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O plus E誌 2007年12月号掲載
 
 
ルイスと未来泥棒
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C)DISNEY ENTERPRISES, INC.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月22日より丸の内ピカデリー2ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2007年10月9日 TOHOシネマズ梅田アネックス[完成披露試写会(大阪)]  
         
   
 
サーフズ・アップ』
(コロンビア映画/SPE配給)
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月15日よりスカラ座ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2007年10月30日 東宝試写室  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  冬休みに昨年の名誉挽回を期すCGアニメ2本  
    丁度1年前のこの号の冒頭で2社の3D-CGアニメをまとめて紹介したので,再度同じ組み合わせで行ってみよう。伝統あるセル調アニメを捨てて3D-CGへの転換を図ったDisney Feature Animation (DFA)の『ライアンを探せ!』と,新たにSony Pictures Animation (SPA) 社を設立してこのブランドを売り込みたいソニー(コロンビア映画)の『オープン・シーズン』の2本だった。CG技術には少し差があったが,共に動物ものという食傷気味の企画で,いずれも凡庸な作品だった。
  まず,DFAの『ルイスと未来泥棒』は,『白雪姫』(37)以来70年の歴史をもつ同社の長編アニメで初めて「未来」を描くという触れ込みだ。今回,この映画の前に短編アニメ『ミッキーの造船技師』が上映されるが,ミッキーマウスに加えてドナルドやグーフィーも登場する1938年の名作である。昔の映画館では主要作品の前にニュースとこうした短編が上映されていたものである。そんじょそこらのにわかアニメ屋と違って,老舗の腕のほどを観て下さいという意味だと受け取っておこう。
 原題は『Meet the Robinsons』で,ウィリアム・ジョイスの絵本「A Day with Wilbur Robinson(ロビンソン一家のゆかいな一日)」をもとにしている。養護施設で育った頭脳明晰な発明少年ルイスは,ある日不思議な少年ウィルバー・ロビンソンに出会い,タイムマシンで未来へ連れて行かれ,彼の風変わりな家族と1日を過ごす。この未来世界で,ルイスの発明品「記憶スキャナー」を盗み出した謎の山高帽の男を見つけ出すが,彼は実は「未来泥棒」だった……。
 しっかりした原作があり,未来をウリにするだけあって,未来社会の描写や物語の展開はよくできている。タイムマシンは光沢感に溢れてピッカピカだし(写真1),ロビンソン家にある未来の実験室も素朴でありかつ夢がある。ただし「タイムマシン+家族愛」の物語は少し込み入っていて,主たる想定観客層である年少の子供たちには分かりにくいかもしれない。
 映像的には,CG技術の先進性を主張しないよう抑えているように感じた。それでも冒頭の養護施設から3D-CGらしい描写で始まり,未来らしさを強調したデザインに出会うと,ピクサー的な何かを感じてしまう。『モンスターズ・インク』(02年2月号)や『Mr. インクレディブル』(04年12月号)に通じるテイストだ。これは,ピクサーの御大ジョン・ラセターが同社とDFAの統括責任者を兼ねるようになり,この映画の製作総指揮も務めたためだろうか。
 ロビンソン一家のキャラクタ造形は秀逸で,楽しかった。なるほどディズニーの良き伝統だ。意図的かどうか,自社他社を合わせ,この映画にはどこかのアニメで観たキャラが続々と登場する。未来泥棒はフック船長にそっくりだし(写真2),アートおじさんはインクレディブル家の家長に,バドおじいさんはピクサー短編のゲーリー爺さんに,ロボットのカールはBlue Sky製『ロボッツ』(05年8月号)の主人公ロドニーによく似ている。多分,遊び心と敬意の表われの両方なのだろう。
 創始者ウォルト・ディズニーへの畏敬の念の表われは,科学の力で未来を拓こうとする発明家の少年を選んだことだろう。写真3は,映画の終盤に登場するルイス少年の部屋である。この素晴らしい1カットに,DFAのアーティストの誇りと,この映画を企画した意図が込められていると感じるのだが,いかがだろうか?
 
     
 
写真1 タイムマシン1号。光沢感は抜群。   写真2 悪役の未来泥棒はどこかで見た顔
 
     
 
 
 
写真3 はっと驚き,息を飲む発明少年ルイスの部屋。ピンナップ・ボードや工具の描き込みも綿密だ。
(C)DISNEY ENTERPRISES, INC.
 
     
  まだもてる映像表現力を活かし切っていない  
   対するSPAの最新作は,サーフィンのチャンピオンをめざす南極のペンギンの物語である。美しい海,リアルな大波,生きのいいサウンドで織りなす力作なのだが,少々評価に困る作品だ。
 既に 『ハッピー フィート』(07年3月号)という素晴らしいオスカー作品が生まれた直後に,同じくペンギンが主役のCGアニメを創る企画の甘さにも,冬休みにサーフィン映画を本邦公開するタイミングの悪さにも,呆れるとともに同情を禁じ得ない。9月号のSIGGRAPHレポートで述べたように,この映画はCG技術では特筆に値するレベルであり,オススメの一作なのである。
 穏やかな波,嵐の中の波のCG表現なら,既に色々な映画で実現済みであるが,サーフィン向きの大波となると勝手が違う。大波はlip, back lip等,8つのパートに分けて,それぞれの表現チームがいる。海面上の泡(white water)や水煙(spray)は,安易なテクスチャ・マッピングではなく,個々の計算モデルを立ててレンダリングし,連続的に押し寄せる波の表現には「Wave Train」という概念を導入して描いている。準備段階でサーファーの動きを徹底分析したのは勿論だ。写真4に示したのは,その成果のほんの一例だ。
 入り江や砂浜の表現は美しいし,そこに押し寄せる波もいい(写真5)。キャラクタ・デザインでは,子供のペンギンがすこぶる可愛いが,特にいたずら少年のアーノルドが出色だ(写真6)。物語は主人公のコディと伝説のサーファー「ビッグZ」の心の触れ合いが中心で,少々クサイ人生訓ではあるが,悪くない脚本だ(写真7)。
 という風に個別要素は悪くないのだが,沢山ネタを盛り込み過ぎて全体的なバランスが悪い。ディズニー作品よりは対象年齢層は上に絞っているのだろうが,何でそんな狭い市場をターゲットにするのかも不思議だ。
 両作品とも昨年よりは数段良いが,3D-CGという大きな表現力は得たものの,両社ともまだその活かしどころを模索している段階なのだろう。
 
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写真4 波のうねりや水しぶきの表現は,プロが取り組んだかなりの労作。海中のシーンも見事だ。
 
     
 
写真5 入り江や砂浜の表現チームも負けてはいない
 
     
 
写真6 ペンギンの子供たちが,ものすごく可愛い。右がアーノルド。
 
     
 
写真7 ビッグZや姪のラニとの交流は,結構いい脚本
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から削除・追加してします)  
   
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