O plus E VFX映画時評 2024年1月号掲載

私の選んだ2023年度ベスト5&10


 昨年の当欄では,集計対象が変則であることの言い訳を長々と書いた。O plus E誌の隔月刊の紙媒体が休刊となり,入稿/校了日の制約がなくなったことが主たる要因だった。その揺り返しで,今年もそのルールを少し変更した。読者にとっては,結果だけ知れば十分だろうが,ルール改訂は明記すべきことと考え,一応書いておく。
 今回の対象は,以下である。

   2023年1月号(除く,前回対象とした分=2022年内に試写を観た作品)
      〜同12月号 +(ゴールデングローブ賞ノミネート作で2023年内に試写を観た作品)

素直に12月号掲載分で打ち切らないのは,昨年と同様で,GG賞候補作はアカデミー賞の候補となる可能性が高く,その授賞式までに国内公開されていた作品が約1年後の当欄でランクインするのは,白けてしまうからである。それを回避するための集計対象の拡大だが,さすがに1月号の大半まで拡げるのはやり過ぎだったので,GG賞候補作に限定した訳である。最終結果は殆ど変わりはないが…。
 過去数年分と今回の対象作品数は,以下の通りである。

・2019年 メイン 44本,短評 180本
・2020年 メイン 26本,短評 165本
・2021年 メイン 29本,短評 195本
・2022年 メイン 39本,短評 229本
・2023年 メイン 38本,短評 208本

 (以前にも述べたが)2020年に一気に落ち込んだのは,言うまでもなく新型コロナウィルスの影響であり,一時期映画館が閉鎖されたり,新作の上映が激減したためである。映画興行が復活した後もVFX多用作のメイン記事の回復が遅れたのは,公開延期となっていたハリウッド大作が小出しでしか戻って来なかったのと,新作の制作も止まっていたからだ。一方,短評分がコロナ禍前よりもかなり増加したのは,単館系作品の場合,試写室でのスクリーン試写よりも,オンライン試写が主流になったことが寄与している。マスコミ試写がバッティングせず,いつでも観られるので,筆者らの視聴機会が増えたのである。
 2022年から2023年で短評分が激減しているのは,2つ理由がある。1つは上記の集計対象の拡大を限定したためである。もう1つの原因は,電子媒体のみになって,紙幅制限がなくなり,メインも短評も紙媒体時代の2〜3倍の長さで書いているためだ。その結果,時間がかかるので,メインにすべきVFX多用作の一部は短評欄で済ませ,玉突き式に,試写は観ておきながら低評価の映画は紹介を見送った。数えてみると,これが20本以上もあった(かつては数本程度)。レベルの映画である。最近,評点が少し甘いと思われているなら,そうではない。低評価分を掲載しなかったため,結果的に平均点が上がっているのである。
 さて,肝心のBest 5&10だが,「総合評価部門」は例年通り,メイン作品のから5作品を選んだ。今回は38本中の10本が対象だったが,順位ですら全く迷うことなく,すんなりとBest 5を選べた。こんなに楽だったことはない。特筆すべきは,邦画の『ゴジラ−1.0』がBest 1であることだ。この欄は2000年公開分から始めたので,24年目にして初めて邦画がトップなのである。山崎貴監督作品をずっと応援していたのは,愛読者なら既にご存知のことだが,依怙贔屓なしに当欄の年間Best 1 だと評価できる。素直に嬉しい。もっとも,『アバター』(10年2月号)や『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)の年なら,そうはいかなかっただろうが……。ともあれ,本場米国での評価も高く,アカデミー賞視覚効果賞部門にノミネートされることを期待したい。
「SFX/VFX技術部門」は昨年だけ1位を選んだが,その前の過去5年間のスタイルに戻してしまった。即ち「総合評価のBest 5」の該当作品を外し,かつ選んだ5本に順位をつけない方式である。CG/VFX技術の進歩により,充実したVFXシーンが多くなり,全体としてはつけ難い。映画の価値を高める使い方で評価すれば,それは「総合評価部門」とほぼ同じになってしまう。よって,それを外して,せめてVFX的にだけ頑張ったと言える映画を,この部門にリストアップしている。ほぼVFXシーンの多い5作品と考えてよい。映画全体の評点とは関係ない。
そう考えて選んだのだが,今回の5作品の映画としての価値は低かった。何と,上から順にである。それもVFXの貢献を少し加点しての評価だ。こんな駄作群にために,日程重視,低賃金で日々酷使されているCG/VFXアーティストたちが哀れだ。
「その他の一般作品部門」は,短評208本中の評価は22本だった。評価を厳しくしたつもりはないが,前年の28本からかなり減っている。それでもいずれも秀作であり,10本を選んで順位をつけるのは迷いに迷った。対象拡大で滑り込んだのは,1月26日公開予定の『哀れなるものたち』だけである。前年のアカデミー賞受賞作からは,7部門受賞の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(23年3月号)と脚本賞受賞の『ウーマン・トーキング 私たちの選択』』(23年6月号)が残った。日本映画は前年同様2本がランクインしたが,特筆すべきは役所広司主演の『PERFECT DAYS』(23年6月号)だ。よほど同点1位にして,「総合評価」と2部門でトップの快挙と書きたかったのだが,少し作為的に過ぎる気がしたので,公平な評価の2位に留めた。それでも1位とは「ハナ差」程度で,国際的に十分通用するので,アカデミー賞の「国際長編映画賞」の候補となることを期待したい。


◆◆総合評価◆◆
 1. ゴジラ−1.0
 2. ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
 3. ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3
 4. スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース
 5. ジョン・ウィック:コンセクエンス

◆◆SFX/VFX技術◆◆(「総合評価」分を除く。公開順で,順位なし)
 ・アントマン&ワスプ:クアントマニア
 ・トランスフォーマー/ビースト覚醒
 ・ザ・クリエイター/創造者
 ・マーベルズ
 ・ナポレオン

◆◆その他の一般作品◆◆
 1. キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
 2. PERFECT DAYS
 3. エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
 4. 哀れなるものたち
 5. ウーマン・トーキング 私たちの選択
 6. Air/エア
 7. ポトフ 美食家と料理人
 8. せかいのおきく
 9. 小さき麦の花
 10. 熊は,いない


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