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O plus E誌 2014年1月号掲載
 
 
永遠の0』
(東宝配給)
      (C) 2013「永遠の0」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [12月21日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開中]   2013年11月25日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  さすが山崎監督,泣き節とCG/VFXの配合が絶妙  
  洋画の大作を押しのけて,久々に邦画がトップ記事である。デビュー作『ジュブナイル』(00年7月号) 以降,本欄がずっと応援してきた山崎貴監督作品であり,過去の作品も殆どトップで扱っているはずだ。当人自身が「監督・脚本・VFX 山崎貴」との表記に拘っている以上,まだまだ応援し続けて行きたい。
 振り返って見れば,デビュー作以外,英単語で始まる作品ばかりだったが,本作は原作通りの日本語タイトル(数字やルビが入っているが)である。原作は,人気作家・百田尚樹のデビュー作で,零戦搭乗員,特攻隊員の悲劇を描いている。300万部を超える大ベストセラーで,600頁弱,2cm余の分厚い文庫本が,書店店頭に多数平積みされている,あの本である。当然,2013年公開の邦画の中でも飛びきりの期待作であり,若手有望株からベテラン俳優まで,多彩な顔ぶれが配されている。
 主演の海軍航空兵・宮部久蔵を岡田准一,その妻・松乃を井上真央が演じる。現代に生きる姉弟(吹石一恵と三浦春馬)が,特攻隊員として戦死した実の祖父の真実を調査する体裁を取っているので,物語は現代と戦時中を往き来する。若き航空兵たちに,濱田岳,三浦貴大,新井浩文,染谷将太,上田竜也が,過去を語る老人たちに,橋爪功,山本學,田中泯,夏八木勲,平幹二朗が配されている。老若で顔立ちが余り似ていないのが残念だ。似た俳優を使いたくても,日本映画界の層が薄く,演技ができる俳優を配せないのが実情だろう。演技としては,田中泯と夏八木勲の存在感が素晴らしく,後者の遺作に相応しい作品となっている。
 試写を観ての第一印象は,「さすが山崎監督,泣き節の演出は上手い!」だった。大ヒットした『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ(05, 07, 12)は,続編も卒なく作られていたが,その間の『BALLAD 名もなき恋のうた』(09年9月号)は期待外れであり,『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(10年12月号) はヤマトのCG映像には感激したものの,物語は今イチだった。それが,CG/VFXで強化した泣けるストーリーとなると,まさに本領発揮である。試写会場は,まだ中盤の内から,女性記者たちのすすり泣きが耳障りなほどだった。
 この大ベストセラーの映画化の出来に関しては様々語られることであろうから,当欄は当然VFXの評価中心の解説となる。
 ■ 山崎監督自身,「VFXと気付かせないVFX」ではなく,本作は「見せるVFX」だったと語っている。戦闘機,戦艦,空母は,勿論CG製であるし,空戦も海戦も丁寧なVFXで作られている。中でも素晴らしいのは,前半の真珠湾攻撃のシーン(写真1)だ。10年以上前の作品ながら,間違いなくハリウッド大作の『パール・ハーバー』(01年7月号) を遥かに超えている。
 
 
 
 
 
写真1 前半の真珠湾攻撃のVFXは刮目すべき出来
 
 
  ■ 邦画での比較対象は,『男たちの大和/YAMATO』(06年1月号)だろうか。当然,実物大の零戦が製作され(写真2),海辺近くの自然光下に置いて,機体の反射具合を撮影し,CGレンダリングに反映している。さすがに実物大の空母赤城は作られていないが,甲板の一部が作られ,CG/VFXでそれらしく見せている。艦と海面が接する水際の処理やミッドウェー海戦で赤城が黒煙をあげるシーンは上々で,『…YAMATO』とは比ぶべくもない(写真3)
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 2ヶ月かけて正確に復元された実物大の零戦
 
 
 
 
 
 
写真3 全長260mの空母赤城はCGで制作し,実写の水際映像と合成
 
 
  ■ 光の処理に拘り,雲を求めて空撮を繰り返したというだけあって,雲海の中を航行中の零戦の雄姿が神々しい(写真4)。戦闘機の離発着,空戦(写真5)や特攻(写真6)のシーンも,しっかり「見せるVFX」になっている。ただし,『俺は,君のためにこそ死ににいく』(07年5月号)も素晴らしかっただけに,確実にそれを超えた出来とは言い難い。製作年が6年半以上も違うことを考えれば,いい勝負だとしておこう。
 
 
 
 
 
写真4 実際に飛行して雲を空撮しただけあって,光の当て方は見事
 
 
 
 
 
写真5 CG自体は上出来だが,戦闘はもう一工夫欲しい
 
 
 
 
 
写真6 米軍空母めがけての特攻シーンは見せ場の1つ
(C) 2013「永遠の0」製作委員会
 
 
  ■ 全400カットのVFXシーンは,全体としては,さすが山崎監督指揮下の白組ならではの出来映えである。毎度のことながら,これを約30人のクリエータ達で処理したというのが凄い。若干他社の応援も得ているが,僅かな数である。後述の『ハンガー・ゲーム2』や『エンダーのゲーム』では,10倍から20倍の人数が参加しているから,驚くべき制作効率だと言える。
 ■ そうは評価しつつも,ハリウッド・パワーで描くなら,もっと楽しく,迫力ある空戦シーンが描かれたのではないかと思う。CG/VFX技術が劣るのではない。空戦アクションのデザインに労力をかけていないし,そのプロもいないからだと想像する。宮部少尉の戦闘機操縦術が抜群の腕であったというなら,それを十二分に見せてくれるシーンが欲しかったところだ。山崎作品を応援するゆえの,辛口の評価である。
 ■ 辛口ついでに言うならば,かねてより日本映画界の弱点は,映像技術でなく,脚本と音楽だと力説してきたが,本作でもそれが如実に表われていた。原作では最後に登場するサプライズが,映画では早く出て来過ぎだ。もっとハイレベルの共同脚本家を起用していれば,セリフにも深みがあっただろう。音楽は,エンドロールに流れるサザンの新曲は良かったが,劇中の訓練シーンや戦闘シーンの音楽にもう一工夫欲しかった。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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