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O plus E誌 2009年12月号掲載
 
 
2D版
3D版
Disney's クリスマス・キャロル』
(ウォルト・ディズニー映画)
 
      (C) Disney Enterprises, Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [11月14日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2D版:2009年11月2日 東宝試写室(大阪)
3D版:2009年11月14日 TOHOシネマズ二条
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  パフォーマンス・キャプチャーで文豪の名作に挑戦  
   こちらも同じディズニー・ブランドのフルCGアニメだが,作品の趣きも画調もまるで違う。原作は,言わずと知れた文豪チャールズ・ディケンズの不朽の名作だ。筆者は,小学生の時に児童文学全集で読んで,これほど面白い物語があるのかと感動した覚えがある。各国語に翻訳され,映画化も過去10数回されているはずだ。
 題名に「Disney's」なる冠がついているが,これは少し紛らわしい。かつて,ディズニーのアニメキャラが総出演する『ミッキーのクリスマス・キャロル』(83)があったから,その3Dリメイク作かと勘違いする人もいるだろう。新しい映画作りに熱心なロバート・ゼメキス監督作のこの映画は,『ゼメキスのクリスマス・キャロル』と言い切っても良かったかと思う。技術的には『ポーラー・エクスプレス』(04年12月号)や『ベオウルフ/呪われし勇者』(07年12月号)の延長線上にあり,生身の俳優の表情や演技をそのまま取り込む「パフォーマンス・キャプチャー(PerCap)」を駆使している。冠名とは裏腹に,ディズニーのアニメ部隊は関与せず,実質的にはImageMovers Digital社が製作している。ゼメキス監督が設立したPerCap専門のスタジオだ。
 物語は改めて述べるのも憚られるくらいだが,19世紀半ばのロンドンが舞台だ。冷酷無慈悲で守銭奴の主人公スクルージが,クリスマスの夜に亡霊(精霊)に導かれて超自然的な体験をする物語である。スクルージや精霊など7役をこなすのは個性派俳優のジム・キャリー,共同経営者マーレイの亡霊や使用人のボブ・クラチット等に名優ゲーリー・オールドマン,という魅力的なキャスティングだ。ただし,今回はPerCapといえども,本人とは全く異なる個性的な顔立ちになっている(写真1)
 
   
 
 
 
写真1 これが主人公のスクルージの個性的な顔
 
   
   冒頭から感心するのは,ビクトリア朝時代のロンドンの描写だ。雪の舗道や行き交う馬車,人々の衣装や街並みの再現は,静止画の画集で出版して欲しいくらいだ。その精巧なCG映像をバックに登場する亡霊は,いかにもCG的で,別の意味でCGの威力を感じさせる(写真2)。三晩連続で登場する精霊に連れられてのスクルージのツアーは,空を舞ったり,壁を突き抜けたり,なるほどこの物語にCG利用は最適で,カメラワークも斬新だ。そうした派手な動きの裏で工夫されているのが,この映画の光の使い方だ(写真3)。室内の内装や調度類の描写も精巧だが,それが自然に見える照明が配されている(写真4)。これがCG映像とは分からず,途中まで実写作品と思っていた観客も少なくないようだ。  
   
 
写真2 日替わりで登場する亡霊はいかにもCG という表現
 
     
 
写真3 窓の雪や差し込む光も実に丁寧な描写
 
 
 
 
 
写真4 人物の表情に目を奪われがちだが,ガウンや革張りの椅子などの質感表現も見事
(C) Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.
 
     
   勿論,よく観れば実写でないことは分かる。脇役達の顔の造形が少し作り物っぽくしてあるからだ。意図的に「まるで本物に見える,よくできた作り物」の印象を与えようとしているのだろう。そう,初めてディズニーランドに行って「カリブの海賊」に感心するあの感覚である。今回「Disney's」の冠をかざした以上は,ディズニーランドかディズニーワールドに,この物語ベースのアトラクションを計画しているのかと想像する。ゴンドラに乗り,精霊に導かれて過去・現在・未来を巡る旅は,ライド&3Dアトラクションにぴったりだ。
 3Dといえば,試写会が2D上映だけだったので,公開日に劇場まで3D版を観に行った。街に雪が降るシーンの3D演出は見事で,思わず手を出したくなる。現在の精霊と共にボブの自宅を覗き込むシーンも,立体表示が効果的だ。その半面,日本語吹替版では,ジム・キャリーの声の7役を味わうことができない恨みがある。しかし,天才・山寺宏一の吹替えはジム・キャリーらしさを見事に醸し出していて,大きなマイナス要因ではない。3D上映で光量が半減するのも,この映画なら平気だ。
 では,なぜ筆者の評点が高くないかと言えば……。恐らく,筆者が描いていたあの「クリスマス・キャロル」のイメージと少し違っていたからだろう。個人的には,少し幸せな気分になる穏やかなエンディングが欲しかった。このスクルージは大げさ過ぎる。あるいは,同じ号に『カールじいさんの空飛ぶ家』なる秀作があったため,他の評点が少し低くなってしまったか?
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分を差替・追加しています)  
   
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