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O plus E 2021年Webページ専用記事#1
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
 

 本号では特別企画としてゴールデングローブ賞のノミネート作品をまとめて別ページで紹介したが,こちらは通常通り,本誌1・2号の校了以降に観た一般作品である。

   『ザ・ホワイトタイガー』:まずはGG賞の対象期間以降に配信開始されたNetflixオリジナル映画だが,またまた傑作の連続だ。1作目は,インドを舞台とした米国製の映画で,インドの貧民階級から成り上がった男の物語だ。原作は,インド人作家のアラヴィンド・アディガが2008年に発表した同名小説で,英国の著名な文学賞「ブッカー賞」を受賞している。監督・脚本はイラン系アメリカ人のラミン・バーラニで,主人公のバルラム・ハルワイ役にはインド人の若手俳優アダーシュ・ゴーラヴが抜擢されている。映画は全編,この主人公の第1人称での語りで進行する。まずは2007年,貧民層出身の彼の少年時代から物語は始まる。幼少期から語る彼の半生にぐいぐい聞き込まれ,同時にインドに今も残るカースト制,階級社会の実態について詳しく学ぶことができる。外国人にも分かるように解説されているのは,米国製映画で,最初から国際配信を意識してのことだろう。主人公の人生哲学に関する語りも魅力だ。2010年,インドのシリコンバレーと呼ばれるバンガロール市に出て来てから,その魅力は一段と増す。階級社会の上位層の富豪の生活も興味深い。バルラムが運転手として富豪に取り入る下りは,韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』(19年Web専用#6)を思い出す。インド人のサクセスストーリーとしては,同じくオスカー受賞作の『スラムドッグ$ミリオネア』(09年4月号)と比較してしまうが,主人公の語りである分,これは実話ではないかと錯覚してしまう点が秀逸だ。インドが舞台らしく,陽気な歌が何曲も流れるが,ボリウッド映画ではないので,歌って踊るシーンは登場しなかった。インドの階級社会や貧困問題を描きつつ,米国主導の国際社会への皮肉も込められている。インドと中国は反目し合っているはずなのに,主人公が中国に取り入ろうとしていることも興味深い。結末には少し驚く。この生き方,メッセージこそ,現代社会への皮肉がたっぷり込められている。
 『時の面影』:次のNetflixオリジナル映画も秀作で,今度は第2次世界大戦直前のイギリスが舞台だ。原題はシンプルな『The Dig』で,2007年に英国人ジャーナリストのジョン・プレストンが上梓した同名小説を原作としているが,1939年の考古学上の大発見を基にした実話だという。粋な邦題がついている。別項の『この茫漠たる荒野で』『私というパズル』もしかりで,Netflixの日本人担当者はネーミングのセンスがある。英国の東部サフォーク州のサットン・フーが舞台で,病死した夫が遺した膨大な土地を相続した裕福な未亡人のエディス・プリティ(キャリー・マリガン)は,その中に多くの塚(墳丘墓)があったことから,何か重要な物が埋まっていると信じて,地元の素人考古学者バジル・ブラウン(レイフ・ファインズ)に発掘を依頼する。最初から「大発見」だというので,一体何が出て来るのか興味津々だった。こういう物語は,歴史と伝統がある英国に限る。英国内の出土品となると,我々日本人には馴染みが薄いだろうが,その発掘プロセスは物語として面白いに違いがない。実際,バジルの観察力と判断力による発見を,途中から一流の考古学者が乗り出してきて,波乱万丈の物語となる。出土品の所有権を巡っての法廷闘争の決着も興味深かった。主役のC・マリガンと言えば,『17歳の肖像』(10年4月号)の女子高生役が印象的だったが,もう未亡人役を演じる年齢だというのが感慨深い。彼女は現在35歳で,実在のプリティ夫人の発掘当時の年齢は55〜56歳であるから,本作は大幅に脚色されている。それでも,実話ゆえの重厚さと繊細さが随所で感じられた。静かなピアノ曲が,戦争に突入する寸前の時代の暗さを象徴していた。その一方で,考古学者助手を演じるリリー・ジュームズのラブストーリーが彩りを添えている。美女が絡むほのぼのした恋愛劇は,サイドストーリーとして嬉しいものだ。
 『太陽は動かない』:ここからは劇場公開予定の一般映画だ。まずは,昨年5月15日に公開予定だった邦画のアクション大作で,コロナ禍で公開が越年してしまった。今年に入って再度の緊急事態宣言で,またかと思ったが,マスコミ試写は観ることができた。本稿執筆時点では映画興行は続いており,何とか陽の目を見そうだ。原作は吉田修一の同名小説で,同シリーズ2作目の「森は知っている」の内容も加えているという。「AN通信」は通信社を装った特殊工作組織であり,その随一の辣腕エージェント鷹野一彦を演じるのは藤原竜也だ。鷹野の救出用のクルマを運転する相棒の若手エージェント田岡亮一には,竹内涼真が配されている。バディもののコンビとしては,好い組み合わせだと思う。彼らは心臓に爆破装置を埋め込まれ,24時間以上本部に連絡しないと爆発するという。少し子供じみた漫画的な設定だが,アクション・サスペンスのネタとしては許容範囲だ。AN通信の司令塔で,幼少期から鷹野を拾って育てた風間武役は,佐藤浩市だった。何だ,それじゃ松竹映画『ザ・ファブル』(2019年5・6月号)と殆ど同じじゃないかと誰もが思うはずだ。しかも,その続編の『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』が丁度1ヶ月前の2月5日公開となる。それなら,徹底的に両作を比較し,2作まとめて語ろうと思ったのに,今度はそちらが公開延期になってしまった。残念無念だ。さてさて,止むなく単独で紹介する本作であるが,原作通り,次世代エネルギーの機密情報を巡ってのスケールの大きい物語になっている。ブルガリアでの海外ロケの映像も素晴らしく,予告編以上の出来映えだった。序盤は,テンポも速く,ノンストップアクションのキレもいい。「これは期待以上の大作だ。WB配給だから,国際市場も狙っているのだろう」と思われたので,ついつい『ミッション・インポッシブル』や『ボーン』シリーズの基準で観てしまった。残念ながら,それらには遠く及ばなかった。ただただ突っ走るだけで,緩急のつけ方が下手くそだ。日本語が不自然な韓国人俳優を2人も起用したことも,大きなマイナス要因となっている。監督は,羽住英一郎。『海猿』シリーズの出来からして,問題があるならこの監督の演出力だと思ったが,悪い予感が的中した。脚本は『藁の楯 わらのたて』(13年5月号)『永遠の0』(14年1月号)の林民夫で,大作慣れしているはずなのに,この脚本はロケや物語のスケールに負けている。音楽担当は定評ある菅野祐悟で,オリジナルスコアは悪くないのに,効果音がまるでダメで,単に騒々しいだけだった。これじゃ緊迫感は高まらない。脚本・演出がダメ,サウンドがダメは,いつもの邦画のダメパターンで,同じWB配給で絶賛した『すばらしき世界』(21年1・2月号)と真逆である。東宝配給作品ならこのチープさでも観客は入るのだろうが,国際的には全く通用しない。VFXシーンも結構あったが,本作をメイン欄で取り上げる気にはなれなかった。色々な面で惜しい企画だ。ワーナー・ブラザース社には,監督にポール・グリーングラスかジャスティン・リンを起用して,本作をハリウッド・リメイクすることを勧めておきたい。
  『野球少女』:韓国映画で,シンプルな題名通り,女子野球選手を描いた物語だ。熱烈声援を送る女性ファンの「野球女子」ではなく,自らがプレイする野球の投手で,プロの道を目指す女子高生が主人公である。それも女子野球のリーグではなく,男性中心のプロ野球リーグに挑戦するという設定となっている。韓国のプロ野球KBOリーグでは,女性が入団し,出場してはいけないという規則はないそうだ。かつて,水島新司作の漫画「野球狂の詩」に,「水原勇気」なる女性投手がプロで活躍するシリーズがあり,人気を博した覚えがある。娯楽映画ならそれもありかなと思ったが,何と,韓国には過去に現役の女子高生アン・ヒョンミ選手がKBOの公式戦に先発登板したことがあるという。彼女がモデルで,主演女優はネット配信ドラマ『梨泰院クラス』のトランスジェンダー役で注目を集めたイ・ジュヨンと聞けば,これは見逃せない。ユニフォーム姿も凛々しい。骨格は,天才野球少女と言われたチュ・スインが,女子というだけで門前払いの扱いを受ける中,高校野球部の男性コーチと二人三脚で夢へと挑戦する青春スポーツ物語である。ところが,残念ながら,見応えのあるスポーツ映画に仕上がっていなかった。男性社会の壁に挑む若い女性の姿は,テーマとして時宜を得ていた。球速134kmの直球ではプロでは通用しないと知り,回転数の高いナックルを武器とする戦略も真っ当だ。ずばり,最大の弱点は,肝心の野球のシーンに魅力がないことだ。とても「男子並み」には見えない。「野球選手に見えないか?」の問いには,「全くそうは見えない」としか答えようがない。40日間の特訓に耐えて,スタント無しで撮影に臨んだというが,彼女だけではなく,他の男子選手も素人同然で,プロのプレイには見えない。いや,監督もカメラマンも野球映画の盛り上げ方が分かっていない。これでは,肝心のトライアウト・シーンがクライマックスとして機能しない。という訳で,本作も折角のいい題材を生かせていないと感じた。惜しい。
 『ワン・モア・ライフ!』:イタリア映画で,大ヒットを記録したコメディだという。平凡な中年男性の主人公パオロ(ピエールフランチェスコ・ディリベルト)は,ある日いつも通る交差点で交通事故を引き起こし,落命してしまう。あの世の入口の事務所で,これは何かの間違いだと猛抗議したところ,係官は計算ミスがあったことを認め,パオロは地上に戻って追加の人生をやり直すことになる。ところが,認定された追加時間はたったの92分! 映画全編の上映時間とほぼ同じである。即ち,ほぼ同時進行で物語の展開を楽しめる訳だ。映画の冒頭で,主人公が事故で急死の上,天国からのトンボ返りまで進行したので,こりゃとんでもなく面白いコメディ映画になると期待した。実際,家庭を省みず,浮気ばかりしていて,妻子を疎かにしていたチャラ男の必死の人生のやり直しが展開する。こうした設定の場合,イタリア男はよく似合う。物語の進行中,かなりの比率が回想シーンだった。観ている側としては,再度の人生が終わるまでの残り時間が気になった。その辺りは,演出の上手さだとも言える。物語は中盤から,コメディ色が薄れ,家庭第一のヒューマンドラマ化してしまう。この種の家族主義は,ハリウッドに任せておけば良い。イタリア映画としては,もっと破天荒なコメディの方が望ましい。監督・脚本は,『ローマ法王になる日まで』(17)のダニエーレ・ルケッティ。結末も最初からほぼ予想できた。少し淡泊過ぎたので,もう一捻り欲しかったところだ。
  『アウトポスト』:最後は海外に派遣された米軍兵士たちの激戦を描いた戦闘映画だ。アフガニスタンでのタリバンとの戦いの中で,2009年10月,周りを山に囲まれた谷という絶対的に不利な状況での戦闘を強いられる。後に「カムデシュの戦い」と名付けられた屈指の激闘で,勿論,実話である。原題はすばり「The Outpost」だが,この英単語を知らなかった。英和辞典には「辺境の居留地」,軍隊用語で「前哨基地」とある。本作では,アフガニスタン北東の「キーティング前哨基地」のことを指している。主演は,クリント・イーストウッドの息子のスコット・イーストウッド。役名がクリント・ロメシャ2等軍曹というから,ちょっと笑える。現在34歳で,父親がマカロニ・ウエスタンでブレイクした年齢に当たる。それが既に劇場用映画の主演が8作目とは,親の七光り以外の何ものでもないが,商品価値はある。これだけ似ていると,見逃していた父親の昔の作品を見るかのようで,やはり嬉しくなる。まだまだではあるが,『パシフィック・リム:アップライジング』(18年Web専用#2)の頃に比べると,だいぶ演技力も増してきた。共演は,タイ・カーター特技兵役に若手演技派のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。この2人が名誉勲章を授与された重要な役を演じる。他に上官として,『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』両シリーズのオーランド・ブルームが配されている。映画として,2つのリアルさが評価できる。まず激戦開始までの前半は,外地での米軍の生態描写がリアルだった。前線基地での生活,装備,戦地から家族への長距離電話等々で,兵士たちの日頃の会話もよく分かる。後半1時間弱が,激闘とその後のエピソードだ。54人で約300名のタリバンの攻撃に12時間耐え抜いた戦闘で,銃弾の補給,医療班の活動,救護ヘリの手配等,こちらの描写もリアルだった。エンドロールでの実在の存命者へのインタビューも印象深かった。この種の映画には,軍関係者への慰労,戦死者への追悼,従軍者への士気高揚,納税者へのアピール等々の目的があり,米国内で一定の市場がある。監督はイスラエル出身のロッド・ルーリーで,さほどの大物監督ではないが,それでもこれだけリアルさを達成するのが,ハリウッドの真骨頂だ。上記3本がやや期待外れだっただけに,本作が余計に輝いて見えた。
 
 
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