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O plus E 2018年Webページ専用記事#4
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』:頗る楽しかったミュージカル映画の続編だ。全曲ABBAのヒット曲で構成される舞台版ミュージカルが,豪華出演陣で映画化されたのは2008年の夏だった。本邦では翌年1月末に公開され,大ヒットしたことも記憶に新しい。この続編の設定も前作から10年後で,娘ソフィ(アマンダ・セイフライド)は母ドナ(メリル・ストリープ)の念願であったエーゲ海の島にリゾートホテルを開業する。その開業式典に父親候補だった3人も母の友人も招待されるので,前作の主要人物8人がそっくりそのまま続投している。加えて,母ドナの若き日の物語が並行して登場し,なぜシングルマザーになったのかが描かれる。何やら,名作『ゴッド・ファーザー Part II』(74)を彷彿とさせる構成である。2つの時代を,同じ島,同じ場所で交錯させ,交互に描く手口が巧みだ。若きドナを演じるのは,『シンデレラ』(15年5月号)に主演した正統派美女のリリー・ジェームズ。少しM・ストリープに感じが似ているのが嬉しい。親友のターニャとロージーは髪形と身長で識別できる。その半面,ドナと恋に落ちる若き日のサム,ハリー,ビルは,P・ブロスナン,C・ファース,S・スカルスガルドと簡単に対応が取れない。交互に見せて強制的にリンク付ける工夫が欲しかったところだ。この若い6人に加え,歌姫シェールとアンディ・ガルシアが新登場する。即ち,フィナーレはこの16人の大合唱となり,壮観だ。誰がどこで歌うのか,本作では冒頭で少しサプライズがある。ネタバレになるので詳しくは書けないが, M・ストリープとシェールの思わせぶりな登場の仕方が,本作の最大の見どころとだけ言っておこう。とりわけ,シェールが加わっただけで歌のレベルがぐっと上がる。勿論,劇中の使用曲はすべてABBAのヒット曲だが(サントラ盤紹介欄を参照),大画面,音響効果の良いシアターで観ることを強く勧めておきたい。
 『輝ける人生』:英国の名優たちの共演で描く老人男女のラブコメディ。と言えば,すぐに『マリーゴールド・ホテル』シリーズを思い出すが,こちらはインドまで出かけずに,英国内で済ませている。出演陣も少し控えめだ。35年連れ添った夫の不倫で家を飛びだしたサンドラ(イメルダ・スタウントン)が主人公で,姉ビフ(セリア・イムリー)の家に転がり込む。渋々ダンス教室に通う内に周りの人々とも打ち解け,やがて認知症の妻をもつチャーリー(ティモシー・スポール)と惹かれ合う。名前を聞いて分からなくても,顔を観た途端,『ハリー・ポッター』『ブリジット・ジョーンズ』両シリーズを支えた個性的な脇役達だと気付くだろう。ダンス教室に通う中高年達は,それぞれ訳ありの人生を送って来た面々だが,その描写が細やかだ。近郊のサリー州の富裕層の邸宅とロンドンの貧民アパートの対比も見事な演出と言える。各人の衣装もクリスマスの街角もカラフルで,クライマックスのローマの舞台でのダンスシーンはさらに魅力的だ。主演のI・スタウントンは,初めはアンブリッジ先生役同様,プライドが高く嫌な女だが,次第に可愛く見えてくる。ジュディ・デンチの妹的なイメージだが,ダンスが上手いのに驚いた。ミュージカル舞台でならしただけのことはある。終盤,一気に物語が展開するが,ほぼ結末は読める。いかにも,映画らしい恋の結末で陳腐とも言えるが,老男女だけに少し微笑ましい。この映画には,この終わり方が相応しい。
 『判決,ふたつの希望』:ちょっと珍しいレバノン映画だ。多分,観るのは初めてだろう。アカデミー賞外国語映画賞部門のノミネート作品で,前評判通りの素晴らしい法廷劇だった。完成度が高く,満足度も大だ。舞台は首都のベイルート。パレスチナ難民の労働者ヤーセル・サラーメ(カメル・エル=バシャ)とキリスト教徒のレバノン人トニー・ハンナ(アデル・カラム)の些細な口論が訴訟沙汰になり,やがて国論を二分する大騒動に発展する様を描いている。実話なのかと思ったが,純然たるフィクションのようだ。それだけ,いかにも起こり得る題材を見事に映画化しているとも言える。被告側のパレスチナ人が終始紳士なのに対して,レバノン人原告の粗野な言動と原告側弁護士の強引な態度に誰もが不快感を感じることだろう。であっても,一方的にパレスチナに好意的なのではなく,この演出はドラマとして意図的で,しっかり埋め合わせ,帳尻合わせもしている。中東情勢や1970年代の「レバノンの悲劇」に詳しくなくても理解できる丁寧な描き方だ。ただし,この国ではこの程度の諍いで訴訟請求して,起訴,被告の収監までするのか,という想いが残る。監督・脚本は,同国出身のジアド・ドゥエイリ。この監督には,今後も注目しておきたい。
 『君の膵臓をたべたい』:「キミスイ」の略称で知られる話題作だが,昨年夏に大ヒットした実写版ではなく,本作は1年強遅れで公開される劇場用長編アニメ版である。例によって高校生の男女が主人公で,お決まりの難病ものとくると,当欄ではパスするのが常道で,特に語りたい場合しか取り上げない。では,今回俎上に乗せる理由はと言えば,こういう映画評欄を書き続けていると,中年以上の愛読者や知人から,若者映画のヒット作に対して,評価や大ヒットの理由分析を求められるからである。いつも「さぁ,私にもさっぱり分かりません」では済まないので,本作は珍しくアニメ版が後になったこともあり,実写版DVDもじっくり眺め,比べて分析することにした。原作は住野よる著の青春小説で,2015年のデビュー作で,ライトノベルの大ヒット作らしい。翌年コミック化,オーディオブック化され,翌々年実写映画化されているが,既にその時点で知名度は高かったようだ。結論を先に言えば,実写版もアニメ版も青春映画の出来としては「中の上」で,強いて言えば(じゃんけん後出しの)アニメ版の方が少し上だと評価する。『君の名は。』(16) もそうだったが,噂が噂を呼んで大ヒットするのに,クオリティは「中の上」で十分だ。難病ものとしてさほどの感動作ではないが,カニバリズムを思わせる衝撃的な題名が注目を集め,もっともらしい理由づけが(ライトノベル程度の)読者や観客を納得させてくれるからだと分析しておこう。主人公の女子高生は実写版(浜辺美波)の方が魅力的だ。アニメ版の声優(Lynn)は少し騒々しい。一方,男子高生の他人に興味を持たない暗い感じは,アニメ版の方がいい。実写映画の場合,事物やセットが低予算だとプアさが強調され,俳優の演技力のなさも気になる。そのため,イメージが合わないと,すぐにSNSで炎上してしまう。一方,アニメ版の背景描画力は一級品だが,各キャラクターは同じような顔立ちの上に無表情だ。そのため,少し中性的な感じを与える無機質なアニメの方が,多感な若者は勝手に自己投射して感動しやすいのではないか。この2本を見比べてそう感じた。実写版は原作にない12年後から高校生時代を振り返る構成だったが,アニメ版にはそれがなく,原作に忠実だ。ただし,エンドロールの後に,実写版に繋がりそうなエピソードを加えている。営業戦略上だろうが,これは上手い。
 『きみの鳥はうたえる』:こちらは男2人,女1人の青春映画。と言っても,高校生のキラキラムービーではない。安定しないフリーターの若者たちが夜明けまで飲み明かす自堕落な生活を,リアルに描いた作品である。原作は,自殺した純文学作家・佐藤泰志の初期作品にして芥川賞候補作,というだけで少し身構えて観てしまう。当欄では『オーバー・フェンス』(16)に続く2作目である。当然,舞台となるのは函館だ。かなりの演出力と演技力が必要とされ,中途半端な映画化では描き切れないぞと思ったが,柄本佑,染谷将太が主演だというので,少し安心した。ヒロインに石橋静河という組み合わせも面白い。函館郊外の書店が再三登場するが,店長,他の店員,母親も含め,誰にも感情移入できない。誰一人好きになれない面々というのも珍しい。きっと,それも意図的な演出,描き方なのだろう。と思っていたが,強烈なラストシーンで,ようやくこの主人公の心情が気になった。もう一度,最初から彼の言動を点検してみたくなる。監督は三宅唱。なかなかの演出力だが,本作の最大の欠点はビートルズの曲が全く使われていないことだ。劇中での使用権が得られなかったのだろうが,「And Your Bird Can Sing」が流れないのなら,この題名は全く意味不明ではないか。
 『500ページの夢の束』:魅力的な邦題だ。この題名で『JUNO/ジュノ』(07) 『マイレージ,マイライフ』(09)の製作者による作品となれば,爽やかで,幸せな気分にさせてくれるヒューマンドラマだなと想像できる。ただし,物語はそう単純ではなかった。主人公は,発達障害(自閉症)があり,自立支援ホームで暮す20歳過ぎの女性ウェンディで,ダコタ・ファニングが演じている。500頁というのは,『スター・トレック』シリーズ50周年記念の脚本コンテストに応募するため,彼女が書き上げた原稿の枚数である。根っからのトレッキーで,この脚本執筆だけを生き甲斐にしてきた彼女は,郵送提出では締切に間に合わないと知り,施設を脱走し,サンフランシスコからハリウッドまで直接届けるための旅に出る……。一途だが,情緒不安定な女性はなかなかの難役と思えたが,かつて天才子役と言われたD・ファニングは見事に演じている。主な助演陣は,彼女を見守るソーシャルワーカー役のトニ・コレットと年の離れた姉役のアリス・イヴ。後者は『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(13年9月号)に出ていた女優だから,これはファン・サービスだろうか。STシリーズの知識はなくても理解できるが,有った方がより楽しめる。少なくともスポックが異星人と地球人の混血であり,クリンゴン語を話すことくらいは知っておいて損はないだろう。
 『ブレス しあわせの呼吸』:こちらは題名に明示的に「しあわせ」が入っているが,ハッピー度よりも,シリアス度が高く,生きることを勇気づけてくれる映画だった。上記作よりも難病度も格段に高く,しかも実話だというから尚更だ。主人公のロビン・カヴェンディッシュ(アンドリュー・ガーフィールド)は,28歳でポリオに冒され,余命数ヶ月を宣告された英国人男性で,その後,人工呼吸器を付けたまま35年間生存したという。妻(クレア・フォイ),その双子の兄(トム・ホランダーの2役)や友人の献身的な介護と激励あっての奇跡的な人生であるが,本人の生きようという意志が感動を呼ぶ。とりわけ,重度障害者やその家族にとって必見の感動作だろう。自宅でも利用できる人工呼吸器,車椅子への搭載等,技術改良の様子も見ものだ。監督は,これがデビュー作のアンディ・サーキス。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのゴラム,『猿の惑星』シリーズのシーザー等を演じたMoCap俳優だが,監督としての腕も期待できる。そして何よりの驚きは,製作者が主人公の長男であることだ。ずっと暖めていた企画で,満を持しての映画化だろう。全編で両親への尊敬と愛が感じられる映画に仕上がっている。
 『3D彼女 リアルガール』:原作は那波マオ作の女性コミックで,例によってTVアニメ化後の実写映画化作品で,高校生の男女が織りなすラブコメディだ。となると,当欄で取り上げる理由が要るが,それは表題から明らかだろう。邦画メジャーの配給でなく,ワーナーブラザース作品だったので,ひょっとして3D上映かと淡い期待をもったが,残念ながら,それはなかった。単なるキラキラ映画ではなく,美少女と冴えないオタク男子の組み合わせというのがユニークだ。即ち,主人公の男子学生の関心事はアニメ,ゲーム等の2Dワールドであり,実在の女子高生が彼には3Dリアルなのである。実際,随所で2Dセル調のアニメキャラが実写に合成されて登場する。『ロジャー・ラビット』(88)級の単純な合成であるが,これはこれでいい。原作やTVアニメ版よりも,2Dと3Dの対比が明確であり,2Dの存在感が増してくる。正しいVFXの使い方だ。クラス1の美少女(中条あやみ)が冴えない典型的オタク(佐野勇斗)に恋をするドタバタ劇が頗る楽しい。上白石萌歌が演じるオタク女子高生,濱田マリ,竹内力が演じる主人公の両親のお馬鹿ぶりも抱腹絶倒ものだ。ずっとこのままのギャグのオンパレードであれば嬉しいが,そうは行かないだろうと思っていたところ,案の定,中盤以降に彼女が難病と判明し,悲恋ものに転じる。生真面目なラブストーリーで興味は半減したが,ラストはもっと凄かった。笑えてくるほどベタな映画の恋の結末で,水戸黄門も遠山の金さんも裸足で逃げ出すお決まりのパターンだ。監督は『ヒロイン失格』(15)の英勉。見終ってしばらくして,そーか,これは思いっ切りギャグなのだと,ようやく理解した。
 
 
     
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