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O plus E誌 2011年3月号掲載
 
 
 
 
『塔の上のラプンツェル』
(ウォルト・ディズニー映画)
 
 
      (C) Disney Enterprises, Inc.

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [3月12日よりTOHOシネマズ 有楽座ほか全国ロードショー公開予定]   2011年1月28日 角川試写室[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  50本目の記念作は,これぞ正しくディズニーアニメ!  
  選抜や表彰には不公平はつきものである。明確な数字や順位が伴うスポーツ界でもそうだから,映画のような総合芸術で,作り手にも評価する側にも個性的な人物が多いとなれば,平等で客観的ということはあり得ない。そう分かっていながら,この映画がアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされなかったのは合点がいかない。アカデミー会員の目は今年も節穴か,それとも過剰接待と金品贈与がないと投票しないのかと言いたくなる。極東の地で,筆者が憤っても何の影響もないが,本作はそれほど魅力的で美しい作品だった。
 申し訳程度に,オリジナル歌曲賞部門でノミネートされているが,やはり長編アニメ部門で選ばれて欲しかった。同部門は2002年に新設されたばかりで,候補作は3作品に限られている。まだ10年の歴史しかないが,最近はCGアニメの方が実写作品より遥かに平均品質が高いことを考えれば,5作品選んでも良かったかと思う。本欄の主対象である視覚効果部門は,今年から3作品から5作品ノミネートに格上げされている。
 ノミネート作品は,『ヒックとドラゴン』(10年8月号)『トイ・ストーリー3』(同)『イリュージョニスト』(次号で紹介予定)の3作品だが,フルCGアニメの前2者と比較しても,全く遜色のない佳作だ。本作は(ピクサー作品を別として)長編ディズニー・アニメの記念すべき50作目だそうだ。なるほど,いかにもいかにものディズニー・アニメである。目をつぶって,音楽とセリフを聞いただけでも,ディズニー・アニメと分かるほどだ。その制約がある中で,この物語を作り上げたことにも感心する。数えてみると,筆者は50作品中,丁度半分の25作品を観ている。その中で最も美しい作品であると断定できる。
 共同監督のネイサン・グレノとバイロン・ハワードは,『ボルト』(09年7月号) を担当したコンビだ。勿論,ピクサーのジョン・ラセターが製作総指揮で背後に控えている。そう聞いただけで,この作品のクオリティの高さが想像できる。原作はグリム童話の「ラプンツェル」で,「髪長姫」とも呼ばれている作品だ。原作では,乳児の頃,魔女にさらわれた髪の長い娘・ラプンツェルが,王子によって助けられ,やがて結ばれるという設定だが,本作では,ラプンツェル自身の正体が王女であり,お尋ね者の泥棒青年と結ばれるという設定に変えられている。いずれでもいいようなものだが,50作目は定番のプリンセスものでキメたかったのだろう。この映画全体が,ディズニーランドのCMを観るかのようだ。
 冒頭の黄金の花が頗る美しい。王冠もしかりだ。光の使い方が見事だ。前作『プリンセスと魔法のキス』(10年3月号)で,「煌めく光と音楽,気迫溢れるミュージカル・アニメ」と評したが,それが本作にも当てはまり,さらにパワーアップしている。歌曲が素晴らしいだけでなく,全編を貫くサウンドの構成も見事で,ミュージカルとしても一級だ。今そのサントラ盤を聴き,映画の雰囲気に浸りながら,この稿を書いている。
 映像的には,まず何といっても看板であるラプンツェルの髪の表現が素晴らしい。アップの普通の長さに見える場合ですら,その光沢としなりに感嘆する(写真1)。『シュレック』(01)でフィオナ姫の髪の光沢を褒めていたのが,懐かしく,恥ずかしく思うほどだ。長い髪の表現となると,今度はその振る舞いの描写に恐れ入る(写真2)。これは,流行りの物理シミュレーションではなく,ディズニー伝統のアニメーターならではの技に思えるのだが,違うだろうか? 髪の毛ばかりに注意が行くが,衣装の微妙な動きの表現も秀逸だ(写真3)
 
   
 
写真1 光沢にも髪のしなりにも感嘆
 
   
 
写真2 この長さに驚くが,その動きのしなやかさも絶品
 
   
 
写真3 長い髪だけでなく,衣装の微妙な描写も秀逸
 
   
   そもそも50作の歴史で,ディズニーがセル調の表現からフルCGに転じたのは『チキン・リトル』(05年12月号) からで,まだ4作目にすぎない(一方,ピクサーは全11作品)。それだけで,ここまでCGを使いこなせる習熟度にも恐れ入る。圧巻は,他誌でもさんざん書かれているように,霧の中を舞い上がり,水面に舞い降りる多数のランタンの描写だ(写真4)。これほど美しいシーンは見たことがない。映画史上に残る名場面だ。
 
   
 
 
 
写真4 多数のランタンが舞い上がる光景に酔いしれる
(C) Disney Enterprises, Inc.
 
   
   この映画の試写は2D版で観たが,随所に3D版ならさぞかし,と思わせる構図が多々あった。その点の配慮と習熟カーブも特筆に値する。公開後絶対に3D版を見に行くことだろう。その半面,この美しい映像が光量半分で暗くなるのはもったいない。IMAX-3D版が上映されるなら,それに限る。販売不調の家庭用3D-TVがブレークするきっかけとなるかも知れない。        
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  (画像は,O plus E誌掲載分を一部入替し,追加しています)  
   
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