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O plus E誌 2012年11月号掲載
 
 
 
 
『バイオハザード ダムネーション』
(ソニー・ピクチャーズ
エンタテインメント)
 
 
      (C) 2012カプコン / バイオハザードCG2製作委員会

  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [10月27日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2012年9月18日 角川試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  いつの間にここまでリアルになったのかと驚愕  
  この秋は「バイオ祭り」だそうである。ソニー製のPCのブランド名ではなく,カプコン製のビデオゲーム「バイオハザード」関連の映像コンテンツが続々と登場することを指している。まず,ミラ・ジョヴォヴィッチ主演の実写映画シリーズは,5作目『バイオハザードV リトリビューション』が9月14日に公開され,興行的にも快進撃を続けている(当欄は,10月号の締切に間に合わず,Webページのみの紹介となった)。
 続いて,ゲームシリーズの最新作「バイオハザード6」が10月4日発売となった。これに先立つ9月20日からの東京ゲームショウで関連イベントが催され,ゲーマー達の関心を集めたようだ。そして,この祭りの最後に控えているのが劇場版CGアニメ第2弾の本作で,S3D作品として10月27日公開が控えている。
 ゲーマーではない一般映画ファンには,どうでもいい限られた世界での話題だが,どのキャラがどのコンテンツに登場するかは熱狂的なファンには大きな関心事である。こうした短期集中の怒濤のメディア・ミックス作戦が,マニアたちの観賞/購買意欲を刺激することは容易に想像できる。筆者自身もビデオゲームには全く関心がなく,関連フルCG作品の本作も短評欄で軽く論評して済ませるつもりであった。ところが,そのCGの高画質を観て驚いた。いつの間に,ここまでリアルな映像を演出できるようになったのか,全く気がつかなかった。当欄を10数年も続け,その間,CG/VFXの発展史を同時進行でウォッチしてきたつもりが,大いなる失態である。その自戒の念から,足跡を記録に留める意味を込めて,メイン欄で本作を語ることにした。
 しばらく進歩に気付かなかった一因は,前作『バイオハザート ディジェネレーション』(08)を見逃していたことだ。2週間3館での限定公開作品で,当欄が無視しても差し支えない規模だが,その後のDVD/BDの売り上げが,全世界で160万本という。購買層が,一般映画観客とは別のところにあることが分かるだろう。
 監督は,前作に引き続き,神谷誠。上述の樋口真嗣監督の下で,助監督,特撮監督を経験してきた人物だ。フルCGアニメでも,カメラワークが自然で見やすいと感じたのは,ゲーム畑でなく,元が映画界の出身のためだろうか。主演キャラも前作に引き続き,米国大統領直属エージェントのレオン・S・ケネディだが,ゲームの人気キャラ,エイダ・ウォンも登場する。共に実写の『…V リトリビューション』にも登場させてあったキャラで,しっかり作品間がリンクされている。
 前作は米国内が舞台であったのに対して,本作は舞台を東欧に移し,描写も一段とスケールアップしている。脚本執筆もCGモデリングもレンダリングも,すべて国内で実施された邦画だが,声の出演やMoCap演技には,米国人俳優を起用しているので,完全な洋画テイストの映画に仕上がっている。
 さて,問題のCGだが,キャラのルックスは全くのゲーム風で,これは意図的なものだ(写真1)。ただし,米国系のフルCGアニメと比べて,リップシンクが弱い。動きもいかにもゲーム風だが,MoCapでの収録や後処理がゲーム流に固まってしまっているためだろうか。カメラワークがスムーズなゆえに,映画として観た場合,少し違和感があるので,改善の余地ありとしておこう。
 
 
 
 
 
 
写真1 登場人物のルックスは,いかにもいかにものゲーム風
 
 
   驚嘆したのは,背景となる町の描写だ(写真2)。「東スラブ共和国」なる架空の国を設定して,東欧風のデザインにトライしたのも評価できるが,古い町並みや地下駐車場に至るまで,そのレンダリングのリアルさには感心した。室内の調度品の描写(写真3)も教会のような複雑な対象(写真4)も見事に描き切っている。ゲームムービーで培った技術と拘りが,日本のCG映像業界のレベルをここまで高めていたのである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 CGで作ったとは思えない背景シーンの数々。ゲームムービーよりも数段上の凝りようだ。
 
 
 
写真3 室内では,カーペットや床の質感に注目
 
 
 
 
 
写真4 教会内部もしっかりモデリング。照明も秀逸。
(C) 2012カプコン / バイオハザードCG2製作委員会
 
 
   思い起こせば,当欄はピクサー流のCGアニメをずっと追いかけて来たが,その背景描写はリアルさを褒めても,どこか絵本風の味付けのものだった。一方,日本のセル調アニメは,最近は3D-CGをベースにしながらも,Toon Shadingで絵画調の芸術的表現に拘っている。それに対してゲーム業界は,ゲームエンジンやGPUの発展に乗じて,徹底したフォトリアリズムの向上を図ってきたと言える。今や,バンプ・マッピングはもとより,ディスプレイスメント・マッピングもリアルタイムで実行できる時代である。プレレンダリングできるゲームムービーで,もう一段上の表現力を養っていたのは,当然といえば,当然のことであったと言える。
 この機会に,前作のDVDと著名なゲームムービーを数本眺めてみた。現時点での最高峰と思われる「アーマード・コアV」のムービーは,劇場映画の『…ディジェネレーション』を超えていた。そして,本作はそのムービーよりも,さらに数段上だと評価できる。筆者の驚きは,進化過程を数年スキップしたためであるが,この分野はまだ確実に進化している。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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