O plus E VFX映画時評 2023年7月号

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』

(パラマウント映画/東和ピクチャーズ配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[7月21日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES.


2023年7月5日 TOHOシネマズ日比谷[完成披露試写会(東京)]
2023年7月12日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


文句なしの極上アクション・エンタメ,シリーズ最高傑作

 シリーズ7作目である。第1作『ミッション:インポッシブル』(96)から27年目だというので,もうそんなになるのかと感慨深い。59年間で25作が公開された『007』シリーズは,6人もの男優がジェームズ・ボンドを演じたのだから比較にはならない。こちらはトム・クルーズが1人でイーサン・ハントを演じているのだから,大したものだ。2作目『M:I-2』(00年7月号)から3作目『M:i:III 』(06年7月号)までと,副題が付くようになった4作目『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(12年1月号)までの間が少し長かったが,その後は約3年おきに公開され,今回はコロナ禍でプラス約2年遅れとなった。先月の『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(23年6月号)のように主演男優に目立った老いを感じることはなく,チームメンバーも含め,前作までとほぼ同じイメージでアクションをこなしている。
 4作目から連続して評価したので,そろそろマンネリでダレるかと思ったのだが,そんな心配は無用だった。それどころか,前作よりも確実に進化し,シリーズ最高傑作だと断言できる。「PART ONE」と付されているように,初めて前後編の2部構成である。『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』の前編のような不愉快な尻切れではない。前編特有の伏線だらけでもなく,この「PART ONE」だけでしっかり2時間43分を楽しませてくれる。それでいて「PART TWO」も待ち遠しくなってくる。サービス精神満点で,娯楽映画のお手本のような優等生だ。

【物語の概要,シリーズ内での位置づけ】
 毎回新たなミッションが届き,その指令通りの任務に就くので,前作までの敵との関連はなく,過去の経緯を知らなくても問題はない。「例によって,君もしくは君のメンバーが捕えられ,あるいは殺されても,当局は一切関知しないからそのつもりで。なお,このテープは自動的に消滅する」のメッセージは定番であり,IMFチームの扱いも同じだ。これを聞かないとファンは納得しない。
 映画の冒頭は,ベーリング海の海中でロシアの原潜セヴァストポリが航行している。正体不明の潜水艦と魚雷を撃ち合い,自ら放った魚雷で撃沈してしまう。西側の原因分析では,搭載されていた最新鋭のAIが進化し,暴走したためと推測され,この未知の新兵器を悪の手に渡る前に確保するようIMFチームに指令が出される。その鍵を握るのは沈んだ潜水艦中にあるソースコードで,文字通りそれを解く2つで1組の「鍵」の争奪戦が繰り広げられる。
 シリーズが長くなり,新しいファンが増えたためか,CIAの極秘諜報組織IMF(Impossible Mission Force)の存在意義の説明があり,「国際通貨基金 (International Monetary Fund)とは無関係だ」などというセリフまで登場する。第1作で登場したCIAの監査役ユージーン・キトリッジが再登場し,イーサンに「君が守ろうとしている理想は存在しない。どちらにつくか選べ」という言葉を発する。どうやら,イーサンがIMFに参加した原点を問い,PART TWOはそれがシリーズの行方を左右する物語になりそうだ。
 本作でのイーサン・ハントらの活躍の舞台は,イエメン近くの砂漠の中から始まり,続いてアブダビ国際空港,ローマとヴェネツィア市内での攻防を経て,クライマックスはオーストリア・アルプス地区を走る列車内へと移る。しっかり観光名所も織り込まれているのだが,ノンストップアクションに気を取られがちなので,美しい光景まで見ていない観客も少なくないことだろう(写真1)


写真1 上:ヴァチカンを含むローマの景観,中:ヴェネツィアのサンマルコ広場,下:同ドージェ宮殿での祝賀会

【監督,登場人物,キャスティング】
 4作目の脚本を担当したクリストファー・マッカリーが, 5作目『…/ローグ・ネイション』(15年9月号)以降は監督・脚本として続投している。来年夏公開予定のPART TWOも担当し,既に撮影は終えているというので,シリーズの半数が彼の作品ということになる。他のトム・クルーズ主演作では,『アウトロー』(13年2月号)でも監督・脚本を担当し,『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14年7月号) 『トップガン マーヴェリック』(22年5・6月号)でも脚本に名前を連ねているので,余程相性が良く,信頼感を得ているのだろう。どんな脚本を書けば,トム・クルーズならではの極限アクションを演出でき,観客を喜ばせることができるかを知り尽くしているようだ。
 登場人物は,イーサン・ハント以外のIMFチームでは,天才ハッカーのルーサー役のヴィング・レイムスが皆勤で,同じく天才技術者ベンジー役のサイモン・ペッグはこれが5作目,元MI6エージェントのイルサ役のレベッカ・ファーガソンは3作目で,お馴染みの顔ぶれが揃うのが嬉しい。敵か味方か分からない不思議な武器仲買人ホワイト・ウィドウ役のヴァネッサ・カービーも,前作『…/フォールアウト』(18年Web専用#4)に続いて登場する。久々の登場は,上述のキトリッジで,第1作で演じたヘンリー・ツェーニーがカムバックしている。
 初登場組の筆頭は,本作のヒロインのグレースで,『キャップテン・アメリカ』シリーズのヘイリー・アトウェルが演じている。天才的な指先をもつ女掏摸の役であるが,本作のかなりの部分でイーサンと行動を共にする。同じく初登場で,イーサンの過去を知り,彼のミッションを阻止しようとする悪役ガブリエル役にイーサイ・モラレスが配されている。TVドラマ中心の男優らしく,当欄で論じた記憶はない。彼の相棒としてイーサンを狙うフランス人暗殺者のパリス役は,『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでピーターの妹のマンティスを演じたポム・クレメンティエフだ。額に1対の触角をもつ愛らしい宇宙人のマンティスと本作の暗殺者役では,随分と印象が違っていた。このPART ONEではこの2人が悪役であったが,PART TWOでどうなるのかは分からない。これまでも,当初の敵がIMFチームに加わったことはあったし,背後のいるビッグボスが新たに登場したりする可能性もある。
 かなり充実したキャスティングで,とくに女性陣がパワフルになったと感じる近作であるが,トム・クルーズ1人がスーパースターであることに変わりはない。現在の彼は既に61歳で,還暦を過ぎている。本作の撮影は,主に2020年9月から2021年4月に複数回に分けてなされたと記録されているので,当時は59歳であった。いくら運動神経抜群で,それがセールスポイントとはいえ,その年齢でこれだけの危険なアクションをこなすのには,毎度のことながら呆れ返る。ただし,少し気になったシーンがあった。『トップガン マーヴェリック』の彼に比べて,明らかに顔が老けていて,少しむくんで見えるシーンが何度かある。ただし,ずっとではなく,若くはないが,凛々しい顔立ちに戻る。当然,映画はバラバラに撮影するのであり,若干の追加撮影もあったであろうから,その間に太ってしまったのかも知れない。一時期の肥満で元に戻ったのか,それとも撮影後期には容貌の衰えも目立ち始めたのか,来日時の記者会見で確認したかったのだが,米国俳優組合のストライキとやらで,来日が中止となってしまった。残念だ。

【見どころシーンのリストアップ】
 気に入ったら,何度も観たくなる映画だ。1度目は展開を追うのが精一杯だろうから,2度目以降には,以下の見どころを参考にして,より楽しんでもらいたい。
①冒頭のベーリング海の潜水艦のシーケンス
 潜水艦内の機材も魚雷探知の画面も,見事にデザインされている。魚雷発射とデコイ(囮)発射の駆け引きは,まるで「かわぐちかいじ」の戦闘コミックだ。難を言えば,艦長も乗組員もロシア語でなく,英語で話している。ロシア訛りの英語であったのが,せめてものご愛嬌だ。
②上記の沈没を分析する米国政府情報機関の会議
「コミュニティ」と呼ばれるこの執行組織の会合に,イーサンが潜入し,脱出する手口が痛快だ。その痛快さに気を取られがちだが,開催場所の警備体制,非常通報,警備員の動き等も,かなりのリアリティをもたせて描いてある。
③アブダビ国際空港内での大立ち回り
 砂漠の中にある豪華で広い空港(写真2)だが,そのロビーや貨物仕分け施設を縦横無尽に使って,映画史に残る見事なアクションシーンが展開する。顔認識システムを逆手にとって,追手にイーサンの居場所を撹乱誘導する手口が笑える。ルーサーとベンジーの掛け合いも楽しい。初見時には,大勢が利用する国際空港で,どうやってこのシーンを撮影したのだろうと気になった。世界最大規模の国際空港の,まだ建設中だった新ターミナルを,オープン前に特別許可を取って撮影したそうだ。それならそれで,乗降客や地上勤務の職員にどれくらいのエキストラを集めたのか見ておくべきだった。一部はCGかも知れない。イーサンが空港ターミナルの屋根を疾走するシーンは,おそらく本物だろう(写真3)。オープン後であれば,この撮影許可は下りなかったと思われる。


写真2 砂漠の中にあるUAEのアブダビ国際空港

写真3 新ターミナルの屋根の上を疾走する

④ローマ市内でのカーチェイス
 トム・クルーズと言えば,猛スピードでのアクロバット的なバイクチェイスだ。早々と写真4が公開されていたので,ローマ市内での激しいチェイスを予想したのだが,パトカーを盗んで逃げるグレースをイーサンがバイクで追うシーンは,早々に終わってしまった。後は,手錠で繋がれた2人が敵から逃げるチェイスで,前半は黒のBMW M5コンペティション,後半は黄色の可愛いFIAT 500で,ローマの狭い道を疾走する(写真5)。果たして,これをすべてローマ市中で撮影したのだろうか? 有名なフォーリインペリアーリ通りを2日間封鎖したというし,撮影シーンは公開されているので,大半は本物だろう。ただし,スペイン広場の階段をイーサンらのFIATを追って,暗殺者パリスの装甲車両が駆け降りるシーンは本物だろうか? 階段や広場の一部を破壊しているようにも見える。さすがにこのシーンは,他の場所に作った仮設の階段で撮影し,VFX加工したと思うのだが…。


写真4 コロッセオをバックにこのポーズ。ただし,バイクチェイスは早々と終わる。 

写真5 上:ドアが吹っ飛んだ後も,この特殊カメラでチェイスを撮影,
下:確かにローマ市内で撮影している

④ヴェネツィア ミニッチ橋での攻防
 水の都のヴェネツィアらしい光景がないので,別の都市に思えるかも知れない。ローマとは一転して,夕方6時から朝6時までしか撮影許可が下りなかったため,殆どが夜のシーンだ。その分の光の使い方に凝っていて,アクション一辺倒の映画に少し安らぎを与えてくれる。VFX的な見どころはないが,橋の上でのガブリエルとイルサの戦いで,イルサが格別に美しかった。
⑤列車内での変装したグレースの演技
 終盤,オーストリア・アルプス地区をオリエント急行風の列車が走る。(少しネタバレになるが)ここにホワイト・ウィドウに変装をしたグレースが乗り込み,本物を叩きのめして気絶させ,キトリッジとの交渉に臨む。顔はそっくりだが,2人の服の色を変えてあり,表情もグレースが化けたホワイト・ウィドウの方がやや柔和だ。即ち,観客の我々には中身がグレースだと分かっているので,交渉を成功させて欲しいと願う……。とまあ,グレースに感情移入して見守る訳だが,よく考えてみたら,演じているのはH・アトウェルでなく,V・カービーだった。それだけ,V・カービーの演技が見事だったということになる。
⑥崖からのバイクジャンプと壊れた橋からの車輌の落下
 この2つが,本作の目玉であることは予告編からも分かる。果たして写真6写真7は本物なのか,既に公開されているメイキング映像を参考に,別項で分析・解説する。


写真6 猛スピードで近づき,崖のこの位置でぴたっと停める 

写真7 崖上から飛び出して,空中での光景

【その他】
 幸運にも,開催日がずれていたので,東京と大阪での完成披露試写会に参加する機会を得た。いずれも,IMAXシアターでの上映であった。この映画は是非ともIMAXで観ることを勧めておきたい。
 大きな画面が,この映画の壮大なアクションに適しているし,カメラアングルもカメラワークも大スクリーンを意識したものになっている。重低音の振動も心地よかった。先月の『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は,完成披露試写会で使われていたDolby Cinemaの品質,とりわけDolby Atmosのサウンドが騒々し過ぎると酷評した。今回の2回の試写会場は,TOHOシネマズ日比谷とTOHOシネマズなんばのIMAXスクリーンであり,劇場間での品質の差はなく,いずれも適切に調整されていた。


メイキング映像を使って分析した虚実の境界線

 約20年前のVFX発展期には,メジャー系の大作映画はVFXシーンの見どころを自慢げに,マスコミ用のプレスシートで披露していたものだ。VFX利用が当り前になってからは,使っているくせに「CGはなしで,すべて実物」などと言うようになった。各VFXスタジオを取材して,メイキング画像を掲載する雑誌やWebサイトも多数あったのが(英語でだけだが),最近は殆ど見かけなくなった。最も詳しい技術解説はVFX専門誌「Cinefex」であったが,残念ながら,同誌はコロナ禍の打撃を受け,廃刊となってしまった。かくして,当VFX時評も,映画公開時には確たる情報があっての技術解説はできず,見どころを列挙するか,筆者の経験と想像によるコメントを書いているに過ぎない。
 最近,いくつかの中堅スタジオが自らの宣伝のためか,「VFX Breakdown」と称する映像をYouTube等に投稿しているケースが増えてきた。大半は映画公開後であるが,参考になるその種の映像を見かけた場合は,当該紹介記事にそれを付記するようにしている。
 超大作の本作の場合,何か情報がないかと探していたところ,何と,上記⑥に関する複数のメイキング映像が,映画公開前からIMDbサイトやYouTubeにアップされているではないか。それもクリストファー・マッカリー監督の解説つきの映像であり,日本語字幕付きのものまである。以前なら,DVD特典映像にした類いのクリップを,拡大予告編の形で事前公開しているのである。かなり自信があるご自慢のシーンであるので,これを予め流す方が宣伝にプラスに働くと考えたのであろう。
 こんな貴重な映像が広く公開されているなら,当欄も方針を変え,それらをじっくり吟味しながら,当欄の視点からの論評を加えることにした(注:同じ映像が,題名やURLを変えていくつもアップされている)。
 ■ 写真6は本物か? 物語の中ではオーストリア・アルプスだが,オーストリアもスイスも撮影許可を出さなかったため,ノルウェーでしかるべき場所を探したそうだ。この崖の上からバイクに乗って下を見下ろしただけでも,足がすくんでしまう。少し重心が傾いただけでも,谷底に落ちそうだ。静止画だけならまだしも,予告編で見ると,バイクで走って来て,丁度,崖の端で停止するから,危険度は尚更だ。普通なら誰もこんなところで撮影せず,CGで描くのだが,トム・クルーズならやりかねないと考えるのが本シリーズだ。さてはて……。筆者の鑑定では。これはフェイク画像かと思う。後述のメイキング映像で見る限り,この崖の位置からバイクに乗ってジャンプするのに,スキーのジャンプ台並みの建造物を映画のために設け,そのスロープを滑走して飛び出している。即ち,写真6の停止位置の手前は隠れていて,崖上の状態はこのままではない。しかも,地表面は岩だらけだ。崖下の景観は本物のようだが,それは別途ヘリやドローンで撮影した画像を合成すれば良い。本命はバイクの乗ったままのジャンプなのであるから,このシーンはもっと安全な場所でバイク走行と急停止を撮影し,別途生成した崖の景観に合成すれば十分だと思う。
 ■ 写真7は本物か? 「Skydance | Mission: Impossible - Dead Reckoning Part One | Behind the Scenes 」なる映像に,傾斜台を使ってのバイクジャンプの訓練風景が収録されている。まず英国内の低めのジャンプ台を作り,人間もバイクもワイヤー付きで飛び出し,下は穴地にクッション敷いて着地させている映像がある(写真8)。これならバイクは再利用できるし,徐々に難易度を上げて訓練している訳である。飛び出し速度と落下点をシミュレーションする様子も描かれている。トム・クルーズは,スカイダイビングは500回以上,モトクロスジャンプは13,000回以上も練習したという。そしていよいよ,ノルウェーのヘルセツコペン山の山腹で,海抜1,200mの断崖絶壁に高い傾斜台を設けての撮影である(写真9)。いくら人気作とはいえ,映画撮影のためにこんなジャンプ台を建設すること自体が破天荒だ。まずこの高さでホバリングするヘリから単身飛び降りて,パラシュート降下するダイビング練習をしている。そして,最終的にはバイクに乗ったまま助走路から飛び出し,バイクが地表面に激突するまでの6秒間に,トム・クルーズが地上約150m付近でパラシュートを開いて降下する様子を撮影している。別の地点でモニター映像を見ていた監督が,最初の成功を見て飛び上がって喜んでいる姿が印象的だ。このバイクジャンプは,計7回試みたという。ヘリやドローンからも落下の様子を撮影しているので,出来の良いシーンを繋ぎ合わせて完成映像を作ったのであろう。写真7が本物かどうかは,分からない。上手く撮れた本物かもしれないし,それらしき映像をCGで描いて宣伝用に使っているだけのようにも見える。写真9下も,実際に撮影した見事なチャンピオン画像かも知れないし,落下するイーサンとバイクのCG画像を合成しただけかも知れない。


写真8 人間にもバイクにもワイヤーを着けて,何度も訓練を繰り返す

写真9 上:監督とトムがジャンプ台の上を歩いて確認, 中:いよいよスロープを助走する,
下:海抜1,200mの断崖からのバイクジャンプ

 ■ 写真10の列車上での戦いは本物か?「映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』特別映像"列車アクションの裏側"」なる映像の前半に,列車上の戦いの撮影シーンが含まれている。クレーンカメラを備えた車を伴走させたり,撮影クルー用の車輌を連結したり,列車上に俳優を配置して撮影を敢行したことは間違いない(写真11)。ただし,注意すべきは,これはプロモーション映像であり,巧みに最終的な完成映像も混ぜて見せていることだ。よく見ると,列車上の人物を撮影しているシーンは,カメラが回り込んで走行感を強調しているが,周りの景色は殆ど変わらない。即ち,ほぼ停止しているか,低速度で列車を移動させているシーンが多い。その意味では,写真10は本物っぽい。いかにも停止した列車の上で戦いのポーズをとった画像に見える。列車が通常速度で移動していれば,蒸気機関車の煙はこうはならないし,周りの景色もこんなにきれいには撮れない。


写真10 列車上でのイーサンとガブリエルの戦い

写真11 本当に列車の屋根の上で格闘させ,撮影していることが分かる

 ■ 列車内で垂直にぶら下がっている写真12は本物か?上記の映像の後半で,列車の落下シーンのメイキングが語られている。落下させて壊して構わない車輌はなかったので,この映画のために製造したと言うから,そのことに驚く。実際に一両ずつ落下させているシーンはあるから,写真11も本物だろう。ただし,俳優は安全のためワイヤーを装着していただろうし,車内の事物が一気に落下するシーンは明らかにCGである。各車両を落下させた先は鉄橋下の川ではなく,安全な場所を選んでいたようだ。爆破する橋自体も見かけが良いようにデザインしたCG映像であり,山間部を高速走行する列車も一部はCGだと思われる。


写真12 垂直になった車内での,ぶら下がっての演技

 ■ もう1つ監督が解説している映像がある。「映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』特別映像"スピードフライング" 」で,通常のスカイダイビングよりもかなり危険なようだ。時速80kmで回転しながら降下するトム・クルーズを追うジンバル付きのカメラの準備だけでも大変なことである。完成した映画の中では2度この種のシーンが登場する。崖からのバイクで落下シーンの後半と,グレースを置き去りにして,イーサン1人がパラグライダーで仲間のところに戻るシーンである。いずれもこの特別映像ほど危険ではなく,もっと穏やかな滑空に見える(写真13)。2度使ったのは,ここまでの準備をして1シーンではもったいないと思ったからだろう。この危険な「スピードフライング」の映像を公開したのも,それだけの準備をした特別な映画であることのアピールなのである。


写真13 何気なく見えるが,スピードフライングはかなり危険
(C)2023 PARAMOUNT PICTURES.

 ■ 以上,すべてが危険なシーンばかりではないが,これだけのことをやってのけるのはトム・クルーズだからであり,ヒットが約束されている人気シリーズゆえに使える製作費でもある。もうこんなシリーズは2度と現われないかも知れない。PART TWOが最後になる可能性もある。この特殊な撮影が可能だったのは,その後始末や他のシーンをCG/VFXが支えていたからである。本作の主担当はILMで,『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』と同じだが,担当者は本作の方がやり甲斐があったことだろう。他には,SD FX Studios, Rodeo FX, BlueBolt, Alchemy 24, Lola VFX, One Of Us, Cheap Shot, Atomic Arts, Clear Angle Studios, Territory Studio, Untold Studios, Blind LTD等々が参加している。プレビズはILMからスピンオフしたThe Third Floorではなく,ILM社内に設けられたPreVis部門が担当していた。


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