head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | アカデミー賞の予想 | サントラ盤ガイド | 年間ベスト5&10 |
   
title
 
O plus E 2021年Webページ専用記事#1
 
 
スペース・スウィーパーズ』
(Netflix)
      (C) 2020 Bidangilpicture
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [2月5日よりNetflixにて独占配信中]   2021年2月9日 Netflixの映像配信を視聴
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  韓国映画初の宇宙SF映画は,美術もVFXの分量も国際級  
  Netflix配信の宇宙を舞台としたSF映画で,1・2月号のトップ記事『ミッドナイト・スカイ』に続いて,同ジャンルの作品である。遂に絶好調のNetflixの覇権は宇宙空間にまで達してしまったのかの思いだ(笑)。同号のメイン欄のもう1本は『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』で,こちらはSFではないが,インドの宇宙開発計画を描いた映画であったから,当欄も急に宇宙づいている訳である。同作が「ボリウッド映画初の宇宙もの」であったのに対して,本作は「韓国映画初の宇宙SF映画」という触れ込みである。構想10年という韓国映画の意欲作が,Netflix経由で世界190カ国に一斉配信開始という形態で登場したのにも少し驚いた。
 題名の「Space Sweepers」とは,宇宙空間に漂うゴミ(デブリ)を収集する清掃人を意味している。地球の衛星軌道上には,各国の宇宙開発計画で生じた多数の人工的なゴミがあり,最近,その収集に日本のベンチャー企業も参入するというニュースがあった。そうした宇宙ゴミは弾丸の10倍という高速で衝突して来るので,人工衛星や探査船からすれば,危険極まりない。約10年前に,その危険性を耳にした韓国人映画監督チョ・ソンヒが,このテーマでの宇宙アクション映画の構想をもち,自ら原作を書いて映画化プロジェクトを立ち上げたという。映画撮影は2019年11月に終了し,2020年8月に公開予定であったのが,コロナ禍で公開延期が続き,遂に配給権をNetflixに売却して,世界同時のネット配信に踏み切ったということらしい。やはり,Netflixの覇権が宇宙にまで及んでしまった訳だ(笑)。
 企画段階から,『神と共に』(19年5・6月号)で膨大な量のVFXシーンを担当した韓国最大手のデクスター社が参加したというので,VFX大作であることは間違いなかった。そのため,2月5日の配信開始から数日以内に2度見たのだが,ついつい本稿の執筆が遅くなってしまった。別項の特別企画「未紹介のゴールデングローブ賞ノミネート作品」を優先してしまったためである。この間に雑誌にも,SNS上にも,本作に関する記事は多数登場し,ネタバレ紹介も複数散見される。よって,本稿では時代背景,登場人物の紹介は概略に留め,個人的な感想や当欄の視点でVFX評価を中心に語ることにする。即ち,当欄の趣旨通り,この韓国製SF大作のVFX史上での意義を,同時代進行で記録に留めることを第一義としている。
 さて,本作の時代設定は2092年で,環境破壊で地球は住めなくなり,新興巨大企業のUTS社が宇宙軌道上に居住地を開拓しているという設定である。主要登場人物は,宇宙ゴミ収集を生業とする宇宙船「勝利号」の乗組員4人だ。イケメンで勇敢な操縦士テホ(ソン・ジュンギ),美形で遣り手の女船長チャン(キム・テリ)が主演で,中年の機関士タイガーとロボット乗務員のバブズが重要な役柄の助演陣である。この4人のチーム編成,人物造形は優れていて,彼らの掛け合いが楽しい。多分に『スター・トレック』シリーズを意識していることは明らかだし,『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの韓国版だとも言える。
 物語が始まってまもなく,勝利号に潜んでいた不思議な少女ドロシーが見つかる。これじゃ『ミッドナイト・スカイ』とそっくりだ。ところが,彼女が水爆を内蔵した大量破壊兵器だということが判明し,こりゃ一大事だということになる。この少女を巡って物語が展開するが,UTSの創業者サリヴァン(リチャード・アーミティッジ)が悪役だということはすぐ分かるだろう,紆余曲折の末,サリヴァンの野望は破れ,地球も新居住地も無事でメデタシメデタシで終わることも予定通りだ。典型的なスペースオペラの枠組みからはみ出さず,定番中の定番の味付けなのも嫌味がなく,安心して観ていられる。気取ったディストピアものにせず,娯楽大作に徹したのは好感がもてた。
 以下,当欄の視点からの感想と評価である。
 ■ 映画の冒頭は2092年の地球で,「UTS落下物保管所統合倉庫」から物語は始まる。大気汚染された地球上は,昼でも暗く,街行く人々は全員ガスマスクを着けている。その市中描写や衛星軌道上にUTS社が建設した居住地までの描写はVFXの連続で,「おー,なかなかやるな。これはハリウッド級のSFか」と思わせるものだった(写真1)。UTS社のサリヴァン博士の宇宙ゴミの危険性の解説,ホログラム・ディスプレイを使った「生命の木」の説明ももっともらしい。少し背伸びしている感はあり,CG/VFX的にも新味はないが,この物量作戦は本格的な宇宙SF映画だと思わせることに成功している。
 
 
 
 
 
 
 

写真1 (上)大気汚染された地球上の光景  (下)衛星軌道上のUTS市民の居住地

 
 
  ■ 続いては,各国の清掃人たちが腕を競うゴミ収集のアクションシーンで,主役の「勝利号」が存在感を示す。ゴミ収集という今までにないアイディアを活かしたシーンだが,3Dを意識した飛び出し感や動きは少し煩わしく感じる。もう少しゆったりと見せてくれた方が良い。ここは敵とのバトルではないが,過去の『スター・ウォーズ』シリーズや最近の宇宙SF映画をかなり参考にしていると感じられる。中盤以降に登場する勝利号の飛行スタイルはミレニアム・ファルコン号,終盤に登場する悪役のスペースガードはストームトルーパーズのもじりだが,これらは敬意を込めたオマージュと見做すべきだろう。
 ■ 「ファクトリー」と呼ばれるゴミ集積衛星の外観(写真2)は単純な球形だが,その内部の立体的な構造や,大きな倉庫風の空間の描写は,SF映画らしい雰囲気を醸し出していて,美術的にも十分合格点だ。この空間内でのアクションシーンもいい出来映えだった(写真3)。この空間も勝利号の機内(写真4)もレトロな感じで,韓国映画はこうした汚い猥雑なシーンの描写は上手い。その反面,快適な未来都市であるべき新居住地の描写はチープで,ハイセンスで美しい映像描写は下手糞だと感じた。美容整形を施した美男美女俳優と,その他の助演俳優のルックスに大きな落差がある韓国映画の特徴が,そのままこの映画の美術面にも表れている。
 
 
 
 
写真2 ゴミ集積衛星ファクトリーの外観
 
 
 
 
 
写真3 ファクトリー内部でのアクションシーン
 
 
 
 
 
写真4 勝利号のレトロな内部と乗組員たち
 
 
  ■ 4人の乗組員の1人,ロボットのバブズは一見して分かるように,生身の俳優の頭部,胸部,腕はCGで置き換えたものである(写真5)。場面によっては,脚部もメカが露出している。技術的に特筆すべきものではないが,彼の登場場面は多いので,作業的にはかなりの分量のはずだ。全く自然に感じてしまい,VFXの産物であることも忘れて観てしまう。もう1つ,見逃しがちなのは字幕とセリフの音声言語の工夫だ。日本語版を含め,各国語の吹替版を字幕なしで観ていると全く気がつかないが,オリジナル(韓国)版では韓国人は勿論韓国語で,多国籍の清掃人たちはすべて自国語(英語とは限らない)で話している。各人が常時着けているイヤホンには自動翻訳機能があり,同時通訳されるので,各人が自国語で会話できる訳である。SF映画ゆえ成り立つ設定だが,理屈は通っている。日本語字幕では,韓国語部分は普通の字幕で,その他は<セリフ>の表記で区別されていた。
 
 
 
 
 
 
 

写真5 勝利号で働くロボットのバブズは一部CG
(C)2020 Bidangilpictures. All Rights Reserved

 
 
  ■ この映画の成功要因は,勝利号のクルーと少女ドロシー以外の登場人物の大半を,外国人(特に,悪役を西洋人)にしたことだ。このため,クルー間の会話は韓国映画のコメディタッチで描き,SFアクション部分はハリウッド映画のテイストを感じさせることに成功している。そういう風に褒めておいて,本作の評点が☆☆止まりなのは,最近のハリウッドSF大作に比べると,やはり映画全体のクオリティが少し落ちるためである。危機的状況,感動的シーン,微笑ましいシーンが盛り沢山で,上映時間が長過ぎる。もっと簡潔で良い。この映画の製作陣に敬意を表して,国際水準で評価した上での評点である。
 ■ クライマックス・バトルの宇宙戦は,ほぼ予想通りの出来映えだった。エンドロールのCG/VFX担当には,Dexter Studios以外に,Blaad, M83, Wysiwyg Studios, Madmanpost, Digital Idea, LIX Digital Studio, Bottleship VFX等々の名前が並んでいた。質・量ともに,現在の日本映画界では真似出来ないレベルである。Netflix配信で手軽に観られたのは有り難かったが,やはり本来は映画館の大きなスクリーン,優れた立体音響設備の中で観るべき映画である。
 
 
  ()
 
 
Page Top
sen  
back index next