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O plus E 2020年Webページ専用記事#6
 
 
ジングル・ジャングル 〜魔法のクリスマスギフト〜』
(Netflix)
      (C) 2020 Netflix
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [11月13日よりNetflixにて独占配信中]   2020年12月4日 Netflixの映像配信を視聴
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  夢を与えるクリスマス映画は,美術工芸的にも逸品  
  メインコーナーも,注目すべきはNetflixオリジナル作品だ。TVシリーズ扱いの複数話構成ではなく,上映時間124分の映画扱いのファミリー・ムービーである。家庭へのネット配信が中心のNetflixには,例年,年末近くになるとクリスマスものの新作が何本も登場する。今年は題名に「クリスマス」を含む作品が6本あったのだが,当欄での紹介には本作を選んだ。VFX大作であり,ミュージカル仕立てであったからである。本誌11・12月号に含めたかったのだが,校了日当日の配信開始であり,さすがに間に合わなかった。
 まず冒頭シーケンスから約15分だけを眺めて,残りは後日じっくり観ることにした。その冒頭だけでワクワク感たっぷりで,VFX的にもこれはしっかり分析しながら観なくてはと思わせるものだった。先頃の『フェイフェイと月の冒険』(20年Web専用#5)で,「NetflixがこのクラスのCGアニメを企画・製作するようになった」と感激していたのだが,同じ意味で,このレベルのVFX大作映画を配信するようになったことも素直に喜ばしい。元々,コメディやドキュメンタリーを多数配信していたが,フルCGアニメやVFX大作というメジャー映画会社の得意分野にも切り込んできた。現在の資本力からすれば当然のことなのだが,まさに飛ぶ鳥を落とす勢いである。
 原題は『Jingle Jangle: A Christmas Journey』だが,邦題には「魔法の」が付いている。といっても,「ハリー・ポッター」や「マレフィセント」のような本格的な魔術・魔力を発揮する訳ではなく,天才発明家の主人公が不思議な力で魔法のようなオモチャを創り出すという設定である。この映画の第一印象としては,『ヒューゴの不思議な発明』(12年3月号)を彷彿とさせる。発明がテーマであり,機械仕掛けの発明が様々出て来るからである。摩訶不思議さと童話としての面白さは,『チャーリーとチョコレート工場』(05年9月号)に近いものがある。ただし,本作には原作はなく,オリジナル脚本である。本編の途中から主人公の孫娘が登場するが,同じ発明家の遺伝子をもった天才少女である。その天才の発揮ぶりの心地よさは,『gifted/ギフテッド』(17年12月号)に近い感じだった。
 主人公のジェロニカス・ジャングルは玩具店を営み,ユニークなオモチャを次々と発明して,街の子供達の人気を得ていた。ある日,画期的な金属製人形を生み出すが,信じていた弟子のグスタフソンがそれを盗み出し,すべてを記した発明ノートも持ち逃げしてしまう。すっかり意気消沈したジェロニカスは生きる望みをなくし,細々と質屋として生きて来たが,彼を訪ねて来た孫娘ジャーニーとの交流により,再び発明家としての希望を取り戻すという人生の再生物語である。
 監督・脚本は,デビッド・E・タルバート。既に監督経験は10本以上で,その殆どで脚本も担当しているが,本邦未公開作品が大半で,余り馴染みはない。ようやく本作で注目を集めることだろう。主人公のジェロニカス(愛称はジェリー)を演じるのは,フォレスト・ウィテカー。主演作としては,『ラストキング・オブ・スコットランド』(07年3月号)でのウガンダのアミン大統領役と,『大統領の執事の涙』(14年2月号)での歴代米国大統領の執事役が印象深かったが,本作の善良なる発明家の印象は後者に近い。敵役のグスタフソンには脇役俳優のキーガン=マイケル・キーが配されている。この2人の若者時代を演じる2人,ジェロニカスの娘ジェシカ役のアニカ・ノニ・ローズ,孫娘ジャーニー役のマデリン・ミルズも含めて,ほぼ無名俳優ばかりの地味なキャスティングである。主要登場人物がすべて黒人だが,余りそれを感じさせないのは,物語の展開が面白過ぎ,登場する発明品(オモチャ)や街の風景も魅力的だからだろう。
 ミュージカル仕立てで,随所で歌や踊りが入る楽しいファミリー・ムービーだ。主要登場人物がほぼ1曲ずつ歌うが,それに関してはサントラ盤コーナーで語ろう。以下は,ビジュアル・デザインとCG/VFXについての当欄の観点からの解説と感想である。
 ■ ある祖母が分厚い本を取り出して,孫の少年少女2人に物語を聴かせるシーンから始まる。この本の中に大小多数の歯車が回っている。勿論,CGによる描写だ。物語はこの本の中に入り込み,まずはカラフルな人形劇の街が登場し(写真1),そしてそれがそのままクリスマスで賑わう実写の街に置き換わって行く。その中心は「ジャカジャ・ジャングル」なる玩具店で,もうその店内の光景だけでファンタジー性は十分だ。場所も時代も不祥だが,携帯電話やPCはおろか,TVや電話器も登場しない。街中では馬車は見かけても自動車の姿はないから,18世紀末から19世紀前半の欧州のある町が舞台といったところだろうか。
 
 
 
 
 
写真1 本の中の歯車の上に人形たちが登場する街が出現する。これもCGによる描写だろう。 
 
 
  ■ 家々も衣装もカラフルで,数々のオモチャの造形にも凝っている。映画の美術工芸の教本になりそうな出来映えだ。各々のオモチャは機械仕掛けで動いているという設定のようだが,映像的にはCG/VFXで表現していることは明らかだ。その代表は,まずは弟子が作った「クルクル・コプター」なる宙を舞うオモチャだ。続いて,言葉を話し,自律的に動く小型人形「ドン・ファン・ディエゴ」(写真2)が登場し,これが裏切りの物語の鍵を握る。まるで生きているかのようだ。要するに,小型ロボットなのだが,それがどうやって動くのかは説明されていない。終盤に登場するのは別のロボット「バディ3000」(写真3)で,こちらは本作の結末に大きな影響を及ぼす。それを信じる心をもつ者にだけ,このバディの凄さが分かるという設定も,童話らしくて良い。青少年の創造力をくすぐる存在だが,デザイン的にはちょっと『WALL・E/ウォーリー』(08年12月号)』に似過ぎているという気もする。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 これが命を与えられた金属製の小型人形「ドン・ファン・ディエゴ」
 
 
 
 
 
写真3 後半に活躍するのは「バディ3000」。「WALL・E」に似ている。 
 
 
  ■ 上記を生み出したジェロニカスの制作工房自体の描写も,ビジュアル的な魅力に溢れている。『アイアンマン』のスターク社長のラボの古典版といった趣きである。裏切り者のグスタフソンが設立したオモチャ会社の工場も同様に,ビジュアル的には凝っている。おそらく,実物は半分以下で,CG/VFXでかなり強化しているに違いない。
 ■ 天才発明家の祖父と孫娘の着想力をどう描くかの工夫として,AR表示が使われていた。即ち,2人ともアイディアが湧くたびに,空中の数式や図形が描かれるのを見ることができるという設定である(写真4)。なるほど,常人は裸眼でこんなものは見えないから,天才の超能力の源泉を描くのに,映画での表現としては上手い手だ。数式を使った雪合戦のシーンも楽しい。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 ジェロニカスにも孫のジャーニーにも,空間中に数式や図形が浮かんで見える。これが天才の天才たる所以か。
 
 
  ■ CG/VFX的にしっかりと描かれていると感じたのは,雪に埋もれたこの街を俯瞰的に眺めた光景だ(写真5)。道路や木々に積もった雪も丁寧に描かれているし,よく見ると,雪道を歩く人たちも描かれている。良い出来だ。見上げる角度からは,写真6では3人が空を飛んでいる光景が描かれているが,これがどんな場面で登場するかはお愉しみとしておこう。悪人に追われ,ジャーニーが送風口をつたって逃げるシーンでは,火が彼女を追いかけて来る。技術的にはさほど難しくないが,ボブスレーを思わせる動きで,演出的には悪くない。本作のCG/VFX担当はFramestore,プレビスはThird Floorで,それぞれ1社だけで担当している。出演者のギャラは安めでも,この映像クオリティを生み出すためには,さすがに一流スタジオを起用したのだなと納得した。  
 
 
 
 
写真5 丁寧に描かれた雪の街の光景。静止画でじっくり見ても圧巻だ。 
 
 
 
 
 
写真6 こちらは丘の上のジェシーのオモチャ工場に向って飛んで行くシーン
(C) 2020 Netflix  
 
 
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