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O plus E誌 2017年3月号掲載
 
 
ボヤージュ・オブ・タイム』
(ギャガ配給)
      (C) 2016 Voyage of Time UG(haftungsbeschrankt)
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [3月10日よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー公開予定]   2017年1月30日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  一段と高解像度になった映像での140億年の旅  
  テレンス・マリック監督は,1943年米国イリノイ州生まれで,現在73歳。既に老匠の域の年齢だが,異才,哲人と言った呼称の方が相応しい。1973年の『地獄の逃避行』での監督デビュー以来,30年余でたった4本の映画しか撮っていなかったのに,『ツリー・オブ・ライフ』(11年8月号)以来,急速に製作意欲が増していることは,以前にも書いた。『トゥ・ザ・ワンダー』(12)『聖杯たちの騎士』(15)に続く8作目が本作であり,9作目『Song to Song』も完成間近だという。
 作風は多彩になり,ほとばしる美的感覚はますます研ぎ澄まされ,物語の抽象度,難解度は増している感がある。ハーバード大学の哲学科を首席で卒業し,オックスフォード大学の大学院に進んだと聞けば,なるほどとも思うが,最初から全く難解であった訳ではない。大作『シン・レッド・ライン』(99)は,通常の戦争映画とはかなり趣きは異なったが,兵士たちの行動や戦闘シーンの展開は十分読み取れた。かつて『ダーティ・ハリー』(71)の脚本草稿に参加したと聞くと,普通のオーソドックスな脚本家としてのスタートを切った訳である。『トゥ・ザ・…』の紹介時に「筆者には,この監督の映像の意図を,一度の観賞だけで適確に読み取る力はない」と書いたが,セリフを極力減らし,美しく,流れるような映像の中にメッセージを込めようとするためだろう。
 この監督の映画に出たいという大物俳優は少なくないというが,残念ながら,本作には俳優が登場する余地は全くない。宇宙の始まりから,生命の発生と進化を描く映像作品で,「ドキュメンタリー」の扱いをされてしまっている。ケイト・ブランシェットがナレーションを務めているが,NHKアナウンサーのような正調のMCではなく,「詩の朗読」とでも言うべき声の出演である。
 当欄は,カンヌでパルムドール(最高賞)に輝いた『ツリー・…』を絶賛し,を与えた。ブラッド・ピットやショーン・ペンが登場する中盤以降の物語に対してではなく,前半1時間弱の「映像交響詩」とでも呼ぶべきパートに感嘆したからである。人類の誕生と生命の神秘を描く映像は,当然ディジタル技術を相当駆使していると思われたが,残念ながらスチル写真が1枚も提供されず,メイン欄での掲載を断念した。
 本作は,このテーマを踏襲し,全編90分に拡大している。ビッグバン直前から,宇宙,銀河系,惑星の誕生にもたっぷり時間を割き,生命の誕生に至る約140億年の歴史を,一段と高解像度にした映像で迫る。当然,大きな画面での視聴に適しているし,最初からIMAX社と提携の上,製作を進めている。嬉しいことに,今回は10数枚のスチル画像が公開されているので,かくしてメイン欄で紹介できるという訳だ。
 宇宙物理学,地質学,生命科学等の,一線の研究者チームの徹底した助言を受け,科学的考証を受けたというが,基本的には,どの映像も「想像」と「洞察」による創造物である。データ的には,ハッブル望遠鏡,太陽観測衛星,惑星間探査船から撮影した映像や,コンピュータ・シミュレーションによる可視化映像を大量に入手し,VFXチームはマーマレード,グリセリン,染料,塗料,塩等々を素材として使ったという。
 見どころの1つは,地球創世記の火山の爆発,噴煙や溶岩流,火山灰の堆積を経て(写真1),やがて安定した陸地や海が形成される過程だ(写真2)。生命の発生過程の映像も,科学的と感じつつ,実は見たこともない神秘的な映像で迫ってくる(写真3)。CG/VFXの主担当はMethod Studios,副担当はDouble Negative。一流スタジオが参加し,計算量は膨大であったと思われるが,参加アーティスト数はSF大作に比べると多くはない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真1 惑星表面の形成,地球創世紀の噴火等は,宇宙物理学や地質学をしっかり学んだ上でのCG描写。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 現代の地球上ありそうな光景だが,おそらく実写をかなり加工して生まれた映像
 
 
 
 
 
 
 
写真3 生命の発生過程も,数々の顕微鏡像を参考にした上で,美しい神秘的な映像で表現
(C) 2016 Voyage of Time UG(haftungsbeschrankt). All Rights Reserved.
 
 
  かく解説しつつも,筆者は前作ほどの衝撃は感じなかった。ほぼ同じ路線での映像群には新鮮さを感じない。4Kテレビには適したコンテンツだなと感じた程度である。ただし,前作未見の観客は,この圧倒的な映像と荘厳な音楽に感動すると思われるので,なるべく大きなスクリーンでの観賞をオススメする。    
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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