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O plus E 2021年Webページ専用記事#6
 
 
マトリックス レザレクションズ』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C)2021 WARNER BROS. ENT.
 
  オフィシャルサイト [日本語][英語]    
  [12月17日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2021年12月17日 TOHOシネマズ二条(IMAX) 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  救いようがない駄作で,当欄の愛読者は観る必要なし  
  何しろ,年末に渋々,嫌々この記事を書いている。なかなか書く気になれず,1週間以上放っておいた言い訳は『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(21年Web専用#5)の時に披露したが,本作はそれ以上だった。「書く気になれない」と言うより,「書くに値しない映画だ」と言って差し支えない。全くの凡作,駄作で,今年度の公開作のラジー賞は確実だろう。
 いやいや,多少は差し支えはありそうだ。当欄の評価を気にして下さる愛読者のために,せめて短評欄で「全く観る必要なし」とのメッセージを送るべきか,「VFX映画時評」を名乗るからには,やはりトップページにこの映画の題名を並べるべきか,と思い直し始めた。ただし,ストレートにこの見出しで切り出しては,配給会社から営業妨害と言われかねない。当映画評の評価など,さほど影響力などないはずだと思いつつも,心の底から「世紀の駄作」と思っているからこそ,自らたじろいでしまった訳である。
 今年観たワーナー・ブラザース配給作品は,計22本。勿論,その中でワーストだ。この10年間に観たあらゆる映画の中でもワースト1だ。コロナ禍で公開延期や有料ネット配信への切り替えが続く中で,比較的公開延期も少なく,きちんと劇場公開してくれる同社の企業姿勢に敬意をもっていた。それでも,ダメなものはダメ。今年の私的ランキングのNo.1, No.2はワーナー作品なのだから,それで許してよ,の思いすらあった。
 配給会社自ら「観る必要なし」と判断したから,マスコミ試写がなかったのかと穿った見方もしたが,さすがにそんな訳はなかった。米国公開の方が1週間遅かったため,かなり箝口令が敷かれていて,色々な制約があったから,SNSで噂が広まりやすい試写を避けたようだ。それを知って,迷っていた当欄のスタンスも決まった。公開日の12月17日から2週間沈黙を守り,酷評するなら,年の終りの大晦日にしようと。それなら,すぐに映画館に観に行きたがる連中はほぼ足を運び終えているから,営業妨害にはなるまい。
 他の映画を褒めて,この映画だけ殊更酷評という訳には行かないから,「21年Web#6」も2週間封印することにした。言わば,2週間喪に服す気分だった。なぜ「喪に服す」のかと言えば,この映画のポストクレジットで,主人公の所属ゲーム会社の同僚と思しき連中が,ふざけて「映画は死んだ!」と語っていたからである。それじゃ,そのおふざけに乗ってやろうじゃないかと。では,なぜ2週間かといえば,市中感染を防ぐための自宅待機の相場は「2週間」だからだ(笑)。
 なぜ,それほどこの映画に拘るかと言えば,第1作『マトリックス』(99年9月号)は当映画評の原点たる存在だったからである。それまで技術解説記事の付録として時々映画評も付していたが,この映画を機に,毎月VFX 中心の映画評を連載することにした。DVDを初めて購入したのも,この第1作である。DVDが世に広がるきっかけとなった映画だと言える。
 中身も,それに見合うだけ斬新で,スタイリッシュだった。「マトリックス」という仮想空間の描き方にも感心した。1990年代前半のVRブームは完全に終わっていて,VRに関心をもつ一般人は激減していた。日本バーチャルリアリティ学会の理事(当時)としては,話題になることが嬉しかった。マシンガン撮影(Bullet Time)の使い方に痺れた。IBR (Image-Based Rendering)の研究者としては,別のシーンでView Morphing技術を利用していることにも驚いた。こんな映画が存在するなら,それじゃしばらく映画に使われるCG/VFXの行方を見守ることにしようと決めたのだった。それから,20年以上も経ってしまった。今昔の感である。
 
  2週間の喪が明けて…  
  喪が明けて,堂々と酷評するつもりだったのだが,半分くらい忘れてしまった(笑)。心に残る作品はいつまでも覚えているが,駄作は駄作であることだけを覚えていて,細部はどんどん忘れてしまう。既にヨイショ記事もネタバレ記事もかなり出てしまっているので,詳細の解説は省き,当欄の視点を常連の読者に伝えるだけにしておこう。
 2作目『マトリックス リローデッド』(03年7月号),3作目『マトリックス レボリューションズ』(03年12月号)も期待外れだった記憶はあるが,改めてその記事を読むと,後者では「この一作を待望していたのは,1作目も2作目も見た観客だ。もう少し正確にいえば,1作目に驚き,感激し,2作目には戸惑い,怪訝に思い,『そんなはずはない。きっと最後には見事にまとめて上げて,恍惚感に浸らせてくれるはずだ』と信じていたファン,いや,そう思いたかったファンが大半で,勿論私もその1人だ」と書いている。これは,ほぼそっくりそのまま今回の4作目にも通じる言葉だ。3作目にも失望しておきながら,18年経ったこの4作目でも何かを期待してしまい,今度は徹底的に打ちのめされてしまった訳だ。ここまで来ると,製作側のせいだけではなく,過剰な期待をする観客側のせいだという気もする。
 いや,やはりそれも違う。そういう期待をもたせるような発言や前宣伝をしているのだから,やはり監督側の責任は重い。本作の原題は『The Matrix Resurrections』。意図的に「re」で始まる単語を選んでいるのは明らかだが,普通の日本人には「resurrection」なる英単語は馴染みがない。英和辞典によると「復活, 復興, 再流行」の意で,「the」がついて大文字となると「キリストの復活」のことのようだ。主人公のネオやトリニティーの再登場は当然だが,竜頭蛇尾で終わった3部作が大きく生まれ変わる期待をもたせるではないか。
 監督は,ラナ・ウォシャウスキー。かつてラリー&アンディ・ウォシャウスキーの兄弟監督であったが,兄のラリーが性別適合手術を受けて女性となり,ここ数作はラナ&アンディの姉弟監督だった。弟もそれに続いてラナ&リリーの姉妹になったと聞いていたが,本作では姉のラナしかクレジットされていない。

【登場人物とキャスティング】
 勿論,救世主であったネオはキアヌ・リーブス,トリニティーはキャリー=アン・モスが演じている。世界を支配する「仮想現実=マトリックス」の中で,ネオはトーマス・アンダーソンなるゲーム作家,トリニティーは夫や子供のいる主婦のティファニーとして登場する。それ自体,仮想世界のまやかしだと想像できるが,ともあれ,しばらくはトーマスとティファニーだった。
『ジョン・ウィック』シリーズや『レプリカズ』』(19年5・6月号)『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』(20年11・12月号)等でしばしば当欄に登場するK・リーブスは,渋さも増してきたと言えるが,やはりネオ役として見ると容色の衰えは隠せない。一方のC・モスは,『ポンペイ』(14年6月号)や『彼女が目覚めるその日まで』(17年12月号)で主人公の母親役を演じていたようだが,後者は全く印象に残っていない。ところが,トリニティー役となると一気に若返り,凛とした佇まいで,過去3部作時代のトリニティーよりも美しく感じる。女優はメイク1つでこうも化けるのかと感心する。
 主要登場人物のモーフィアスとエージェント・スミスは,3部作でのローレンス・フィッシュ・バーン,ヒューゴ・ウィーヴィングが,いずれも出演していない。個性的かつ存在感のある役柄であっただけに,あの『マトリックス』シリーズではないと感じるファンも少なくないことだろう。ただし,(なぜか)一気に若返ったモーフィアス役を演じるヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世とやらが,L・フィッシュバーンによく似ていて,すぐに「若き日のモーフィアス」だと分かる。ちょっと嬉しいキャスティングだ。一方のスミス役のジョナサン・グロフは,H・ウィーヴィングとは似ても似つかない。そもそも本作のスミスは敵か味方か訳の分からない役で,存在感も薄い。
 助演陣では,ナイオビ役のジェイダ・ピンケット・スミス,メロヴィンジアン役のランベール・ウィルソンが継続出演しているが,旧作の既視感をもたせるには,これくらいは必要だ。新登場のバッグス役のジェシカ・ヘンウィック,大人になったサティ役のプリヤンカー・チョープラーは,いずれも美形だが,これくらいの大作となると当然のことだ。キャスティングに関しては,さほど不満はなかった。

【脚本と演出】
 最も大きな不満は,これに尽きる。何しろ全く面白くない。ワクワクもしない。論理的に欠点を述べるレベルではなく,これが従来の固定ファンに大きな期待をもたせる映画かとスクリーンに向かって物を投げつけたくなる観客がいても不思議はない。
 第1作に感激し,嬉しくなった当欄の立場から言えば,許し難いのは,仮想現実であることを言い訳に,勝手に物語を振り回してしまうことだ。世界観と言えば聞こえは良いが,何でもあり,どのようにでも解釈をねじ曲げられる世界にしてしまっている。所詮フィクションであり,大掛かりな絵空事を楽しむのが娯楽映画とはいえ,観客との間には,ある一定の約束事や見終わって納得が行く満足感が必要だ。旧3部作の既視感に頼り,ファンサービスと思しきシーンは散見できるが,物語としての斬新さも面白さもない。何のために,どんな危機が迫っていて,ネオが世界人類を救おうとするのか,さっぱり理解できない。
スピード・レーサー』(08年7月号)の評で,「これはどうしようもない駄作だ。観客の目もスタッフの苦労も意に介さず,自分たちが作りたいように作っただけだ。それで面白ければ,何の問題もない。『マトリックス』もきっとそうだったに違いない。それが誰の目にも新鮮で,面白かったから英雄になれた。それで舞い上がったのか,独りよがりに拍車がかかり,大半の観客が受け容れがたい世界に突入している」と書いている。こちらもそっくり本作に当て嵌まる。名前だけで客を呼べる『マトリックス』シリーズゆえに罪は重い。
 不満を感じながらも,『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズのファンならば,この映画を受け容れるのではと思ってしまった。説明不足による難解さを,高級感と錯覚させ,それを珍重するオタク的ファンがサポートするという意味である。兄弟監督時代から,彼らは日本のアニメやゲームのファンであることを広言していたから,エヴァンゲリオン的テイストが彼ら(彼女ら)に染みついているのかもしれない。

【CG/VFXの質と量】
 言うまでもなく,かなりの量のCG/VFXシーンが登場する。前半では写真1のようなシーンを見せて,ファンの既視感に訴える。ビルの屋上シーンも頻出し(写真2),そこからのジャンプがウリだ。後半は,写真3のような醜悪なクリーチャーを登場させ,VFXもたっぷり味わえる。何しろ,脈絡もロクな説明もなく,仮想現実世界を勝手に振り回すのだから,一々まともに論じる気になれない。いや,得体の知れない映像を見せておく方が仮想現実らしいと思って入るのかも知れない。残念だ。
 
 
 
 
 
写真1 一見して,マトリックスの世界。旧作にこんなシーンはなかったが。 
 
 
 
 
 
写真2 ヘリや火炎は勿論,人物もビルもCGなのだろう
 
 
 
 
 
 
 
写真3 説明もなく,得体の知れないシーンばかり登場する
(C)2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
 
 
  映画全体としては期待外れながらも,当欄は第2作,第3作で,真面目にCG/VFXシーンを分析している。この当時は,まだそれに値する出来映えであった。また,姉弟監督時代の作品『クラウド アトラス』(13年3月号)や『ジュピター』(15年4月号)では,ビジュアル・センスの良さを褒め,CG/VFXパートは高く評価している。
 本作に関しては,それもない。分量的にはVFX多用作であるが,斬新さは何もなく,一流スタジオに発注すれば,そこそこのクオリティで仕上がって来るのは当然だ。アクションシーンもあるにはあるが,キレは良くない。要するに,もはや時代を先導したVFX多用作ですらない訳だ。それゆえに,当欄の愛読者には「観る価値なし」と早めに訴えようとした訳である。もしかすると,ビジュアル・センスが良かったのは弟アンディ(妹リリー)の方で,姉ラナにはその才能がないのかも知れない。
 CG/VFXのボリュームだけはあるので,ゲームファンにはこのレベルでよいと踏んでいるのだろう。いや,計算づくではなく,ラナにはこの程度のクライマックス・シーンしか思い付かないのだと思う。
 CG/VFXの主担当はDNEG,副担当はFramestore,他にOne of Us, Rise VES, BUF, Turncoat Pictures, inHouse VFX, Clear Angle Studios他数社が参加している。プレビズは,Halon Entertainment LLCが担当している。これだけしっかりしたスタジオが手がければ,クオリティ自体は低くないのが当然だ。参加アーティストは『マトリックス』シリーズを手がけたことをウリにするのだろうが,私が上司ならば,名前だけでなく,もっと内容のある映画を担当させてやりたかったと思うに違いない。
 もう少し付記しておくならば,この映画は公開初日の昼間に,シネコンのIMAXスクリーンで観た。他の大作もよくここのIMAXで観るのだが,映像的にもIMAXで観るだけの価値を感じなかった。ただし,音楽は悪くなく,こちらはIMAXサウンドで聴く価値はあった。
 平日の昼間だったが,別項の『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』よりも観客数は多かった。ただし,若者の数は少ない。若手ゲーマー世代ではなく,20年前に『マトリックス』シリーズに感激した映画ファンだと思われる。彼らは,この映画をどう評価したのだろう?
 
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