O plus E VFX映画時評 2026年10月号

『バイオハザード』

(コロンビア映画/SPE配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[10月9日より全国ロードショー公開中]



2026年10月9日 109シネマズ港北

(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています)


新企画のリブート作は斬新なホラーで,抜群に面白い

 またこの題名の映画を作るのかの思いだった。元はカプコン製の同名の人気ビデオゲームで,かつてミラ・ジョヴォヴィッチ主演の実写映画シリーズとして,6本も実写映画化された。当欄では,その2本目以降の5作を紹介した。CG/VFXは結構利用されていたものの,物語が今イチだったので,高評価はできなかった。
 今回,ナンバリングも副題もないので,すぐにリブート作だなと分かった。厳密に言えば,5年前にリブート作『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』(21)が制作され,物語的には原点返りしていたが,出来映えは旧シリーズの平均以下であった。ところが2度目のリブートである本作は,シンプルなゲーム名そのもの(即ち,第1作と同じ)で,これは英題も同様であった。よって,本気度は前作より上で,自信作なのだなと思われた。
 少し食指が動いた理由がもう1つある。監督・脚本が『WEAPONS/ウェポンズ』(25年11月号)のザック・クレッガーであったからだ。監督2作目の同作は,かなりユニークなホラー映画であり,当欄では評価を与えていた。新世代ホラーの旗手との呼び声も高いので,サバイバルホラーの本シリーズを全く別の視点から作り直していることが期待できた。北米では9月18日に公開され,公開週のBox Officeランクが1位の上に,批評家評価も観客評価も極めて高いことに驚いた。既にマスコミ試写の機会はなかったので,急ぎ公開日にシネコンに駆け込んだが,なるほど評判通りで,抜群の面白さだった。そこで,当初予定になかったが,急遽メイン記事扱いで掲載することにした次第である。
 以下では,この機会に過去のシリーズ全作品を整理・概観した上で,本作を語る。

【シリーズ過去作の整理】
 原典は,日本のカプコンが開発したプレイステーション用のビデオゲームシリーズで,ドイツのコンスタンティン・フィルムが映画化権,米国のスクリーン ジェムズが配給権を得て,実写映画化が始まった。ポール・W・S・アンダーソンが監督・脚本に起用され,1作目がヒットしたことから,シリーズ化されて,全6作が製作された。
 主演のミラ・ジョヴォヴィッチは,1作目の後,監督のP・W・S・アンダーソンと結婚し,全作で主演を続けることになる。Rotten Tomatoes等では,酷評されていたが,ミラ・ジョヴォヴィッチの魅力だけでもたせていたシリーズであった。その後に作られた実写のリブート作2本,日本で製作されたCGアニメ版4本についても,その位置づけを以下に整理した。

●実写版
①『バイオハザード』(98年8月31日公開)
[原題]Resident Evil, [監督]ポール・W・S・アンダーソン
[主人公]アリス・アバーナシー(ミラ・ジョヴォヴィッチ)
[概要]ゲーム版には登場しない女性アリスを主人公にしたシリーズ第1作。軍需産業アンブレラ社が開発した生物兵器「T-ウィルス」によって生じたゾンビたちと戦うというゲームの基本コンセプトは踏襲されていた。欧州資本の低予算映画ながら思いがけないヒットで,「ゲームの映画化作品はヒットしない」の定説を覆し,ソンビ映画復活の先駆けとなった。

②『バイオハザードII アポカリプス』(04年10月号)
[原題]Resident Evil: Apocalypse, [監督]アレクサンダー・ウィット
[主人公]アリス・アバーナシー(同上),ジル・バレンタイン(シエンナ・ギロリー)
[概要]前作の好評により,ハリウッド大作としてシリーズ化され,製作費も増した。地下研究所からの脱出だった前作から,その真上にあったラクーンシティへと舞台は変わる。ゲーム版で人気の特殊部隊の女性隊員ジルをW主演で登場させたことで映画ファンも増えた。「アポカリプスは「黙示録」の意。

③『バイオハザードIII』(07年11月号)
[原題]Resident Evil: Extinction, [監督]ラッセル・マルケイ
[主人公]アリス・アバーナシー(同上)
[概要]上記の数年後の設定。T-ウィルスが世界中に蔓延したことで,アンブレラ社は東京を含む世界各地の支社と連絡を取り合う。「日中の砂漠」が舞台で,いかにして恐怖感を与えるかの興味や,アリスの行動を偵察衛星から監視するという設定が話題となった。原題の「Extinction」は「絶滅」の意。

④『バイオハザードIV アフターライフ』(10年10月号)
[原題]Resident Evil: Afterlife, [監督]ポール・W・S・アンダーソン
[主人公]アリス・アバーナシー(同上)
[概要]P・W・S・アンダーソンが監督に復帰し,3D上映作品として製作された。前作から1年後の設定で,映画は東京から始まり,アラスカの雪山も登場する。アリスが生存者を探し,刑務所内から救出するという物語。副題の「Afterlife」はあの世,死後の世界の意。

⑤『バイオハザードV リトリビューション』(12年9月号)
[原題]Resident Evil: Retribution, [監督]ポール・W・S・アンダーソン
[主人公]アリス・アバーナシー(同上)
[概要]上記の④の直後から始まる物語で,これも3D作品。②のジルが,敵役としてアリスの命を狙う攻撃部隊を率いている。映画としては,ゲーム風バトルの連続だった。副題の「Retribution」は報復,報いを意味している。

⑥『バイオハザード:ザ・ファイナル』(17年1月号)
[原題]Resident Evil: The Final Chapter, [監督]ポール・W・S・アンダーソン
[主人公]アリス・アバーナシー(同上)
[概要]シリーズ最終作。⑤から4年ぶりの製作だったが,物語は⑤の直後の設定。人工知能レッドクイーンからラクーンシティ地下の研究所に抗ウイルス剤があることを知り,アリスはそれを求めて最終決戦に挑む。いかにもの大団円で,やっと終わってくれたことを喜び,当欄はご祝儀でやや高評価にした。

⑦『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』(22年1月28日公開)
[原題]Resident Evil: Welcome to Raccoon City, [監督]ヨハネス・ロバーツ
[主人公]クレア・レッドフィールド(カヤ・スコデラリオ)
[概要]ゲーム版の「1」&「2」がベースで,アンブレラ社の撤退後,荒廃したラクーンシティが舞台だ。ゲーム版の主要キャラが勢揃いするが,かなり改変されていた。リブート作としては,俳優も物語もお粗末で興行的には失敗作に終わった。

⑧『バイオハザード』(本作)
[原題]Resident Evil,[監督]ザック・クレッガー
[主人公]ブライアン・ホドゥカビッチ(オースティン・エイブラムス)
[概要]2度目のリブート作。概要と物語展開は後述する。

●CGアニメ版
①『バイオハザード ディジェネレーション』(08年10月18日公開)
[英題]Resident Evil: Degeneration,[監督]神谷誠
[主人公]レオン・S・ケネディ(声:ポール・メルスィエ)
[概要]和製フルCGアニメの第1弾だが,世界市場を意識して言語は英語がメインで作られた。ゲーム版の「2」に続く内容で,時代設定は2005年。壊滅したラクーンシティからの生還者のレオン・S・ケネディとクレア・レッドフィールドが,バイオテロリスト達と戦う物語。たった3館での小規模公開だったが,DVDは爆発的に売れた(ゲーマー達が買った)。

②『バイオハザード ダムネーション』(12年11月号)
[英題]Resident Evil: Damnation, [監督]神谷誠
[主人公]レオン・S・ケネディ(声:マシュー・マーサー)
[概要]時代設定は上記の6年後の2011年で,舞台を東欧の小国に移した物語だった。紹介記事中で記したように,CGのレベルは前作から格段に進歩していて,当時流行の3D上映に対応していた。

③『バイオハザード:ヴェンデッタ』(17年5月27日公開)
[英題]Resident Evil: Vendetta, [監督]辻本貴則
[主人公]クリス・レッドフィールド(声:ケビン・ドーマン),レオン・S・ケネディ(声:同上)
[概要]時代設定は2014。アニメ版初登場のクリス・レッドフィールドがL・S・ケネディとタッグを組み,メキシコ軍特殊部隊と共に,ゾンビ達と戦う。日本でも英語上映(日本語字幕)だけで,日本語吹替版は劇場公開されなかった。

④『バイオハザード デスアイランド』(23年7月7日公開)
[英題]Resident Evil: Death Island, [監督]羽住英一郎
[主人公]ジル・バレンタイン(声:ニコール・トンプキンズ)
[概要]時代設定は上記の1年後の2015年で,舞台はアルカトラズ島。実写版では何度も登場したジルがアニメ版で初登場し,レオン,クリス,クレア,レベッカの5人が勢揃いすることがセールスポイントだった。本作も日本語吹替版は劇場公開なしだった。

【本作の概要と物語展開】
 主人公のブライアン・ホドゥカビッチ(オースティン・エイブラムス)は医薬品配達人だったが,ある病院での配達を終えた時に,コロラド州ラクーンシティ総合病院への緊急配達を依頼される。気乗りしなかったが,報酬が倍というので引き受けてしまった。雪道を走行中に,急に飛び出した女性を轢いてしまった(写真1)。救急車を呼ぼうとしたが,携帯電話の電波が届かない。重傷の女性を助手席に乗せて運ぼうとしたが,奇妙な行動を取り始めた。そこにパトロール中の保安官がやって来たので,女性をパトカーに乗せて病院まで運ぶことにし,ブライアンはその後を追った(写真2)。突然,前を行くパトカーが横転し,保安官は即死した。無線で助けを呼ぼうとした時,重傷のはずの女性が襲ってきた(実は,ソンビだった)。ブライアンは止むなく警官用の拳銃で彼女を撃った(写真3)。その弾丸が当たったため,ブライアンの車は動かなくなってしまった。


写真1 夜間の雪の道路に飛び出して来た女性を轢いてしまう

写真2 (上)助手席から急に手が伸びて来て, 観客も凍りつく
(下)保安官のパトカーに乗せて運ぶことにした(まだゾンビだと判明していない)

写真3 まだ生きていて襲ってきたので, 止むなく拳銃で射殺した

 移送手段を失ったブライアンは医薬品バッグを抱えて,深い雪道を歩く。ようやく,灯りのある農場を見つけたが,そこでは怪物に突然変異した黒犬(サイコドッグ)に襲われる。こちらも何とか射殺して農家に入ると,射殺したはずの女性がまたも現われ,既にゾンビ化していた夫に襲われた。この家にあったショットガンで2人を射殺したが,死体から触手が生え,2つの死体が合体してモンスターとなった。
何とか振り切って脱出したブライアンは,ラクーンシティに向かう途中で,様々な信じがたい恐怖に遭遇する。道中で出会ったアンブレラ社社員のポール(ポール・ウィンター・ハウザー)とマキシーン(カーリー・ルイス)から,同社で生じた実験室事故が恐ろしい生物感染を引き起こしたこと,総合病院内の研究室は治療剤を完成させるためブライアンが届ける医薬品を待っていることを知らされた。ビルから落ちてくる感染者たちを避けながら,ようやくブライアンは総合病院に辿り着いたが,そこには更なる恐怖と絶望が待ち受けていた……(写真4)。


写真4 ようやく目的地の総合病院に到着した

【本作に対する初見時の感想】
 ラクーンシティが米国中西部の架空の都市であること,アンブレラ社は巨大製薬企業で,秘密裏に生物兵器を開発していたこと,同社が開発したウィルスが原因で,凄まじい生物感染,生物災害が引き起こされ,世界は破滅に向かう,という前提は同じであったが,本作は過去作とは一線を画すオリジナルストーリーであった。Z・クレッガー監督自身がかなりのゲームファンであり,「バイオハザード」シリーズを「サバイバルホラーの1つの到達点」と高評価している。本作の脚本執筆に関しては,「原作ゲームの特定の作品をそのまま翻案するのではなく,サバイバルホラーである原作ゲームシリーズをプレイしたときの感覚や,体験そのものを映画として表現することにした」と語っている。
 ⑦はゲームの原点に立ち返って最初からやり直すという「リブ-ト」であったが,本作は原作ゲームの精神だけを借用して,全く別の映画にするという意味での「リブート」なのである。何が違うかと言えば,アリスは元々アンブレラ社の特殊部隊員で,T-ウィルスを細胞レベルで注入されたため,超人的な戦闘能力を得ていた。レオン,クルス,ジルらはラクーン市警特殊部隊S.T.A.R.S.の隊員で彼らも高度な訓練を受けていた。それに対して,本作のブライアンはただの配達員であり,銃器を扱った経験すらなかった。最初の病院も一般人が通う普通の病院である。この普通人の世界から,徐々にとんでもない恐怖の世界に巻き込まれて行く展開が秀逸であった。
 ブライアンは,最初は警官が携行する拳銃の安全装置の外し方も分からなかったのに,次は農家で見つけた二連式のショットガンを使いこなす(写真5)。さらには,置かれたいたマシンガンを自分で組立て,敵を一網打尽にするにまで至る(写真6)。恐怖のレベルが過激になるに連れ,銃器もブライアンの腕も上がる。この盛り上げ方が見事で,全く飽きずに観てしまう。


写真5 (上2枚)警官用の拳銃をなんとか使えるようになる
(下2枚)農家にあった二連式のショットガン。頭を吹き飛ばす威力だった。

写真6 自分で組み立てたマシンガンを携行し, 連射できるようになった

 ウィルスに感染したソンビの描写もしかりだ。過去作では,感染した人間の大半は「アンデッド」として噛みついて他者を感染させる程度であったが,時にはリッカーのようなかなりの異形や,ネメシスのような戦闘能力の高い敵も登場させていた(写真7)。これらはゲームに登場するキャラクターを実写映画でも登場させ,ジョージ・A・ロメロが生み出した「ソンビ」の枠を逸脱させていたと言える。本作では,ゲームからの流用を一段と加速し,しかも人間の姿からとんでもない姿に変身する変化を克明に描いていた。これも物語の進行と共に過激化する。それがコメディタッチで描かれるので,呆れ果て,怖さよりも楽しさが上回ってしまう。それゆえ抜群に面白いのである。これはクレッガー監督の脚本家,演出家としての天性の才能であり,今後の作品も確実に期待できる。


写真7 (上)普通のゾンビ達, (中)実写版①に登場する怪物リッター
(下)実写版②に登場した戦士ネメシス。あまりソンビらしくない。

【主要スタッフ&キャストの紹介】
 ザック・クレッガー監督は米国バージニア州の出身で,現在45歳。在学中にコメディ集団を立ち上げ,俳優として数作品に出演した後,初の長編監督作品『バーバリアン』(22)で話題となった。日本では劇場未公開だったので,筆者は未見である。現在はネット配信されているので観たかったが,まだ時間的余裕がない。『WEAPONS/ウェポンズ』と本作の大成功で,今後売れっ子監督として多数の映画を生み出すことは確実だ。
 共同脚本のシェイ・ハッテンは,ザック・スナイダー監督のゾンビ映画『アーミー・オブ・ザ・デッド』(21)や2部作『REBEL MOON ― パート1&パート2』(24年4月号)の脚本を担当し,『ジョン・ウィック』シリーズの2本の脚本にも部分参加している。同シリーズのスピンオフ映画『バレリーナ:The World of John Wick 』(25年8月号)は、純粋の彼のオリジナル脚本だという。まだ32歳なので,かなり有望な脚本家のようだ。
 撮影監督のダリウス・ウォルスキーは,既に70歳のベテランカメラマンで,この3人の中では映画人として最も輝かしい経歴をもつ。リドリー・スコット,ティム・バートンらの著名監督作品を中心に,当欄での紹介作は『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの4本,『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)『プロメテウス』(12年9月号)『ザ・ウォーク』(16年1月号)等,当欄で紹介したメイン作品だけでも10指に余る。トム・ハンクス主演の『この茫漠たる荒野で』(21年Web専用#1)では,アカデミー賞撮影賞にノミネートされた。本作でもヘッドライトの使い方や農家の灯りなどを目指してブライアンが雪道を歩くシーンは,見事な出来映えであった。この巨匠カメラマンが配されたというだけで,Z・クレッガー監督のへの期待値がいかに大きいかが分かる。
 主演男優のオースティン・エイブラムスの名前を出すのはこれが初めてだ。出演作の約半数は日本未公開作品で,少し目立つのはZ・クレッガー監督の前作『WEAPONS/ウェポンズ』くらいだ。ホームレスの若者役だったらしいが,全く記憶にない。そこそこイケメンであるが,どこにでもいる若者風なので,それが禍いして,これまで大役は得られなかったのだろう。本作では,その普通人らしさで主人公に選ばれたと思われる。もっとも,次週公開の『クジラに落ちた男』でも主演だというから,既に売れっ子の仲間入りはしているのかも知れない。
 全編でブライアンは出ずっぱりで,他の人物の登場場面は極めて少ないが,数名だけ記しておこう。ブライアンの恋人ミシェル役のサラ・パクストンも『WEAPONS/ウェポンズ』に続いての起用だが,本作では電話の声だけでの出演である。子役出身でなかなかの美形だ。既に故人だが,『アポロ13』(95)や『タイタニック』(98年2月号)でお馴染みだった男優ピル・パクストンが親戚だそうだ。
 アンブレラ社社員役の2人の内,ホール役のP・W・ハウザーは大柄な中堅男優だが,コメディアン,プロレスラー,ラッパーという変わり種だ。クリント・イーストウッド監督の『リチャード・ジュエル』(19年Web専用#6)で,同名の実在の警備員役で主演していたのが印象に残っている。一方,もう1人のマキシーン役のK・レイスは,元プロボクサーで,ミドル級,スーパーライト級の世界チャンピオンという経歴の持ち主だ。前作『MERCY/マーシー AI裁判』(26年1月号)では警官役,本作では元軍人でポールの護衛役であったから,今後もパワフルな女性役で登場することが多いと思われる。

【異形のゾンビの描き方】
 上述したように,物語の進行とともに,かなり異形のゾンビが次々と登場し,しかもそれがエスカレートする。よって,CG/VFXがふんだんに使われていることは自明であった。その主担当はWeta FX社で,実力的に申し分ない。その他,Lola VFX,UPP,Wylie Co. Visual Effects, Eyeline等の参加し,かなりの人数である。
 通常の予告編の他に,監督が語る「Best of Behind the Scenes」の映像も入手できたので,いつものように代表的なCG/VFXシーンの解説をしようとしたところ,全くそれらしきシーンがない。どうやら,意図的にそれらは公開せず,特殊メイクや 比較的単純な特撮手法で描けたシーンしか見せていないようだ。止むを得ないので,以下では,その範囲内でどんな描き方をしていたかだけを紹介する。
 ■ まずは,車の前に飛び出した赤い服の女性からだ。ブライアンの車に撥ねられた程度では死なず,パトカーが横転しても保安官だけが死ぬ。拳銃で撃たれるところまでで一段落だが,顔や手に血がついているだけでCG/VFXの出番は全くなかった。それでもブライアンが雪の上の足跡を追って行くだけで不気味であり,写真2の助手席から手が伸びて来るシーンで震え上がる。血まみれの手が出て,まだ生きていることが分かった時点で,再度観客は凍りつく(写真8)。音楽も恐怖を感じさせるが,大きな音で脅すことはない。小道具も一切なしで,ホラー映画としての演出に長けている。ようやく,この時点で彼女がゾンビであったことに気づくが,いつ彼女がウィルスに感染したかの説明はなかった。


写真8 横転した車にはいなかったが, 実はまだ生きていた

  ■ 次は農場にいた獰猛な黒犬だ。単にしつこくつきまとうだけで,どうやってブライアンが納屋から逃げ出すのかだけを注視していた。締めた扉から顔を出し,拳銃で撃つと顔が化け物のように変形するシーンで,この犬も感染していたことに気づく(写真9)。この映画では「サイコドッグ」と呼ばれていたが,初期のゲーム作品から「ゾンビ犬」として何度も登場していたようだ。納屋内は実物の犬を使い,顔の変形はさすがにCGの産物だと思えたが, CGを見せないメイキング映像に登場していたということは,この顔や花のように開く触手も,CGなしで描いたのかも知れない。


写真9 (上)扉の中から顔を出した黒犬
(下)拳銃で顔を撃つと, こんな風に変形した

 ■ 続いて,灯りのついた農家に入る。ここまでで約30分だった。この家の夫婦で一気に変形は過激化する。赤い服の女性がこの家に再登場するのに,またまた驚いた。拳銃では死ななかったらしい。既に彼女の夫は感染していたので,ブライアンはこの家にあったショットガンで2人を撃ち殺す。さすがにショットガンで頭が吹き飛ぶと,今度こそ終わりだと思うのが普通だ。そう思わせておいて,2人の身体から触手が伸びて合体してしまうシーンで,いよいよこれがクレッグ流のホラーなのだなと分かる(写真10)。メイキング映像に融合過程は入っていなかったので,そこはCGの産物に違いない。それでいて合体後の扉のシーン(写真11)があるということは,これはCG製ではなく,複数人に本物の手足を出させただけなのだろう。


写真10 ショットガンで撃ち殺したはずの2人が触手を出し, やがて合体する。
赤く細い棒状の蝕手はCGではないようだが, この後が凄い
    
写真11 合体後の扉から出る手足は, 何人かが実際に手足を出して撮影したようだ

 ■ 逃げ出したブライアンがトンネルに入ると,出口はキャンピングカーが塞いでいた。その中で泣いていた少女をブライアンが宥めるので,その後,この少女が同行するパターンの映画かと想像してしまう。そう思わせておいて,少女の足が見えたところで驚愕する。ここも間違いなくCG/VFXの出番である。おまけに,ブライアンがこの少女に腕を噛みつかれてしまったので,彼も感染したのかがずっと気になるという仕掛けだ。
 ■ トンネルの外に出ると,先ほどの夫婦が無数の死体が融合した姿になって再登場した。アンブレラ社の2人が銃撃で融合体を撃退してくれた。ブライアンの医薬品の必要性の説明の後,マキシーンは真っ二つになった死体で発見され,ポールは融合体に吸収されてしまう。勿論,これらのシーンもCG/VFXの産物である。
 ■ 融合体から逃げて下水道に入ると,そこには超肥満体の裸の男性が座っていた(写真12)。ここまでの巨体は実在の人物とは思えず,さりとてCGでないとするとどうやって描いたのだろうと不思議だった。何とこれは,重さ1トン,高さ2.4mのアニマトロニクスとのことだ。大きな腹が動くのは,スタッフ4人で遠隔操作したそうだ。監督はその姿をメイキング映像で見せたかったのだろう。この腹が破裂して,中から多数のソンビネズミが飛び出す。そのシーンはなかったので,それらはCG描画だということだ。


写真12 下水道内にいた裸の巨漢の男性。CGでなく, 遠隔操作のアニマトロニクス。

 ■ 下水道を抜けたブライアンが総合病院に向かう途中の通りでの出来事が最大の見せ場だ。両側のビルの屋上から,多数の感染者達が次々と飛び降り,焼け落ちた車や路面に叩き付けられて残骸と化す(写真13)。監督が得意げに解説するので,ここでもCG/VFXは使っていないということだ。人間の形をした袋に,約46〜68kgの擬似的な血と臓物をつめ,それをクレーンから落としたという。なるほど,それじゃ袋が路面で破裂した結果は,人間の破裂死体のように見える。このクレーンの設置だけでも,かなり大掛かりな作業だ(写真14)。ブライアンが駆ける姿をカメラが追い(写真15),綿密に計算したタイミングで袋が投下された。この袋を避けながら車の間を擦り抜けるのは,決死の覚悟だったようだ(写真16)。68kgもの袋を頭上に受けたのでは,飛び降り自殺者の巻き添えになるのと同等の衝撃である。なるほど,CG製人体の落下では得られないリアリティだと感心した。


写真13 ビルの屋上から次々と感染者が飛び降りてきて, 地上に激突する

写真14 屋上の高さから袋を落とせるよう, 大掛かりなクレーンを何機も設置した

写真15 通りを駆けるブライアンを, 前から後からカメラが追う

写真16 落ちてくる袋に当たらぬよう, 車の間を走るのは決死の覚悟

 ■ ブライアンはマシンガンを撃ち続けながら,ようやく総合病院についた。残り約30分である。インターホンで最上階のラボまでバッグを届けるよう指示されたが,エレベータ利用は危険を伴うので,28階まで階段を使えとのことだ。4階まででへこたれたブライアンは,そこから上はEVを使おうとした(写真17)。案の定,とんでもないゾンビが登場して,EVの天井や床を溶かす液体を撒き散らす。強酸性の液体のようだ。当然,CG描写だが,この液体で床が溶ける様子はリアルだった。この液体が上から降ってくると,映画を観ながら,思わずよけそうになる。近くの観客を見ると,同じように身をよじっていた(笑)。多数の融合体に襲われながら,EVの昇降路を登るブライアンの戦いでは,一段とCG/VFXのレベルが上がっていた。


写真17 この階段にVFX加工はなく, 本物だろう
(C)Universal Studios. All Rights Reserved.

 ■ 最上階のラボに着いてからも一騒動あったことは言うまでもない。果して,中和剤は完成するのか,それを投与しするとブライアンは感染者にならずに済むのかは,観てのお愉しみとしておこう。ともあれ,スピーディで飽きさせない展開で,約90分とは思えない中身の濃さであった。実に楽しかった。

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