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O plus E VFX映画時評 2023年3月号

『シャザム!
〜神々の怒り〜』

(ワーナー・ブラザース映画)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[3月17日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]

(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC


2023年3月17日 TOHOシネマズ二条 (IMAX)


『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』

(パラマウント映画/東和ピクチャーズ配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[3月31日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, DUNGEONS & DRAGONS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO. (C)2023 HASBRO.


2023年3月10日 東宝東和試写室(吹替版)
2023年4月10日 109シネマズ港北(字幕版)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


少し食傷気味だが, VFXのレベルは高いので

 さて,もう1組のVFX大作2本である。上記のファミリー映画2本からは少し観客年齢層が上がり,アメコミファン,ゲーマーを主対象にしたアクションアドベンチャーだ。ともにドラゴンやモンスター達が登場するが,VFXのレベルは高い。ただし,こうも類似作品が次々と出て来ると,いささか食傷気味だ。もはや筆者はそれらを愉しむ年齢ではないのだが,映画史におけるVFX利用の変遷を同時代記録すると広言している以上,止むを得ず,いつものように当欄で取り上げる。
 この両作の,当欄にとっての意義は少し違う。1本目の『シャザム!〜神々の怒り〜』は,シリーズ2作目,DCEUとしては12作目に当たるが,前作に最高点評価を与えた以上,続編がそれを維持できているかを検証する。また,やや迷走気味のDCEUの中で,建て直しの柱となる存在なのかも考えることにした。
 もう一方の『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』は,言うまでもなく,世界一著名なRPGの映画版最新作である。過去にも何度か映画化されているはずだが,それらを全てリセットしてのリブート作品だという。よって過去作は忘れ,新シリーズとしての出来映えを点検し,今後もフォローするに値するかを考える。


物語は追いやすく, VFXも秀逸だが, 楽しさは半減

 前作『シャザム!』(19年Web専用#2)は楽しい映画であった。その好評から,すぐに続編が計画されたが,コロナ禍で撮影開始が遅れ,ポストプロダクションもようやく終わり,4年ぶりの再登場となった。アメコミ史上でも由緒あるスーパーヒーローであり,名称や版権を巡っての係争があったことは,前作の記事中で書いておいたので,そちらをご覧頂きたい。それでも「シャザム」の使われ方は混乱必至なので,改めて記しておこう。
「シャザム」は古代の魔術師の名前であり,呪文であり,スーパーヒーローの名前である。魔術師シャザムは他のDCEU作品にも登場するが,前作ではこの魔術師が,ビリー・バットソン少年が勇者になる資格があると見抜き,ビリーに6人の神のパワーを得る呪文「S.H.A.Z.A.M.」を授け,その呪文を唱えることで,ビリーはスーパーヒーロー「シャザム」へと変身した。ここで注意すべきは,単に少年が超能力を得て,ヒーロースーツに変身するだけでなく,中年男性の姿になっていることだ。このため,ビリー少年役にはアッシャー・エンジェルが,変身後の中年シャザム役にはザッカリー・リーヴァイが配されるというダブルキャスティングとなっていた。
 見かけは変わったが,中身はビリーのままなので,「見た目はオトナ,心はコドモ」がキャッチコピーである。当欄では「見た目はオッサン,心はガキ」とまで書いていた。『ボス・ベイビー』シリーズとは真逆である。中年のオヤジが他愛もない会話をし,スーパーパワーを発揮するというアンバランスが,楽しさの源泉だった。物語進行は分かりやすく,ギャグも心地よく,最高評価を与えた。
 この路線は続編の本作にも継承されている。監督のデヴィッド・F・サンドバーグ,脚本のヘンリー・ゲイデン&クリス・モーガンは続投で,主要登場人物も同じ俳優たちが演じている。前作の終盤で,ビリーは親友のフレディとホームの同僚4人(男女各2人)にも呪文を教え,計6人で超人に変身し,敵と戦った。この中で,年長のメアリーだけは,変身前後で同じ女優(グレイス・キャロライン・カリー)が演じていて,他の5組がダブルキャスティングであった。即ち,計11人が本作でも起用されている訳である(写真1)。詳しくは後述するが,筆者はこの継続起用が本作の失敗の1つであったと考えている。


写真11 上(変身前):義兄弟姉妹となったホームの6人,
下(変身後):メアリー(右から2人目)以外は大人の俳優が演じる

 前作で敵との激闘から「魔法の杖」を壊してしまったことから,「神々の領域」は衰退した。怒り狂った神・アトラスは,地球を侵略するため,娘3人(ヘスペラ,カリプソ,アンテア)を送り込む。「恐怖の三姉妹」というから,年齢も近いのかと思ったら,演じるのはそれぞれヘレン・ミレン,ルーシー・リュー,レイチェル・ゼグラーだった(写真2)。かなり年齢差があり,H・ミレンからは23歳,56歳も開いているから,母娘どころか,祖母,母,娘の3世代でも通用する。この不吉な3人の女神はもっと悪魔的かと思ったのだが,それぞれ地球に対する思い入れが違っていて,それが物語を面白くしている。


写真2 アドラスが地球に送り込んだ恐怖の三姉妹

 敵役と言えば,前作でビランのシヴァナ博士は死ななかったので,この続編で再登場するだろうと書いてしまったのだが,それは実現しなかった。ただし,まず間違いなく,次作か次々作で姿を見せるはずだと言っておこう。
 以下,当欄の視点からの論評である。
 ■ 舞台は前作と同じ米国フィラデルフィアで,冒頭シーケンスは壊れた「魔法の杖」が展示されている博物館から始まる。夜を待って忍び込んだヘスペラとカリプソは,警備をものともせず,杖を取り戻す。館内の警備員や駆けつけた警官隊は全員静止状態に固められてしまう。もうここで,VFX全開だ。物語進行が心地よく,どんな物語になるのかワクワクしてしまった。2人は街を次々と破壊して,市民を恐怖に陥れる。ここで,なぜ2人なのか,末娘アンテアはいつ合流するのかと思うだろうが,実はこれは途中で明かされる小サプライズのはずだった。ところが,既にスチル写真や予告編で3人揃った姿が公開され,俳優名も明かされている。意図的なリークなのだろう。せめて最初の内,彼女はどんな姿で地球にいるのかを愉しみにしてもらいたい。アステアを演じるL・ゼグラーは,『ウエスト・サイド・ストーリー』(22年1・2月号)でヒロインのマリア役に抜擢された若手女優だが,本作でも頗る愛らしい。来年公開されるディズニーの実写映画『白雪姫』では主役を務めるから,これは楽しみだ。
 ■ 女神2人に破壊され,橋が崩落するシーンのVFXもいい出来だった(写真3)。ここで変身したシャザムのチームが出動し,市民たちを救う。スーパーヒーローものの最も快適な場面であり,誰もが拍手喝采してしまう。ヘスペラとカリプソは魔術師を捕まえ,「シャザム!」の呪文で杖を修復してしまう(写真4)。恐るべき魔力をもつ杖がアトラスの手に戻ると地球は危機にさらされるので,シャザムたちは杖の奪還計画を立てるというのが中盤以降の展開だ。ここで立ちはだかるのが,彼女らが地球に連れてきた巨大ドラゴンのラドンだ。CG製のドラゴンはもういくつも見ているが,本作のドラゴンは格別にユニークで,枯れ枝で出来ているかのようなデザインだった(写真5)


写真3 橋が破壊されるが,シャザムたちが救出に向かう

写真4 盗み出した杖を修復し,魔法の脅威が蘇る

写真5 巨大ドラゴンのラドンは,木製の奇抜なデザイン

 ■ 最も凶暴なカリプソは,MJBの野球スタジアムに神の国から持参した金色のリンゴを埋め,成長した「生命の木」が街を埋め尽くす(写真6)。地質の合わない地球では,この木が多数のモンスターを生み出してしまい,シャザムたちはその退治に追われる(写真7)。このモンスターのデザインは平凡であったが,CGのレベルは全体的に高く,VFXシーンの使われ方にも好感がもてた。前作同様,ストーリー展開は単純で,筋は追いやすく,ラストバトルもくど過ぎない。CG/VFXの主担当はDNEG,副担当はRise Visual Effects Studios, Weta FXで,その他にPixomondo, Scanline VFX, Methods, BOT VFX, SDFX等も参加していた。プレビズ担当は最大手のThe Third Floorで,かなりのシーンでプレビズの効果が感じられた。これだけの一流スタジオを揃えれば,クオリティが低い訳がないという見本である。


写真6 グランドに埋めたリンゴから「生命の木」が急成長する

写真7 街中で跋扈し始めたモンスターたち
(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC

 ■ 実は,本作は最後に大きなサプライズがある。思いがけない人物が登場するが,俳優名はクレジットされていない。そうしておきながら,公開間際に登場した予告編には,しっかりこの人物の姿がある。その方が集客力があると計算し直したのだろうが,それじゃサプライズにならず,ちょっと理解に苦しむ営業戦略だ。当欄では,それが誰だかは明かさず,サプライズがあるとだけ言っておく。
 ■ 本作の紹介が公開後になったのは,完成披露試写もマスコミ試写もなかったからで,公開後にシネコンに足を運ばざるを得なかった。その結果,執筆前に種々の評判が伝わってきた。予想通り,観客の評価は低くないのに,批評家の評価が低めだ。それに迎合する気はないが,散々褒めておきながら,当欄の評価も前作から2ランク下げてしまった。その第1の理由は,「見た目はオトナ,心はコドモ」のポリシーが崩れていたからだ。ビリー少年役のA・エンジェルは前作時に14歳であったのに,本作撮影時には18歳で,かなり大柄で立派な青年になってしまっていた。これじゃ少年とは言えず,中年のシャザムがガキのような発言をするのが不自然に感じてしまう。コロナ禍で撮影開始が遅れたためもあるだろうが,これでは楽しさも半減だ。『スパイダーマン』シリーズのピーター・パーカーはもう少し想定年齢は上だが,それでも数作毎にシリーズをリブートして,演じる俳優の年齢を下げている。ビリー少年は14, 15歳に留めておくべきで,それには毎回俳優を交替させるしかないと思う。
 ■ もう1つは,シャザムが立派なヒーローになり過ぎたことだ。命を惜しまず,地球の危機を救うなどは,シャザムには似合わない。上映時間も20分程度縮め,ラストバトルももっと軽くし,お調子者の超人が気楽に人々を救う楽しい映画であるのが好ましい。このシリーズが10年前に登場していたら,スーパーヒーローものというだけで,この続編も高評価したことだろう。MCUやDECUが登場し,類似作品を山ほど見せられてからでは,本作のVFXアクションにも新鮮さを感じない。加えて,DCEU内での位置づけのために,ミッドクレジットやエンドクレジットに余計な映像が入るのも,頭が混乱するだけで迷惑だ。シャザムは,どうやら「ジャスティス・ソサエティ」に加わるらしい。DCEUの金看板の「ジャスティス・リーグ」ではなく,1ランク下のヒーローチームで,「Justice Society of America(略称:JSA)」が正式名称である。本シリーズの続編の前に,他作品にも登場する可能性があるということだ。そんな小手先のクロスオーバーは,観客離れを起こすだけで,建て直しに貢献するとは思えない。『シャザム!』シリーズは単独の明るく楽しく,そして分かりやすいヒーロー映画であって欲しい。まかり間違っても,「マルチバース」などは登場させるなと言っておきたい。


世界一著名なRPGのリブート作は, 圧倒的なスピード感

 ゲーム好きなら,自分はプレイしたことはなくても「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(略称:D&D)の名前は知っているだろう。1974年に登場した世界最初のRPG(Role Playing Game)とのことだ。国内では,RPGと言えばビデオゲームの売れ筋だと思っている人も少なくないようだが,元々は複数人で遊ぶテーブルトップ型のゲームで,紙と鉛筆,サイコロやコマを使ってプレイする。テーブルゲームの世界に,RPGの概念を持ち込んだ先駆者と言える。役割を決め,会話をしながら楽しむことから,テーブルトークRPG(TRPG)とも呼ばれている。
 TRPGとしてのD&Dは世界中で大ヒットし,かなり経ってから日本にも輸入されたようだが,筆者の世代は既に社会人であったので,TRPGの経験は殆どない。後にPC型ゲームのD&Dも多数発売され,一大ジャンルを形成しているが,D&Dと言えば,TRPGの方が有名であるようだ。日本では,ビデオゲームのRPGとして「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」がヒットしたので,世界の中でもD&Dの普及率は低い方だが,むしろTRPGのD&Dのマニアが増えているようだ。
 度重なる改訂で最新版はどんどん複雑になっているが,基本は「ダンジョン(地下牢)に入り込み,そこに潜んでいるドラゴンやモンスター類を倒して,宝を奪う」というスタイルである。各プレイヤーが,人間,エルフ,ドワーフ等の種族と,戦士,僧侶,盗賊等の役割クラスを選び,それに応じた知力,判断力,戦闘能力等が決まる。とここまで書けば,これはファンタジー映画の世界そのものであり,CGを駆使した映画が作られない訳がない。
 D&Dの最初の映画化作品は,米国では同名映画が2000年12月に公開され,日本ではギャガ配給で翌年7月4日に公開されている。邦題は単数形の『ダンジョン&ドラゴン』であった。それじゃ,この映画を当欄ではどう評価していたのか読み直そうとしたが,どこにもない。試写案内が来なかったのか,それとも多忙で見逃したのか,記録を調べたところ,確かに5月下旬に試写を見ていた。余りの下らなさに呆れ,記事を書かなかったらしい。ちなみに,2001年はVFX映画の発展期であり,まだ月刊誌であった「O plus E」には,VFX多用作を毎月2〜5本紹介していた。同年7月号では『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』『パール・ハーバー』『A.I.』の3本が掲載されているから,この力作群に匹敵する出来映えではなかったようだ。
 その後,『ダンジョン&ドラゴン2』(05)『ダンジョン&ドラゴン3 太陽の騎士団と暗黒の書』(12)が製作されたが,米国では両作とも劇場未公開,日本では前者のみ短期間公開されたが,後者はDVDスルーとなっている。,配給会社も監督も主演俳優もメジャーではなく,D&Dの知名度だけを当てにした低予算の安直な企画であったようだ。
 過去を全てリセットして,この時期にリブートしようというからには,かなり力を入れた大作に違いない。メジャーのパラマウント映画配給で,主演の盗賊エドガン役にクリス・パイン,相棒の戦士ホルガ役にはミシェル・ロドリゲスが配されている(写真8)。それぞれ,リブート版『スター・トレック』シリーズ3作で主役のカーク船長,『ワイルド・スピード』シリーズのレギュラーでレティを演じている人気俳優の起用であるから,気合いが入っている。


写真8 盗賊のエドガンと相棒のホルガ。いいコンビだ。

 この映画もコロナ禍で企画の進行が遅れ,4回も公開時期が延期され,ようやく劇場公開される運びとなったのは,上記『シャザム!〜神々の怒り〜』と同じで,撮影時期もほぼ同じ頃である。ただし,脚本・監督のジョナサン・ゴールドスタインとジョン・フランシス・デイリーのコンビは,名前を聞いたことがない。共に数作の監督経験はあるが,J・ゴールドスタインは脚本家が本業で,『スパイダーマン:ホームカミング』(17年8月号)の脚本を担当している。一方のJ・F・デイリーは俳優兼脚本家で,『モンスター上司』(11年11月号)『俺たちスーパーマジシャン』(13)の脚本を担当し,自らも出演している。
 物語の設定は,D&D第5版を基にしているという。舞台となるのは,様々な種族やモンスターが棲息するフォーゴトン・レルムなる架空の世界だ。エドガンは闇の組織に殺された妻を生き返らせ,捕えられた娘を救出するため,相棒のボルガと旅に出る。特殊能力とアイテムが必要なため,魔法使いのサイモン(ジャスティス・スミス),自然の化身のドリック(ソフィア・リリス),聖騎士のゼンク(レゲ=ジャン・ペイジ)を仲間に組み入れる。RPG的には,この5人が各役割をプレイして,協力して悪人達の陰謀を粉砕するという手はずである。
 この映画で存在感があったのは,女性3人だ。上記のM・ロドリゲス,S・リリスと,もう1人は魔法使いソフィーナを演じるディジー・ヘッドである。M・ロドリゲスのホルガは,怒りのパワーを炸裂させる無敵の戦士で,まさにハマリ役だった。注目は,小柄で華奢な身体ながら,様々な動物に変身するドリック役のS・リリスだ(写真9)。『 IT/イット “それ”が見えたら,終わり。』(17年11月号)と続編の『 IT /イット THE END…』(19年Web専用#5)で,6人組の紅1点の少女ベバリーを演じていた若手女優である。1作目の出演時はまだ15歳だったが,本作の撮影時には19歳で,少し大人になり,キュートな魅力を振りまいている。前述のL・ゼグラーよりも,約1歳若い。既に低予算作品やTVドラマでの主演経験もあるが,本作でブレイクし,大作での起用が増えることだろう。


写真9 人間とモンスターの混血のドリックは,結構キュート

 最も存在感があったのは魔法使い役のD・ヘッドだ(写真10)。S・リリスよりも10歳以上年上だが,素顔は少し垂れ目の美形で,癒し系の顔立ちだ。それがメイク1つで恐ろしい魔女の顔立ちになるのだから,女優の化け方は凄いなと改めて感じた。彼女も本作でブレイクして,出演機会が増えることだろう。


写真10 魔法使いのソフィーナは存在感随一

 という風に,もっともらしい作品解説をしてきたのだが,実のところ,この映画の価値をきちんと述べる自信がない。醜悪なモンスターたちを倒すのに,様々なアイテムを駆使していることは分かるが,これまで全くD&D体験がないので,アイテムやモンスターは,ファンの誰もが知っているものか,それともこの映画のオリジナルなのか,区別がつかない。名前が登場していても,たった1回観ただけでは,すぐにも覚えられない。
 そのため,本稿は筆者と同等程度の知識しかない読者を想定して,以下を述べる。マニアックなファンが読めば,間違いだらけかも知れないが,ご容赦願いたい。
 ■ この映画は日本語吹替版の試写を観た。始まった早々から,この吹替版のセリフに魅せられた。とりわけ,クリス・パイン演じる盗賊エドガンの語り口調が印象的だった。親しみが持てるというか,タメ口というか,お子様映画風の軽さというか,適当な言葉が思い浮かばないほどリラックスした会話だ。元の英語版もこうなのか? いや予告編を見る限り,吹替版ほどくだけてはいない。後半に登場する掘り起こした死者との問答場面もそうだった(写真11)。こういう吹替版にしようと決めた担当者(何という役職名?)はエライ。一気にこの映画に引き込まれてしまう。公開後に映画館で字幕版を観て,比べてみることにしたい。


写真11 死者との5つの問答シーンは,笑ってしまう

 ■ 全編でCG/VFXは満載であることは予想できた。しかしながら,前半は期待したほどではなかった。中盤辺りから,その比率がどんどん増してくる。各ダンジョンの光景は次々と切り替わるが,当然背景はVFX合成だろう。さらに,どんどん魔法のシーンやモンスター類が登場してくる。通常なら,克明にメモするところだが,本作ではそれが出来なかった。モンスターの種類に関する予備知識がなく,名前が分からないため,メモが上手く取れない。加えて,余りにテンポが早過ぎるのも一因だった。まるで1.5倍速でビデオ録画やネット配信映画を観ている気分だ。TRPGでこんな速さで会話を交わし,プレイする訳はないから,PC版D&Dがこのスピードなのだろうか? この疾走感だけで,過去のファンタジー映画とは一味違うと感じてしまった。
 ■ エドガンが娘を救出して,これで大団円かと思ったら,その後に赤き魔女ソフィーナとの対決が控えていた(写真12)。このバトルのテンポはさらに速かった。上記の『シャザム!…』のようなゆっくり目の展開の方が見やすく,好みなのだが,この映画はこれでいい。まさに新感覚のファンタジー映画だと感じさせてくれる。


写真12 終盤のソフィーナは,赤い魔女として登場

 ■ CG/VFXの観点で,印象に残ったシーンやモンスター類を列挙しておこう。ただし,劇中のどこで登場したかは覚えていない。まず怪獣系からは,ドリックが変身した「アウルベア」が筆頭格である(写真13)。頭はフクロウ,身体は北極熊という混血動物で,かなり獰猛だ。毛並みの表現はまずまずだが,敵をなぎ倒す動きの出来が良かった。手付けのアニメーションなのか,誰かの演技をMoCapした産物なのか,分からなかった。敵方のモンスターでは,黒い大型猟犬風の動物(名前は不明)の突進する姿と奇妙な2本の尾(触手?)の動きが最凶だった(写真14)。醜悪さでは,箱が開いて長い舌を出すミミック(写真15)や怪魚風のモンスター(名前は不明)(写真16)が双璧だった。


写真13 獰猛なアウルベアは,ドリックが変身した姿

写真14 長い2本の尾の先に触手がついた最凶のモンスター

写真15 大きな口を開け,長い舌を出すミミック

写真16 醜悪さではピカ一の怪魚モンスター(名前は不明)

 ■ 当初からの題名中にあるのだから,ドラゴンは特別な存在で,D&D体系の中に多数のドラゴンが存在している。本作では何種類が登場していたのかは不明だが,質感では炎を吹く「レッドドラゴン」(写真17)がピカ一だった。醜悪さでは「ブラックドラゴン」が,飛びかかって来る俊敏さでは白いドラゴン(ホワイトドラゴン?)が印象に残った(写真18)。大空を飛翔していたのは,何だったのだろう(写真19)


写真17 質感は抜群のレッドドラゴン

写真18 大きな口を開けて襲ってきたのに驚き

写真19 飛翔するドラゴンの雄姿

 ■ デザインのユニークさでは,魔法の杖を操作して,空間移動できる通り穴を作ってしまう技だ。まるでドラえもんの「どこでもドア」の円形版だが,この方が空間移動の入口の感じがする(写真20)。立方体形状のスライム「ゼラチナス・キューブ」(写真21)は,迷路を塞いだり,呑み込んだ生物を溶かしてしまうモンスターとのことだ。驚いたことに,このモンスターに因んだ「ゼラチナス・キューブ風呂」なる入浴用化粧品があり,本作の前売券を購入すると特典として入手できるようだ。


写真20 上:円形の通り穴を作り,空間移動する,
  下:テーブルに穴を開け,そこから財宝を盗みに行く

写真21 立方体形状の「ゼラチナス・キューブ」もモンスター
   (C)2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, DUNGEONS & DRAGONS AND
ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO. (C)2023 HASBRO.

 ■ 建築系のデザインとして秀逸だったのは,エドガンらがモンスターと戦う闘技場である。建物自体が壮大で,ビジュアル的に優れている上に,彼らが地下からのせり上がりで入場してくるのが印象的だ。フィールド内に多数の四角柱が現われ,それらが迷路を構成してしまうシーンが圧巻である。ソフィーナとのラストバトルでは,もっと魅力的なシーンも多々あったのだが,そうした部分からはスチル画像が公開されないので,ここで画像を使った解説はできない。本作のCG/VFXの担当はILMとMPCで,ほぼ両社だけで全編を処理している。
 ■ TRPGでもモンスター図鑑が発売されている上,マニアはキャラクターグッズを揃え,ジオラマまで作ってD&Dを楽しんでいる。最近のPC型RPGなら,CGのレベルはかなり高いので,劇場用映画となるとリアリティと動きの両面でそれらを凌駕している必要があり, D&Dファンに「さすが映画だ」と感心させたいところだ。本作がそのレベルに達していたのかと言えば,CGのクオリティ,スペクタクル性では,何とか合格点だろう。むしろセールスポイントはスピード感で,これは新感覚のアクションファンタジー映画と言える。これならシリーズ化しても十分楽しめる。もう一度観て,再点検したくなるように仕向けているのも心憎い。


付記:字幕版で洞窟とモンスター達を再点検

 上記両作ともVFX大作であったが,D&Dは繰り出す魔法やモンスター達をきちんと把握できず,自分で欲求不満が溜まり,気になったので,劇場公開後にシネコンに足を運び,内容を再点検した。マスコミ試写が日本語吹替版であったので,今回は字幕版で観た。
 ■ 字幕版も素直に見られた。冒頭のエドガンとホルガが収監されている牢獄シーンでは,ホルガの正体が分かっているので,マッチョ男が彼女にちょっかいを出して粉々されるシーンが殊更痛快だった。ただし,全体的印象としては,やはり字幕版の方が楽しかった。魔法を駆使し合うVFXとテンポが合っている。映画全体を「圧倒的なスピード感」と表現してしまったが,全体の流れが追えない訳ではない。厳密に言えば,魔法を駆使し合うバトルシーンのカット割りが早く,技の登場時間も短いので,そのVFXを逐一把握できなかったに過ぎない。国名,地名,モンスター名をきちんと説明してくれない上に,名前があっても吹替版は聞き取れず,字幕版に比べてメモが取り難かった。プレス資料にも記述がないので,今回ほど原作関連の記事や図鑑に頼ったのも珍しい。ただし,解説記事を書く筆者のような立場が特殊なだけであって,単に画面を眺めて楽しむだけの観客なら,この疾走感は気にならず,むしろ心地いいだろう。その場合も,吹替版の方が快適なはずだ。
 ■ 終盤のソフィーナとのバトルの充実ぶりを強調したが,中盤に生真面目な聖剣士ゼンクに導かれて「魔法破りの兜」を探しに行くシーンのVFXもレベルは高かった。ただし,どのダンジョンに出かけたのか,敵は誰で,どんな魔法を出し合ったのか,2度目であってもきちんと把握しきれなかった。女性軍の活躍ばかりを褒めたが,魔法使いサイモンの出番も少なくなかった。魔法の中身に気をとられて,彼が駆使していることを忘れていた。例えば,写真20の通り穴は,サイモンが魔法の杖を使って作り出した便利な通路である。目を凝らして字幕を観たが,その名称は分からなかった。杖は「ここ・そこの杖」と言うらしい。グッズ販売では,サイモンの人形に「兜」とこの「杖」が付いてくるそうだ。ほぼ同時期に2本観たので,写真4の杖と用途,機能の違いをきちんと把握していなかった。「ドラゴンや魔法の杖ばかり出すなよ。ファンタジー映画もオリジナリティがなさ過ぎるよ」と,苦情を言いたくなる。その点,「ゼラチナス・キューブ」はユニークで,改めて観ても,CG/VFXでの描写も好い出来映えだと感じた。
 ■ 字幕版ゆえ名前が把握できて,かつVFX合成の出来がいいと改めて感じたのは,ホルガの元夫の「マーラミン」だった。背の高さが通常の人間の半分もない小人である。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのホビットやドワーフよりも小さいが,プロポーションは普通の人間に近い。VFX合成であることは確実だが,人間サイズの椅子に座ったり,人間とハグしたり握手したりもする。背景もCGなのか,どちらをどちらに合わせ込んだのか,全く識別できなかった。普通の観客は気にも留めないだろうが,ホビットやドワーフの登場シーンよりも格段に出来が良かった。


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