head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
   
title
 
O plus E 2019年Webページ専用記事#4
 
 
ワイルド・スピード/スーパーコンボ』
(ユニバーサル映画 /東宝東和配給)
      (C) Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月2日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2019年7月25日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  派手なアクション一辺倒も,ここまでくるとご立派  
  シリーズ9作目である。最近数作の副題は英語2単語だったが,今回はカタカナ表記になった。シリーズのメインストリームではなく,スピンオフ作品扱いだというので,表記にも差をつけたのかも知れない。元々原題のシリーズ名は「Wild Speed」ではなく,「Fast & Furious」で,本作の原題は『Fast & Furious Presents: Hobbs & Shaw』である。即ち,第5作『ワイルド・スピード MEGA MAX』(11年10月号)から登場して,準主役となった元FBI特別捜査官ルーク・ホブス(ドウェイン・ジョンソン)と,第6作『… EURO MISSION』(13年7月号)から顔を見せている元英国諜報部MI6エージェントのデッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)の名前が表に出ていて,このアクション・コンビが「スーパーコンボ」だという訳である。
 こうなることは分かっていた。元は,LAでストリート・レースの凄腕レーサーのドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)とそれを取り締まるイケメン刑事のブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)の2枚看板で始まったシリーズだが,第6作の後でP・ウォーカーが自動車事故で急逝したため,撮影中であった第7作『… SKY MISSION』(15年5月号)は彼の弟を起用したり,CG製のブライアンを登場させる等で何とか対処していた。この追悼映画が涙,涙のエンディングであったことは記憶に新しいが,こうなると,単独主演映画も多数あるD・ジョンソンやJ・ステイサムの役割が大きくなることは自明であり,当欄でもそう予想しておいた。
 この2人のアクションが堪能できるのはいいとして,本作には残るシリーズの顔のV・ディーゼルの名前がない。主役は2人に譲っても,少し顔を見せるだろうと思ったのだが,全く登場しなかった。折角,前作『… ICE BREAK』(17年5月号)で,3人の揃い踏みを「…ハゲ・トリオを構成する訳である。これだけ主演陣が筋肉質で,頭髪が少ない映画も珍しい」と紹介したのに,早速その一角が崩れたのは残念であった(笑)。
 この2人は,シリーズ中でいがみ合っていたのではないかと言われれば,その通りで,ソリが合わない宿敵同士が止むなく手を組んで,世界破滅を目論む強敵と戦うという設定である。本作中でも,絶えず憎まれ口を叩き合っているから,ずっとこの掛け合いをウリにするのだろう。それはそれで楽しい。
 前作から引き続き登場するのは,デッカードの母親マグダレーンを演じるヘレン・ミレンで,本作で八面六臂の活躍をしてくれることを期待したのだが,ずっと服役中で,何度か面会室で顔を見せる程度だった。代わって,物語を引っ張る重要な役割を果たすヒロインは,デッカードの妹ハッティで,ヴァネッサ・カービーが演じている。『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(18年Web専用#4)での謎の女ホワイト・ウィドウ役で登場した女優だが,本作でさらに大きくブレイクしている。男性観客を魅了する「いい女」だ(写真1)。主演男優2人に劣らぬアクションシーンも見事にこなしている。
 
 
 
 
 
写真1 ヒロインはデッカード(左)の妹のハッティ。いい女だ。 
 
 
  敵役のブリクストン・ロアを演じるのはイドリス・エルバで,『マイティ・ソー』シリーズで戦士ヘイムダルを演じた黒人男優である。短髪なのが残念で,どうせなら彼をスキンヘッドで登場させて欲しかったところだ(写真2)。監督は,『デッドプール2』(18年Web専用#3)のデビッド・リーチだ。自らもスタント・シーンが得意なアクション俳優出身であり,女性エージェントが主演の『アトミック・ブロンド』(17年11月号)も撮っているので,本作にはうってつけの起用だと言える。

 
 
 
 
 
写真2 敵役は人体改造を施されたブリクストン(中央)。頭頂部に毛がある。
どうせなら,スキンヘッドでトリオを構成して欲しかった。 
 
 
  物語は,拡散すると世界人類の半数を死滅させるという新型ウィルス兵器を巡る攻防で,MI6の女性エージェントであるハッティがこのウィルスを自らの体内に入れて確保する。彼女の体内からこれをいかに抽出するかが鍵だが,アクションサスペンスとしての展開は雑で,物語展開は少し強引とも言える。ところが,アクションシーンそのものが凄まじい。全編,ほぼそれだけなのだが,ここまで徹底すると立派というしかない。アクション映画好きも驚く出来映えと言っておこう。
 以下,当欄の視点での感想と論評である。
 ■ 舞台をロンドン,モスクワ,サモアと移し,それぞれで派手なカーアクション・シーンがある。それぞれで,かなりCG/VFXは使われているはずなのだが,どこまでが実車で,どこからがCGなのか,ほとんど判別できない。かなり激しいカースタントを,実車を壊してでもやってのけるシリーズだからだ。しかも,Production Notesもなければ,カーバトルの画像が殆ど提供されないから,記憶を頼りに,想像で論評するしかない。
 ■ まずは,瀕死のところを,人体改造を施されて蘇ったという敵役のブリクストンだ。まさにターミーネーターであり,何しろ強い。マシンと生身の人間では勝負にならず,正面からではホブスとショウの2人がかりでも敵いっこない。彼の肉体の一部もCGで描かれている。斬新なのは彼のバイクだ。自走して来て,彼が飛び乗るかと思えば,ボディ中心部が回転&変形して,トラックの下をくぐる(写真3)。このバイクを操る様が,頗るカッコいい。CGでしか描けない曲芸走行のシーンが続出するが,おそらく実際に疾走できる実物大のバイクも存在したのだろう。ロンドン市内で,デッカードが運転するスポーツカーを,ブリクストンがバイクで追うチェイスが最初の見せ場だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 ブリクストンのハイテク・バイクは,中央部が回転し,トラックの下も通過できる
 
 
  ■ 上記のチェイスに登場するデッカードの愛車はマクラーレン720Sだ(写真4)。ボンドカー並みにカッコイイ。ただし,この種の名車が並ぶ,本シリーズの原点たるストリート・レースは登場しない。よって,きちんとした名車の顔見せシーンもない。強いて言えば,デッカードはカーマニアらしく,彼の自宅の車庫にずらっとコレクションが並んでいるシーンがある。短いカットなので,よほどのマニアでないと車種も年式も識別できない。もう1箇所,ホブスの故郷のサモアで,兄が経営する修理工場でも名車と思しきクルマやバイクが並んでいたが,こちらはさらに一瞬だった。
 
 
 
 
 
写真4 デッカードの愛車はマクラーレン720S
 
 
  ■ 続いては,このワクチンを開発した敵方の研究所に潜入して引き起こす騒動が,2番目の見せ場だ。このラボの外観,内装やハイテク設備の大半はCGだと見て取れた(写真5)。ラボ内にあったバギー・カー(写真6)を奪って,デッカードと妹のハッティが脱出する。これは本作のために特注されたバギーのようだ。このバギーで引き起こす兄妹のカーアクション(写真7)も,ホブスが運転する軍用トレーラーへ飛び移るシーンも大迫力だ。V・カービーが自らスタントをこなしているようにしか見えないが,顔だけすげ替えているのだろうか? この巨大なトレーラーの破壊力もD・ジョンソンのイメージにぴったりだった。Fastではないが,Furious面重視で,スピンオフ作品だけあって,お上品なスポーツカーでは出せない荒々しさを打ち出している。
 
 
 
 
 
写真5 ラボ内では,こんなVFXシーンも登場する
 
 
 
 
 
写真6 ラボ内にあったオフロード用のバギー・カー
 
 
 
 
 
 
 
写真7 この2人は恋人同士でなく,タフな兄妹
 
 
  ■ 終盤の舞台は,ルーク・ホブスが25年振りに戻る故郷のサモアへと移る。D・ジョンソン自身,サモア人の血を引いているらしい。母や兄や一族が登場し,家族の絆が描かれているが,ベタベタした関係でないのが心地良い。銃がなく,土着の武器で闘うというのもファンサービスだ(写真8)。余談だが,ルークの母親を見て,小錦のお母さんを思い出した(小錦の両親はハワイ在住のサモア系アメリカ人)。さて,このサモアでのカーアクションはと言えば,ヘリがセミトラックを宙吊りにするシーケンスだ(写真9)。この画像を見る限りはいずれも実写に見えるが,トラック側が3台,4台と連結して行き,そのすべてを1台のヘリが持ち上げるシーンは,おそらくCGだろう。輸送機から実際にクルマを落下させるシーンまで実写で撮ったシリーズゆえ,どこからがCGなのか,簡単には論じられない。
 
 
 
 
 
写真8 棍棒や槍だけで敵を迎え撃つサモア人たち。D ・ジョンソン(中央)の体躯はまるでヘラクレス。
 
 
 
 
 
写真9 このシーンだと,ヘリもトラックも実物に見えるが…
(C) Universal Pictures
 
 
  ■ 間違いなくVFXなのは,映画の前半で,高層ビルの壁面を伝い降りる敵を,飛び降りて襲うシーンだ。技術的には新しくないが,アクション映画の掴みとしては上々の演出だった。CG/VFXの主担当は,DNEGで,他にFramestore, One of Us, Rise VFX等が参加している。プレビズはThird Floor,3D変換はStereo D社と,それぞれのトップ会社を起用しているのは,大作の大作たる証しだ。
 
 
  ()
 
 
Page Top
sen  
back index next