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O plus E 2021年Webページ専用記事#6
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
 
   隔月刊の本誌の狭間となるこのWeb専用記事も,前回はかなり本数が多かったが,今回のこのページは見かけ上,数が少ない。「21Web専用#6」と「22Web専用#1」に分けたのと,「第79回ゴールデングローブ賞ノミネート作品」を別ページ扱いにしたためである。

 『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』☆☆+ :本来ならば,カラー画像入りのメイン欄で語るべき作品だ。一旦はそうするつもりで,Topページで予告までしたのだが,どうにもこうにも,それをするだけの絶対的な時間がない。不本意であるが,短評欄で要点だけを書いておくことにする。「ヴェノム」はマーベルコミックのダークヒーローで,スパイダーマンを逆恨みする記者エディに宇宙生命体が寄生して出来上がった共生体の名前だったが,3年前に公開された『ヴェノム』(18年Web専用#5)では,エディ(トム・ハーディ)は善人として描かれ,彼に寄生する宇宙生命シンビオートの名前として使われていた。その正統な続編であり,エディとヴェノムの関係は続いている、即ち,日常ヴェノムはエディの体内にいて,時折,その醜悪な姿を見せるバディ関係にある。続編では,この寄生状態が既知であるため,バディものとしての面白さが倍加している。ヴェノムの登場の仕方,2人の掛け合いが絶妙だった。クールでタフな役,時には悪役を演じさせても一流のトム・ハーディを,少しドジでカッコよくない,愛すべき存在として描いているのもヒット要因だろう。前作のミッドクレジットで宿敵の存在が明らかにされていたが,ほぼそのままの設定で,続編が展開する。連続殺人鬼クレタス(ウッディ・ハレルソン)に極悪パラサイト生命のカーネイジが宿り,かつての恋人シュリーク(ナオミ・ハリス)が加わって,2人で殺戮を繰り返す…。この悪の2人の描き方が強烈だ。監督は,『ロード・オブ・ザ・リング』3部作でゴラムの,『猿の惑星』シリーズでシーザーの挙動を演じていたMoCap俳優のアンディ・サーキス。CGキャラの動きを体現していていただけあって,VFXの使い方が見事だった。その点では,今年のNo.1だろう。CG/VFXの主担当はDNEGで,Image Engine, Framestore等も参加し,PreVisは最大手Third Floorが請け負っていた。更なる続編が作られ,シリーズ化することを熱望しておこう。
 『浅草キッド』<:12月9日からNetflixで配信されている邦画である。「ビートたけし」が自らの浅草での駆け出し時代を綴った同名の自伝小説の映画化作品で,師匠・浅見千三郎との師弟愛が描かれている。桑田佳祐の新曲「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」が主題歌としてエンドロールに流れるというので,注目を集め,予告編でも使われていた。既に2度TVドラマ化されているが,Netflixブランドで世界配信となると,監督は世界の「北野武」自身かと期待したが,それはなかった。ただし,たけし自身が作詞・作曲して自ら歌った「浅草キッド」は劇中で流れていた。本作の監督・脚本はマルチタレントの「劇団ひとり」で,それはそれで注目の的だ。最大の関心事は,「ビートたけし」を誰が演じるかだが,近年,映画にTVに主演作が目立つ柳楽優弥が配されていた。たけしの顔面の癖を真似て,それなりに見せてはいたが,元々のアクの強い俳優だけに,その個性が勝ってしまって,たけしの若き日には見えなかった。W主演で浅見千三郎を演じるのは,これまた個性派の人気俳優・大泉洋。こちらは実在の浅見千三郎を知らないだけに,似合っているのかどうか判断できなかった。昭和30年代の全盛期に活躍した浅草芸人を描いたドラマは数多くあるが,それに比べ,昭和40年代後半から50年代中盤の漫才ブームまでを描いたこの物語は,浅草フランス座の描写にも他の芸人にも魅力を感じなかった。師弟愛の描写も凡庸で,TVドラマのレベルを超えていない。これなら,植木等と小松政夫の師弟関係を描いたNHK土曜ドラマ『植木等とのぼせもん』(17)の方が,遥かにハイレベルだった。この映画を見て,世界の視聴者はどう評価するのだろう?
 『マークスマン』:リーアム・ニーソン主演のサスペンス・アクション映画で,もはや彼にシリアス系のドラマ出演は許されない。どれもエンタメとして上々の出来映えだから,この扱われ方も仕方がない。注目ポイントは,今回はどんな役で,どう楽しませてくれるかだけである。前々作『ファイナル・プラン』(21年7・8月号)では元軍人の銀行強盗,前作『アイス・ロード』(21年Web専用#5)では極寒地を走る大型トレーラーの運転手役だった。本作での役柄は,元海兵隊員の狙撃手で,妻を亡くし,牧場経営もピンチの男である。アリゾナ州のメキシコ国境付近の町で愛犬と暮らしていたが,麻薬カルテルのマフィアに追われて国境を越え,米国に不法侵入してきたメキシコ人母子の事件に巻き込まれる。母は射殺され,残された少年をシカゴの親族の元へ送り届けるロードムービーである。最初頑なだった少年とは次第に打ち解け,執拗な追撃の手を緩めない追手との攻防は,まずまず期待通りの出来映えだった。ほぼ同時期に観たクリント・イーストウッド監督・主演の『クライ・マッチョ』(22年Web専用#1)と相似形のような設定だが,敵を倒すアクションシーンは本作の方が圧倒的に痛快だった。
 『ユンヒへ』:ゴシック体のカタカナ表記だと題名の意味が分かりにくいが,「ユンヒ」は韓国人女性の名前で,そこに「To」の意の「へ」が付いている。韓国映画のLGBTもので,韓国では「クィア映画」というらしい。監督もスタッフも韓国人だが,舞台となるのは北海道の小樽が大半で,日本人俳優も多数参加し,セリフも韓日でほぼ半々だ。韓国の地方都市に住むシングルマザーのユンヒ(キム・ヒエ)に宛てて,小樽に住むジュン(中村優子)から20年振りに手紙が届くが,それを娘セボム(キム・ソヘ)が盗み見る。セボムは2人がかつて愛し合っていたことを知り,秘かに2人を小樽の地で再会させる計画を立てる……。北海道の寒さをひしひしと感じる光景の連続だが,小樽の運河の夜景に魅了される。映画のテンポは邦画調で,あまり韓流の香りがしない。詩情豊かで,音楽も美しいが,少しかったるい。特に大きな出来事もサプライズもないが,アクションやホラーばかり見ていると,こういうゆったりとした映画が胸に沁みてくる。徹底した女性映画で,男性の陰は薄かった。当然,女性監督の作だと思ったのだが,実は男性監督のイム・デヒョンの作で,これが長編2作目だという。韓国では既にいくつもの映画賞を得ている。ことある毎に日本を敵対視する韓国が,日本を舞台にした映画にそれだけの評価を下すのが少し意外だったが,政治と文化は別ということか。
 『弟とアンドロイドと僕』:阪本順治監督の最新作で,長年温めていたオリジナル脚本だという。主演が豊川悦司で天才科学者役となると,これは絶対に見逃せない一作だと感じてしまう。そのトヨエツが演じる主人公「僕」は,奇妙な振る舞いをする著名大学の准教授・桐生薫で,言動・挙動そのものが滑稽である。題名中の「弟」は異母弟の山下求で,安藤政信が演じている。「アンドロイド」は,主人公が自宅で制作している彼自身を模した「もう1人の僕」である。広大な敷地をもつ古い洋館の屋敷に独りで住む孤独なロボット工学者が,自分そっくりの人造人間つくりに没頭する様は,それだけで異様だ。ゴシックホラー風味と称するに値する設定である。彼の子供時代に看護婦と駆け落ちした父親(吉澤健),愛人を繋ぎ止めるため金策に明け暮れる異父弟,駅の駐輪場で出会った産院を探している不思議な少女(片山友希)…といった助演陣も不可解な人物ばかりだが,この映画の肝は「自分は存在している」という確信をもてない主人公を演じるトヨエツの演技に尽きる。レインコート姿ばかりが印象に残っているが,ほぼ全編が雨のシーンで,最後だけが雪の日だった。さぞかし,撮影も苦労したことだろう。演出も演技も素晴らしいが,あまり感情移入できなかった。四半世紀以上前のアイディアをもとに,監督がこういう変な映画を撮りたかったというだけに過ぎない。前々作『半世界』(19年1・2月号)は当欄でも激賞した力作だったが,前作『一度も撃ってません』(20年3・4月号)は大監督だから許される「やりたい放題」だった。テイストは違えど,本作もその範疇に入る。別の監督なら,別の主演男優なら,確実に破綻していたことだろう。ところで,本作のアンドロイドはどこまでが本物かといえば,一応,人形自体は存在していて,ラバー製の頭部も有ったが,一部はトヨエツ本人の演技で,一部はCGかと想像する。    
 
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