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O plus E誌 2009年7月号掲載
 
 
『モンスターVSエイリアン
(ドリームワークス映画
/パラ マウント ピクチャーズ配給)
      (C) 2009 DreamWorks Animation LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月11日より新宿ピカデリーほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2009年5月28日 東映試写室(大阪)
 
         
   
 
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ボルト』

(ウォルト・ディズニー映画)

      (C) Disney Enterprises, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月1日より渋東シネタワーほか全国ロードショー公開予定]   2009年5月28日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  3D上映を想定したフルCGアニメの意欲作
 
 

 残りも2本まとめての紹介だが,こちらはフルCGアニメ作品の競演だ。いずれも3D上映を視野に入れた製作である。もはやフルCGアニメだからと言って特筆すべきこともないと宣言して久しいが,やはり取り上げて語らざるを得ない2本である。
 まずは,『シュレック』シリーズのPDI/ドリームワークス・アニメーション(DWA)の最新作『モンスターVSエイリアン』である。2大怪獣が戦う『エイリアン vs. プレデター』(05年1月号)とは全く関係ないが,洒落っ気とも言えるし,便乗商法と言えなくもない。ライバルDisney/Pixar社の『モンスターズ・インク』(02年2月号)を意識していることは言うまでもなく,『モンスター・ハウス』(07年1月号)のSony Pictures Animationにも睨みを利かせているとも考えられる。
 米国市場で3D上映ブームであることは,『センター・オブ・ジ・アース』(08年11月号)の稿で語った。フルCGアニメでは左右視差のある立体映像版を作りやすいことは,CG技術の基礎を学んだ者なら容易に分かる。2台の仮想カメラを設定すれば,レンダリング量が2倍になるだけで,キャラクターデザインや形状モデリングの膨大な作業は全く変わらない。ディズニーの『ルイスと未来泥棒』(07年12月号)等は,2D版の製作が進んでから3D化が決定されたため,後処理による視差付与で苦労があったというが,最初から3D上映と決まっていればそんな無駄な作業は不要だ。そうした状況下で,今や最大手のDWAが製作発表時から高らかに「3D」を前面に押し出した意欲作が本作品である。そのためか,試写会場は満席に近かった。
 主人公のスーザンは結婚生活を夢見る平凡な女性だが,何とその結婚式当日に隕石に接触したことから,突然身長15mの巨人に変身してしまう。彼女は新種のモンスターと認定され,政府の秘密基地に収容される。そこにエイリアン達が地球攻撃を始めてきたために,他のはみ出し者のモンスター軍団と共に戦う破目になってしまう……。奇想天外で荒唐無稽な物語なのは言うまでもないが,モンスターやエイリアンのキャラクター造形や3D上映での効果が大きな見どころだ。
 残念ながら,試写は2D上映だった。それでも,登場人物が画面中央に配されたり(写真1),カメラの前後移動が多く,3Dでの効果が強調されていることがすぐ分かる。巨大化したスーザンの存在自体もアクションシーンも構図もしかりである(写真2)。2D上映ではその効果を味わえないのは仕方ないとしても,この映画はノリが悪く,期待したほどには楽しめなかった。大きな欠点はないのだが,ワクワクするものがないのである。

   
 
写真1 登場人物が中央に来ることが多い  
 
   
 
 
 
写真2 巨大化したヒロインやアクションシーンは,明らかに3D上映を意識したもの  
 
   
 

 その原因の1つは,モンスターたち(写真3)は個性的であるが,今一つ魅力に乏しいことだろう。『モンスターズ・インク』に対抗して個性的な造形にしたことは感じられるが,対抗心が強過ぎて,肝心の魅力に欠けている。3D技術としても目新しさはない。所々にいい構図だと感じたシーンはあったが(写真4),3D化にエネルギーを費やし過ぎた感は否めない。
 そんな中で,最も魅力的だったのは,スーザンを演じたリース・ウィザースプーンの声である。スーザンというキャラは,彼女の声やセリフ回しに実によく合っている。日本語吹替版よりも,字幕版がオススメだ。

   
 
写真3 本作に登場する個性的なモンスターたち  
 
   
 
 
 

写真4 随所にエレガントで味のあるシーンも登場
(C) 2009 DreamWorks Animation LLC.

 
   
  ピクサーの総帥が指揮した新生ディズニーの佳作
 
 

 対抗する『ボルト』は,ライバルのピクサー社の作品ではなく,本家たるWalt Disney Animation Studioの作品である。ただし,ピクサーの総帥ジョン・ラセター氏が製作総指揮として,企画段階からこの映画の成り立ちに関与している。提携関係を終えてピクサーがディズニーの完全な傘下に入ると同時に,ラセター氏は両アニメ・スタジオの責任者を兼ねている。その同氏が係わった途端に本家の作品がここまで輝くとは驚きだ。
 前号のDVD特典映像ガイドで紹介したピクサー社の軌跡に詳しいが,元々同氏はディズニーが設立したカリフォルニア芸術大学(CAL ARTS)出身の優等生で,卒業後,素直にディズニー・アニメーションに入社している。1980年代の前半にCGの可能性を訴えたが,同社では受け入れられず,ピクサー社の設立に参加する。そこで『トイ・ストーリー』(95)を生み出し,アニメ史上に残る存在となるが,ディズニー・アニメに対する思い入れは人一倍だったに違いない。その熱き想いがまともに出ている作品である。
 日本ではようやく夏休みの公開だが,米国では昨年の感謝祭シーズンの公開だった。昨年度のアカデミー賞長編アニメ部門のノミネート3作品にも選ばれている(オスカーは,ピクサーの『WALL・E/ウォーリー』(08年12月号)がとった)。良作との評判は聞いていたが,実際に試写を観て驚いた。これほどの佳作とは思わなかった。ラセター氏の指揮で,伝統あるディズニー・アニメがここまで甦るのは喜ばしいことだ!
 ボルトというのは,少女ペニーに飼われている白い子犬の名前だ。大人気のTV番組で活躍中のスター犬だが,番組の世界を現実と錯覚し,自分がスーパーパワーの持ち主と思い込んでいる。ある日,ハプニングからボルトはトレーラーに積まれ,ハリウッドからNYへと運ばれてしまう。ペニーのもとに帰りたいボルトは,アメリカ横断の旅を余儀なくされるが,その道中で繰り広げる冒険譚のロードムービーが本作の見どころである。
 まず,冒頭の劇中劇のTV番組のテンポからして快調で,最初からワクワクして見入ってしまう(写真5)。このテンションをずっと続けられるのだから,緻密に計算され尽くした脚本だと言える。ボルトは静止画で観るとさほど可愛くはないが,動画で観るとなかなか愛らしいキャラだ。デザインはかなり漫画風でリアルな顔立ちではないが,その半面,背景の画質が驚くべきリアルさで描かれている。サンフランシスコやNYの街の描写に感心するが,木々や草花の繊細な描写も特筆に値する。細部のモデリングにかなりの労力をかけていて,光の使い方やぼかし方も見事だった。

   
 
写真5 思わず引き込まれるボルトの冒険  
 
   
 

 もう1つの成功要因は,キャラ設定がシンプルで嫌味がないことだろう。NYで出会った野良猫のミトンズ,ハリウッドに戻る旅の途中で加わるハムスターのライノとのトリオが実にいい(写真6)。この点では,『モンスターVSエイリアン』のモンスター・トリオよりも数段上だ。特に,透明の球状の容器に入ったライノの動きが素晴らしい(写真7)。この動きを演出したアニメーターの腕は特筆ものだ。さすがディズニーの伝統だ。
 意識せずに観ていたが,この映画も3D版が作られている。2D版でも十二分に楽しめるということだ。あえて『モンスターVSエイリアン』を擁護するならば,3D版への意欲の違いもあるのだろう。本号には間に合わなかったが,『モンスターVSエイリアン』は3D版を観てから改めて評価したい。

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写真6 このトリオの活躍がワクワク,ドキドキもの  
 
   
 
 
 

写真7 透明ボールに入ったライノの動きが絶妙
(C) Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.

 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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