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O plus E 2019年Webページ専用記事#3
 
 
スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』
(コロンビア映画 /SPE配給)
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月28日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2019年6月29日 TOHOシネマズ二条(IMAX 3D)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  まだもう1本残っていて,アベンジャーズに黙祷  
  紙幅制限のないWebページゆえに,当欄を借りて,愚痴と言い訳をしておこう。本誌が隔月刊になったため,その間でタイミングが合わない作品をこうしてWeb専用ページで紹介しているのだが,CG/VFX大作はむしろこの専用ページの方に集中しがちだ。最近は,大作になればなるほど世界同時公開の可能性が大きくなり,マスコミ試写がなかったり,有っても公開直前のことが多い。それゆえ,締切が早いO plus E誌上で紹介できる確率が益々減っているのである。
 3・4月号と5・6月号の間のWeb専用#2でも毎週のようにVFX大作を取り上げたが,5・6月号と7・8月号の間のこのWeb専用#3でも状況は同じだった。ただし,前回が佳作,力作揃いだったのに比べて,先週までの3作品は凡作,駄作ばかりだった。せめて4作目となる本作はと期待をかけたのだが,その期待に応えてくれる快作だった。ようやく☆☆☆を打てて嬉しい。
アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)は,「アベンジャーズ・シリーズ」の完結編,MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の集大成と呼ぶに相応しい大力作であった。マーベル・ファンはまだその満腹感に浸っているので,これでMCUのフェーズ3は終了だと思っていた。「X-MENシリーズ」を強制終了させたのだから,フェーズ4の再開はしばらく先と思う方が自然である。おっと,ところが,もう1本残っていて,たった2ヶ月でMCU23作目が登場し,これがフェーズ3の最終作だという。何やら大フィナーレの後に,アンコールで1人だけが舞台に出て来て,もう1曲歌う感じである。
 本作は,お馴染みスパイダーマンの劇場用実写映画の7作目,トム・ホランド主演の第3シリーズの2作目に当たる。MCUに合流し,カウントされるようになったが,ディズニー配給網からではなく,ソニーピクチャーズ/コロンビア映画ルートでの配給であるから,契約上,この時期の製作・配給までは止められなかったのだろう。実際,『…エンドゲーム』と本作はほぼ同時期に企画され,同時進行で製作が進んだようだ。
 それでも,MCUシリーズとしての一貫性はしっかり保たれている。 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18年Web専用#2)におけるサノスの指パッチンでスパイダーマンも消滅し,『…エンドゲーム』で復活するのであるから,本作をその間で登場させる訳には行かない。『…エンドゲーム』の終わりでも生き残っていることを観客に確認させた上で,その続編として公開するのが最適という訳だ。そのためか,本作の前宣伝は控えめであり,内容も全くと言ってよいほど伝わってこなかった。
 本作は『名探偵ピカチュウ』(19年Web専用#2)と同様,日本が世界最速公開である。大阪では完成披露試写がなかったので,いつもと同じシネコンに出かけたが,入りは『…エンドゲーム』ほどではなかったものの,『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』『メン・イン・ブラック:インターナショナル』よりもかなり多かった。やはりスパイダーマンは人気がある。
 コロンビア映画やマーベルコミックのオープニング・ロゴの直後,高らかにホイットニー・ヒューストンが歌う"I Will Always Love You"が流れ,落命したアベンジャーズ4人への追悼映像が登場する。アイアンマン,キャプテン・アメリカ,ブラック・ウィドウ,ヴィジョンの4名の在りし日の姿である。まるで本当に逝去した俳優を偲んでいるかのような雰囲気である。後でよく考えたら,ブラック・ウィドウ単独主演作が企画されていて,スカーレット・ヨハンソンが引き続き演じるはずなのだが,この時はそれに気付かなかった(前日譚なので,MCUでの矛盾はないらしい)。ただただ黙祷したい気分になり,観客一同の心が『…エンドゲーム』の世界に戻り,その直後の物語へと誘われてしまう。ファン心理をついた見事な演出である。
 
 
  フルCGアニメに負けじと,VFXが斬新で大健闘  
  物語は,S.H.I.E.L.D.の元長官ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)と元副長官マリア・ヒル(コビー・スマルダーズ)がメキシコを走行しているところから始まる。この2人も『…エンドゲーム』で復活し,生き延びた組である。破壊された町で,突如土砂の中から怪物が登場するが,緑の光線を発するヒーロー(ジェイク・ギレンホール)が現れてこれを撃退する(写真1)
 
 
 
 
 
 
 
写真1 突如サンドマン風の怪物(上)が現われ,これを見慣れないヒーロー(下)が撃退する
 
 
  舞台は一転,NYのミッドタウン高校に移り,ピーター・パーカー(T・ホランド)始め,親友のネッド(ジェイコブ・バタロン),憧れのMJ(ゼンデイヤ)などが,まるで指パッチンで消滅して5年間がなかったかのように登校を再開していた。彼らは皆消滅組であり,そうでなかった5学年下の下級生たちと合流したという設定である。
 監督は,前作『スパイダーマン:ホームカミング』(17年8月号)に引き続きジョン・ワッツで,同級生たちも続演である,旧シリーズよりもピーターの年齢が下がったこともあり,高校生中心の青春映画,学園ものの色彩が強くなった。本作も,ピーターがニック・フューリーの依頼を聞こうともせずに欧州への修学旅行に出かけてしまい,そこで敵と遭遇する物語になっている。
 アイアンマン/トニー・スターク社長がピーターのサポート役として配した元運転手のハッピー(ジョン・ファヴロー)もメイおばさん(マリサ・トメイ)も続演である。旧シリーズでは老女であったメイおばさんは,本シリーズでは随分若くなったが,本作では一段と魅力的になり,まさに女盛りだ。と思ったら,案の定,ハッピーと妖しい関係になってしまうので,これは笑えた。アクション一辺倒でなく,こういう息抜きも嬉しい。
 以下,当欄の視点での解説と感想である。
 ■ 前半のヴィランは,宇宙から来たエレメンタルズなる存在で,土・水・火等を自在に操り,地球を侵略しようとする。J・ギレンホール演じる謎の男は,クエンティン・ベックと名乗り,エレメンタルズ対策の専門家で,別の宇宙の惑星「アース833」からこの「アース616」にやって来たのだという。ベニスでは水の怪物が,プラハでは火の怪物が登場するが,いずれもなかなかの出来映えだった(写真2)。素材としては目新しくないが,一流CGスタジオならではのクオリティに仕上がっている。これらを退治したベックは,「ミステリオ」と呼ばれるようになるが,後半彼がスパイダーマンとどう絡むかは,観てのお愉しみとしておこう。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 ベニスに登場する水の怪物(上)はハイドロマンに,プラハに登場する火の怪物(下)は
モルテンマンに似ている
 
 
  ■ 全編でCG/VFXがふんだんに登場することは言うまでもないが,物語として,ハイテク技術が縦横に駆使されている設定なのが嬉しい。前作では,スターク社長が開発してピーターに贈った2種類のスパイダーマン・スーツが登場した。腕から蜘蛛の糸を発射するための補助装置ウェブ・シューターも強化されていた。即ち,このハイテク・スーツは正体を隠すためだけのものではなく,アイアンマン・アーマーもどきのハイテク装置であった。本作のピーターは旅行を楽しむため,このスーツを持たずに出かけて苦戦する。生身の身体では,かろうじて糸は出せても,威力は半減以下なのである。後半,ハッピーの協力を得て,スターク社長が遺した設備を利用し,自らスーツをデザインするようになる。このシーンも楽しい(写真3)。なお,中盤で登場する黒いスーツは,邪悪なスパイダーマンでもスパイダーマン・ノワールでもなく,ステルス・スーツというそうだ(写真4)。どんな機能があるのかは,よく分からなかった。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 上:AR技術でウェブ・シューターをデザイン,下:新しいスーツを着用してようやくパワー全開
 
 
 
 
 
写真4 これはステルス・スーツであって,スパイダーマン・ノワールではない 
 
 
  ■ 随所で尊敬する亡きスターク社長の存在が強調されている。その典型は,ピーターが自分の後継者となることを望んで遺された「E.D.I.T.H.(イーディス)」なる眼鏡型のハイテク装置である。一見ただのサングラスだが(写真5),AR表示,音声認識だけでなく,最新のAI機能を備えていて,「イーディス」と呼びかけて指示するだけで,スターク社の全データと衛星兵器を自在に操ることができる。もっとも,小声で話したのでは聴き取ってくれないから,性能の想定は荒唐無稽ではなく,合理的だと言える。
 
 
 
 
 
写真5 スターク社長が数千万ドル費やして開発した「E.D.I.T.H.(イーディス)」
(ただのサングラスとしか見えないが…) 
 
 
  ■ 終盤のラストバトルは,VFX的にも見応えがあった(写真6)。ロンドンのタワーブリッジ周辺のバトルで縦横に駆使されているのは,ミステリオが操る映像技術であり,高性能ホログラム・ディプレイとドローンの組み合わせで実現されている。ホログラム・ディスプレイをハイパワーの小型プロジェクターに組み込み,これをドローンに搭載して高画質の映像を空中に描き出すという設定である。建物に投映するなら「プロジェクション・マッピング」だが,ここでは多数のドローンから空中に多重投映して,実物と見紛うバーチャル物体を描き出す訳だ。勿論,そんな精緻なプロジェクションMR技術は20年,いや50年経っても出来っこない。それでも,できると思わせるSFになっている。少なくとも,現実には出来ないことが,映画の中ではCG/VFX技術で可能であるかのように見せられるのだから,本作のアイディアが生きてくる。これは「実写+CG/VFX」だから描ける技だ。フルCGアニメの『スパイダーマン:スパイダーバース』(19年Web専用#1)を観た時に,迂闊にも「もう実写版『スパイダーマン』シリーズは不要で,この描き方で統一した方が良いとまで思えてきた」と書いてしまった。当欄の主宰者としては,全くトンデモナイ暴言,不見識であり,恥じ入る次第である。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 ラストバトルは,ロンドンのタワーブリッジ周辺での攻防。VFX的にも見どころは満載。
 
 
  ■ 本作のVFXの斬新さは,過去10年間の中では『ゼロ・グラビティ』(13年12月号)『ドクター・ストレンジ』(17年2月号)に匹敵する。原作コミックでは,「ミステリオ」の武器はSFXとVRだというから,まさにそれを映像的に具現化した企画であると言える。CG/VFXの主担当はSony Pictures Imageworksで,副担当はFramestore, Scanline VFX,ILMである。その他,Luma Pictures, Image Engine, Rising Sun Pictures, Territory Studio, Perceptionも参加してるが,さらにWeta Digital, Method Studiosにまで応援を求めている。プレビズはThird FloorとProofの2社体制で,3D変換は最大手のStereo Dが卒なくこなしている。
 
 
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