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O plus E 2018年Webページ専用記事#2
 
 
パシフィック・リム:アップライジング』
(ユニバーサル映画 /東宝東和配給)
      (C) Legendary Pictures / Universal Pictures.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2018年4月13日よりTOHOシネマズ日比谷他,全国ロードショー公開中]   2018年3月27日 TOHOシネマズ なんば[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  配給網が変わった。監督も変わった。その結果は…  
  前作『パシフィック・リム』(13年8月号)は当欄でも絶賛したSFアクションであった。「レトロな感覚のバトルと徹底した破壊が爽快だ」と評したが,評者がこの種の映画に高い評価を与えたのが,読者には意外だったようだ。でも,面白いものは面白い。昔から日本製のアニメ,怪獣映画が大好きだったと広言するギレルモ・デル・トロ監督ゆえの演出だと感じた。世界的に好評だったので,すぐにも続編が作られると思ったのに,これが5年近くかかってしまった。
 年初めからの映画館での予告編では,同監督のヒット作の続編であることを謳っていた。『シェイプ・オブ・ウォーター』(18年3・4月号)のオスカー受賞で,この監督の名前が広く知れ渡る前のことである。それでも,「ギレルモ・デル・トロ」の名前は,熱烈なファンには十分アピールするものだったからだろう。筆者の場合,試写案内を見て,ようやく監督はスティーヴン・S・デナイトであり,配給ルートもワーナー・ブラザースからユニバーサル映画(東宝東和)に変わっていることを知った。それがどうした,中身が前作の成功要因を踏襲していればいいじゃないかと問われれば,本作に関しては,この変更と交替がまともに出来映えに影響した作品だったと答えざるを得ない。
 まず,配給網に関しては,米国の映画制作会社レジェンダリー・ピクチャーズは,2005年以来,ワーナー・ブラザースと共同製作し,当然完成作品はWB配給網で公開されてきた。クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』シリーズ,『インセプション』(10年8月号)『インタステラー』(14年12月号)や,『300』シリーズ等のヒット作はこの両社の共同出資から生まれたものである。ところが,前作が公開された2013年の契約満了とともにこの提携は解消され,レジェンダリーは翌年からユニバーサル映画との5年間の共同製作に入った。ギレルモ・デル・トロ監督の『クリムゾン・ピーク』(16年1月号)はこの新しい共同製作の中から生まれている。もっとも,『キングコング:髑髏島の巨神』(17年4月号)は元のWBルートで配給されているから,大作の提携関係は複雑なようだ。同作や本作の画像利用のクレジットには「Legendary Pictures」を入れるよう指定されているから,同社の意向や権利主張が強くなっていることは確かだ。それに加えて,同社が中国資本に買収され,大連万達グループの傘下に入ってしまった。中国の映画市場が急拡大していることは確かだが,大作は大味なものが多い。そんな中国人観客の嗜好に合わせた企画が多くなるのではと懸念した。
 第1作の監督が製作陣の1人に回り,続編は別の監督に託すのはよくあることだ。ましてやギレルモ・デル・トロ監督は長年暖めていた『シェイプ…』とのスケジュール調整がつかなかったというから,この交替は止むを得ない。問題は,劇場用映画では実績のないS・S・デナイト監督がどの程度デル・トロ・ワールドを継承できるかだ。彼もまた怪獣や巨大ロボット好きと報じられているが,果たしてそのオタク度はどれほどのものかが鍵になると予想した。
 前作の主演のチャーリー・ハナムは降板し,代わって新SWシリーズのジョン・ポイェーガーが主人公ジェイク・ペントコストを演じる。『デトロイト』(18年2月号)でも主演したように,今やすっかり売れっ子だ。本作では,前作で戦死した英雄スタッカー・ペントコスト司令官の息子という役柄である。前作で主人公ローリーとコンビを組んだ森マコ(菊池凛子)が再登場し,ジェイクの義姉という位置付けなのだが,あまり出番は多くない。監督を変えるなら,逆に継続性を保つため,ローリーとマコのコンビを再登場させて欲しかったところだ。
 代わって,ジェイクとイェーガー・パイロットのコンビを組むネイト・ランバート役は,クリント・イーストウッドの息子のスコット・イーストウッド。父親に似ているのがウリだが,まだまだ演技は未熟で,このパイロット・コンビはあまり息が合っていないように感じた(写真1)。部品を盗み,小型イェーガーを自ら開発した少女アマーラ役に抜擢されたのは,若手女優のケイリー・スピーニー。彼女もまたジェイクとはあまり呼吸が合っていないように思えた。これは演技力のせいだけでなく,監督の演出力のせいかも知れない。この映画の場合,KAIJUとそれを倒すために開発された神経制御型の巨大兵器イェーガーの対決シーンがウリだから,俳優の演技はどうでもいいと思っているのだろうか。
 
 
 
 
 
写真1 これがイェーガー・パイロットの新コンビ。右のスコット・イーストウッドは,
なるほど親父に浴にている。
 
 
  時代は前作から10年後というから,2035年になるはずだ。前作で封印したはずの地球の「裂け目」が開き,そこから3体のKAIJUが出現し,世界は再びパニックに陥るという設定である,この事態は,中国の企業「シャオ産業」が開発したドローン型イェーガーを悪用して裂け目を作り,出現したKAIJUの血液を富士山の火口に流し込むことで地球支配を目論む陰謀によるものだった……。という物語設定だが,「KAIJU対イェーガー」の戦いの他に,「地球防衛のイェーガー対敵方イェーガー」のバトルも登場する。
 配給ルートが変わって良かったのは,国内配給元の東宝東和が広報宣伝に熱心で,大阪での完成披露試写もIMAX 3Dで見せてくれることだ。これは嬉しい。一方,監督交替の影響は,予想(懸念)通り,評者にとっては好ましくない結果だった。何が悪いと明確には言えないが,明らかに監督の違いが映画全体に表れている。以下,当欄の観点から論じることにしよう。
 ■ 冒頭シーケンスで軽快なアクション,既にここでCG/VFXパワーも全開となるのが最近の娯楽大作の定形だが,前半は2段構えだった。まずは,イェーガーの部品を盗むアマーラとジェイクのチェイスと軽いバトルシーンでの小手調べだ。その後,ジェイクがPPDCのパイロットになり,ネイトと組んで次世代「ジプシー・アベンジャー」に乗り,正体不明のイェーガーと闘う。この辺りまでは,IMAXの大画面とダイナミックなサウンドを堪能していた。ただし,3D上映の効果はあまり感じられず,これは全編通じてそうだった。中盤以降,物語が退屈につれ,仰々しいサウンドがむしろ煩わしかった。この監督は,音楽に関するセンスが全く欠如していると言わざるを得ない。
 ■ CG/VFXは,全編でうんざりするほど登場する。いずれもレベルは低くない。甲冑デザインはWeta Workshop,CG/VFXの主担当はDouble Negative,副担当はAtomic Fiction,その他にLegacy Effects, Prime Focus World等数社,モーション・デザインはTerritory Studio,プレビズはThird FloorとDay 4 for Nightの2社体制と,当代の一流どころに依頼しているのだから,当然と言える出来映えである。「ジプシー・アベンジャー」はパワーアップし,地球を守る他の3体のイェーガーも精悍なルックスだ(写真2)。一方のKAIJUは無難なデザインだが,すこしメカっぽ過ぎて,怪獣らしさに欠ける(写真3)。各バトルシーンが動きが速過ぎ,じっくり眺めてられない。タメがないので,重量感が伝わって来ない。前作のバトルはプロレス的な面白さであったのに,本作は他人がやっているビデオゲーム画面を周りで見ている気分だ。テンポや騒々しさは,当欄で酷評してきた『トランスフォーマー』シリーズに似ている。デナイト監督は同シリーズの脚本家の1人だったというから,本作がその影響を受けているのも当然かも知れない。
 
 
 
 
 
写真2 残った4体のイェーガー。精悍で,デザイン的には悪くないので,
玩具市場で人気することだろう。
 
 
 
 
 
写真3 こちら,裂け目から登場したKAIJUの一匹
 
 
  ■ 少し褒めるべきは,機器類やイェーガーの操作のビジュアルなデザインだろうか。全体としては相変わらず,透明ディスプレイのオンパレードだが,パイロットが眺めるイェーガー操作パネルのデザインは洗練されていた。パイロットが手にする操作デバイスも円形でかつAR表示されている。イェーガー本体が実際に接触する物体がパイロットにはホログラム風AR表示されるのも新しく感じた。各イェーガーが手にする武器も目を惹いた。光る鞭,ライトセーバー風の剣等の中で,最も格好良かったのはブレーサー・フェニックスで,腕が鎖鎌のように延び,その先は多数の爪がついて何重にも回転する破壊兵器になっている(写真4)。ネット上には,公開前から予告編映像をファンが勝手に分析・解説するサイトが多数あった。マニアにとっては,こういう分析をしている段間が一番楽しいのだろう。
 
 
 
 
 
写真4 腕が鎖のように伸び,その先にパワフルな武器をもつブレーサー・フェニックス
 
 
  ■ 香港ではイェーガー対イェーガーの闘い(写真5)で,舞台が日本に移ってKAIJU対イェーガーの闘いが繰り広げられる(写真6)。都市の破壊度は前作に増しているが,住民不在であり,恐怖感が全く感じられない。これじゃ,単なる破壊ショーだ。加えて,東京の描写がまるで駄目だ。想定は2035年なので,現在の光景に高層ビルがかなり追加されているのはいいとして,所々に中国語の簡体字の看板が目に付く。2035年には日本は中国の属国になっていると言うのか? いくら親会社が中国企業になったからと言って,そりゃないだろう。富士山の火口の描写もお粗末だった。……かく左様に嬉しくない紹介になるので,このWeb専用記事をなかなか書く気になれなかった。そうこうする内に公開日を過ぎてしまった。公開週の興行成績は和洋のアニメに負けて第4位だったが,前作と興収比は134.1%とのことである。本作は観るかどうかは,『トランスフォーマー』シリーズに関する当欄の評価に同意されるかどうかで決められれば良いかと思う。  
 
 
 
 
写真5 香港でのイェーガー同士の闘い
 
 
 
 
 
写真6 2035年の東京をバックにしたKAIJUとイェーガーとの対決
(C) Legendary Pictures / Universal Pictures.
 
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