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O plus E誌 2006年12月号掲載
 
 
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ライアンを探せ!』
(ウォルト・ディズニー映画
/ブエナビスタ配給)
      (c)DISNEY ENTERPRISES, INC.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月16日より全国ロードショー予定]   2006年9月23日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
   
 
オープン・シーズン』
(コロンビア映画
/SPE配給)
      (c)2006 Sony Pictures Entertainment (J) Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [[12月9日より日劇3ほか全国東宝洋画系にて公開予定]]   2006年10月15日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  似た者同士で相乗効果か,共倒れか  
   先月号の『アタゴオルは猫の森』でも触れたのだが,『トイ・ストーリー』(95)に端を発するフルCG長編アニメももう何本目か分からなくなった。この間,映画製作だけでなく,CG技術全般に果たした貢献は計り知れない。3D-CGとしての表現力向上はアニメに対してだけでなく,実写とCGを合成するVFX技術にも活用されている。さらに,ビデオゲーム,サイエンティフィック・ビジュアリゼーション,産業用のCAD/CAMにも大きな影響を与えている。CGクリエータの層は厚くなり,さ3D物体のスキャナや市販のモデラ,レンダラの性能向上にもつながっている。
 それゆえに本欄では1作毎にその技術的発展に賛辞を惜しまなかったのだが,ここまで作品数が増えると安直で類似した企画がはびこってくる。製作日数の短縮を強いられて,駄作・凡作が多くなるのも無理はない。この『ライアンを探せ!』などは,CGアニメ史に名を残すとすれば,その凡作ぶりに対してだろう。
 ニューヨークの動物園に住むライオンを中心とした動物たちが,ある日動物園を抜け出し,海を渡ってジャングルにたどり着き,野生に目覚める。あれっ,それは昨年観たドリームワークスの『マダガスカル』(05年8月号)じゃないか,と言われるのも無理はない。ライオン,キリン,カバ,シマウマの4匹が,ライオンの親子,キリン,コアラ,リス,ヘビの5種6匹のチームになっただけだ。原題は『The Wild』なのに,邦題を『ライアンを探せ!』にしたのは,父がはぐれた息子を探す『ファインディング・ニモ』を思い出させようという商魂からからだろう。
 ただし,ディズニー・ブランドのアニメであっても『ニモ』のピクサー作品ではない。同社との契約切れを恐れて,経営幹部が伝統あるDisney Feature Animationに路線転換を命じ,『チキン・リトル』(05年12月号)に続く3D-CGで企画した作品である。ピクサー社とは契約継続どころか,完全に傘下に収めてしまったのだから,もはや広報・宣伝に力を入れないのも無理はない。米国での公開も『アイスエイジ2』(06年5月号)『森のリトル・ギャング』(06年8月号)に挟まれた時期とあっては興行的苦戦も当然だ。
 一方の『オープン・シーズン』は,ソニー/コロンビア映画がこの分野に新規参入すべく,Sony Pictures Animation 社を設立しての第1作だ。CG制作は勿論傘下のSony Pictures Imageworksが担当している。同じImageworks制作で『モンスター・ハウス』が先にあったのだが,新会社ブランドを前面に打ち出したいのか,順序を入れ替え,この作品を冬休み/正月映画のメインにして,真っ向からディズニー作品にぶつけて来た。
 こちらは,人間のペットとして飼われていた熊のブーグが森に帰り,野生の仲間たちと協力して人間のハンター達を追い返すというものだ。Open Seasonとは狩猟解禁日のことである。おいおい,いくら子供たちが動物好きといっても,ここまで同系統が続くとは呆れる。家族連れも,選ぶ以前に区別がつかない。これじゃ相乗効果よりも,共倒れの可能性もあるなと心配する。

 
     
  意欲の差が,CG技術の差と仕上げの違いに  
   『ライアンを探せ!』での父子愛は『チキン・リトル』にも似ている。ライオンの子とヌーとの戦いは名作『ライオン・キング』をも思い出させる。要するに,勇気と家族愛・隣人愛という,どこにでもあるファミリー映画の無難なプロットなのだ。
 3D-CGの質は,最近の水準を十分クリアしていた。動物の毛も空も海もしっかり描かれている。写真1のシーンなどは良い構図だ。企画は安易でも,参加したアーティストの心意気が感じられる。ジャングルの描写も丁寧で,相当なポリゴン数に達していることだろう。数年前ならば,驚嘆し絶賛するレベルだ。勿論,動物たちのキャラクタ造形は多彩で,迷彩色で変化するカメレオンのコンビの使い方が出色だった(写真2)
 
     
 
写真1 この夕焼けシーンなどは細部にこだわりが…
(c)DISNEY ENTERPRISES, INC. All Rights Reserved.
  写真2 助演生物賞なら,このカメレオンのコンビだ
 
 
 
   『オープン・シーズン』では,主人公のブーグだけが人間に育てられたという点が多少物語の味つけになっているが,こちらも定番のストーリーの1つだ。ブーグと鹿のエリオットの凸凹コンビは,『モンスターズ・インク』(02年2月号)のサリーとマイクを思い出させる。いや『シュレック』(01年12月号)の怪人シュレックとロバのドンキーの関係にもっと似ている。要するに,この組み合わせも定番のキャラ設定ということだ。
 CGの質はこちらが一段上だった。写真3は写真1と比べても精細性でも芸術性でも勝っているだろう。何よりも,もうほぼ完成の域かと思われた体毛の表現にまだまだ上があった。ブーグの毛は,首,肩,背中,手足で微妙に毛の長さも密度も弾性度も変えてある(写真4)。デフォーカスの使い方も上手い。それゆえ動いた時も,水に濡れた時も,質感たっぷりの表現になっている。
 水の表現は元来PDIが得意として来たが,どうしてどうしてImageworksの表現力もすごい。写真5のような静止画では迫力を感じないが,動画で見ると素晴らしい水しぶきだ。流体力学と伝統的アニメーションの併せ技による効果だと言える。この他,ブーグの飼い主ベスの髪の毛の質感も秀逸だし,靴下の丁寧な仕上げにもこだわりを感じる。これはピクサーやPDIに追いつき追い越せという意欲の表われで,勢いが感じられた。
 ディズニーのことも弁護しておくなら,長年のアニメ制作で培った演出は馬鹿にはできない。この両作品は同じように,週末の午後,家族連れのマスコミ試写会が企画されて,日本語吹替え版で観た。子供たちが喜ぶギャグシーンは『ライアンを探せ!』の方が圧倒的に多かった。大人には何が面白いのか理解できないが,何か秘訣があって,子供たちを楽しませるコツを掴んでいるのだろう。
 
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写真3 こちらの夕焼けもかなり芸術的描写で対抗   写真4 毛の長さ・密度・質感などを微妙に使い分け
 
 
 
 
写真5 静止画で観るとそれほどでもないが,動画だと滝や水しぶきの表現にはかなりの進歩の跡が見られる
(c)2006 Sony Pictures Entertainment (J) Inc. All Rights Reserved.
 
   
   
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