O plus E VFX映画時評 2023年8月号

『トランスフォーマー
/ビースト覚醒』

(パラマウント映画/東和ピクチャーズ配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[8月4日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, TRANSFORMERS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO. (C)2023 HASBRO.


2023年7月27日 東宝東和試写室(東京)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


お馴染みの金属生命体変形映画は, 仕切り直しで再出発

 しばらく観なかったが,クルマからロボットに変形する金属生命体『トランスフォーマー』シリーズの新作がやって来た。これで6作目だが,第1作の公開は2007年だったから,早いものでもう16年になる。『インディ・ジョーンズ』シリーズの42年間で5作,『ミッション・インポッシブル』シリーズの27年間で7作に比べると,歴史は浅いが,作品数では退けをとっていない。ただし,これまで一度も高評価したことがない。過去5作の当欄の評価は,である。1作目と3作目で精一杯 を与えたのは,前者は変形CGの斬新さ,後者は3D効果の出来が良かったからで,ずっと脚本も演出もお粗末だった。
 一貫して,製作総指揮スティーヴン・スピルバーグ,監督マイケル・ベイのコンビだが,かつてヒットメーカーであったM・ベイの悪ノリ,堕落ぶりが顕著だった。溜まりかねて,第5作目『トランスフォーマー/最後の騎士王』(17)では,「映像の迫力は褒められるが,懲りない監督だ」とまで書いて,酷評していた。この評価の低さは当欄だけではない。何しろ,2作目以降は4作連続でラジー賞の「作品賞」「監督賞」の両部門にノミネートされるという有り様で,第2作は「最低作品賞」,第4作は「最低監督賞」を受賞するという快挙(?)を成し遂げている。
 と,ここまで書いてから思い出した。本シリーズには,スピンオフ作品『バンブルビー』(19年3・4月号)があったのだ。これは見事な出来映えで, を与えている。多数のトランスフォーマーを登場させず,人気のバンブルビー1体に絞り,少女との交流を描いたヒューマンドラマに仕立てていた。M・ベイは製作に退き,監督を『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(17年11月号)のトラヴィス・ナイトに任せたのが良かったのだと感じた。他の批評家筋や一般観客の評判も良く,誰の思いも同じであった訳である。この1本を入れると,本作はシリーズ7本目に当たる。M・ベイは監督に復帰せず,『クリード 炎の宿敵』(18年Web専用#6)のスティーブン・ケイプル・Jr.を監督に起用していることに期待がもてた。ただし,映画がメインラインに戻ると,M・ベイも製作に名を連ねている以上,何かと余計な口出しをすることも覚悟した。
 その思いでマスコミ試写に臨んだのだが,日程の都合で,今回初めて「日本語吹替版」を観た。少し驚いた。冒頭からの印象は,これまでの「字幕版」とは全く違っていた。日本語ナレーションのせいである。まるで,怪獣ものか,スーパー戦隊ものの語りとしか思えない。しかも,チープなTVシリーズのそれである。日本人声優の吹替えにも重みがない。そこで,ようやく気がついた。本シリーズは,映画を愛する大人の観客を想定した作品ではなく,TVアニメの「トランスフォーマー」で育った青少年が主対象なのである。少なくとも,日本の配給会社はそう考えていると思われる。彼らが観るのは字幕版ではなく,吹替版が多いので,吹替版はそれに合わせたのだろう。製作国の米国は,自国内の想定観客を考えて元の英語版を作っているに違いない。それを,洋画メジャー系が製作した普通のSF大作で,世界中のファンが楽しむ娯楽映画として評価しようとしたから,ラジー賞レベルだと考えてしまったのである。分かっていたつもりが,改めてそう気がついて,その基準で本作を眺めることにした。

【想定観客層とフィギュア市場】
 過去作の評価はどうであれ,本作は公開週に北米興収ランキング1位である。あれだけの酷評続きだったのに,シリーズがここまで続くのはかなりの固定ファンがいるからだろう。ただし,同じように固定ファンが多い『スター・ウォーズ』シリーズ『ゴジラ』シリーズとは由来が異なる。上記の両シリーズの原点は劇場用映画であるのに対して,本シリーズの原点は,日本の玩具メーカー「タカラ(現タカラトミー)」が開発した変形ロボットを,業務提携先の「ハズプロ」が「Transformers」の名称で売り出して大ヒットした「変形ロボット玩具シリーズ」である。このため,TVアニメシリーズも劇場用アニメ映画も,米国で先に製作され,日本に輸入されたという歴史がある。現在は,玩具シリーズは日米の両社で開発&販売されているが,映像作品は依然として,米国主導である。その流れの中で,高度なCGをふんだんに使った実写映画の本シリーズがハリウッド大作として生まれた。
 元々フィギュア(キャラクター人形)好き人間は,どんどん種類を増やして蒐集するのが生き甲斐であるから,アニメや映画でアピールすれば,益々購買意欲が増す。オタクのオタクたる所以である。そこに驚くべき斬新なCGで「変形」を描いた大作映画が登場し,それに応じた高級フィギュアが販売されれば,魅了されるのは当然だ。映画化で原作小説が売れる以上に,フィギュア市場は影響を受けやすい。となると,映画製作者は物語よりも,いかに新しく魅力的なトランスフォーマーたちを登場させるかに注力する。実際,第1作では13体であったのが,第2作では約60体も登場させたという。
 ハリウッド大作ともなれば,その製作費は邦画の比ではないが,ヒットさせるには広告宣伝費もかなりの額になる。本シリーズの場合,フィギュアを販売する玩具会社がかなりの額を負担していると思われる。そうなると,日米やその他の国のフィギュア購入者の好みに応じた映画を作るのが第一目的であり,批評家がどう評価しようが,ラジー賞候補になろうが気にすることはない。勿論,アカデミー賞や各映画祭で受賞する必要もなく,極論すれば,フィギュア市場が活気づけばそれで良い,その観点からすると,後述するように,本作に登場するトランスフォーマー達には,見事な仕掛けがなされている。
 当欄はと言えば,CG/VFXの発展史の観点から映画制作の推移を見守り,記録しておくのが本分であるから,上記を承知の上で,登場する金属生命体のCGの出来映えを論評する。

【時代設定とストーリーの概要】
 第1作目の時代設定は,公開時の「現代」,即ち2007年で,2作目以降も1, 2年の差はあれ,ほぼそのまま時代推移している。それに対して,『バンブルビー』の時代設定は1987年で,地球に拠点を移すべく,偵察役としてB-127が派遣されたという位置づけであった。本作の設定は,上記の7年後の1994年で,NYのブルックリンから物語が始まる(写真1)。即ち,本作も従来のメインラインの前日譚であり,B-127(=バンブルビー)を追って,多くのオートボット仲間が地球にやって来ていた。彼らは敵対勢力の「ディセプティコン」が支配する故郷サイバトロン星への帰還を目指していて,この地に潜伏しているという設定である。一旦故郷へ帰還を果たした後に,改めて2007年からの物語がスタートするという辻褄合わせのようだ。


写真1 時代は7年後の1994年,川の右手がブルックリン

 本作にはディセプティコンは登場せず,オートボット達は,別の敵と戦う。本作のヴィランのビッグボスは悪の化身「ユニクロン」で,惑星を丸呑みするような巨大な破壊神である。彼が探しているのは時空を超えて移動できるテレポート装置「トランスワープ・キー」であり,それが地球にあることを知って,手下の「テラーコン」の数体を先遣隊として地球に送り込む。残虐なリーダーのスカージのパワーは強力で,同じくキーを探すオプティマス達はあっという間に叩きのめされ,バンブルビーは落命してしまう。ここで窮地を救ってくれたのは,ハヤブサに変形した女性トランスフォーマーのエアレイザーで,彼女は空中から強力な炎を降らせて,テラーコン達を撃退した(写真2)


写真2 危機に登場したのはエアレイザー,嘴から炎を放射する

 本作の目玉は,動物に変身するトランスフォーマーの「マクシマル」で,エアレイザーもその一員である。彼らは別の星で「トランスワープ・キー」を管理していたが,ユニクロンとテラーコンに故郷を滅ぼされ,彼らもまた地球への逃げて来ていたのである。てっきり,「オートボット」「マクシマル」「テラーコン」の3勢力が三つ巴の戦いを繰り広げるのかと思ったが,早々とオートボットとマクシマルは共闘関係を結んでしまう。エアレイザーの導きで,オプティマス達はキーの半分があるというペルーのマチュピチュに向かい,そこでユニクロンやテラーコンの大群との激闘が展開するという流れである。
「マクシマル」は別名「ビースト戦士」であり,1990年代の放映されたアニメ『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』シリーズで人気を得ていた存在である。即ち,別路線であった金属生命体を「覚醒」させ,この前日譚で合流させたということらしい。これでまた新しい高価なフィギャアが売れる訳だ。詳しくは書けないが,本作の結末を見る限りでは,次作も2007年以前の出来事が続くように思える。即ち,これはシリーズ全体の仕切り直しであり,本作は再出発の第1作のようだ。

【本作の登場人物とトランスフォーマーたち】
 過去のメインライン5作の内,3作目までの人間側の主演は若手のシャイア・ラブーフ,残る2作はマーク・ウォールバーグであった。本作は前日譚であるから,人間の主役である男女も一新されている(写真3)。1人目は,元陸軍に所属した電子機器の専門家ノア・ディアスで,弟の治療費を稼ぐため,友人のリークと車泥棒を働こうとするが,それがオートボットのミラージュであったため,テラーコンとの戦いに巻き込まれる。プエルトリコ系の31歳のミュージカル男優のアンソニー・ラモスが演じている。もう1人は,自由の女神像近くのエリス島にある博物館でインターンとして働く黒人女性のエレーナ・ウォレスで,運び込まれた遺物工芸品からエアレイザーの紋章とトランスワープ・キーを見つけたことから,彼女も戦いに巻き込まれてしまう。32歳の女優ドミニク・フィッシュバックが起用されている。


写真3 これが戦いに巻き込まれたノアとエレーナ

 2人とも有色人種で,映画界ではほぼ無名の俳優だが,本作での抜擢は今日的な政治的配慮かと思われる。ギャラは格安だろうから,その分をCG費用に回せる利点もある。2人はほぼ最後までで出ずっぱりだったが,演技力は期待以上だった(吹替版だったら正確には分からないが)。特にノア役のA・ラモスが上々で,これまでの主演の中で一番好感がもてた。本作でブレイクすることだろう。続編での再登場も期待できる。
 フィギュア市場を意識して,各トランスフォーマー達をじっくり眺めたので,1体ずつ解説しておこう。
「オートボット」で継続して登場するのは,リーダーのオプティマスプライムと右腕のバンブルビーだけで,その他はすべて新登場である。その2体とも,ルックスも変形したクルマの車種も過去作とはかなり違っている。本作のオプティマスは,いかにも古くさいデザインだ(写真4)。第4作の赤と青のモダンで精悍な姿とは大違いである。毎回違うと,それだけフィギュアが売れるので,なるべく違える方が商売上は好都合な訳だ。一方のバンブルビーは,本作ではなぜか空が飛べる(写真5)。変形後のクルマも1970年代の2代目シボレー・カマロで登場する。早々とスカージの凶弾に倒れて,これでは出番が少なくて残念だと思ったが,後半しっかり生き返り,辻褄を合わせてくれる。


写真4 リーダーのオプティマスプライムもかなり旧式

写真5 なぜか,本作のバンブルビーは空を飛べる

 他のオートボットは新登場が4体あって,ムードメーカーの「ミラージュ」はノアと意気投合し,何かと人間の味方をする(写真6)。最年長の「ストラスフィア」は輸送役で,ミリタリーグリーンの輸送機に変形し,貨物室に仲間達を収納してペルーに向かう(写真7)。紅1点の「アーシー」は狙撃兵でダークピンクと白の2色のバイクに変形する。南仏に潜伏していた「ホイルジャック」はメカニック担当で,茶色とクリーム色のVWバンに変形する(写真8)


写真6 人懐っこいミラージュは,人間のノアと意気投合

写真7 最年長のストラスフィアは,仲間を乗せてペルーに向かう

写真8 右からアーシーとホイルジャック。既にマクシマルとの共闘に合意

 ビースト戦士の「マクシマル」も4体で,すべて新登場だ。前述の「エアレイザー」だけが空を飛べ,他は地上で戦う半メタリック体の猛獣に変形するトランスフォーマーである。リーダーは約4mの体高のゴリラで,名前が「オプティマスプライマル」というから紛らわしい。オートボットのリーダーは従来通り「オプティマス」と略し,こちらは「プライマル」と略すことにする。この2体が共演することは,アニメ版にはなく,本作が初めてだそうだ(写真9)。他の2体は戦闘能力の高い戦士で,「チーター」は小型トラックサイズで高速移動するチーターで,「ライノックス」は重さ3.6トンの凄まじい破壊力をもつサイである(写真10)


写真9 (左)マクシマルのリーダーのオプティマスプライマル。
右がオプティマスプライムだから紛らわしい。

写真10 上:チータ,下:サイのライノックス。いずれも,精悍で好いデザインだ。

 先遣隊の「テラーコン」は3体で,リーダーのスガージの他は,用心棒の「バトルトラップ」と女忍者の「ナイトバード」である(写真11)。いずれもスガージに忠誠を誓い,邪悪で卑劣なハンター集団に相応しい能力を有している。ここで興味深いのは,各チームには,「アーシー」「エアレイザー」「ナイトバード」と,女性が1体ずつであることだ。いわゆる戦隊ものはほぼ全てそうであったから,まだこの伝統的スタイルが崩れていないことになる。


写真11 左から,ナイトバード,スガージ,バトルトラップの順

【CG描写とその見どころ】
 ■ 『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』シリーズのビースト戦士のクオリティは詳しくないが,YouTubeで少し眺めたところ,笑えるくらいチープなCG製のゴリラやサイがロボットに変形する(90年代のTVアニメなら無理もないが)。変形と言っても,瞬間的に入れ替わるだけで,本シリーズのようなメカのパーツが変形する途中段階を見せてくれる高度なものではない。本作の「マクシマル」のCG描写は素晴らしい。半メタリック仕様のデザインが精悍であり,元の動物の動きにロボットのぎこちなさを融合させたアニメーションも絶妙だ。4体の内,チータの躍動感とライノックスの重量感が絶品であった。背景となるペルーのジャングルへの合成も自然であり,オートボットや人間も入れた写真12は見事な構図である。写真6下はストラスフィアの輸送機がハヤブサのエアレイザーと並んで飛ぶシーンだが,砂地をチータとバンブルビーのシボレー・カマロが併走シーンも秀逸で,惚れ惚れする出来映えだ(写真13)。これじゃあ,精巧なフィギュアを買いたくなるのも無理はない。

   
写真12 こうした構図で見ると,大きさの違いがよく分かる

写真13 シボレー・カマロ(バンブルビー)とチータの併走。これ一番の印象的なシーンだ。

 ■ オートボットのロボット体とクルマ間の変形は,もう何度も見たはずなのだが,本作は少し味付けが違うように感じた。進化させたのか,意図的に過去作とは変形のリズだけを変えたのかは分からない。CG/VFX担当社を調べてみると,何と過去作すべての主担当であったILMの名前がない。今回はMPCが主担当で,他にDNEG, Weta FX, Halon Entertainment LLCの名前があった。政治的な意図はなく,最近精力的なILMゆえに10作品以上も抱えていて,本作を担当する余裕がなかったとのことだ。『キング・コング』(06年1月号)や『猿の惑星』シリーズを手がけたWeta FXはゴリラの「プライマル」のために,動物ものが大の得意のMPCは他の「マクシマル」の描画のために依頼されたのだろう。当然,半分以上を占める「オートボット」の変形シーンも担当する。そのため,過去のILMとは,変形のリズムに微妙な違いが生じたのだと思われる。
 ■ 終盤のラストバトルは勿論しっかりCG/VFX満載で描かれていた。本作の最大の正解は,ロケ地にペルーの世界遺産のマチュピチュを選択したことだ。よくぞ,山奥の神秘的な都市遺跡が,こんなハチャメチャな映画に撮影許可を与えたものだと感心する。実物大のロボットをリハーサルで置いたりはしないことが条件で,遺跡を直接傷つける心配はなかったのだろう。当初,この古代遺跡と金属生命体ではミスマッチに思えたが,少し呆れるものの,映画で観るとなかなか乙な味付けだなと感じた(写真14)


写真14 何と, 神秘的な世界遺産にゴリラ型のビースト戦士が登場
(C)2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, TRANSFORMERS AND ALL
RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO. (C)2023 HASBRO

【総合評価】
 本作に関して,「シリーズ最高傑作」との記事をいくつか目にした。そりゃそうだろう。スピンオフの『バンブルビー』を除けば,メインラインの過去5作は見るも無残な駄作揃いであったから,普通の映画レベルになれば,「シリーズ最高傑作」に違いない。当面の敵を殲滅するか,宇宙の彼方に追いやるかで終わるのは,この種の映画の定番だ。そのワンパターンを我慢し,ヒューマンドラマを求めないならば,普通のアクション映画としてはぎりぎり及第点だ。かつてのようにラジー賞候補になることもないだろう。
 一方,格別のフィギュア・オタクでなくても,各種トランスフォーマーの変形には磨きがかかって来ていると感じるはずだ。ILMでなくても,一流スタジオであればそれができることが証明された。この変形を見続けたいなら,今後もこのシリーズを追いかける価値はある。


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