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O plus E誌 2011年12月号掲載
 
 
 
 
『リアル・スティール』
(ドリームワークス映画/
ウォルト・ディズニー・
スタジオ・ジャパン配給)
 
 
      (C) DreamWorks II Distribution Co. LLC

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [12月9日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2011年10月11日 大阪ステーション・シネマ[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ロボット格闘技の描写も未来機器のデザインも上々  
  12月号のトップを飾るのは,ロボットのボクシング試合を描いた正月映画である。TVでよく見るロボコンじゃないのか,ロボットのサッカー大会のRoboCupの間違いじゃないかと思ったが,正真正銘,ロボットがリングに上がり,大観衆の前で殴り合うボクシングである。「リアル・スティール」とはロボット格闘技の数あるリーグの中で最高峰に位置するリーグ名だ。
 といってもこれは実在する話ではなく,近未来を描いたSF映画上の出来事であり,2020年の社会が描かれている。設定としては,人間同士のボクシングは次第に廃れ,2010年頃から人間対ロボットの格闘技が始まる。人間のチャンピオンが敗れ去ったことから,2013年にはロボット対ロボットの試合がTV放送されて人気を博し,以後,人々はロボット同士の激しい格闘技を観て憂さ晴らしをするという時代設定,社会設定になっている。
 少し脱線すると,ロボコンはロボットコンテストの略称であり,手作りのロボット達が設定された課題達成を争う競技会で,1980代に日本で生まれ,世界各地に広まった。当初は有線・無線で遠隔操縦するものが大半であったが,最近は自律型ロボットも登場するようになっている。一方のRoboCup(ロボカップ)は,ロボット・サッカーのワールドカップを目指した競技会で,人工知能研究の応用という位置づけであり,最初から人間による遠隔制御はなしの自律型ロボットのみが出場できる。こちらも1993年に日本の研究者の発案で開始され,毎年世界レベルの大会が開催されている。
 では,リアル・スティールのロボットはと言えば,ロボコンと同じ,リモコン操縦のロボット・ボクサーばかりである。映画の後半,リモコンが壊れて以降は,ロボットがセコンドである主人公の一挙一動を観察し,瞬時に真似て行動するようになる。その観察・模倣機能自体は優れているが,テレプレゼンス・ロボットに分類すべきもので,これは自律型ロボットではない。
 前置きが長くなったが,本作品の製作総指揮は,スティーブン・スピルバーグとロバート・ゼメキスだ。今年になって,一体何本のスピルバーグ関与の映画が登場するのだ,と言いたくなるくらい露出度が大きい。監督は『ナイト・ミュージアム』(07年3月号) のショーン・レヴィ,主演は『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09年9月号) のヒュー・ジャックマンで,元人気ボクサーながら,夢を追い続けて落ちぶれ,妻子とも別れて暮らす日々をおくる無骨な男チャーリーを演じている。
 もう1つの柱は,父と子の物語だ。母を亡くした11歳の息子を2ヶ月間引き取ることになり,父と子の共同生活が展開する。ハリウッド映画であるから,結末は見えていて,気恥ずかしくなるほど父子の関係が深まり,感動のドラマとなる。その臭さがSF映画としての価値を減じているのが残念だ。以下,VFXのコメントである。
 ■ 撮影に先立ち16体のアニマトロニクス・ロボットが制作されたという。一部はそのまま遠隔操縦で使ったかも知れないが,主目的はデザイン検証と質感確認だろう。大半はCGによる描写と思われる(写真1)。『トランスフォーマー』シリーズを観れば,何が表現できても不思議はないが,ボクシングらしく見せるとなると,当然生身のボクサーの対戦をパフォーマンス・キャプチャしたはずだ。
 
   
 
 
 
写真1 ほぼすべてのロボットはCGで描写(上:大きさの目安で人間が演じる,下:CG合成後)
 
   
  ■ 新型旧型含め,ロボットのデザインは悪くない。日本へのリスペクトからか,漢字が描かれていたりする(写真2)。主役となる旧型ロボットの名前がATOMなのも,様々なSF映画へのオマージュ・シーンがあるのも嬉しい。少年がロボットと戯れる様(写真3)は『T2』を彷彿とさせ,『E. T.』(82)や『アイアン・ジャイアント』(99)らしきシーンもある。金属製ロボットの質感は3Dで生きるのに,この映画が3D作品でないのが残念だ。
   
 
写真2 日本製は存在感抜群。対戦シーンは,動きも質感も上々。
 
   
 
写真3 ちょっとT2を想い出すこの戯れのシーン
 
   
  ■ ATOMがチャーリーを真似て動作する機能(写真4)の実現性を大真面目に論じるなら,CPUが今より早くなれば,瞬時の模倣は可能だ。カメラが正対していないと動きの把握は苦しいと思えるが,別の場所にKinectセンサーが設置されていれば解決できる。最大の難点は音声認識で,あの喚声の中でセコンドの声を切り出し,識別することはほとんど不可能だと言える。
   
 
 
 
 
 
写真4 人の動きを観察し,瞬時に真似るという想定。実際には,ロボット役の俳優が真似て,その動きをMoCap合成している。
 
   
   ■ ロボット・ボクサーのリモコン装置(写真5)のデザインはなかなかクールだ。ノートPCのデザインはもっと素晴らしく,未来を感じさせる。HPのロゴが付いていたから,同社がスポンサーなのだろう。その種の未来機器を観るのもSF映画の愉しみなのに,父と子の絆ばかりを強調したがる配給会社の狭い料簡も困ったものだ。  
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写真5 ロポット操作用の端末も,画面内は後から合成
(C) DreamWorks II Distribution Co. LLC
 
   
   
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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