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O plus E誌 2013年5月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『リンカーン』:立派な映画である。とにかく立派な映画である。巨匠スティーヴン・スピルバーグが第16代米国大統領を真正面から取り上げた伝記ドラマだけのことはある。米国の自由主義の伝統はかく生まれたと語る社会科の教科書のような映画で,誰もが敬意を表しても,批評などしようがない。衣装・美術・音楽も,撮影・編集も完璧で,アカデミー賞最多12部門ノミネートも納得できる(受賞は,主演男優賞,美術賞のみ)。憲法修正第13条を下院で批准させるまでの議会シーンの描写は息を飲む。セリフの多い映画で,大統領役のダニエル・デイ=ルイス以下,実力派の演技が映画の重厚さを高めている。あまりに立派過ぎて,日本での興行成績は振るわないだろうなと予想した。
 ■『孤独な天使たち』:久々に観たイタリア映画で,監督は『ラストタンゴ・イン・パリ』(72)『ラストエンペラー』(87)のベルナルド・ベルトルッチだった。この巨匠がまだ現役だったとは,思いも寄らなかった。反抗期の扱い難い少年と異母姉の,予期せぬ同居生活1週間を描いた作品である。自宅の地下室が舞台の,ほぼワンシチュエーション・ドラマだと思って差し支えない。演じるのは,共に新人のテア・ファルコとヤコポ・オルモ・アンティノーリ。脚本と名監督の演出の腕で,後味の良い映画に仕上がっている。挿入歌デヴィッド・ボウイの「ロンリー・ボーイ,ロンリー・ガール」は2010年発表のイタリア語版だが,まるで本作のために作られたかのような歌詞である。その使い方も絶妙だ。
 ■『藁の楯 わらのたて』:これぞエンタメだ。今年観た邦画では最高の面白さである。孫娘を殺された富豪老人(山崎努)が,猟奇殺人犯(藤原竜也)の殺害に懸賞金10億円を支払うという新聞広告を出したことから,女医から機動隊員までが,一獲千金を目指して犯人殺害を企てる。全く展開が読めないサスペンスの連続で,三池崇史監督の演出が冴える。スケールアップして失敗した邦画の例は多いが,本作は新幹線ホーム(実は台湾での撮影)や高速道路封鎖などの大仕掛けが奏功している。ロードムービーとしても秀逸だ。一見茫洋とした警視庁SPの大沢たかおの起用は大正解で,物語の進展とともにその真摯さが伝わってきて,彼に感情移入できる。ただし,その相棒の女性SPが,あの美人女優のMNだとは,エンドロールを観るまで気がつかなかった。しばらく見ぬ間に,こんなにオバサン臭くなっていたとは,本作の殺人鬼ならずとも驚きだった。
 ■『ラストスタンド』:話題は,7年余カリフォルニア州知事を務め,2011年に退任したアーノルド・シュワルツェネッガーの復帰後初の主演作品ということに尽きる。語るに足りないB級アクション映画だろうと,何の期待もせず試写を観たのだが,これが結構面白かった。麻薬組織を支配する凶悪犯コルテスが,護送中に脱走し,メキシコへの逃亡を図る。その逃走経路にある田舎町の保安官(実は,元ロス市警の辣腕刑事)というのが,シュワちゃんの役どころだ。最初,風貌も体形も昔と変わらないなと思わせておいて,次第に老いを感じさせる描写となり,最後はそれでも悪に立ち向かう不屈の保安官というのがウリだ。物語は普通のアクション映画だが,犯人側の銃火器の利用や時速400kmで爆走するカーアクションに新味があり,とうもろこし畑の使い方も面白い。監督は,ソウル出身のキム・ジウン。娯楽作品作りのセンスがある。
 ■『17歳のエンディングノート』:「17歳の…」と聞くと,瑞々しい青春映画,未来に向けての人生讃歌を想像するが,「エンディング」が少し気になった。案の上,白血病で余命僅かとなった少女の悲恋物語であった。残る人生9ヶ月で好き放題をする計画が,想定外の恋に落ち,もっと生きたいと感じ始める……。ヒロインは,天才子役として名をはせたダコタ・ファニングで,相手役には『戦火の馬』(12年3月号)のジェレミー・アーヴァインが選ばれた。大人の女優への変曲点にさしかかった彼女にとって,記念となる主演作品のはずだが,彼女の演技にも監督の演出にも迷いがあるように感じられた。むしろ,勢いは完全に新進のJ・アーヴァインの方にある。怖いものなしの伸び盛りゆえに,この役柄も難なくこなせるのだろう。
 ■『探偵はBARにいる2 ~ススキノ大交差点~』:札幌を舞台とした「ススキノ探偵シリーズ」の映画化第1作(11年9月号)は,なかなかの秀作だった。「このコンビの魅力を発揮するシリーズに育って行ってもらいたいものだ」と評したが,2年も経たない内に2作目が登場した。親しい友人,オカマのマサコちゃんが殺害されるという事件が発生し,美人バイオリニストの依頼を受けて,探偵(大泉洋)と相棒(松田龍平)は真犯人探しに奔走する。本作では,札幌だけでなく,室蘭の町もしっかりと紹介している。「パワーアップ&スケールアップした第2弾」なるコピーは誇大広告ではなく,確かに製作費をかけた大作の香りがする。その半面,少しシャープさが欠けるのは,物語を膨らませ過ぎたせいだ。メガホンをとったのは,前作同様,東映社員監督の橋本一だ。先月号の『相棒シリーズ X-DAY』も同監督なので,さすがに2本立て続けでは,いくらサラリーマン監督でもきつかっただろう。
 ■『モネ・ゲーム』:犯罪コメディ『泥棒貴族』(66)のリメイク作である。かつてマイケル・ケインとシャーリー・マクレーンが演じた役を,コリン・ファースとキャメロン・ディアスが演じている。ただし,旧作では仏像の泥棒であったものが,絵画の贋作による詐欺に替えられてる。表題は,その贋作の対象がモネの「積みわら」であることに由来している。筆者は,この手のテーマは大好きなはずなのだが,あまりワクワクする内容ではなかった。少し策に溺れた感がある。脚本はコーエン兄弟,監督は『終着駅 トルストイ最後の旅』(09)のマイケル・ホフマンという組合せが,良くなかったのかも知れない。C・ファースとC・ディアスのコンビも,あまり相性がいいとは思えなかった。コーエン兄弟がいつものお気に入り俳優たちを使い,自らメガホンをとった方が,ずっと面白く仕上がっていたと思う。
 ■『愛さえあれば』:あまり見かけないデンマーク映画だが,物語はよくある中年男女のラブストーリーだ。それぞれの息子と娘の結婚式で南イタリアに出向いた知り合った男女が主役であり,新郎新婦がマリッジ・ブルーに陥るのに対して,親同士は次第に惹かれ合うとパターンである。スサンネ・ビア監督はじめ,主演女優(トリーヌ・ディアホルム)や助演陣,スタッフもデンマーク人一色の中,主演男優1人だけ英国人で,元007のピアース・ブロスナン(役柄は,デンマーク在住で,妻を亡くした英国人富豪)が演じている。それぞれの家族内の揉め事やすれ違いはよく描けているし,ソレントの紺碧の海,レモン果樹園等も観光映画としては合格点だ。それでいて,女性監督映画特有の虫のいい結末だと苦言を呈したくなる。主演女優がもう少し美人だと許せたのかも知れないが……。
 ■『建築学概論』:同じく何てことはないラブストーリーなのだが,こちらは韓国製だ。これが実に良くできていて,最初から最後まで心地よく観ることができた。古い自宅の大規模な建て替えを依頼する女性と,初めて家の建築を任される男性建築士が,15年ぶりに再会した大学の同級生という設定である。映画の進行とともに,若き日の彼と彼女が愛し合った間柄であったことが判明する。物語は,現代の交流と過去の初恋の様子を行きつ戻りつする。学生時代のカップルに,別の男優・女優を配したダブルキャストだが,男女共に顔立ちが余り似ていないのが欠点だ。それでも,2人とも爽やかな美女なので許せる。海の見える済州島の家が素晴らしい。『建築学概論』という表題も印象的だ。イ・ヨンジュ監督自身,建築学科で学び,建築士経験があるらしい。
 ■『ビル・カニンガム&ニューヨーク』:よくできたドキュメンタリー映画だ。ニューヨークでストリート・ファッションを撮り続け,大手ファッション雑誌に社交コラム欄をもつ大物写真家ビル・カニンガムが主役である。もう1つの主役は,表題通りNYの街そのもので,映画の前半はこの街の活気そのものが見事に映像化されている。後半は,業界関係者のインタビューを中心に,愛すべきビルの素顔に迫る。誰もに愛される素朴な人柄で,50年間この道一筋のプロ中のプロである。このドキュメンタリーは,交渉8年,撮影・編集に2年の計10年間を費やしたという。2010年の作品であるが,写真家ビルは今もフィルム・カメラを使っているのだろうか? 一眼レフでも急速にデジタル化が進行する中,彼がデジカメを手にすれば,この映画の光景はかなり変わっただろうと想像できる。
 
   
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