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O plus E誌 2015年4月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『風に立つライオン』:さだまさし作の同名小説の映画化作品で,最近出演作品が目白押しの大沢たかおが自ら企画し,ケニアの医療施設で働く医師を演じる。実在の医師・長崎大学の柴田紘一郎氏の活動に触発され1987年に作った曲が原点だが,2013年に小説化する際,かなりフィクションを加えているようだ。シュバイツァー博士に憧れて医学の道に進んだ主人公の生き様は,予想通りの感動系のヒューマン・ドラマであった。監督は,大沢たかおとは『藁の楯』(13)以来のコンビとなる鬼才・三池崇史。この堂々たる人間ドラマの監督としては,少し意外であったが,オーソドックスに描き切っていることに好感が持てた。さすが,何でも撮れるプロの映画監督だ。脚本・音楽,本格的なアフリカ・ロケの映像,いずれも素晴らしい。『映画 暗殺教室』『ジュピター』を観た直後だったので,心が洗われた。
 『陽だまりハウスでマラソンを』:最近毎号のように登場する老夫婦が主人公の映画だ。主人公はメルボルン五輪の金メダリストで,老人ホームに入居後,練習を再開し,ベルリンマラソン完走に挑戦するという設定である。実話かと思ったが,これは全くのフィクションだった。前半の老人ホームの描写は,いずれ自分もそうなるのかと想像すると,結構つらい。日本では,こんなに広くも豪華でもないだろうから尚更だ。主演は,ドイツの人気喜劇俳優ディーター・ハラーフォルデン。9キロ減量しての好演である。夫人でコーチ役のタチア・サイブトは,老婆ながらなかなかチャーミングだ。当初は呆れていたホームの入居者たちを巻き込んでの後半の物語に,すっかり引き込まれる。そして,ラスト15分は興奮して手に汗握るが,勿論,拍手ものである。
 『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』:表題中の「ジヌ」とは,東北弁で「ゼニ(銭)」のことらしい。お金恐怖症になり,銀行を退職して寒村に移り住んできた青年が主人公で,松田龍平が演じる。彼はしばしば助演で好い味を出すが,本作では村長役の阿部サダヲの演技がかなり濃いゆえ,そのウケに廻っている感じで,悪くない。『まほろ駅前多田便利軒』(11)での軽妙さと『舟を編む』(13)での生真面目さが,絶妙のバランスで同居している。村長夫人役の松たか子を別にして,西田敏行,二階堂ふみ,片桐はいりらも濃いぃ演技で登場する。監督&出演の松尾スズキ,荒川良々,オクイシュージといった面々も,負けず劣らず濃い役柄だ。高齢化した過疎の村での,ちょっといい話だが,笑いのとり方が実に上手い。カメオ出演ならぬポスター出演の三谷幸喜も大いに笑える。空からザリガニが降ってくるシーンは印象的で,『マグノリア』(99)を思い出してしまった。
 『マジック・イン・ムーンライト』:ウディ・アレン監督の最新作は,男性奇術師が女性霊媒師の正体を暴こうとして,2人が恋に落ちる物語だ。舞台となるのは,1920年代のコート・ダジュール。セリフが多く,もの凄い早口で,まるでDVDを早送りモードで観ているかのようだ。98分の上映時間も,薄っぺらなサウンドも,意図的に当時の映画のイメージを醸し出そうとしている。どの時代でもいいようなものだが,1920年代に霊能力者が流行し,その正体を暴いたハリー・フーディニがモデルのようだ。演じるのは,英国の名優コリン・ファース。ヒロインは,筆者の一押しのエマ・ストーン。美女起用で定評のある監督だが,彼女の起用は褒めておきたい。ただし,年齢差があり過ぎて,恋するカップルには見えない。前々号の『娚《おとこ》の一生』で,豊悦があんな小娘(榮倉奈々)に惹かれる訳がないと書いたが,全くその逆のパターンだ。こんな傲慢で皮肉屋の中年男に,クールなエマちゃんが恋するはずはないぞ。
 『セッション』:何という鮮烈で,躍動感に溢れる映画だ。ジャズ・ドラマーが主人公なので,一応は音楽映画になるのだろうが,そんなジャンル分けに収まらない青春映画である。名門音楽学校に入った才能ある青年を,鬼教師が凄まじいスパルタ教育で鍛え上げる。自らを厳し過ぎる教師や恐ろしい上司だと任じていた人たちも,彼と比べれば,自分はいかに優しい指導者であったと感じることだろう。先月号でのアカデミー賞予想の後にこの映画を観て,助演男優賞は本作のJ・K・シモンズに違いないと,急遽Webページで訂正した。まさにその通りの,文句なしのオスカー受賞となった。主演のマイルズ・テラーのドラミング・テクニックも相当なもので,とても素人であったとは思えない。学生時代にドラマーに憧れながら,経済的理由で断念した筆者は,この映画のリズム感に酔いしれた。物語は進行し,クライマックスの盛り上げ方は……,完璧だ!
 『海にかかる霧』:ロマンティックな題名で,夜霧の浜辺で恋人たちが語り合うフランス映画を想像してしまうが,実態は全く違う。若い男女の船内でのロマンスもあるにはあるが,韓国映画で,密航者の死体遺棄と狂気の下での連続殺人がテーマだと分かると,興醒めするだろうか? 不漁続きで,経済的に困窮した韓国漁船の船長が,中国からの密航者を受け入れるが,思わぬ事態に遭遇する……。2001年に起きた「第7テチャン号事件」を基にした舞台劇「海霧(ヘム)」を映画化した作品で,手に汗握るサスペンス・スリラーである。後半は「そして誰もいなくなった」風の展開で,ホラー映画かと思うほどの強烈さだ。そんな中で,若い船員ドンシク(パク・ユチョン)と朝鮮族中国人女性ホンメ(ハン・イェリ)の恋は一服の清涼剤であるが,この結末へのもって行き方は,あまり納得できなかった。
 
   
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