head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD/BD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
 
title
 
O plus E誌 2010年10月号掲載
 
 
 
 
『ガフールの伝説』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
 
      (C) 2010 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [10月1日より丸の内ルーブルほか全国ロードショー公開予定]   2010年9月14日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  3Dを意識した構図だが,終盤の戦いは2Dでも圧巻  
   予想を上回る3Dブームである。今回の3D映画への意気込みや投資は本物だと感じて,本欄では一昨年の秋以来,3D作品の紹介や評価を積極的に行ってきた。映画だけでなく,家庭用テレビやゲーム業界も一斉に3D対応製品への舵を切り始めた。これが経済活性化,業界の投資意欲に繋がるなら喜ばしいことだが,過剰な期待は失速時に反動を招くのではないかと懸念する。本誌の読者の大半は,そう感じていることだろう。映画界ではまだまだ3Dへの興味は失せないだろうが,現在のような両眼立体視に頼っている以上,3Dコンテンツは家庭用市場では浸透しないだろうという見方もある。
 ブームの後追いで,国内の3D上映可能なスクリーン数も増えた。フルCGアニメはもとより,実写の大作も3D版が目白押しだ。CGは左右両眼の視点を自由に設定できるが,実写の3D撮影には,2台のカメラを設置するリグを用意し,眼間距離や輻輳角を調整するノウハウも必要となる。『アバター』(10年2月号)はそれをまともに達成していたが,『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)『タイタンの戦い』(同)では1台で撮影した単眼映像を1コマずつ「2D→3D変換」していた。最初から両眼映像を作っている一派は,そんな「2D→3D変換」は似非3D映像だと批判する。「フル3D」「リアル3D」なる用語は,両眼派が自らの優位性・正統性を主張するキーワードとなっている。
「風を感じるリアル3D」とのキャッチコピーをかざした本作は,フルCG作品である。監督は,CGアニメ初挑戦のザック・スナイダー。といっても,同監督の出世作 『300 <スリーハンドレッド>』(07年6月号)の大半のシーンはVFXで加工されていたから,CG利用の経験は十分だ。CG制作担当はオーストラリアAnimal Logic社。同社は『ハッピー フィート』(07年3月号)でフルCGを経験済みで,しかも同作品でオスカーを得ている。こちらも実績は十分であり,このコンビによる3D作品であれば大いに期待できる。
 原作はキャスリン・ラスキーのファンタジー小説「ガフールの勇者たち」で,フクロウの世界での戦いと勇気を描いたファミリー冒険ファンタジーとのことだ。これまでもフクロウが登場する作品はあったが,登場キャラの全部がフクロウというのは初めてだ。体形や色にそう変化はつけられないし,どう描き分けるのかが興味深かった。どうやら「カラフトフクロウ」「アナホリフクロウ」「サボテンフクロウ」「メンフクロウ」等の種類があり,主役級キャラには「毛むくじゃらの戦士」「空飛ぶ穴掘り名人」「頭が回る案内人」,敵役にも「恐怖のクチバシ」「肉食系悪女」等の性格付けがなされ,各々個性をもって描かれている。スチル画像だけ観ても,その質感の見事さに感心した(写真1)
 
   
 
 
 
写真1 フクロウの質感は静止画で観てもかなり上質
 
   
   と,ここまで書いて完成披露会に臨んだのだが,何と2D版の上映だった。最初から3Dで制作していたなら,なぜ3D版の仕上げが遅れるのか理解に苦しむが,仕方がない。2D版から3Dを想像することにした。
 そう思って観察すると,構図やカメラワークがなかなか興味深い。2Dで観ていても結構立体感を感じる構図が多い(写真2)。爆発や谷底への落下など,単純な飛び出しや奥行き感の演出はもとより,なるほどこういう風に配置しているのかと読み取れるシーンも数多い。きちんとデザインされ,モデリングされていて,労を厭わない姿勢に好感が持てた(写真3)。今,実写よりも,CGアニメの制作業界に優れた人材が集まっているからだろう。
 
   
   
 
写真2 アップのシーンでの兜は3Dで観れば効果的
 
   
 
写真3 これも3D上映を意識したと思しきシーン。いいデザインだ。
 
   
   前半は,フクロウのゆったりとした飛行シーンが多い(写真4)。ここで「風を感じる」という訳だろうが,3D版では酔ってしまわないかと気になる。ゆらゆら軽い酔いなら,それも快感だろう。一方,フクロウが羽ばたくシーンの見事さは嘆息ものだ。『スチュアート・リトル2』(02年8月号)では,CG製の鷹の動きをどう表現するか,これがCG最前線の話題であったことを鮮明に覚えている。その後のCG表現力の向上に,改めて感心する。  
   
 
 
 
写真4 羽ばたくシーンも飛行シーンも力が入っている
(C) 2010 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
 
   
   中盤,物語は少し退屈だが,終盤の戦いのシーンは大迫力だ。物語自体も,古代や中世の重厚な史劇の趣きがある。いかに擬人化したとはいえ,フクロウの表情の豊かさ,動きの複雑さ,バトルの激しさは圧巻だ。背景となる森の光景も,それに見合うだけの精緻さで描かれている。2D版でも十分で,これを3D化する必要があるのだろうかと感じた。いや3D版ならもっと迫力があるのかも知れない。その半面,偏光メガネや液晶シャッターメガネで光量が落ちるくらいなら,2D版の明るい画面でバトルを楽しむのも大いに価値がある。   
  ()  
   
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
   
<>br