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O plus E誌 2009年4月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『イエスマン “YES”は人生のパスワード』 :何ごとにも「ノー」を連発してきた男が,新興宗教のごとき自己啓発セミナーで変身し,すべてに「イエス」と答え始めたことから起こる騒動を描いたコメディである。ラジオディレクターの体験実話が基だというが,ドタバタ喜劇とヒューマンドラマの両方を一度にこなすジム・キャリーのために書き下ろしたかのような役柄だ。特に大きな欠点もなく,楽しめる作品のはずなのだが,今一つパンチに欠ける感もある。この世界的不況の中で何を気楽なという想いと,最近ジム・キャリーの毒が薄れ,少し「いい人」になり過ぎたせいかなとも感じる。
 ■『リリィ,はちみつ色の秘密』 :邦題からは明るい太陽の下での平和な物語を想像するが,まるで違っていた。天才子役ダコタ・ファニングが主演ならば,そんな単純な役柄ではないと気づくべきだった。自分の過ちで母を失い,深い心の傷を負った14歳の少女リリィが愛の証しを求めるシリアスなドラマである。時代は1964年,まだ人種差別が激しい米国東南部が舞台だ。そんな中で養蜂場を営む黒人三姉妹との交流は,癒され,心の安らぎを感じる。長姉役のクイーン・ラティファの包容力のある演技が素晴らしい。一方,『ドリームガールズ』で爆発したジェニファー・ハドソン(リリィのメイド役)の存在感が今イチだったのが,少し残念だった。
 ■『フロスト×ニクソン』:無冠に終わったが,なるほどオスカー・ノミネート作だと感心する一作だ。英国TV界の人気司会者デビッド・フロストが,ウォーターゲート事件で失脚した元大統領リチャード・ニクソンに迫った伝説のインタビュー番組を描いた実話である。先にあった舞台劇と同じ配役ゆえに,2人のやりとりの基本形は出来上がっている。それを考慮してもなお,ニクソンそっくりの声色で演じるフランク・ランジェラの役作りは見事と言わざるを得ない。最終章でニクソンの決定的発言を引き出すシーンでは,名手ハンス・ジマーの音楽がしばし停まる。無音ゆえの緊迫の一瞬だ。そこからエンドロールに至るまでの演出も秀逸だ。さすが,ロン・ハワード監督だ。
 ■『ザ・バンク-堕ちた巨像-』:VFXシーンも結構あったが,今月は作品数が多過ぎて短評欄に回さざるを得なかった作品だ。巨大国際銀行の陰謀と巨悪を描くというテーマは,時流に乗っている。中盤のグッゲンハイム美術館での凄まじい銃撃戦はすごかった。結末のイスタンブールのグランバザールを屋根の上から描いた景観も息を呑む出来映えだ。ところが,この2つの圧倒的なシーンだけが突出し,それ以外の退屈なシーンとのバランスが悪い。主演のクライブ・オーウェンとナオミ・ワッツの息も合っていない。この現代的サスペンスに今一つ乗れなかったのは,トム・ティクヴァ監督の語り口を筆者があまり評価していないからだろうか。
 ■『ある公爵夫人の生涯』:アカデミー賞衣装デザイン賞受賞作。18世紀のデヴォンシャー公爵夫人のスキャンダルの映画化作品だが,衣装だけでなく,古城や広大な庭園など,美術全体が見どころだ。故ダイアナ妃の5代祖先にあたるスペンサー家の女性ジョージアナを演じるのは『プライドと偏見』(05年12月号)のキーラ・ナイトレイ。見事なハマリ役だ。夫の愛人問題や冷えた関係に悩むストーリーは,ダイアナ妃を思い起こすように設定されている。ただし,結末が同じである訳はなく,物語の展開もドラマチックだ。そこで,ダイアナ妃とK・ナイトレイのどちらがより美しいかと問われたら……,どちらも魅力的で,好きだ。
 ■『おっぱいバレー』  :口に出すのが少し気恥ずかしい表題だ。顧問の女性教師に「試合に勝ったらおっぱいを見せる」というトンデモナイ約束を取り付け,弱小男子バレーボール部員が奮闘する青春映画だが,何と実話だという。筆者好みの「綾瀬はるか」が,まさかケイト・ウィンスレット並みに脱ぐ訳ないなと想いつつも,多少の期待(?)をもって観てしまった(笑)。そういうファンも少なくないだろう。期待は叶わないが,観て損はない。1970年代を描いた青春映画,スポ根映画として,しっかり作ってある。挿入歌の選曲も嬉しい。
 ■『スラムドッグ$ミリオネア』  :作品賞,監督賞を含む今年のアカデミー賞8部門受賞作。その授賞式の翌日に観た。当然,その先入観が入らざるを得ない。そんなに突出した驚愕の映画ではないが,パワフルな人間讃歌で素直に面白かった。クイズ番組の進行と主人公の生い立ちを織り交ぜた緻密な脚本が素晴らしい。インドの生命力がほとばしる映像は,ムンバイに1週間滞在経験のある筆者には格別だった。インドが舞台でなかったら,こんなにスリリングな脚本にはなっていなかったことは確実だ。エンディングに向けての盛り上げも見事で,いきなり観ても☆☆☆をつけていただろう。では,筆者がアカデミー会員であったなら,『ベンジャミン・バトン…』と本作品のどちらに投票したかと言えば,ファイナルアンサーは……???
 ■『レイチェルの結婚』  :先月に引き続きアン・ハサウェイの主演作だ。清純派の彼女が幸せな結婚をする話ではない。姉の結婚式のため,麻薬依存症の更生施設から帰ってきた気性の激しい問題児の妹を演じる。色々な映画賞にノミネートされ,これで演技開眼だ。彼女を巡る家族間の微妙な関係,赤裸々な会話の描写が秀逸で,親族の集まりでの自己紹介等,セリフも大きな意味をもつ。その半面,人はここまで立ち直れないものか,感情をぶつけ合わなくてはいけないのかと,少し暗い気持ちになる。賞狙いの映画とはいえ,もう少し明るい,幸せな気持ちになる結末が欲しかった。
   
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