O plus E VFX映画時評 2024年3月号

『デューン 砂の惑星 PART2』

(ワーナー・ブラザース映画)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[3月15日より丸の内ピカデリー他にて全国ロードショー公開中]

(C)2023 Legendary and Warner Bros. Ent.


2024年3月8日 109シネマズ グランベリーパーク(IMAX)[先行上映]

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


この続編は, 全編をIMAXカメラで撮影

 待ち遠しかった映画がやっと届いた。言うまでもなく,2年半前の『DUNE/デューン 砂の惑星』(21年9・10月号)の続編である。その紹介記事の小見出しには「格調高いSF大河物語の序章」と書いた。当然シリーズ化するとの前提でいたのだが,公開時点ではまだ続編の製作は確約されていなかった。今回は堂々と「PART2」と名乗っている。続編であるということだけでなく,これで完結編ではなく。「PART3」まであることを示唆している。監督のドゥニ・ヴィルヌーヴも,そこまでは自分が担当すると明言している。
 おそらく,PART3もほぼ同時進行で,一部は撮り終えていることだろう。詳しくは後述するが,前作をも凌ぐ大作に仕上がっている。前作の公開後の好評を得てからゴーサインが出て,PART3の撮影も含めながら2年半でこの続編を出せるというのは,むしろ早いくらいだ。おそらく,監督は当然そうなると予想して,かなり事前準備を進めていたのだと思われる。大局観があり,超大作を寸分の隙もなくなく仕上げることができる希有な才能の監督である。彼に匹敵するのは,ピーター・ジャクソンとクリストファー・ノーランくらいしか思い当たらない。
 前作は,当欄では「私の選んだ2021年度ベスト5&10」の総合評価Best 1に選んだ。アカデミー賞では10部門にノミネートされ,撮影賞,美術賞等の6部門でオスカーを得ている。当欄が年間のBest 1にするくらいであるから,当然,視覚効果賞も受賞している。作品賞は受賞できず,監督賞にはノミネートすらされなかったのは,『ロード・オブ・ザ・リング(LOTR)』3部作と同様,アカデミー会員たちは完結編のPART3まで待っているのだと思われる(余談だが,当欄の総合評価Best 1作品は,『1917 命をかけた伝令』(20年Web専用#1)から『ゴジラ−1.0』(23年11月号)まで4年連続で視覚効果賞を得ている。その前年のBest 1『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)は,米国と日本の公開年の違いから,アカデミー賞は『1917…』と同年の扱いであったから,両方の受賞は有り得ず,5年連続にはなりようがなかった)。
 前作は,かなりの部分をIMAX認証カメラ(Arri Alexa LFとArri Alexa Mini LF)で撮影し,当然IMAXスクリーンでの上映が推奨されていた。IMAX方式の基本知識は,前作の紹介記事の付記で述べた通りである。本作はそれをさらに発展させ,全編を一貫してIMAXカメラ(Arri Alexa LF)で撮影したという。となると,監督からの試写時の上映方式への注文も厳しくなり,小さな試写室でのマスコミ試写は全く許可されなかった。生憎,大阪での内覧試写の日程が合わなかった。それでは3月15日の一般公開時に映画館で観るしかなく,記事を書くのが遅くなってしまうと懸念したのだが,幸いにもIMAXとDolby Cinema限定での先行上映が3日間実施された。勿論,前作のビデオを前日に再点検した上で,先行上映初日にシネコンに出かけ,細部までじっくりチェックした。その後,すべての予告編と公開されているメイキング映像を熟視して本稿執筆の準備をし,本日を迎えた訳である。
 もう少し楽屋裏を述べておくなら,上記の先行上映は,国内に約30館あるIMAXレーザー方式での上映スクリーン(アスペクト比1.90:1)での視聴であった。それを観終えてから,どうせならIMAXレーザー/GTテクノロジー方式(アスペクト比1.43:1)でも眺めてみようという気になった。日本には東京・池袋と大阪・箕面の2館にしかない。池袋の空席を検索したところ,残る2日間はほぼ満席で,最前列の数席しかしていなかった。まるで大物アーティストのコンサートか阪神タイガースの公式戦チケット並みの入手困難情況で,プラチナチケットである。さすがに最前列でこの方式の大スクリーンを166分間見上げると首が痛くなるので,止むを得ず断念した。邦高洋低と言われる日本の映画興行事情の中で,本作の先行上映にここまで関心が高いことに驚いた。SFファンなのか,ヴィルヌーヴ・ファンなのか,目が肥えた観客の一部が当欄を観るとすれば,これは迂闊なことは書けないなと身を引き締めた次第である。


物語は分かりやすくなり, VFXは前作の延長線上

 本作の米国公開は,当初は昨年の11月3日公開予定だったが,俳優組合のストライキの影響で今年3月15日に延期になり,ストが早く集結したため,2週間前倒しの3月1日の公開となった。日本では5日間の前倒しに留まった。この時間差の間に,本作を高評価する記事がネット上で散見された。中には,「数年に一度の傑作で,これに匹敵する作品はこのPATT3まで出て来ない」と絶賛するコラムまであった。筆者はそこまでとは感じなかったが,意欲作で,ハイクオリティ映画であることは間違いない。以下では,あくまで当欄の視点でのVFXシーンの出来映え,IMAX視聴の是非等を中心に,本作を分析・論評する。

【前作との関係,PART2の内容】
 映画はいきなり前作のラストシーンから始まり,完全な続編であり,少し唐突に感じたという声や記事もあった。そんなことはない。それは内覧試写での仮バージョンであり,未完成映像であったに違いない。映画館での先行上映は入場料を取る以上,既に完成版に違いない。そこでは,しっかりと前作の概要が付されていて,その後ワーナーとレジェンダリーのオープニングロゴの後,続編の物語が始まる。
 前作のあらましが好くできていた。前作の冒頭とほぼ同じで,母(ジェシカ)と子(ポール)が声に出さず依頼をするシーンから始まる。要するに2人が特殊能力をもつ主要登場人物であることを意識させ,続いて彼らアトレイデス家が砂の惑星アラキスに移されて来たこと,そこに皇帝とハルコンネン家の陰謀で帝国軍が攻め入って,父・レト侯爵が殺されること,かろうじて逃げ出した母子2人だけが,先住民のフレメンの民と遭遇し,彼らと行動を共にするところまでが語られる。
 要するに,大きな権力をもつ皇帝の下で,両家が対立拮抗していたことは説明済みで,ここからはポール君が艱難辛苦の末,父の敵を討ち,民衆を味方にして頂点に立つ物語であろうことは容易に想像できる。宇宙が舞台であるが,典型的な貴種流離譚であり,前作を未見の観客でも,ポール・アトレイデスが源義経かルーク・スカイウォーカーのような存在であると理解できる(実は,SWシリーズがSF小説「砂の惑星」を参考にしたのだが)。2.5年前に前作を観ていた観客が大半を忘れていたとしても,このイントロだけでほぼ思い出せるよう配慮されている。
 さて,続編である。物語の展開は,多くの雑誌やネット記事で語られているが,要点を整理しておく。
 ■ 前作の終わりで,ポール(ティモシー・シャラメ)は,フレメン一族の掟に従って決闘を求めてきたジャミスを倒し,フレメンに加わることを許された。ただし,母子ともに特別扱いでなく,フレメン文化を理解し,その習慣に慣れることを強要される。母レディ・ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)は,元々女性だけの秘密結社ベネ・ゲセリットの一員であったが,フレメンの教母が瀕死の状態であったため,その後を継ぐことを求められる。厳しい儀式を経て,過去の教母たちの記憶と知恵を引継ぎ,一段とパワーが増した神秘的な存在の教母となる。
 ■ 一方のポールには,彼らと同レベルで砂虫(サンドワーム)を乗りこなすことが求められ,それを習得する。さらに一族に伝わる預言により,彼らに繁栄をもたらす救世主として扱われるようになり,こちらもその試練に耐えて,リーダーとしての信頼を得る。教母,預言者(字幕では「予言者」になっていたが,こちらが正しい),救世主,原理主義等,ベースとしてユダヤ教やイスラム教の教義があることが見え隠れし,信仰や伝統が重要視されている。相変わらず,リサーン・アル=ガイブ,クウィサッツ・ハデラック,ムアルディブ・ウスル,サーダカー,シャイー=フルード等々,聴き慣れないカタカナ用語が頻出するが,一々定義を知らなくても,前後関係から理解できるよう,それを助ける会話が用意されている。
 ■ ハルコンネン家側では,当主ウラディミール・ハルコンネン男爵(ステラン・スカルスガルド)の甥で冷酷無比なフェイド=ラウサ(オースティン・バトラー)が頭角を表わす。兄ラッバーンの不始末を補う存在として皇帝に気に入られ,新たな支配者としてアラキス星に送り込まれる。最後にポールとの一騎打ちになることは容易に想像できる。
 ■ 前作でポールの予知夢に登場したチャニ(ゼンデイヤ)は,フレメンの若い娘として現実的な存在となり,大方の予想通り,ポールとは恋人関係になる。砂漠の中のラブシーンは,見どころの1つだ。砂漠が美しく,このカップルもお似合いだ(写真1)。終盤近くまでは,このラブラブ関係は維持されるが,それがどうなるかは観てのお愉しみとしておこう。


写真1 美しい砂漠がラブシーンを引き立てる

 ■ 不思議な存在の女性が2人登場する。1人はパーディシャー皇帝ジャッダム4世(クリストファー・ウォーケン)の娘イルーラン(フローレンス・ピュー)で,本作のナレーターとして物語を牽引する。謎多きこの皇女がポールとどのような関係になるかも,観てのお愉しみとしておこう。もう1人は,妊娠中である母ジェシカの胎内にいる女児アリア(アニャ・テイラー=ジョイ)で,即ちポールの妹である。まだ胎児なのに名前があって,母と会話することができ,ポールには若い女性の姿で見えたりする。常識では考えられない超常現象,神秘的な存在だが,そういう物語だと理解しておかないと少し混乱する。おそらくPART3では,皇女イルーランと並んで,物語の鍵を握る存在なのだろう。
 ■ この妹アリスの存在以外は,物語は極めて分かりやすい。前作がやや駆け足気味だったのに対して,166分の長尺の大半は人物描写に費やされていて,登場人物間の関係も物語の進展も完全に把握できる。この物語が描くのは,権力,家族,復讐,対立関係だそうだ。前作とPART3との橋渡し部分で,ややもすると退屈しがちな接続部に過ぎないが,見事な脚本と演出で全く冗長に感じないし,退屈もしない。終盤のフレメン軍と皇帝軍の戦いが少し駆け足気味だが,全体としては166分を長く感じない見事な演出であった。

【主要登場人物の描かれ方とその印象】
 ■ 主人公のポールは,前作でも出番は多かったのだが,ひ弱で存在感が薄かった。ラストの決闘以外は,まさに貴種の惣領で,イケメンではあるが人畜無害の公家の息子のような存在であった。演じるティモシー・シャラメは,本作との途中に『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(23年12月号)の主演があっためか,すっかり顔馴染みになり,演技力も向上したと感じる。本作では,どんどん大人っぽい男性に変身して行く。冒頭に前作の映像(即ち,3年以上前の登場場面)が長めにあったため,余計にそう感じる。本作も途中まではチャニとのラブロマンスが似合う二枚目であったが,終盤は軍を率いて戦う男の風貌となる(写真2)。気のせいか,声も男っぽくなっている。終盤の変心には驚いた。彼はルーク・スカイウォーカーではなく,実はアナキン・スカイウォーカーのモデルだったのか,それじゃダークサイドに墜ちてしまうのかと思わせる。


写真2 あの美青年も, すっかり男っぽくなった

 ■ 母レディ・ジェシカも出番も多く,存在感は前作以上だ。妊婦という設定であり,つわりのシーンはあるが,体型的には妊婦と感じさせない。「教母」なる名称と救世主の母という位置づけから,聖母マリアのような柔和で敬虔な存在を想像してしまうが,この教母は苦難に耐え,敵対勢力と戦う女性である。おまけにスーパーパワーまで有している。妊娠出産を体験しながら,旧態依然とした男性中心社会を生き抜いて行く現代女性の範たる存在のように描かれている(写真3)。演じるレベッカ・ファーガソンは勿論熱演で,この役が代表作となるだろう。各映画祭でいくつも助演女優賞を受賞すると予想できる。ただし,オスカーを得るには,公開時期が早過ぎるのがマイナス要因になるかも知れない。
 ■ チャニもまたポールの恋人役から,物語の進展とともに戦う女性の側面が強くなる。演じるゼンデイヤは,前作では,トム・ホランド主演の『スパイダーマン』シリーズのヒロインMJそのままのコケティッシュでチャーミングな女性だった。長身で,黒人と白人のハーフで,歌まで歌えるとなると,時代の申し子のようなスターである。その彼女が,どんどん独自の個性的なチャニへと変貌し,こちらも現代女性を象徴するような描かれ方である(写真4)。本作を境に,MJよりもチャニ役が代表作と扱われることだろう。彼女も上記のR・ファーガソンと並んで各種映画賞にWノミネートされると思われる。


写真3 砂漠の民の教母となった母ジェシカ
写真4 キュートだったチャニも戦う女に

 ■ 新登場組の代表は,皇女イルーランを演じるフローレンス・ピューだ。前半は顔を殆ど見せず,落ち着いた声のナレーションが魅力的だった。終盤になって,皇女として登場し,こんなに若くて可愛かったのかと驚いた(写真5)。過去に出演した代表作は,『ミッドサマー』(19)と『ブラック・ウィドウ』(21年7・8月号)である。前者では主役扱いで,スウェーデンの村で生贄になる女子学生役だったが,同年配の女性が多数いた上に,あまりにおぞましい映画だったので,彼女の美醜を気にしている余裕はなかった。後者では,ナターシャ(スカーレット・ヨハンソン)の妹分の暗殺者エレーナ役であったことをよく覚えている。エレーナは女スパイとして凛々しかったが,この皇女は可憐で初々しく,随分印象が異なる。世の男性観客の大半は,戦う女となったチャニとこのイルーランを並べて見ると,イルーランを選んでしまうに違いない。そう思えるメイクで見せているのだが,これならポールが心変わりするのも無理はないと思えてしまう(笑)。勿論,ことはそんなに単純でなく,ポールの態度にも裏があるのだろうが,PART3で女同士の争いがどうなるのかが楽しみだ。
 ■ もう1人の重要な新登場人物も,前出演作との見かけの変わりように驚いた。冷酷で残虐なフェイド=フェイドのスキンヘッドの顔立ちは不気味で,いかにもサイコパスの敵役らしいルックスだ(写真6)。これが2年前に『エルヴィス』(22年Web専用#4)で,セックス・シンボルのE・プレスリーを演じていた男優とはとても思えない。元々さほど顔立ちは似ていなくて,頭髪をリーゼットカットにし,もみ上げを長くすれば,誰でもエルヴィスに見えただけだった。それを顔立ちも仕草もエルヴィスそっくりだと評した批評家たちは,この悪役姿を見てどう思うのだろう? ともあれ,本作では典型的なヴィランを見事にこなし,さすがプロの俳優だと感じた。クライマックスのポールとの決闘シーンはもっと長くても良かったのに,少し短過ぎた。おそらく,編集段階でかなりカットしたのだろう。


写真5 可愛く可憐な皇女イルーラン
写真6 この悪役俳優が誰だか分かりますか?

 ■ 他の助演陣も豪華だが,既に名前を出した皇帝とハルコンネン男爵では,皇帝は新登場で,男爵は継続出演だ。男爵の極端な肥満体型の特殊メイクは改めて見る価値があり,皇帝が貧弱に見えてしまう。ポールを助けるガーニイ・ハレック(ジョシュ・ブローリン)とスティルガー(ハヴィエル・バルデム)は引き続き,男くさい存在感のある役として登場する。女性陣では,ベネ・ゲセリットの教母ガイウス・ヘレン・モヒアム役のシャーロット・ランプリングは引き続き登場し,新たに同結社の一員で皇帝の親友のレディ・フェンリング役で,人気女優のレア・セドゥが新登場する。PART2では出演場面は少なかったが,彼女もPART3での出番が増えるのだろう。全体として,前作のPART1に比べて,PART2では女性の登場シーンが多くなり,存在感も増したと感じた。これも時代の流れなのだろう。

【砂漠での撮影とCG/VFXの見どころ】
 前作では公開されているVFXシーンの映像が少なく,メイキング情報も殆どなくて苦労したが,2作目ともなると情報も映像の露出も増えてきた。前作のBlu-ray Discの特典映像として,種々のメイキングの手の内が解説されていた。本作を含めたBehind Scenesの映像や主要登場人物のインタビューがYouTubeで公開されているので,それらを頼りに以下の解説を構成した。
 ■ まずは,前作のVFXシーンの分析から始めよう。飛行物であれ,建物であれ(例えば,前作の解説の写真12),異様に大きいと物体として描いていた。空中ではそう大きく感じないが,地上の人間を極めて小さいので,相対的に巨大な物体であったと感じさせる仕掛けだ。写真7は,皇帝の伝令官がアトレイデス家の領地である惑星カラダンにやって来て,惑星アラキスに移動することを伝えるシーンである。さほど大きいと見えなかった球形の乗り物だったが,地上に降りて底部から使者たちが降り立った途端に,観客は思ったよりも大きかったと気付く訳である。香料収穫期や帝国軍の戦車もかなり大きかった。写真8は,それがもっと極端だ。ここまでの大きさの違いを見せつける映画はこれまでになかった。CG/VFXが利用できるゆえにできる芸当である。


写真7 (上)伝令官が乗った球形の輸送機, (中)底部が開く(ここまではCG)
(下)出迎える人々と比べて, 輸送機の大きさが実感できる

写真8 PART1に登場する輸送機。こちらはもっと巨大。

 ■ PART2でも同じ技法が踏襲されている(写真9)。我々の現実世界では,巨大な建築物や飛行物体を作るには,それだけコストがかかるだけでなく,物理的制約から全く新しい工法が必要となるので,ここまで大きくはしない。利用する人口を考えると,実用上,ここまでの大きさは必要がない。群衆シミュレーションを積極的に導入して,CG製の兵士が多数押し寄せたり,戦闘するシーンを描いたのは『ロード・オブ・ザ・リングス』3部作だったが,兵士の数はここまで多くなく,城郭も大きくなかった。それは地球上の建築物である以上,いくら大権力者の居城であっても,本作ほど巨大である必要がなかったからだろう。言わば,地球上の常識が通用していた。本作は,他の惑星上の物語であるから,重力も空気密度も地球とは異なると言い訳すれば,いくら巨大化してもおかしくはない。写真10は皇帝とハルコンネン家が主催するセレモニーのホール,写真11はフェイド=ラウサが闘う闘技場である。大きさもさることながら,デザイン的にも斬新だ。これもCGあっての産物である。同様に,救世主であるポールがフレメンの群衆の前に登場するシーンでも,群衆の数がこれまでとは桁違いに多い(写真12)。従来のスクリーンでは,ここまで小さな人物を描くと識別できなかったが,IMAX上映なら十分見えるとアピールできる訳である。おいおい,フレメン軍の兵士はせいぜい数百人と言っていたのに,一般大衆はこんなに沢山いるのかと突っ込みたくなる。見下ろす側からすれば,これでいいかも知れないが,群衆からは救世主の姿は視認できない。闘技場もしかりで,バカでかい入れ物を作って大観客を収容できても,これじゃ闘いの模様は小さ過ぎて視認できないだろう。その意味では,こんな形で映画のスケールを大きく見せるのは邪道だと感じた。


写真9 (上)砂の中での戦闘シーン。兵士の数は少なめ。
(下)皇帝の前での閲兵式。さすがの北朝鮮も顔負け。

写真10 デザインは秀逸だが, ここまで巨大だと壇上が見えない

写真11 (上)形状もユニークで, 観客数も圧巻, (下)勝ち誇るフェイド=ラウサ

写真12 救世主となったポールを慕う群衆の数に驚く

 ■ 前作では何度も登場したユニークな羽ばたき機オーニソプターの画像がようやく入手できた(写真13)。このオーニソプターと砂虫(サンドワーム)のデザインに関しては,前述の特典映像で詳しく解説されていた。6枚羽根のトンボ型の飛行機であるが,まずCGでデザインして,その後試しに実物大模型かミニチュアを作ったのかと思ったのだが,そうではなかった。まず,あれこれと試行錯誤して実物大機を製作し,後からCGモデル化したそうである。1トン以上あるこの実機を砂漠まで運んだというから畏れ入る(写真14)。そう言えば,実際に人が乗り込んで,目的地に到着するシーンがあった。そのため人が入れる大きさの実物大機が必要だったのだろう。本当に飛べる訳ではないので,6枚羽根はCGで描き加えたという。それなら,スタジオ内撮影してVFX合成しても済むはずだが,砂漠内のロケ場所までもって行くというのが本シリーズの矜持なのだろう。


写真13 PART1に登場した6枚羽根のオーニソプター

写真14 胴体部だけ実物大で作り, 砂漠の撮影現場まで運んだ

 ■ 前作では,もう1種類,ジェシカとポール母子が乗る2人乗り機が登場していた。この小型機も実物大模型が作られ,2人の搭乗後に飛び立っていた(写真15)。前作では,これが本作のシンボルだと言わんばかり何度も登場していたが,このPART2では少ししか登場しなかった(写真16)。前作を観ていない観客には,普通の輸送機のように見え,6枚羽根であることに気付かなかったかも知れない。


写真15 (上)2人乗りの小型機も実物大で制作, (下)飛行シーンは当然CG製

写真16 PART2での出番はほんの少しだけ

 ■ オーニソプターの登場シーンは減ったが,一方の砂虫の登場シーンは大幅に増加していた。その前に,砂漠での撮影に触れておく必要がある。前作にも増して本格的な海外ロケを敢行し,アブダビ,ナミビア,ヨルダン,イタリア等に出かけ,その他の主要な撮影はハンガリーのブダペストで行ったという。特徴的な岩山や崖はヨルダンで,砂漠はナミビアでの撮影のようだ。続編となると慣れたのだろうか,砂漠の砂の描写が繊細になり,多彩になったと感じた。砂嵐は激しく吹き荒れるだけでなく,戦闘シーンを包むかのように,わずかに吹いていることもある。天候を予測するのが巧みになったとも思えるし,CGで描き加えているのかも知れない。その区別はつかない。いずれにせよ,高精細のIMAX上映で,砂の粒子の細かさが克明に見えることをウリにしている。同様に,砂漠の砂を踏みしめる音,砂嵐の音もヴィヴィッドに伝わって来る。戦場の喧騒もしかりだ。本作はIMAXシアターでしか観ていないので,そうでない場合と比べられないが,IMAXを選択して損はないと思う(Dolby Cinemaの体験は少ないが,余り良い印象がない。その劇場の調整が下手だっただけかも知れないが)。
 ■ 砂虫の登場シーンは,このPART2の最大の見せ場である。フレメン族が砂虫に乗って移動するというのが原作にある記述だが,前作にはそのシーンはなく,ようやくPART2で登場した訳だ。その原理として,①砂丘の頂上に振動発生装置サンパーを差し込み,砂中に振動を与える,②砂虫がそれに反応してやって来て,砂丘が崩れる,③崩れ落ちる砂丘の上にいた人間が砂虫の上に乗り移る,というアイデアのようだ。砂虫を制御するには,鉤爪のような器具を体内に差し込んで操縦するようだ。馬術競技や競馬で,馬の口に銜(ハミ)をくわえさせ,騎手が手綱を引いたり緩めたりして意思伝達するのと同じ原理である。ポールがその技をマスターして,フレメンの民並みに砂虫を操れるまでの過程が見ものであった(写真17)


写真17 (上)砂虫の操縦方法の教習風景, (下)習得すると低い姿勢で操縦(競馬と同じ)

 ■ 砂虫の砂中での移動やそれを利用して敵を襲うシーンが見事だった。すべてCGによる描写かと思ったが,単純な移動は,砂の上にカーペットを敷き,その上に砂をかぶせてカーペットを引っ張るという原始的な工夫をしたという(写真18)。大型の砂虫を何匹も操って,敵を殲滅するシーンは,さすがにCG/VFXの産物だろう(写真19)。もうこのシーンを観ただけで,「砂の惑星」の映画化は成功だと思える。


写真18 砂虫の砂中移動は, カーペットを動かして描いたそうだ

写真19 (上)多数の砂虫を操って襲撃,(中)口を開けて襲いかかる
(下)散り散りに逃げ惑う敵軍の兵士たち

 ■ 砂虫がらみでは,幼虫を水中に放って大きくし,体内から水分を抜き出して「命の水」を得るVFXシーンが出色だった。その他にも,溶岩の雨や,いくつかVFXならではの攻撃や爆発シーンがあったように思うが,あまり記憶に残っていない(写真20)。全体としては,前作の延長線上にあり,驚くほどの進歩は感じられなかった。砂虫がユニークであることを除いては,VFX大作としては平均的な出来映えだと思う。CG/VFXの主担当はDNEGで,他にはWylie Co., Rodeo FX, Territory Studio, ReDefine, MPC, Digital Domain等が参加していた。


写真20 他にも色々VFXシーンはあったが, 記憶には残らなかった
(C)2023 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

【総合評価】
 結論を先に言えば,丁寧に作られた見事な続編であった。細部にまで心配りが行き届いており,当初から3部作で伝説のSF小説の実写映画化を仕上げるという監督の構想と意欲が感じられる作品だ。その3部作の真ん中の,ややもすると中だるみで退屈に感じるPART2を,しっかりと引き締めている。
 実を言うと,観終わった直後はやや物足りなさを感じた。クライマックスであるはずのピーターとフェイド=ラウサの決闘シーンが短めだったからである。おそらくもっと長く,激しい決闘シーンは収録済みであったが,それでは上映時間が長くなり過ぎるので圧縮したのだろう。冷静に考えれば,彼らの決闘は繋ぎのPART2にとって,さほど重要な出来事ではなく,ここを盛り上げても大きな感動が得られる訳ではない。その後に続くチャニの行動の方が大事で,彼女が砂虫を呼び出して,一体どこに向かおうとしているのかと思わせることで,観客にPART3への期待を抱かせる。チャニだけでなく,ピーターとイルーランの関係,それを気にする母ジェシカの行動,出番が少なかったレディ・フェンリングの次作での役割,確実に本格的に登場するはずの妹アリスは……等々,女性中心にPART3がどうなるのか興味は尽きない。そう感じさせるのがPART2の役目だ。
 終盤近くに派手なアクションシーンを期待してしまうのは,我々観客がハリウッド大作の手口に飼いならされているからだろう。『ワイルド・スピード』シリーズ『ミッション・インポッシブル』シリーズなら,そうした外連をたっぷり盛り込んだはずだ。いま思い出したが,ポールの未来予知能力,ジェシカ母子の無言ヴォイスによる意思伝達も,その後は殆ど登場しない。マーベルのMCUならそれを乱発するに違いない。
 この監督はそんな映画は作るつもりがないのだろう。PART2で人物描写と会話を重視して,物語を分かりやすくしたのは,彼が描きたい映画をこの中締めで理解させたかったからと思われるSF史に残る名作扱いされているが,「砂の惑星」は退屈な小説だ。半世紀前に全巻購入した文庫本4冊を1巻目に放り出してしまった筆者には,分かりやすく描いてくれたこのPART2は大満足である。
 褒め過ぎたかも知れないので,少しだけ苦言を呈するなら,ビジュアルセンスにかけては,ジェームズ・キャメロンやピーター・ジャクソンには敵わない。同じ尺と量でVFXシーンを入れるなら,美的センスが卓抜したVFXスーパバイザーを重用してもらいたい。来たるPART3にも視覚効果賞のオスカーを得て欲しいので,公開が『アバター3』と同年にならないことを願っている。

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