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O plus E誌 2011年11月号掲載
 
 
ランゴ』
(パラマウント映画)
      (C) 2010 Paramaount Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月22日より新宿バルト9他全国ロードショー公開中]   2011年9月15日 角川試写室(大阪)
         
   
 
カウボーイ&エイリアン』

(ドリームワークス映画&ユニバーサル映画
/パラマウント ピクチャーズ配給)

      (C) 2011 Universal Studios
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月22日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2011年9月8日 GAGA試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  CG/VFXで演出する異色西部劇2本
 
 

 夏休みのファミリー映画から,秋シーズンは衣替えのように大人がじっくり観る映画が増えるが,今月は短評欄で良作が目白押しだ。メイン欄はCG/VFXの意欲作,異色作が並ぶ。まず俎上にして比べるのは,異色の西部劇2本である。この2本は,公開日も配給会社も同じなら,CG/VFXは両作とも老舗ILMが担当している。
 米国での公開は『ランゴ』が先で,何が異色かと言えば,この西部劇の主人公の保安官は,何とカメレオンだった。スチル画ではカエルのようにも見えるが,人間に水槽で飼われていたペットのカメレオンである。それがどういう訳か,モハーヴェ砂漠の先にある辺境のダートタウンにたどり着き,カメの町長から新任保安官に任命され,町から盗まれた貴重な水を取り戻す役目に就く(写真1)。この町の住人は,裏切り者のガラガラ蛇,殺し屋のアメリカ毒蜥蜴,銀行強盗のプレーリードッグ等,すべて動物である。ILMが担当というので,てっきり実写映画でふんだんにCG動物 が出て来るのかと思ったら,これはフルCGアニメだった。SFX/VFX本業のILMにとって初の挑戦であり,かなり気合いが入っていた。技術解説は今年のSIGGRAPHで聞いたが,例えば写真2の大鷲の羽ばたく姿だけでも相当な新技術が投入されている。

   
 
写真1 最大の魅力は,個性溢れるキャラクターの造形
 
   
 
 
 
写真2 鷲の羽ばたく姿だけでも,かなりのR&Dの結果
(C) Paramount Pictures. All Rights Reserved.
 
   
 

 原案・監督・製作は,『パイレーツ・オブ・カリビアン(POC)』シリーズ3作目までのメガホンをとったゴア・ヴァービンスキー。勿論,彼もCGアニメは初挑戦だが,何年も前から暖めていたネタで,CGならではの表現力で個性豊かなキャラを描きたかったという。ハリウッドの古き良き時代の西部劇好きという訳ではなく,1960年代のマカロニ・ウェスタン以来のファンらしい。主人公のランゴは「ジャンゴ」のもじりだとすぐ分かるし,この映画はエンニオ・モリコーネ調の曲をバックに始まる。
 カメレオンのランゴを演じるのは,POCシリーズでずっとコンビを組んだジョニー・デップだ。元々やくざな役柄が似合う俳優だが,このランゴはジョニー・デップそのもので,すぐに彼の顔が浮かんでくる。単なる声の出演ではなく,パフォーマンス・キャプチャを利用して,表情も動きもすべてランゴに写像しているので,まさに彼が演じていると言える。助演陣では,子ネズミのプリシラを演じるアビゲイル・ブレスリンと,ならず者の蛇・ジェイクを演じるビル・ナイがキマっていた。全編至るところに,著名な映画のパロディやオマージュが鏤められているので,映画通にはたまらない魅力だ。
 一方の『カウボーイ&エイリアン』は,2006年出版のグラフィック・ノベルの映画化作品である。『エイリアンVS.プレデター』(04)や『モンスターVSエイリアン』(09)は既にあったが,この組合せは初めてだ。地球外生物を西部開拓時代に登場させるだけで話題性は十分だろう。宇宙人が,映画に都合の良いようNYやLAにばかり襲来する方が変で,どの時代のどこに現れても不思議はない。製作総指揮はスティーブン・スピルバーグ,監督は『アイアンマン』シリーズのジョン・ファブローというから,エイリアンやマザーシップのデザインには一家言あるだろうし,SF的味付けの経験も十分なはずだ。
 こちらは実写映画で,主演の2人は生身の俳優である。ダニエル・クレイグが記憶を喪失したカウボーイ,舞台となる西部の町の顔役をハリソン・フォードが演じる。何しろ,007とインディ・ジョーンズである。とりわけ,D・クレイグのカウボーイ姿は,TVシリーズ『拳銃無宿』時代のスティーブ・マックイーンを彷彿とさせ,嬉しくなる。実は2人のうち片方がエイリアンであった,などというサプライズはなく,しっかりユニークな飛行物体が出現し,後でエイリアンも登場する(写真3)

   
 
 
 
 
 
写真3 見慣れた大草原や西部の町に,こんな飛行物体が現われ,墜落して,騒動を引き起こす
(C) Universal Studios and DreamWorks II Distribution Co. LLC
 
   
  どうせならハシゴして『ランゴ』も観て欲しい
 
 

 という異色の組合せだが,背景にはアメリカ人の,いやハリウッド映画人の西部劇への郷愁があると感じられた。設定は破天荒でも,町の美術セットはいずれもしっかり作り込まれていた(写真4)。もうそれだけで立派な西部劇である。2本を比べてみると,『ランゴ』が緻密な計算の上に創造性の高い映像作りを目指しているのに対して,『カウボーイ…』は題材の面白さを活かし切っていない感がある。二大スターの魅力は引き出せているが,エイリアンものの予定調和とはマッチしていない。危機感もカタルシスもない,中途半端な作品に終わってしまった。

   
 
 
 
写真4 フルCGで描いたダートタウン。気分は完全に西部劇。
(C) Paramount Pictures. All Rights Reserved.
 
   
 

 それでも,主人公の腕の謎の武器(写真5)は恰好良いし,UFOが地球人を吸い上げるシーン(写真6)や地下のシーンはILMらしい上質のVFXだ。ドリームワークス作品らしく,エイリアンは予告編には登場しないが,いつもの出し惜しみであり,終盤にしっかりその姿を現わす(写真7)。マザーシップが地中から上昇するシーンは圧巻だ。

   
 
写真5 この謎の武器が,なかなか魅力的
 
   
 
写真6 これがエイリアン風の神隠し
 
   
 
 
 
写真7 ようやく終盤に姿を見せる。ありきたりのデザインだ。
(C) Universal Studios and DreamWorks II Distribution Co. LLC
 
   
 

 造形という点では,『ランゴ』の方が数段上で,各キャラのデザインは目を見張る出来映えだ(写真8)。ビジュアル的には,『スター・ウォーズ』(77)のモス・アイズリーの酒場を意識した造形である。ジャバ・ザ・ハットそっくりのキャラを登場させるなど,遊び心も十分だ。それぞれの個性的なルックスの上に,俳優の表情や演技を見事に重ねている。リップシンクは完璧だから,この映画は絶対に字幕版で観ることを勧める。背景セットの作り込みも絶品であり,このデフォルメしたリアルさには,改めて「写実的」とは何かを考え直したくなるほどだ。

   
 
 
 
写真8 しっかりデザインされた個性的なキャラクターたち
(C) Paramount Pictures. All Rights Reserved.
 
   
 

 ピクサーのCGアニメは良質だが,ジャンルとしては伝統のディズニー作品の枠を超えていない。FOXの『アイス・エイジ』,ワーナーの『ハッピー フィート』両シリーズも同類だし,ドリームワークス作品は観客年齢層を少し上げただけだ。本作の映像表現は,実写映画のSFX出身のILMならではと思わせるもので,新しい映画作りに一歩踏み出したように見える。日本では,俳優の知名度から『カウボーイ…』の方がヒットするだろうが,その帰りにハシゴして是非『ランゴ』も観て欲しい。

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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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