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O plus E誌 2002年7月号掲載
 
 
『アイス・エイジ』
(20世紀フォックス映画)
 
 
       
  オフィシャルサイト日本語][英語]   2002年5月29日 20世紀FOX試写室  
  [8月3日全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  先入観での食わず嫌いは大間違い  
   映画宣伝にとってポスターや予告編の出来は大きな意味をもち,公開が近づくと新聞広告やTVスポットが興行成績を左右する。アメリカ映画の場合,最近はいち早く伝わってくるBox Officeの順位やインターネットでの評判が影響を及ぼす。日米同時公開が増えているのはこのためだ。この映画の場合はその逆に,本国や他国での評判が食わず嫌いの日本人を映画館に向わせそうだ。
 このアニメ作品のチラシや予告編を目にし始めたのは,昨年の秋から年末にかけてだった。『シュレック』の大ヒットに続いて『モンスターズ・インク』はそれを上回る滑り出しを見せた頃だったが,このフルCG映画の予告編にはおよそ興味をそそられなかった。何やら得体のしれない動物の滑稽な顔立ち(写真1)は,バカバカしい映画の感じがして,食指は動かなかった。2Dアニメの『アナスタシア』(98)はまずまずだったが,2Dと3D-CG混在の『タイタンA.E.』(00)でコケた20世紀FOXが凝りもせずにというアタマもあったようだ。フルCGでディズニー対ドリームワークスの2大勢力に割って入れるとは思えなかった。『ファイナル・ファンタジー』(01)が惨敗した直後だっただけに,そういう先入観ができ上がっていたようだ。
写真1 リスとネズミから作った新キャラクタのスクラット
TM&(c) 2002 fox and its related entities. all rights reserved.
 ところが今年の3月中旬に公開されるや爆発的なヒットとなり,観客の評判も批評家の評価もおしなべて良い。こうなると現金なもので,試写会が待ち遠しく,使われている先進CG技術もしっかり事前勉強までしておいた。果たせるかな,本当に面白かった。試写室は終始笑いの渦に包まれていた。いや,いい出来ばえだ。
 時代は約2万年前の氷河期。マンモスのマニー,ナマケモノのシド,サーベルタイガーのディエゴの3匹が主役トリオだ。考え方も生き方も違う3匹が出会い,タイガーが狙う人間の赤ん坊ロシャンを拾ったことから,反目し,協力しあって,この子を人間たちのもとへ送り届けようとする。ストーリーは素直ながら中身が濃く,心温まる物語だ。
 この映画のCG担当は,NYにあるCGアニメスタジオのブルー・スカイ社。数年前20世紀FOX傘下に入り,LAのVIFX社と合併したと聞いていたが,いつの間にか分かれてFOXの単独100%子会社になっていたようだ。監督は,同社副社長のクリス・ウェッジ。彼が98年に製作した短編CGアニメ『Bunny』は,翌年のアカデミー賞で短編アニメーション賞に輝き,SIGGRAPH 99でも最優秀賞に選ばれている。これは,1年前のピクサー社の『Geri's Game(ゲーリーじいさんのチェス)』と同じ栄誉を得た名作だから,その意味では『トイ・ストーリー2』『モンスターズ・インク』並みのヒット作品を生み出す素地はあったわけだ。    
     
 
写真2 キャラクタの造形や背景は意図的に単純化されているが,水,氷,雪などの表現は素晴らしい。
(c)2002 TWENTIETH CENTURY FOX
 
     
   以下,この映画のCGに関する見どころである。
 ■登場キャラクタのルックスや背景を単純化してデフォルメしたのは意図的で,リアリティを捨てて親しみやすいキャラクタを目指したとのことだ。これはもともと2D作画アニメとして企画されていたのが,3D-CG利用に変更された由来にもよる。動きも同様で,モーションキャプチャに頼らず,昔懐かしいマンガ映画の味付けを重視している。
 ■ピクサー社のレンダラーが局所照明しか扱えないスキャンライン・アルゴリズムのRenderManなのに対して,ブルー・スカイは伝統的に大域照明のレイ・トレーシング法(以下,レイトレ)を使った「CGIスタジオ」にこだわってきた。この映画でもその方針は変えず,計算時間を要するレイトレを中心に据えた。キャラの造形や背景を単純化したのは,ここでポリゴン数を増やしたくなかったという事情もあるようだ。
 ■その代わり,レイトレならではの質感表現が随所に見られる。川の水面の反射(写真2左上)は見事の一言に尽きるし,氷の洞窟での半透明感(同右上)や氷の壁面への映り込み(同左下),岩肌や砂地の微妙な質感にもレイトレならではの味が生きている。雪の表面を踏むシーン,残された足跡などは,鏡面反射のレイトレに拡散反射のラジオシティ法をミックスした用法ならではの柔らかなタッチの表現だ。
 ■最近はフルCG作品でも,多様なレンダリング手法の結果を多重合成することが当たり前になっている。この映画は多重プロセスは極力避けているが,それでも炎,霞,吐息,砂埃などにはパーティクル法によるレンダリング結果を合成している。ただし,溶岩や滝の表現はイマイチだった。雪降りや吹雪にはこの映画のために新しい手法を編み出したようで,これが効果的に使われていた(写真2右下)。
 
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  オーソドックスな脚本の中に遊び心が生きる  
 
確か,あなたも昨年は見る気は起きないと言っていましたね。
先入観で判断してはいけないという見本です(笑)。おそれ入りました。面白かったです。
設定は『スリーメン&ベイビー』(88)を意識してるんでしょう。3匹のキャラの性格づけがいいし,シドのギャグがあるかと思えば,最後はホロッとさせますね。ロードムービー仕立てで,山田洋次の世界です(笑)。
動物がしゃべるのに,人間は言葉を話せないという設定も面白いです。話はオーソドックスで,イソップ的というか,ディズニーの世界に近いですね。『シュレック』はもう少し下品でした。それに,時々出てくるスクラット(写真1)のギャグが素晴らしかったです。
かつてのマンガ映画のドタバタの味ですね。この動物の鳴き声は監督自ら演じているそうです(笑)。
この遊び心がこの映画の幅を広げていると感じました。『ファイナル・ファンタジー』にはこの遊びがなく,真面目すぎて疲れましたから。
脚本のクオリティが違い過ぎますよ。これじゃかないません。また,CGリアリティではなく,ストーリーだという議論になりそうです。
ピクサーやPDIとは画風は違うけど,別のところでCGの実力を発揮していましたね。レイ・トレーシングというのは何が違うんですか?
何度も物体に当って反射・屈折する光を追跡計算する本格的方法です。計算コストがかかるので,最近は局所照明の近似的計算法が主流ですが,透明物体や鏡面反射のある表面の表現では質感がぐっと違います。
それで,水面や氷の場面が多かったのですね。
目玉もピカピカで,唇,舌,鼻,牙,爪などの光沢もそうです。
形は単純なのに,動物の毛の質感も良かったですね。『シュレック』のフィオーナ姫の髪の毛や『モンスターズ・インク』のサリーの毛とは,手法が違うことを感じますね。
自然史博物館に通って学んだというだけあって,ジオラマに登場する剥製の毛並みの感じが出ていました。
画風が違っていて,実力あるライバル・チームがいくつもあるのは楽しみですね。
ディズニーに負けじとブルー・スカイを手に入れた20世紀FOXの戦略が,ようやく生きてきたわけです。
 
   
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