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O plus E誌 2018年11・12月号掲載
 
 
くるみ割り人形と秘密の王国』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2018 Disney Enterprises, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [11月30日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2018年11月8日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
   
 
グリンチ』

(ユニバーサル映画 /東宝東和配給)

      (C) UNIVERSAL PICTURES
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月14日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2018年11月6日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  今年はクリスマス関連映画の豊作  
  例年クリスマス関連作品を載せるのは本号だが,今年は3本もある。1本は短評欄の『Merry Christmas!〜ロンドンに奇跡を起こした男〜』で,題名からもすぐ分かる。残る2本はクリスマス時の出来事を描いた名作童話の映画化作品だが,2本まとめてメイン欄で紹介しておこう。
 1本は,原作童話よりもチャイコフスキーのバレエ音楽で著名な「くるみ割り人形」だが,大手ディズニーのファンタジー大作として登場する。もう1本の「グリンチ」は,新しい古典ともいうべきDr. Seussの名作童話だが,今回はフルCGアニメとしての再映画化である。
 
 
  主演女優の凛々しさと音楽の格調高さが光っている  
  E・T・A・ホフマン作の童話「くるみ割り人形とねずみの王様」の発表が1816年で,チャイコフスキーの音楽を使った2幕3場のバレエ劇の初演は1892年12月である。「白鳥の湖」「眠れる森の美女」と並ぶ3大バレエの1作として,世界中で上演されない年はないだろう。これまでに5〜6回映画化されているようだが,人形アニメやバレエ映画が多く,大ヒットしたものはない。
 それをディズニーがファンタジー大作として手がける以上は,映像も音楽も抜かりはないはずだ。元々ディズニーは既存の童話を発掘して来てアニメ化し,まるでディズニー・オリジナル・キャラのように思わせるのが得意だ。古くは『白雪姫』(37)から『ピーター・パン』(53)『眠れる森の美女』(59)『くまのプーさん』(77)を経て,近年の『塔の上のラプンツェル』(11年3月号)『アナと雪の女王』(14年3月号)に至るまで,同じ手口である。かつてのアニメ作品をVFXで強化した実写映画化も進んでいて,来年だけで『ダンボ』『アラジン』『ライオン・キング』の3作が実写(+CG)作品で登場するというから,もの凄い企画・実行力だ。ブランド力ゆえの強気の商品企画である。
 ディズニー作品では,アニメとクラシック音楽を融合させた『ファンタジア』(40)の中で,14分12秒の「組曲:くるみ割り人形」が登場しているが,長編アニメは製作されていない。予告編を一見したところ『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)とそっくりの印象だった。同作もよく知られた名作を,アニメ化抜きで実写映画化した作品であった。本作の原題は『The Nutcracker and the Four Realms』。少女クララが,クリスマスイヴにパーティーを抜け出し,糸をつたって外に出たところ,そこは別世界で4つの国からなる秘密の王国だったという設定である。ネズミに導かれてというのをウサギに変えれば,それも『アリス…』に酷似している。
 主人公の少女が原作と同様,3人姉兄妹の末っ子であること,くるみ割り人形の兵士がネズミの軍と闘う以外は,ほぼオリジナル・ストーリーと考えてよい。全体として他愛ない単純な物語なので,省略しておこう。
 ラッセ・ハルストレムとジョー・ジョンストンが共同で監督を務める。特筆すべきは,少女クララを演じるマッケンジー・フォイの驚くべき美少女ぶり,凛々しさである。これが映画初出演かと思えば,既に『トワイライト』シリーズや『インターステラー』(14年12月号)にも出演していたという。当時は子役だから,こんなに美しく育つとは,とても想像できない。演技力はまだまだだが,そこはモーガン・フリーマン,ヘレン・ミレン,キーラ・ナイトレイらがしっかり脇を固めている。
 以下,当欄の視点での評価とコメントである。
 ■ オープニングの夜の町はフルCGでいつの間にか実写映画になる。クララが迷い込んだ別世界は一面雪景色だが,彼女以外はほぼすべてCG だろう(写真1)。秘密の王国中央に位置する宮殿(写真2)も4つの国も背景はほぼすべてCG/VFXの産物で,実物セットとの境界は分からない。「雪の国」(写真3)の照明は見事で,「お菓子の国」(写真4)「花の国」は豪華絢爛だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 (上)木の根の出口の外は別世界で,一面の銀世界
(下)クララ以外の樹木も雪原もほとんどCGだろう
 
 
 
 
 
 
 
写真2 4つの国の中央にある宮殿。滝はいかにも3D上映向きの素材。
 
 
 
 
 
写真3 「雪の国」の中心部。ここも大半はCGか。
 
 
 
 
 
写真4 カラフルな「お菓子の国」を空から眺める
 
 
   ■ フクロウ,ネズミや他のクリーチャー,不思議な現象もCG描写で,勿論,くるみ割り人形姿の兵士もしかりだ(写真5)。一々メモする余裕もないほど多数である。一点だけ挙げるなら,「ネズミの王」は多数のネズミの集合体であり,その動きの描写は見事だった。CG/VFX主担当はMPCで,他にRodeo FX,Luma Pictures,One of Them等が参加している。3D変換は,DNEGの3D部門が担当している。
 
 
 
 
 
写真5 くるみ割り人形の材質感を残したままの兵士たち
(C) 2018 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 
 
   ■ 「サントラ盤ガイド」で別記したが,音楽はチャイコフスキーの原曲のメロディを随所にアレンジして配し,本作が「くるみ割り人形」であることを意識させてくれる。映画の最後に本格的なバレエ・シーンが付されていて,本作を格調高いものにしている。  
 
  誰もが知っている名作ゆえに,正統派の作りで  
  絵本作家Dr. Seussの原作の出版は1957年だが,日本人の多くが「緑の怪人・グリンチ」の名前を知ったのは,ジム・キャリー主演の映画『グリンチ』(01年1月号)であったと思う。当時の紹介記事で「ユニバーサル・スタジオ・フロリダのギフトショップは,赤と緑のグリンチ人形で溢れかえっていた。(中略)アメリカ人なら誰でも知っているクリスマス寓話の映画化だという」と書いているように,既に米国では知名度は高かった。
 その間もその後も,何度もTVアニメ化されているが,同作では個性派俳優J・キャリーは,全編緑色の着ぐるみ姿でグリンチを演じていた。随所にCG/VFXは使われていたが,筆者はこれはフルCG映画の方が向いているのではと感じていた(どこかに書いた憶えがある)。
 ようやく今回それが実現した訳だが,飛ぶ鳥を落とす勢いの「イルミネーション・スタジオ」が制作するとは思っていなかった。これまで,同スタジオ作品はすべてオリジナル脚本であったからだ。よく考えれば,前作もユニバーサル映画ゆえに,映画化権も保持していたのだろう。それなら,イルミネーション担当は合点が行く。
 山の洞窟に住む嫌われ者の変人・グリンチは麓の「フーの村」(原作はWhoville,翻訳本は「ダレモ村」)の村人たちに意地悪することが生き甲斐だった。村人のプレゼントを盗んでクリスマスをぶち壊そうと企むが,クリスマスとは物ではなく,人々の心の中にあることを知り,改心して謝罪するという物語である。その基本骨格は原作に忠実な正統派の作りだが,登場する人物や動物を多彩にし,ギャグを交えて,可愛い作品にしている。
 グリンチの声を演じるのは,やはり個性派俳優のベネディクト・カンバーバッチ。精一杯,意地悪さを強調していたが,日本語吹替版は大泉洋だと知って,そちらを観たかったのにと残念だった。日本版ジム・キャリーたる彼の方が絶対的にグリンチにピッタリだと思う。
 以下,当欄の視点からの論評と感想である。
 ■ 第一印象は,グリンチの体毛の緑色の鮮やかさである(写真6)。クリスマス・カラーの緑より明るいのは元々だが,原作絵本の挿絵,過去のアニメ,前作のいずれの緑色よりも目立つ色だ。体毛表現の精細さに言及しようとして,ハタと困った。体毛や雪景色の描写(写真7)は『スモールフット』(18Web専用#5)でも褒めたばかりである。それとは何が違うのかと問われれば……。印象は少し違い,おそらくベースとなる描画法も少し違うのだが,結果としての違いをうまく表現する言葉を持たない。フー村のカラフルな描写も悪くないが,特筆するほどではない。
 
 
 
 
 
写真6 見事なまでに鮮やかな緑色で登場のグリンチ
 
 
 
 
 
 
 
写真7 雪山や雪原は『スモールフット』に負けないクオリティ
 
 
   ■ 相変わらず,ギャグの演出がイルミネーションらしい。朝起きて,愛犬マックスがグリンチを世話する下りが実に楽しい(写真8)。発明家の「怪盗グルー」顔負けとも言えるが,映画通なら『ウォレスとグルミット』シリーズのパロディだと分かるだろう。煙突から忍び込み,家々からクリスマスの装飾やプレゼントを盗み出す手際も見どころの1つだ。その半面,これ以外は少し大人しい作りで,構図や動きであっと驚くシーンはなかった。
 
 
 
 
 
写真8 グリンチと愛犬のマックス。「ウォレスとグルミット」を思い出す。
 
 
   ■ 一方,キャラクター造形の上手さは一級品だ。子供時代のグリンチは可愛く,ミニオンと並んで人気を博するだろう。トナカイのフレッドもいいキャラだ(写真9)。何しろ普通のトナカイ8頭分のパワーをもつ,少しおバカでデブのゆるキャラである。これもグッズ販売市場で人気になることだろう。
 
 
 
 
 
写真9 トナカイ8頭分のパワーをもつ,ゆるキャラのフレッド
(C) UNIVERSAL PICTURES
 
 
   ■ 音楽に関しては,こちらも「サントラ盤ガイド」に別記したが,高水準のサウンドだった。古い著名なクリスマス・ソングは,ラジオから流れたり,教会でかかっていたりする。過去のアニメ作品や2000年の前作でジェームズ・ホーナーが作ったスコアも巧みに取り混ぜている。これも米国人にとっては聴きなれたグリンチ・ソングであり,親しみが湧くのであろう。  
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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