head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD/BD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
 
title
 
O plus E誌 2013年4月号掲載
 
 
シュガー・ラッシュ』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2013 Disney
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月23日よりTOHOシネマズ有楽座他にて全国3D/2Dロードショー公開中]   2013年1月29日 角川試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  伝統のディズニー・アニメの新たな挑戦作  
  本作はディズニー恒例の春休み公開だが,米国では昨年11月に公開されている。既に試写は1月下旬に観ていたので,先月号のアカデミー賞予想欄で,長編アニメーション部門で『メリダとおそろしの森』(12年8月号)を本命,本作を対抗と書いた次第だ。結果は予想的中で,ピクサー製の『メリダ…』がオスカーを得たが,それに十分対抗し得る作品である。
 フルCGアニメの開祖ピクサーがディズニー傘下に入って以来,クリエイティブ面の御大ジョン・ラセターがディズニー本社の役員となり,伝統ある本家のアニメ作品にも製作総指揮で関与することになったことは,当欄で何度も書いた。当然,CG化が一層進展したが,その一方で色々な冒険,挑戦も始めたように感じる。
 例えば,『ボルト』(09年7月号) は,後で2D→3D変換した作品だが,見事なフルCGのS3Dアニメだった。その一方で,次なる『プリンセスと魔法のキス』(10年3月号)はセルアニメ調を復活させ,黒人女性を主役にするという冒険もしている。そして,ディズニー・アニメ50作記念作品の『塔の上のラプンツェル』(11年3月号)は,長い歴史の集大成のような「お姫さま物語」でありながら,その長い髪の毛の表現に最新CG技術を駆使していたことが記憶に新しい。
 本作もまた挑戦心に溢れた作品だ。何と,テーマはビデオゲームの世界だ。ゲームに登場するキャラたちが人格をもち,人間の知らないところで会話を交わしているという設定は,『トイ・ストーリー』のゲーム版である。監督は,TVアニメ界で『ザ・シンプソンズ』等を手がけたリッチ・ムーアで,映像業界で「映画こそ最高峰」と思われてきた常識を壊そうかという勢いである。
 原題は,『Wreck-It Ralph』(ラルフ,壊しちまえ!)だから,まさに壊し屋が主人公なのである。ラルフは,アーケード・ゲーム「Fix-It Felix」の悪役キャラで,彼が何でも壊してしまうのに対して,善人キャラのフェリックスが何でもすぐに修理してしまうという役回りだ(写真1)。いつかは自分も「ヒーロー」になりたいと願う悪役キャラたちの勢揃い(写真2)には,思わずニヤリとしてしまう。著名ゲームの悪役たちがカメオ出演しているからだ。ラルフの声の出演は,ジョン・C・ライリー。風貌がそっくりで,まさにイメージ通りの配役だ。
 
 
 
 
 
写真1 壊し屋ラルフ(左)と修理屋フェリックス(右)
 
 
 
 
 
写真2 ラルフを囲み,人気ゲームの悪役たちが勢揃い
 
 
  3つのビデオゲームがターミナル駅を模した「ゲーム・セントラル・ステーション」で繋がっている。邦題は,お菓子の国でのレーシング・ゲーム名「Sugar Rush」をそのまま使ったもので,このゲーム世界に住む少女ヴェネロペが本作のヒロインだ。ラルフ,フェリックス,ヴァネロペの3人の設定は,『モンスターズ・インク』(02年2月号)のサリー,マイク,ブーを思い出す(写真3)。以下,技術面を中心とした見どころである。
 
 
 
 
 
写真3 『モンスターズ・インク』のコンビを思い出す
 
 
  ■ ゲーム「Fix-It Felix」は,昔の8ビット・ゲームの世界で,登場キャラにはポリゴン数の制限があり,画面解像度の制約も懐かしい。この画面を見ただけで往年のゲーマーは痺れるに違いない。次なる「Hero's Duty」はシューティング・ゲームで,邪悪な敵サイ・バグを倒す。技術的に特筆すべきものはないが,ダークな世界はいかにもそれらしい雰囲気で描かれている(写真4)
 
 
 
 
 
写真4 機械生命体のサイ・バグを倒すシューティング・ゲーム
 
 
  ■ 3つめの「Sugar Rush」では,お菓子の質感に注目だ(写真5)。本物のお菓子を大量に買い込み,写真を撮って,ゼリーやファッジの見え方を徹底分析したという。人の肌の質感を再現するのに開発されたCG技術が,お菓子の表面の描写に使われている。それを支えるために,新しいライティング・ソフトウェアを導入したようだ。ゲームキャラたちが行き交うターミナル駅は,その新技術を駆使して,窓から差し込む光まで,NYのセントラルステーション駅を模している(写真6)
 
 
 
 
 
写真5 レース・シーンはお菓子の質感にも注目
 
 
 
 
 
写真6 ターミナル駅は窓から差す微妙な光も再現
(C) 2013 Disney. All Rights Reserved.
 
 
  ■ 本作は惜しくもオスカーは逃したが,併映の短編『紙ひこうき』が,短編アニメ部門でアカデミー賞を受賞している。伝統のセルアニメ調とCG技術を融合させた見事な作品で,アニメの楽しさを満喫させてくれる。モノクロ映像(ヒロインの唇と新聞についた口紅跡だけがカラー)であることが,レトロな感じを高めている(写真7)。昨夏のSIGGRAPHでこの短編を観て,「来年のオスカーはこれで決まりだ!」と確信した。
 
  ()
 
 
 
 
 
写真7 併映の短編『紙ひこうき』はオスカー受賞
(C) 2012 Disney. All Rights Reserved.
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
   
<>br