O plus E VFX映画時評 2024年3月号

『FLY!/フライ!』

(ユニバーサル映画/東宝東和配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[3月15日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]

(C)2023 UNIVERSAL STUDIOS


2024年1月23日 東宝試写室(大阪)


『ニモーナ』

(Netflix)




オフィシャルサイト[日本語]
[2023年6月30日よりNetflixにて配信中]

(C)2023 Netflix


2024年2月8日 Netflix 映像配信を視聴

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


今回は窮余の策で, 少し変則のカップリング

 アカデミー賞結果を振り返る「第96回アカデミー賞の予想(+結果分析)」や大作『デューン 砂の惑星 PART2』を優先したため,この記事の執筆が遅くなってしまった。『FLY!/フライ!』はかなり早い時期に試写を観ていたのだが,一向に着手しなかったのは,何かカップリングに適した相手が出て来ないかと探していたことも一因である。
 当映画評のメイン欄では,しばしば同傾向の類似作品2本をペアにし,比較しながら論評してきた。とりわけ,CGアニメにそうすることが多く,春休み公開のファミリー映画が出揃う3月号はそれに適していた。この数年間だけでも,

 『モアナと伝説の海』『SING/シング』(17年3月号)
 『リメンバー・ミー』『ボス・ベイビー』(18年3・4月号)
 『SING/シング:ネクストステージ』『私ときどきレッサーパンダ』(22年3・ 4月号)

の形で組み合わせたし,昨年は「実写+CG」のファミリー映画とペアリングして,

 『長ぐつをはいたネコと9つの命』『シング・フォー・ミー,ライル』(23年3 月号)

の形で紹介した。夏休みや正月興行まで含めると,

 『ヒックとドラゴン』『トイ・ストーリー3』(10年8月号)
 『マダガスカル3』『メリダとおそろしの森』(12年8月号)
 『ペット2』『トイ・ストーリー4』(19年7・8月号)
 『アナと雪の女王2』『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』(19年11・12月号)
 『バズ・ライトイヤー』『ミニオンズ フィーバー』(22年Web専用#4)
 『マイ・エレメント』『ミラキュラス レディバグ&シャノワール ザ・ムービー』(23年8月号)

等々があり,合計は10数回に及んでいる。フルCGアニメに拘るのは,当欄は黎明期からの発展をずっと見守って来たからである。制作担当のCGスタジオの技量/得意技や,製作&配給会社の方針によってテーマや描画タッチに差があった。それで2本ずつ見比べて,映画としての出来映えを論評してきた訳である。
 その意味で,『FLY!/フライ!』のカップリング相手の出現を期待していたのだが,それに適した新作の公開がなかった。従来なら筆頭候補はディズニー組(本家WDAとピクサー)なのだが,かつては春まで寝かせてあった本家の最新作は昨年の内に公開してしまい(『ウィッシュ』のこと),夏まで新作のないピクサーはこの時期に旧作をリバイバル公開している始末である(『私ときどきレッサーパンダ』のことで,コロナ禍で劇場公開できなかったという理由)。
 やはり相棒がないと淋しく,イルミネーションと同じフランスのCGスタジオ作の『オリオンと暗闇』(24年2月号)と対にするのが最適だったのだが,前号の短評欄で慌てて書いてしまった。まさか『ドラえもん』の新作と並べる訳にも行かず,窮余の策として,この3月号の短評欄に入れた『ニモーナ』を強引に移設することにした。本来,同作は画像入りで語りたかったのと,加筆しておきたいこともあったからである。
 という恥も外聞もない変則カップリングであるが,ご容赦願いたい。


ストーリーとCGのバランスが絶妙で, 安心して楽しめる

 まずは「ミニオンズ」の勢いで,国内でも着実にヒットを連発するイルミネーション・スタジオの『FLY!/フライ!』である。実を言うと,題名とメイン画像を見た時には,これはピクサー作品だと思ってしまった。夏に『怪盗グルーのミニオン超変身』(7月号で紹介予定)が公開とアナウンスされていたこともあすが,何よりもピクサー社の短編には鳥がテーマの3作『フォー・ザ・バーズ』(00)『晴れ ときどき くもり』(09)『ひな鳥の冒険』(16)があり,いずれもかなりの逸品だったからである(内2本はオスカー受賞)。その流れからすれば,得意のテーマで今度は長編なのかと思った次第だ。原題は『Migration』で,渡り鳥の定期的な移動のことである。

【あらすじと登場キャラ】
 主人公はマガモの一家である。米国北東部ニューイングランドの池に,一家5匹で暮らしていた(写真1)。父マック,母パム,長男ダックス,長女グウェン,叔父ダンという名前まで付いている。本来は渡り鳥であるはずが,憶病者の父マックは,毎夜,子供たちに「興味本位で池を飛び出したカモたちを待ち受ける悲惨な末路」を語って聞かせ,自分でも「池にいれば一生幸せに暮らすことができる」と信じていた。ところがある日,南に移動中の渡り鳥の群れが彼らの池に立ち寄り,その自由な姿を見て憧れた子供たちは「外の世界を見てみたい」と懇願する。当初は頑なに拒んでいたマックも,家族の猛プッシュに耐え切れず,南のカリブ海の楽園・ジャマイカに向けて旅立つ決心をする。


写真1 マガモ一家(右から,パム,マイク,ダックス,グウェン,ダンの順)

【本編のテーマ設定】
 飛び立ってまもなく,大嵐に遭遇して不時着し,アオサギの夫妻の世話になる。続いて訪れたNYの街では,ハトの集団に脅されるが,その女リーダーのチャンプと親しくなる。彼女が親しいコンゴウインコのデルロイがジャマイカ出身であったことから,情報収集する内,檻から出て自由になりたいとの望むため,飼い主のレストラン・シェフの鍵を盗んで脱出させる。怒ったシェフにダックスとグウェンが捕まり,食べられそうになるが,父母の救出作戦が成功する。仲間も増え,デルロイの導きで,無事ジャマイカに到着する。
 その他,養鴨場に住むアヒルの集団とのエピソードも楽しく,エンドロールではペンギンたちを南極まで送り届けるオマケまで付いていて,実に楽しいロードムービーであった(空を移動するから,スカイムービーと言うべきか?)。完全にピクサー社のお株を奪った印象であり,ブランド名を伏せて見せたら,誰もがピクサー作品だと思うに違いない。CGアニメ史に残る名作扱いはされないだろうが,筆者は大満足で,大いに気に入った作品である。何が優れているのか言いにくいが,強いて言えば「ストーリーとCG描画のバランスが絶妙」で,それが作品の完成度を高めていると感じた。以下,そのそれぞれの長所を考えてみた。

【物語としての魅力】
 ■ ファミリー向きの寓話であるが,様々な人生訓が盛り込まれている。「じっとしていては何も進歩しない」というのが最大のメッセージであることは言うまでもない。反面教師として,「誰からも指図されないで済む。今のままでいい」と言うダン叔父さんが生涯独身であることを挙げている。結婚・出産を強要するなという自称リベラリストからは反発されそうだが,行動と努力が人生の可能性を開くことには誰も否定しないだろう。
 ■ 多くのロードムービーがそうであるように,道中で接する連中からも,多くのことを学んでいる。年長のアオサギのエリンに助けられ,スケバンかギャングの女ボスかと思わせたチャンプと意気投合し(写真2),アヒルのヨガ教室のインストラクターのグーグー(写真3)とも,ドタバタ劇を交えながら,楽しく,ためになるドラマを展開させている。一方,閉じ込められた檻から出たがるデルロイ(写真4)からは,不法入国した難民の悲惨な生活を象徴しているようにも思えた。


写真2 NYで出会ったハト集団の女ボスのチャンプ

写真3 (上)中央がインストラクターのグーグー, (下)彼女の指導するヨガ教室

写真4 故郷に戻ったコンゴウインコ(字幕ではオウムと表記)のデルロイ

 ■ 家族構成の描き方も見事だった。母から娘への躾け(写真5)や,飄々とした叔父の言動も味がある。トイレに行きたいが,見られていると用を足せないグウェンが可愛く,笑ってしまった。ずっと,しっかり者の妻(母)に頼りない夫(父)であったが,いざ危機となると父親が活躍して問題解決するというのが,ちょっと嬉しい。


写真5 飛びながら母は娘にマナーを教える

 ■ セリフ入りで登場する人間はシェフだけで,彼が悪役だが,これは物語上のスパイスだ(写真6)。彼のヘリから脱出し,急降下する危機はまさに冒険映画で,007やイーサン・ハント顔負けのアクションシーンである(写真7)。いやあ,楽しい。「怪盗グルー+ミニオンズ」の他に『ペット』『SING/シング』の2つのシリーズをもつイルミネーションだが,このマガモ一家もシリーズ化するのであろうか? その価値は十分あると感じた。


写真6 (上)悪役はレストランのシェフ, (下)正し、彼ガ作る鴨料理は絶品

写真7 (上)シェフの大型ヘリからの脱出作戦を敢行
(下)さすがにケージに入ったままの落下では, 脱出は至難の技

【ビジュアル面での魅力】
 ■ もともとイルミネーションが描くキャラクターの表情や体形は,ピクサーやDWAに比べると,かなり個性的かつ大袈裟なのだが,本作の鳥はデフォルメが極端で,表情も豊かだ(写真8)。それが,この物語にはプラスに働いていると感じた。


写真8 とにかく, あちこちで表情は豊か

 ■ 鳥の姿は漫画的だが,空を飛ぶ姿は美しかった。空気力学を使った物理シミュレーションまでは起こっていないだろうが,実際に空を飛んでいる鳥たちをよく観察して上での飛行シーンだと感じた(写真9)。よくできている。


写真9 (上)意を決し,一家で南に向かって旅立つ
(中)途中のビーチの上空を通過, (下)月夜の飛行も幻想的

 ■ CG技術としては特に大きな進歩は感じないが,風景描写はこれまでのイルミネーション作品の中では最も充実していた。池や沼の水の描写が精巧で(写真10),樹木や山々の描写も秀逸だ(写真11)。といっても,写実的にはなり過ぎず,味のある風景画のレベルに留めている。NYの街は,VFX多用作品やフルCGアニメにもよく登場するが,本作も特に大きな欠点はなく,物語との整合性がとれていた(写真12)。こちらも写実性が高過ぎはせず,これでリアリティは十分だ。


写真10 緊急着陸したアオサギたちの沼

写真11 景観の描写は写実的過ぎず, それでいて美しい

写真12 マガモたちもNYの秋を堪能した

 目的地ジャマイカの海や森は,殊更美しく描かれていた(写真13)。マガモたちは感激し,さすが楽園だと思えるレベルに達している。CG描画それ自体に全く問題はない。気になったのは,このアニメ映画より後で観た『ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ レゲエ・サンスプラッシュ』(24年2月号)で見た母国ジャマイカは,全く印象が違っていた。国民の大半は搾取されて困窮し,悲惨な生活を送っていた。1979年のドキュメンタリーであったから,現在の生活レベルは向上しているのかも知れないが,楽園と言えるほどではないだろう。鳥の目や旅行客の目に「楽園」に見えるだけだと思う。それは別問題として,ジャマイカの海や森が美しいことには変わりはない。ともあれ良くできたフルCGアニメで,次の『ニモーナ』に比べると安心して子供たちにも見せられる。


写真13 辿り着いたジャマイカは,鳥たちの地上の楽園
(C)2023 UNIVERSAL STUDIOS. ALL Rights Reserved.

生き残った意欲作だが, ファミリー映画としては疑問

 アカデミー賞長編アニメ賞部門のノミネート作というので,既にネット配信中の作品であった『ニモーナ』を急ぎ視聴して,2月号のメイン記事で紹介すると予告した。ところが,『沈黙の艦隊 シーズン1〜東京湾大海戦〜』の配信が始まったため,本作は短評欄に格下げした上に,2月号では書き切れず,ようやくアカデミー賞授賞式前に積み残し分として書き終えた。それが上記の理由により,再度メイン欄に格上げし,しかも他作品の相棒扱いで再登場する訳である。
 そもそも長編アニメ賞部門の候補となった本作は,GG賞にはノミネートされず,アカデミー賞に5本の枠に入って初めて存在を知った。前哨戦のアニー賞の結果にも注目したが,最多9部門にノミネートされたものの,2部門の受賞に留まった。アカデミー賞でも日本の『君たちはどう生きるのか』に破れて無冠に終わった。
 本作に対するCGアニメ業界にとっての関心事は,担当するCGスタジオと完成までの紆余曲折であった。原作は同名のグラフィックノベルで,その映画化権は旧20世紀Fox社が有していたため,傘下のBlue Sky Studiosが制作を担当し,2020年公開と予告されていた。『アイス・エイジ』シリーズでオスカー・ノミネート経験のあるCGスタジオゆえ,技術的には何の問題もなかった。ところが,2019年に20世紀Foxがディズニーに買収されたことによる混乱にコロナ禍が加わって,完成が遅れ,何度も公開日が延期された。その上,2021年になってディズニーが製作中止を決定し,Blue Sky Studiosも解散となる。ディズニー本流のWDAとピクサーの両方を有する親会社としては,当然の経営判断であったとも言える。作品は既に約75%出来上がっていたので,新興のAnnapurna PicturesとNetflixが権利を買い取った。監督も交替した上で,DNEG Animationをパートナ―として映画を完成させ,2023年6月30日から世界中に配信している。
 という曰く付きのCGアニメであるゆえ,判官贔屓でのアニー賞/アカデミー賞ノミネートとも受け取れる。その半面,時代設定がユニークで,Blue Sky特有の映像にも魅力があり,ノミネートまでは妥当とも思える。

【物語の概要】
 舞台となる王国は千年以上の歴史があり,封建的かつ排他的で,王国を守る騎士達はまるで中世の生き残りかと思える価値観で生きている。その半面,科学技術が極めて発達した文明国として描かれている。
 主人公はバリスター・ボールドハートで,騎士学校を首席で卒業した男だ(写真14)。その式典で女王グロレスから授与された剣が突然殺人光線を発し,女王が落命する。彼は女王殺しと見做され,親友の騎士アンブロシウス・ゴールデンロインに右腕を切り落とされ,投獄される。全てを仕組んだ真犯人は騎士学校の女校長だった(写真15)。彼女はバリスターの命を奪おうとするが,彼の脱獄を助けたのはモンスター少女の「ニモーナ」だった。彼女は火炎を吐き(写真16),様々な動物に変身できるスーパーパワーの持ち主で,相棒としてバリスターを助け,校長が派遣した追っ手と戦う……(写真17)


写真14 騎士学校を首席で卒業したバリスター・ボールドハート

写真15 女王殺しを画策した校長とバリスターを疑ったアンブロシウス

写真16 モンスター少女のニモーナは火炎を吐く

写真17 ニモーナはバリスターを助け, 動物に変身して戦える

 バリスター中心に眺めれば,王国の覇権を狙う悪人たちを倒す勧善懲悪の冒険物語である。動かせぬ証拠を突きつけられたアンブロシウスが校長を問い詰めるシーンも定番の展開と言える。そこに,ニモーナの過去,モンスターとして怖れられた少女時代から「嫌われ者」として生きてきた現在の姿があり,中世の魔女狩りを彷彿とさせる物語が加わる。表題になっているだけあって,彼女が別の意味でのもう1人の主役なのである。

【モンスター少女と近代文明の描き方のミスマッチ】
 中世の騎士や魔女がタイムワープして現代に現われたのではない。クルマが空を飛び,様々な最新情報機器が登場する都市空間に,中世的な貴族階級やその価値観を受け入れる民衆が住み暮らしているのである(写真18)。お尋ね者になったバリスターの画像が町の大きなディスプレイに表示され,所長の陰謀を暴く映像がネット上で流れるという社会なのである(写真19)。何でこんな奇妙な世界にしたのかと思うが,原作のグラフィックノベルがこういう設定をウリにしているのだから仕方がない。これを面白いと感じる観客もいると思うが,筆者には,このミスマッチが物語のエッセンスを高める役に立っているとは思えなかった。


写真18 中世かと思えば, クルマが空を飛ぶハイテク社会

写真19 お尋ね者は, こうやって街中にただちに知れ渡る

 そのエッセンスとは,「嫌われ者」同士の共感を求めて,バリスターに接触し,彼の逃亡を助けようとするニモーナの心と行動である。勿論,最後は少しほっとする結末で終わるが,ただただ激しく,攻撃的に見える少女の荒んだ心をどうやって癒すのかを,このアニメから少年少女が読み取るのは難しいと感じた。
 ニモーナはサイやクジラやゴリラのような動物に変身できるだけでなく,バリスターやアンブロシウスにも変身できてしまう。まるでイーサン・ハント級の変装術である。それが物語を面白くしているとも言えるし,安直なストーリー展開に陥っているとも思える。かく左様に,賛否が分れる物語であると感じた。

【2Dセル調に見せる独自のレンダリング技術の効用】
 悪人たちを倒す勧善懲悪物語と動物変身自在にだけ目を向ければ,お子様向きの童話の域を出ない。むしろ童話らしく見せようとしたのか,登場人物を2Dアニメ風に描いているが,技術的なベースは3D-CGである。いくつかの背景シーンを見れば,3Dモデリングの産物だとすぐ分かる(写真20)


写真20 どう見ても3D-CGで描いた夜景

 本作には,Blue Sky Studiosが『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』(15年12月号)の際に開発した「2D-stylization」技法を使っている。このため,日本の2Dアニメとはかなり趣きが違う。ベースが3Dなので,カメラワークの自由度が高い。その一方,すぐにWDA,ピクサー,イルミネーション,DWA等のCGアニメとかなりルックが違うことが随所で感じられる(写真21)。背景は写実性を高めたり,絵画風を強調したり,自由奔放で魅力的だ。


写真21 3D-CGでも, 少し絵画調にしただけでぐっと洒落て見える

 その反面,ニモーナが変身した動物たちは人間同様の漫画的なラフな描画のため,かなりチープに感じる(写真22)。人物はこのままでも,変身後の動物はもっとリアルに描いた方が迫力が増し,アニメとしても面白かったのではないかと感じながら観ていた。背景はそれに合わせていかようにもリアリティは調節できる。動物得意のMPCが実写映画で使うレベルのCGアニマルであれば万全だ。となると,そもそもこの物語は,実写映画化していた方が,ニモーナとバリスターの心の交流を克明に描けたと思う。


写真22 動物の描画がチープ過ぎて,迫力を感じない

 そんなレベルまで演じられる女優が見当たらないと言われるかも知れないが,ニモーナの声を演じたクロエ・グレース・モッツなら最適ではないか。『キック・アス』シリーズでスーパーヒーロースーツを身に着けた少女,『モールス』(11年8月号)では年齢200歳のヴァンパイアの少女,『キャリー』(13年12月号)では恐怖を感じた時に超能力を発揮する女子大生役を演じていた。ニモーナ役にこれほど適した女優は他にいない。Blue Sky Studios担当と決めた時点で,CGアニメが大前提であったと思うが,せめてニモーナの顔立ちをもっとクロエに似せ,動物をリアルに描くという選択肢はあったと思う。
 ついでに書いておくなら,彼女の声で観られる字幕版が数段良かった。日本語吹替版の声優は騒々し過ぎて,落ち着きがない。ハイテンポのアニメであるが,あれだけわめき立てられては,物語に集中できない。CGアニメの場合,字幕を観なくて済む日本語吹替版も結構好きなのだが,本作は字幕版で観ることをお勧めする。

【LBGTQシーンについて】
 筆者が本作に高評価を与えたくない最大の理由は,LGBTQ描写の部分だ。映画の冒頭から,バリスターとアンブロシウスがゲイであることを露骨に表現している。Blue Sky Studiosの制作中から「CGアニメ初のLGBTQ」をウリにしていたのが,ディズニーの最終的支持を得られなかった原因との噂もある。拒否したディズニーの方が健全と思える。
 今や流行を通り越して,ヒット映画の不可欠要素のような扱われ方だが,これは映画通のためのインデペンデント映画ではない。「10歳以上指定」のお子様映画に,ハッピーエンドの象徴として,公衆の面前で大人の男性2人が手を繋いで歩き,キスするシーン(写真23)まで入れる必要があるのだろうか? こんなシーンなど見たくもない。童話なら「深い友情で結ばれた親友」で十分ではないか。暴力やセックスシーンに視聴年齢制限を設けておきながら,同性愛礼賛と思えるシーンの挿入にはとても賛成できない。ゲイの人権を認めたり,同性愛婚を認めることと,それを露骨にファミリー映画で見せることは別問題であると思う。


写真23 こんなシーンを小中学生に見せるのは, 不適切にもほどがある!
(C)2023 Netflix

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