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O plus E誌 2004年12月号掲載
 
 
『ポーラー・エクスプレス』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
      (C)2004 Warner Bros. Ent.  
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年11月11日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
  [11月27日より丸の内ピカデリーほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  物語はよくできているが,動く油絵の評価は…?  
   監督ロバート・ゼメキス,主演トム・ハンクスといえば,アカデミー賞を取ったあの『フォレスト・ガンプ』(94)のゴーンデン・コンビの再現である。トム・ハンクス主演作は先月号で『ターミナル』を紹介したのに,後発のこの映画が追い越して1週間前に公開される。いかに早撮りスピルバーグ作品の後とはいえ,この大スターが2本も立て続けに登場するのはちょっと驚きだ。
 そう感じたファンは予告編を観て「何じゃ,こりゃ!?」と再度驚いたことだろう。どう観てもCG製のトム・ハンクスがそこにいて,声は本人そのもの,それでいてCGの表情がそっくりなのである(写真1)。そう,この映画はフルCGアニメなのだが,『トイ・ストーリー』(95)のような単なる声の出演ではなく,そのもののキャラに本人がセリフをつけている。挑戦精神旺盛なゼメキスらしい試みだ。確か『ファイナル・ファンタジー』(01)が話題になった頃,「いかにCG映像が進歩しても,人間の俳優を置き換えることはない」と話していたスターたちの中にトム・ハンクスもいたはずだ。それが数年経って,自分がしっかり主演扱いだと構わないということなのか。なるほど,こういう声の出演だけなら,手早く主演作が出来上がるわけだ。
 実は,この映画の制作過程はそう単純ではない。トム・ハンクスは,彼自身の顔をした車掌やサンタを含め5役を演じている。声だけでなく,モーション・キャプチャーでの演技を5人分演じた(写真2)。ただし,主演のヒーロー・ボーイ役の声は少年の声優が吹き込んでいるが,動きはトム・ハンクスだという。それでは身体のサイズが合わないので,大道具も小道具も1.6倍サイズに作り上げ,そこでトム・ハンクスの表情や動作をキャプチャーしたとのことだ。これはかなりの実験作品だ。本欄としては,真正面から取り上げて評価すべき記念碑的映画である。
   
 
写真1 声だけの登場でも,思わず本人かと思ってしまう。
(c) 2004 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
 
写真2 ずっとモーション・キャプチャで演技はご苦労様
 
     
    原作は,1985年に出版されたクリス・ヴァン・オールズバーグ作の同名の絵本で,日本では村上春樹訳の「急行『北極星号』」(あすなろ書房刊)として知られている。クリスマスもサンタの存在も信じられなくなった少年のもとに,12月24日23時55分に謎の汽車がやって来て,乗り合わせた少年・少女たちと北極点への冒険の旅が始まるという物語である。わずか29枚のパステル画の幻想的イラストを,ゼメキス監督は「動く油絵」と称して1時間半の長編CGアニメーションに仕立て直したというわけだ。話題性は十二分だ。
 製作サイドのセールストーク通りに紹介するならば,この映画には最新技術の「パフォーマンス・キャプチャー」が使われている。通常のモーション・キャプチャーなら数台から10数台程度のカメラで身体の主要な部分に取り付けた数十のガラス球(マーカー)を観測するところを,この映画では200台ものカメラを用意している。マーカーは,ボディ部に約60個に対して,顔面と頭皮には153個も着けてデータを計測している。表情から指先までしっかりと観測し,俳優の微妙な演技をCGキャラに伝えることができるので,これを「パフォーマンス・キャプチャー」と呼んでいる。
 その意気は買おう。冒険なきところに進歩はない。で,「動く油絵」の出来映えはというと,「油絵」の方は上出来だが,「動く」の方が実験作止まりに終わったというのが実感だ。映像の全体的タッチとしては『ファイナル…』にかなり似ていると感じられるだろう。少なくとも,ピクサーの『トイ・ストーリー』やPDIの『シュレック』とは明らかに画風が違う。登場人物たちの顔をリアルにし過ぎず,絵画調に留めたのは悪くない(写真3)。ヒーロー・ガールなどはゴーギャンの描いたタヒチの女性を思い出させるではないか(写真4)。
 
     
 
写真3 主人公のヒーロー・ボーイ
 
写真4 こちらがヒーロー・ガール
 
 
(c) 2004 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
 

 

 
   この人物たちに最初少し違和感があったが,やがてすぐに物語に溶け込むことができた。ところが,映画の後半,クライマックス部の重要なシーンとなると,どうも登場人物たちの表情の乏しさが気になった。俳優の表情をキャプチャーしてそのままマッピングするのには限界を感じる。大げさな表情でいいから,アニメータたちが動きをつける従来法の方が良かったのではないか。
  CGの担当はSony Pictures Imageworks。フルCGとなるとピクサーほどの演出技術がないが,随所に見事なシーンを見せてくれた。特筆すべきは,雪や灯りの表現だろう(写真5)。舞い散る雪も積もった雪も,素晴らしいとしか言いようがない。その半面,髪の毛や衣服の表現はまずまずで,最近の水準はクリアしているが,後述の『Mr. インクレディブル』ほどの驚きはない。皿,時計などの小道具,室内装飾を含む大道具も見事なシーンが随所にあった。サンタの乗る橇をはじめ,金属光沢のあるオブジェクトの質感が素晴らしい。大きなクリスマス・ツリー,圧倒的な数のサンタやトナカイもCGならではの表現だ(写真6)。
 

 

 
 
 
 
写真5 雪や灯りの表現は,アートタッチの自信作
(c) 2004 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
 
 

 

 
 
 
 
写真6 フルCGならではの魅力が一杯のシーン
(c) 2004 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
 
     
   この映画はIMAX 3D版も公開されるという。なるほどこのクオリティのフルCGならば,容易に3D版が作れる。列車の屋根の上をスキーのように滑り降りるシーン,ルージュやボブスレーのような溝を子供たちが落下するシーンなどはジェットコースターを彷彿とさせ,まさに3D版向けの演出だ。その他にも,3D版ではかなり飛び出して見えるのだろうと想像できるシーンが多々ある。
 これだけのCGの腕があるので,尚更キャラたちの表情の乏しさがこの映画の盛り上がりを欠いてしまった。
 『ファイナル…』の轍は踏むまいと意識していながら,やはりその呪縛から抜け切っていないというのが結論だ。それでも出来が数段上で,ハリウッド映画としてのクオリティを保っているのは,監督の腕の違い,原作の良さのためだろう。
 大阪での完成披露試写会では,帰りのエレベータの中で,初老のオッチャン(TV局関係者?)は「ようでけとるな。でも,期待したほどやなかったな」と語っていた。一方,若い女性たち(雑誌記者たち?)は「感激!良かったわぁ。××さんは涙ながしてたよ」「ヒットするかな? クリスマス向きやね。その後は苦しいかも」と話し合っていた。
 その通り,この映画はクリスマスにカップルで観るのが最適だ。子供たちを連れて行くのもいい。音楽も素晴らしい。ビング・クロスビーやフランク・シナトラの懐かしい歌声もいいが,ジョシュ・クローバンが歌うエンディング・テーマ「ビリーブ」が最高だ。早速サントラ盤CDを買って来て,それを聴きながらこの稿を書いた。クリスマス・ソングが大好きな筆者のコレクションの中でも,とりわけお気に入りの1枚になりそうだ。

(雑誌掲載と本ページでは,画像データがかなり異なる)
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