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O plus E誌 2016年1月号掲載
 
 
ザ・ウォーク』
(トライスター映画 /SPE配給 )
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月23日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2015年11月18日 109シネマズ大阪エキスポシティ IMAXシアター[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  目も眩む眼下の光景,絶対にIMAX 3Dで観るべきだ  
  とにかく圧巻だ。スペクタクルとは,この映画のためにあるかと思うほどである。外連だ,キワものだという人もいるだろうが,CG/VFXによる映像の表現力,威力を愛でて来た当欄としては,年間ベスト1に推さざるを得ない作品である。絶対に3D上映で,なるべく大スクリーンで観ることを勧めたい。
 2つのビルの屋上の間に張った1本のワイヤー上を,命綱も付けずに歩いて渡る曲芸男の話である。それも並みのビルではなく,9・11テロで倒壊したNYのワールドトレードセンター(WTC)のツインタワー間でである。フィクションではなく,1974年の完成直後に綱渡りを敢行したという実話である。既にこの成功譚は2008年に長編ドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』となり,同部門でアカデミー賞を受賞している。
 それを3Dの劇映画として再映画化するというからには,目が眩み,足がすくむ立体感抜群の映像であることが予想された。最近,劇場公開は2D,3Dの両方でも,マスコミ用試写会は2Dしかないことが多いので,立体感の演出をきちんと評価できないことを懸念したのだが,心配無用であった。大阪での完成披露試写会場は,万博記念公園にオープンした「大阪エキスポシティ」内の109シネマズのIMAXシアターだった。サイズは26m × 18mというから,国内最大級の本物のIMAXスクリーンである。グランドオープン前夜の宣伝を兼ねていたとはいえ,この大スクリーンでの3D試写を選択したソニーピクチャーズに大拍手を送りたい。
 監督はロバート・ゼメキス。SFX/VFX多用作品,フルCG映画でも,大胆な実験的試みを見せてくれた「映像の魔術師」であるから,この題材を極め付けの3D映画の候補に選んだことは理解できる。主人公のフランス人の大道芸人フィリップ・プティを演じるのは,『(500)日のサマー』(09)のジョセフ・ゴードン=レヴィット。フィリップをサポートするサーカス団の座長をベン・キングズレーが演じている。最近,彼の出演作が目立つ。
 映画の前半は,フィリップの生い立ちや,サーカス団への参加,彼の冒険を支援する共犯者たち集めが描かれているが,正直言って退屈だ。早く綱渡り本番を見せて欲しくなる。ようやく,中盤のパリのノートルダム寺院の塔での試行辺りから俄然面白くなる。後半,荷物搬入作業員を装ってのビルへの侵入から,緊迫感は増し,最大の見どころへと突入する。
 以下,当欄の視点での評価である。
 ■ IMAX 3D上映をウリにしているからには,4:3のIMAXサイズの専用映像が用意されているのかと期待したが,アスペクト比は普通のシネスコ・サイズだった。上下をカットして,横幅だけIMAXスクリーン一杯に投影しているだけである。それでも十分大きいが,逆に映画前半の普通のドラマは,この大きさだと視野角を占める人物が大き過ぎ,動きも激しく,目が疲れた。ところが,後半の綱渡りシーンは,画面の大きさがまともに臨場感に直結する。3Dなら尚更だ。本作は何をおいてもIMAX 3Dで観るべきだと断言できる。
 ■ 倒壊して今は無きWTCツインタワーは,外壁も屋上もビル内部(特に1階玄関)も,かなり忠実に再現されている(写真1)。南棟から見る北棟は見事だ(写真2)。多数の写真や設計資料も残っているだろうが,まだ人々の記憶に新しいだけに僅かな手抜きも許されない。屋上の4分の1は,実際に実物セットを作ったという。主人公が自由の女神像の上に立ち,マンハッタン棟の先端に建つWTCを眺めるシーンが何度も登場するが,様々な時間帯,天候下でのCG表現が絶品だ。
 
 
 
 
 
写真1 CG製だと分かっていても,この威容に見惚れる
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 (上)外壁も屋上も,今はなきWTCを見事に再現,(下)当時の本物の写真
 
 
 
  ■ 地上411mの屋上から見る眼下のNYの街は絶景だ(写真3)。真下でなく,俯瞰した構図での立体感も素晴らしい。本作は2台のカメラによるリアル3D撮影ではなく,2D→3D変換での産物と聞いていたので,これだけ多数の地上構造物が写り込んだ実写映像に,どうやってフェイク3D効果を付与したのか不思議だった。これは,景観に見とれていたための大いなる勘違いだった。1974年当時の空撮映像が必要なだけ存在する訳はないから,見下ろすNYの光景はすべてCG映像である。既に『キング・コング』(06年1月号)で実証済みとはいえ,このカット数,この解像度に耐え得るクオリティのCG生成は「見事!」と言う以上の言葉がない。一旦CGモデル化できたなら,後はいかようにも,綱渡りシーンで足がすくむような立体感を描出できる(写真4)
 
 
 
 
 
 
 
写真3 ビルやワイヤーは勿論,イースト川まで丸ごとCGで表現
 
 
 
 
 
 
 
写真4 思わず足がすくむ眼下の光景。どう考えても,この映画を3Dで観ない手はない。
 
 
  ■ 市街地やWTCビルはCGで精緻に描けても,J・ゴードン=レヴィットの綱渡り演技の実現には,様々な苦労や工夫が込められている。P・プティ当人の直接指導を受けて,彼は低い位置ならワイヤーの上を自力で歩けるようになった(写真5)。グリーンバック・スタジオ内での演技(写真6)にCG製の背景を合成しているのが大半だが,彼自身をスキャン(写真7)し,一部はCG製のフィリップを用いているようだ。CG/VFXの主担当はAtomic Fiction,副担当はRodeo FX, UPPで,3D変換はLegend 3Dが担当している。
 
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写真5 指導を受け,練習を重ねて,これは実演で
 
 
 
 
 
写真6 スタジオ内でのグリーンバック撮影
 
 
 
 
 
写真7 デジタル・ダブルのため,表情とテクスチャを観測
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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