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O plus E誌 2011年12月号掲載
 
 
インモータルズ ―神々の戦い―』
(パラマウント映画&コロン
ビア映画/東宝東和配給)
      (C) 2010 War of the Gods, LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月11日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー公開中]   2011年11月11日 TOHOシネマズ 二条
         
   
 
タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』

(パラマウント映画&コロン
ビア映画/東宝東和配給)

      (C) 2011 Paramount Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月1日よりTOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー公開予定]   2011年11月7日 TOHOシネマズ 梅田[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  物語よりも,ビジュアル面で圧倒する3D神話絵巻
 
 

 こちらは2本とも3D上映作品だ。先月のパラマウントピクチャーズ配給の異色西部劇2本を比較したのに対して,今月はこの東宝東和配給作品2本を比べてみよう。神話と童話をもとにした2作品である。公開時期はかなり離れているが,『インモータルズ―神々の戦い―』が11月号に間に合わなかったため,年末公開のフルCG大作『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』と同じ号になってしまった次第だ。実を言うと,予告編をちらっと観た段階では『インモータルズ』は,フルCGアニメだと思い込んでいた。それだけ壮大で,美的にも素晴らしいシーンの連続で,人物は『ベオウルフ/呪われし勇者』(07年12月号)タッチの描写に見えたのである。
 CGは多用しているが,正真正銘の実写映画かつ3D作品である。それで,題材がギリシャ神話の世界とくれば,真っ先に思い出すのは『タイタンの戦い』(10年5月号)だ。同作品で神々の名前や関係をかなり覚えたし,タイタンが多数の神の集合名詞であることも再確認した。本作では,全能の神・ゼウス,弟・ポセイドン,娘・アテナ,息子・アレス等,お馴染の神々が登場する。物語の骨格は,闇の神タイタン族を復活させて世界征服を目論む邪悪な王ハイペリオン(ミッキー・ローク)に対して,光の神であるオリンポス神々に選ばれた勇者テセウス(ヘンリー・カヴィル)が反乱軍を率いて対峙するという構図である。背景は分からなくても,正邪の区別は明確で,壮大な戦いを楽しめばいいという大作だ。
 監督は,『ザ・セル』(01年2月号) 『落下の王国』(06)のターセム・シン。「映像の魔術師」の異名をもつ,この美意識の塊りのようなインド人監督の作なら,物語の面白さは期待できないが,ビジュアル面の見どころは多々あると予想できた。まさにその予想通りの映画だった。衣装デザイナーに起用された石岡瑛子は,神々の金ピカの衣装や王国を見事にデザインしている(写真1)。甲冑のデザインも素晴らしく(写真2),その一方,ハイペリオンの軍隊の悪魔的な仮面も独創的である。

   
 
写真1 これが神々の国。背景の山はもちろん合成。
 
   
 
 
 
写真2 精悍な甲冑は日本人の手なるデザイン
 
   
 

 本作は 「『300<スリーハンドレッド』(07年6月号) 製作スタッフ最新作」と謳うだけあって,VFX満載の3Dアクション・スペクタクルであることをウリにしている。写真1の返しのカットで地上を見下ろすシーン(写真3),アポロンの矢の光跡なども惚れ惚れする出来映えだ。多数の戦士たち(写真4)の壮大な戦いは,『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ,『トロイ』(04年6月号) 等を相当意識していると思われる。VFXの主担当はTippett Studioで,他にScanline VFX, Image Engine, Proof, Inc.等の中堅スタジオも参加している。

   
 
写真3 返しのカットは,地上を見下ろす広大なシーン
 
   
 
 
 
写真4 『ロード・オブ・ザ・リング』を思い出すCG製の多数の戦士
 
   
 

 前述の 『タイタンの戦い』は色々な面で苦言を呈した作品だったが,反面教師としたのか,その欠点のほとんどは本作では見られない。本作も「2D→3D変換」によるフェイク3Dであるが,CGで描くレイヤの配置が絶妙で,むしろ効果的な遠近感を生み出している。この変換の担当はPrime Focus社だが,3D演出技法が随分進歩したことを感じる。随所に西洋の絵画を思わせる色調や陰影のシーンがあるが(写真5),そこに3Dの味付けがあり,さながら動く立体絵巻だと感じる。エンディングで多数の人や馬が天上に舞い上がるシーンは壮観だ。

   
 
 
 
 
 
写真5 色調も陰影もまるで西洋の宗教画のよう
(C) 2010 War of the Gods, LLC. All Rights Reserved.
 
   
 

 もう1つある。 『タイタンの戦い』に比べて,巫女パイドラ(フリーダ・ピント),女神アテナ(イサベル・ルーカス)が魅力的であり,美形度が向上していた。

   
  巨匠もついにフルCGアニメで3D作品に進出
 
 

 もう一本の『タンタンの冒険』は,半年近く前から予告編を流すという力の入れようだった。スティーヴン・スピルバーグと『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソンがタッグを組んだ超大作だという。またスピルバーグの名を使った営業戦略かと思いきや,P・ジャクソンが製作に回り,S・スピルバーグ自らが監督を務めている。同監督にとって,初のフルCGアニメかつ3D上映作品だ。映画の生字引であり,撮影現場重視主義者だった巨匠が,遂にここまでデジタル制作技法に達したというのは,当欄にとっても一大エポックである。そのCG担当は,P・ジャクソン作品を支えてきたニュージーランドのWETA Digital社で,この10年間でアカデミー賞視覚効果賞4回受賞のプロ集団である。ILMが先月号の『ランゴ』を手がけたのに続き,VFX界の雄が次々とフルCG作品に参入している。
 この映画の原作は,ベルギー漫画家エルジュ作の「タンタンの冒険旅行」で,少年記者タンタンが白い犬スノーウィとともに数々の事件に巻き込まれる童話コミックである。1930年代から描かれ,1940年代から何度も映像化されているらしいが,全く知らなかった。S・スピルバーグ自身も知らずに,『インディ・ジョーンズ』シリーズの公開後に,類似性を指摘され,初めてその存在を知ったらしい。既刊24巻の内,今回は3作を映画化し,2作目はP・ジャクソンが監督するという。
 原作の味を残そうとしたのか,登場人物はかなりシンプルな漫画風ルックスで,背景は相当手の込んだCGで描かれている。それ自体は普通のことだが,本作ではその差がかなり激しいと感じた。物語の鍵となる帆船ユニコーン号の模型も室内の木製の家具類も質感は抜群で(写真6),美術班の意向を汲み上げ,CGアーチスト達が磨き上げたに違いない。夜の雨の舗道も絶品だった。ここまで表現できるなら,一々セットは組まずに済むので,実写を使わず,何でもCGで描きたくなるだろう。町中でのアクションシーン(写真7)も同様で,精巧で美観溢れるCGセットをバックに,自由自在にカメラワークを試すことができる。これでは,映画美術のあり方そのものが変わってしまう。

   
 
 
 
 
 
写真6 模型の船も室内も,木の質感が素晴らしい。これじゃ何でもフルCGで描きたくなる。
 
   
 
写真7 屋外シーンも自由自在で,オープンセットは不要
 
   
 

 その反面,リアルすぎる背景が登場人物とミスマッチではないかと感じた。写真8のようなシーン,なるほど水面もボートも質感は十分だが,却ってフルCGで撮ることの意味を怪しく感じた。筆者が本作に今一つ感情移入できなかったのは,タンタン少年にも船長にも魅力を感じなかったからだと思う。この映画は,ハリポタ・シリーズのように生身の俳優を使い,必要な箇所だけCGで描いた方が良かったと思う。物語自体は,3つの巻物集め,秘宝の在り処を突き止めるという定番の宝探しで,昔読んだ「宝島」を思い出した。後半の盛り上げは悪くないし,映画ずれしていない少年たちはワクワクして観るに違いない。それゆえに,大人の観賞に堪えるには,フルCGでない選択をすべきだったと思う。

   
 
 
 
写真8 ボートも海水も質感は上々だが…… 
(C) 2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
 
   
 

 余談ながら,この映画は日本語吹替版で観る方がいい。字幕版だと,主人公の名前が英語読みで「ティンティン」なのが,どうにも気になった。もっとも,1960年代に放映されたTVアニメは『チンチンの冒険』だったというから,それよりは許せるのだが……。

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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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