)では,竜巻追跡チームの女性メンバーを演じている。小柄で美形なので,あまり恐ろしい魔女に見えなかった(写真7)。ただし,終盤に真の姿で再登場した時は,凄まじく恐ろしい存在である(勿論,CGだが)。
【Red One世界でのCG/VFXの活躍の場】
空を飛ぶサンタのソリから,北極にある都市,プレゼントを世界中に配る様子まで,CG/VFXの出番は多数あった。いずれもクオリティは高いが,最近のCG技術をもってすれば,驚くほど高度な描写ではない。それをなぜ高評価するかと言えば,使い方が見事だったからだ。えっ,こんなところにこんなシーンを入れるのか,との驚きを与えるのが巧みなのである。CG/VFXならではのデザインと描画で,クリスマス映画を楽しくしている。まさにCG/VFXの正しい使い方なのである。
■ まず真っ先に驚いたのが,ソリを引くトナカイが予想外に大きく,これまでに見たどのトナカイよりも立派だったことだ(写真8)。このトナカイは雌らしく,ボーイフレンドのカルと戯れあう姿が微笑ましい(写真9)。この場面で登場する白熊のガルシアもサンタの護衛役で,言葉を話せる(写真10)。ELFでは,カルに次ぐ副長である。ソリも長さ約12メートル、幅は約6メートルとかなり大型で,それがサンタを乗せて空を飛ぶ姿は惚れ惚れする出来映えだった(写真11)。ソリは実物大で制作した上で,空中シーンは勿論CGで描いている。もっともこの大きさでも世界中へのプレゼントは乗り切らないが,それをRed Oneチームがどう処理しているかは観てのお愉しみである。
■ ガルシア以外のクリーチャーでは,グリラの手下のスノーマンが出色だった(写真12)。かなり戦闘能力が高く,カルらはこれを退治するのにかなり手こずった。雪だるまの怪物なので,刀で簡単に胴体を切断できるが,すぐにくっついて自己修復してしまう。鼻が人参でできているので,少し可愛い仕草も見せる。前述のクランパスは,顔面特殊メイクの上にボディスーツを着用しているが,尻尾等はCGで描き加えているように見えた(写真13)。彼の隠れ家にいる得体の知れない生物たちも同様な手法を使ったのだろうが,CGで描いていると思しきものも見受けられた。終盤に登場する巨大なラスボスのモンスター(写真14)の正体が何であるかは,本稿をじっくり読んで頂ければすぐ分かるはずだ。その他,Red One基地で働く妖精たち,ニワトリやネズミ等の小動物もCG製であると思われる。
■ ビジュアル的に美しかったのは,透明な巨大ドーム覆われた北極の都市の景観だ(写真15)。Red One本部はこの町の中心にあり,ガラス壁面をもつ高層ビルである。好いデザインだ。ここにはRed One号ソリが離着陸するための長い専用滑走路も備わっていて,これも美しい(写真16)。もっとも,Red One号が空軍基地や他の空港を利用する時には,しっかり滑走路で順番待ちをし,管制塔の離陸許可を得てから上空に飛び立っていた。これは笑えた。
■ ニックとカルがショッピングセンターでプレゼントの玩具を物色しているシーンは楽しかった。あっと驚くのは,カルが使う魔法機器の威力だ。購入したばかりのミニチュアカーが,光ビームを照射すると拡大されて本物のスポーツカーに化けてしまう(写真17)。ちなみに,このミニチュアカーは米国マテル社の「Hot Wheel」なるシリーズだそうだ。また同時に購入した「ロックン・ソックン・ロボット」も後半で拡大され,しっかり敵と戦ってくれる(写真18)。これもマテル社製で,ボクシングゲーム用のミニチュアロボットである。まさにCGならではの楽しい魔法の使い方であった。
■ 一方,楽しくない使い方で「Snow Globe」なるガラス球(プラスティック製?)が登場する(写真19)。グリラはサンタの魔法の力で,「悪い子リスト」にある世界中の全員を閉じ込めようとしている。まずはジャスパー親子が閉じ込められるが,いがみ合っていた親子が和解したことから,リストから外れ,解放される。いかにもファミリー映画として幼児に見せること意識した場面である。VFX画像がないのが残念だが,この閉じ込めシーンや,18世紀製のコピー機を使って大量のSnow Globeを製造するシーンは圧巻であった。
■ もう1つの圧巻は,サンタの救出後,急ぎ世界中の子供たちへのプレゼントを用意し,Red One号で各戸に宅配する一連のシーケンスである。多種大量のプレゼントを手早く包装し,大規模縮小して地域毎に梱包し,積載している。現地ではサンタは自らを縮小してトンネルをくぐり抜け,子供部屋で実物大に復元するという手順である。五重塔,オペラハウス,エッフェル塔が登場するので,京都,シドニー,パリを通過していることが分かる。これまでに観た最高のサンタクロースのプレゼント配達シーンである。クライマックスゆえにスチル画像の提供されないのが残念だ。
■ 予告編に登場するグリラ側の大型輸送船とそこから出て来る小型走行車もCGの産物だ(写真20)。他にも色々あった気がするが,メモは取り切れなかった。本作のCG/VFXの主担当はRedeo FXであり,副担当がSony Pictures Imageworks (SPIW)とRise VFX Studioで, Lola VFX, BOTVFXも少量を担当している,PreVisはDNEGの同部門の担当だった。前回,SPE配給の『ヴェノム:ザ・ラストダンス』に参加せず,SPIWは一体何をしていたのかと書いてしまったが,こちらに参加していた訳である。
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