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O plus E誌 2007年6月号掲載
 
 
300 <スリーハンドレッド>
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C)2007 Warner Bros. Entertainment Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月9日よりサロンパスルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2007年4月17日 ワーナー試写室(東京)  
         
   
 
アポカリプト』
(イコン・プロダクション
/東宝東和配給)
      (C) Icon Distribution, Inc. Photo: Andrew Cooper, SMPSP  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月16日より有楽町スバル座他全国東宝洋画系にて公開予定]   2007年5月10日 東宝東和試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  全編劇画調の大ヒット痛快戦闘アクション  
    今月は洋画スタートで,歴史アクションもの2作品をまとめて紹介しよう。かたや少数でペルシャの大軍に立ち向かったスパルタの勇者たちの武勇譚,もう一方はマヤ文明崩壊前夜の活劇と聞くと,日本人には馴染みが薄く,西洋古代の同じような話と想像しがちだが,内容も時代も随分違う。それでいて結構共通点も多いので,比較対照するのにうってつけだ。
  まず『300』の舞台はギリシャのスパルタ,時代は紀元前480年。ペルシアの大王クセルクセスの侵攻に対して,その屈辱的な要求を撥ね付けたスパルタ王レオニダスはわずか300人の戦士で,ペルシア軍100万の敵を向こうに回して戦い,3日間釘付けにする。ヘロドトスの歴史書に「テルモビュライの戦い」として記されているそうだが,どこまでが史実なのかは怪しい。
 重厚なギリシャ史劇を期待していたら,見事に裏切られる。『シン・シティ』(05年10月号)と同様,フランク・ミラーのグラフィック・ノベルを映画化したもので,単純明快なエンターテインメントだ。かつて『シン・シティ』を「コミック以上のコミック感覚が斬新」と評したが,この映画はそれ以上の新感覚映像である。血が飛び,首や腕が飛び,大量の死者が積み上げられるが,全く残虐さは感じない。すべての描写が漫画的で現実離れしているからで,日本の劇画の実写版だと言える。『シン・シティ』よりずっと面白く,『キル・ビル Vol.1』(03)が好きな人ならこの映画の痛快さも気に入るはずだ。米国で大ヒットしただけのことはある。
 監督・脚本は『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04年6月号)で新人監督らしからぬ腕を見せたザック・スナイダー。CF出身だけに,この映画でもテンポの良さ,絵図作りのうまさが感じられる。超人的なレオニダス王を演じるのは,『オペラ座の怪人』(05年2月号)で怪人役を好演したジェラルド・バトラー。鍛え上げた逞しい身体が印象的だ。多数の矢を受けての壮絶な最期は,弁慶の仁王立ちを思い出す。単に舞台をスパルタにしただけで,いつの時代にも通じる英雄伝説である。
 
     
  徹底したリアリズムでマヤ文明を再現  
   一方の『アポカリプト』の舞台は中央アメリカのどこかの村で,時代も明らかでない。マヤ文明と聞くとかなり古代を想像するが,最も栄えたのは紀元4〜8世紀頃のようだ。崩壊前夜というからには,この映画の時代は10数世紀らしい。何といってもこの映画の話題は,全編がマヤ語のセリフで貫かれていることだ。日本語字幕は一体誰が訳したのだろうと思うが,これは多分,英語版台本からの訳なのだろう。
 監督・製作は『ブレイブハート』(95)のメル・ギブソン。最近,目立った主演作は見かけないから,もはや製作・監督業に徹しているようだ。イエス・キリストの磔刑を描いた『パッション』(04年5月号)では,ラテン語とアラム語が使われていたが,その路線を踏襲し,徹底してマヤ文明をリアルに描写しようとしている。この点では,歴史をデフォルメしてビジュアル活劇に徹した『300』とは正反対のスタンスである。
 キャスティングは,ユカタン半島周辺を中心にメキシコ中を探して,演技力よりも風貌中心に俳優を選んだという。主人公のジャガー・パウに抜擢されたルディ・ヤングブラッドは,ボクサーでありクロスカントリーの選手だ。なるほど,槍や矢を避ける身のこなしは俊敏だし,森を駆ける姿も様になっている,歴史考証も綿密に行い,集落や建物の形態,衣服や装飾,タトゥの入れ方までも研究し,登場人物は頭のてっぺんから爪先までマヤ人を再現しているのだなと感じさせてくれる。
 そのリアルさがウリだとしても,パウの住む村の襲撃やピラミッドの頂上での生け贄の儀式はあまりにも残虐だ。なぜそこまでの描写が必要なのか理解できない。そもそも,この映画のテーマ自体がよく分からない。後半のパウの逃走と追撃シーンは手に汗を握るアクションの連続で,娯楽作品の色彩も強いことが分かる。『パッション』でも鞭打たれるイエスの受難が生々しく描かれていた。それは歴史の1コマだと言い訳ができても,この映画の題材にはそこまでの歴史的意味はない。
 
     
  共通点はデジタル撮影とVFXの効果的利用  
   映像表現に大きな隔たりはあるが,この両作品の共通項はデジタルカメラによる撮影とVFXの効果的利用だ。『300』はデジタル中間処理で彩度を落として幻想的なムードを高め,絵空事であることを強調している。そこに1300カットの視覚効果を加えることを前提にデジタル撮影されている。一方の『アポカリプト』では,暗いジャングルでの撮影や夜間シーン撮影にズームを利かせるなど,デジタルHDカメラならではの高感度を活用している。ハンディさゆえに,長回しにも有効だ。
 1300カットだけあって,『300』ではCG/VFXシーンが全編で登場する。担当は,Hybride Technologies, Animal Logic等だ。若き日のレオニダスが戦う狼は主としてCGだが,頭部だけのシーンはパペットも併用だ(写真1)。ペルシア軍が放つサイや象はフルCGだろう。写真2のように実写に中心に落下する兵士のみをCGで描いたり,腕や首がなくなった人間も巧みにデジタル加工で描き分ける。船や嵐や多数の兵士をCGで描くことは今や特筆すべきことではない(写真3)。それでも迫り来る多数の矢や死体の山(写真4)などはCGならではの光景だ。
 
     
     
 
写真1 狼はパペットとCG映像の併用
 
     
 
写真2 転落する兵士と背景だけCGで,他は実写
 
     
 
 
 
写真3 もはや見慣れたVFXとはいえ,この数はやっぱり壮観
 
     
 
 
 
 
 
写真4 飛来する矢の嵐や死体の山は,いうまでもなくCG技術の産物
(C)2007 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
     
   それに比べて『アポカリプト』でのCG利用はやや少ないが,大きな役割を占めている。ジャングルで登場する毒蛇や蜂がCGなのは当然として,冒頭で登場するバクや後半登場するブラック・ジャガーは,CGとアニマトロニクスの併用だろう。CGとしてはあまり良い出来とは言えない。アップのジャガーの顔がすごくリアルだと感心したが,そのシーンだけは鎖に繋いだ本物のジャガーを登場させ,あとで鎖だけ消したようだ。
 VFXの主担当はAsylum社で,この映画でも崖下の描写,滝から落ちる人物,沖の外国船などのシーンは定番のVFXだが,急流を渡るシーンや滝そのものは本物だ(写真5)。見せ場の1つ,マヤ都市の再現はなかなかのものだった。まず5m四方の模型(写真6)で都市設計しておいて,実際には広大なオープンセットを設けている(写真7)。その上で写真8のようなデジタル合成を達成しているが,映画ではもっと大群衆がいたから,さらにCGで群衆を敷き詰めたのだろう。内容の是非はともかく,一度観たら忘れない印象深い映画ではある。
 
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写真5 落下する人物はCG だが,この滝は本物   写真6 5m四方の模型はマヤ都市のデザイン用
 
 
写真7 オープンセットでの撮影風景。群衆はあとでCG合成
 
 
 
 
写真8 この背景はデジタル多重合成の結果だろう
(C) Icon Distribution, Inc., All rights reserved Photo: Andrew Cooper, SMPSP
 
     
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)   
   
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