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O plus E誌 2010年3月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『恋するベーカリー』 :いま絶好調のメリル・ストリープ主演のレディース・ムービーだ。離婚した熟年カップルの再燃ラブストーリーという題材は,ハリウッド版「黄昏流星群」(ビッグコミックオリジナル連載の弘兼憲史作のコミック)というべきか。三角関係,男女の心の機微は,若者の恋愛ドラマでも本質的には同じだが,いい歳したオヤジの歯の浮くようなセリフは,日本人には少し気恥ずかしく感じるに違いない。登場人物は皆リッチで社会的地位もあり,結構なご身分だ。家族愛を連呼するシーンは相変わらずクサイが,最後の落とし所はなかなか上手い。さすがベテラン女性監督の腕だ。期待したほど食べ物のシーンは多くないが,観終わった後は,チョコレート・クロワッサンが食べたくなる。
 ■『パレード』 :原作は,吉田修一作の青春群像小説で山本周五郎賞受賞作。都内のマンションで共同生活を送る若者たち5人の生態がよく描かれていて,さすが今脂が乗り切った行定勲監督の演出力だ。若手俳優の演技力も確かで,日本映画も捨てたものじゃないなと感じる。とりわけ,男娼を演じる林遣都が印象的だ。『今度は愛妻家』の石橋蓮司といい,行定監督はオカマ描写が得意なのか(笑)。琴ちゃん役の貫地谷しほりも魅力的だ。前半の若者1人ずつの紹介はわくわくして観ていられるが,後半は暗く陰鬱になり,結末では後味の悪さが残る。山本周五郎賞選考会で「ラストの表現方法が疑問」(花村萬月)という指摘があったというから,これは原作の欠点をそのまま残している。
 ■『悲しみよりもっと悲しい物語』:韓国映画で,例によって若いイケメン男女の悲恋物語だ。きっとまた途中で,難病で余命いくばくもないとか出て来るなと思っていたら,この映画は最初からその設定だった。韓流恋愛劇は毎度他愛もない話だが,そう覚悟して観ると,後半の種明かしはなかなか良かった。エンディングの主題歌も心に滲みる。こんな純愛を大真面目に映画に託すとは,韓国人は根っから純情なのか,それともまだ社会の文化的成熟度が足りないのか。隣席の熟年女性は号泣していたが,「おいおい,2人はそれで良くても,歯科医の立場はどうなるんだよ!」と感じたのは,筆者がひねくれているからなのだろうか?
 ■『しあわせの隠れ場所』:原題は『The Blind Side』。死角・盲点の意味で,本作ではアメリカン・フットボールのクォーターバックの死角を守る攻撃側選手に焦点を合わせている。白人の裕福な家庭がホームレス同然の黒人少年を迎え入れ,類い稀なる体格と敏捷性から,フットボール選手への適性を見抜き,少年は才能を開花させる。保護本能のある心優しい少年,家庭円満で皆いい人たち,爽やかで心温まる感動の物語……。「いくら映画とはいえ,こんな夢物語はないよ。現実世界は厳しいよ」と思いつつ眺めていた。全く予備知識なく試写を観たのだが,エンドロールで実話だと知って驚いた。ふーむ,これが本当の話とはねぇ……。
 ■『ニューヨーク,アイラブユー』:世界各国の10人の監督が描く11話のラブストーリーを11人目の監督が繋ぎ合わせたアンサンブル・ムービー。日本からは岩井俊二監督が参加している。大都会ニューヨークの人気スポットを舞台に,小粋な大人の恋愛譚が次々と登場する。NYフリークには,たまらない魅力だろう。筆者には,車椅子の女性が登場する第5話と画家が中国人女性を描く第8話が面白かった。欠点はと言えば,各エピソードが独立でなく,複雑に繋がっているため,男優たちが誰が誰だか見分けられなくなり,少し戸惑う。デート・ムービーには最適だ。
 ■『ハート・ロッカー』:アカデミー賞9部門ノミネートで,本命『アバター』の対抗馬だ。その下馬評を知ってから観たが,なるほど評判通り,完成度が高い佳作だ。2004年のイラク・バグダッド郊外を舞台に,米軍爆発物処理班・ブラボー中隊の兵士たちの日々を描く。前作の『K-19』(02)同様,女性監督でありながら,男だけの社会の描き方が巧みだ。全編,ほぼ戦場でのテロリストとの対決や爆発物処理だが,その緊迫感が凄い。いつ爆発するか,誰が死ぬのか,先が読めないから,自分がこの中隊の一員になった気分になる。ヨルダンで撮影されたようだが,住民や建物など細部の描写も徹底していて,これが戦時下のイラクかと納得させられる。観終わるとぐったり疲れるが,エンディングでは,この主人公の精神力に改めて驚かされる。
 ■『フィリップ,きみを愛してる!』:ジム・キャリーとユアン・マクレガーがゲイを演じ,愛し合うというから,それだけで興味津々だ。ジム・キャリー演じる詐欺と脱獄を繰り返す男の行動は,全く先が読めないドラマで,その目まぐるしい展開に圧倒される。これが実話とは驚きだ。そのくせ,今一つ感情移入できなかったのは,ゲイの心が理解できないからだろうか。例によって,主人公はジム・キャリーにしか演じられない破天荒なキャラだが,彼の演技に少し飽きたからだろうか。筆者が監督なら,思い切って2人を逆にキャスティングして撮ってみたと思う。その方が味が出る。
 ■『NINE』:ブロードウェイ・ミュージカルのヒット作を,故アンソニー・ミンゲラ監督が脚色,『シカゴ』(03年4月号)のロブ・マーシャル監督がメガホンをとった話題作だ。主人公の映画監督役にダニエル・デイ=ルイス,彼を取り巻く女性達がニコール・キッドマン,ペネロペ・クルス,マリオン・コティヤールという飛び切りの美女3人に,超ベテランのソフィア・ローレン,ジュディ・デンチまで助演するという豪華キャスティングだ。大スター達が歌って踊るシーンが見せ場のはずなのに,予想したより少なかった。物語が全く面白くなく,これならミュージカル仕立てでなく,無名俳優でじっくり描いた方が似合っている。唯一の救いは,ラスト10分間だ。エンディングからエンドロールにかけての映像と歌が素晴らしい。  
 ■『マイレージ,マイライフ』:原題は『Up in the Air』。年間322日の出張,航空会社のマイレージ1,000万マイル獲得を人生の目標にしたビジネスマンの物語だが,上手い題を付けたものだ。筆者なら『バックパックの中身』とでもしただろうか。オープニング・タイトルだけで,この監督は只者ではないと身構える。前半は洒脱で快適なテンポのコメディ,後半はじっくり人生を見つめ直す展開で,さすがはオスカー候補作だ。監督は『JUNO/ジュノ』(07)のジェイソン・ライトマンだった。挿入歌のアコースティック・ギターの響きが心地よく,選曲センスの良さも感じられる。よく練られたセリフも味わい深いが,この主人公はジョージ・クルーニーのような濃い顔立ちの2枚目でなく,もう少し軽めのヤンキー顔の方が良かったと感じた。
 ■『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』:『ダレン・シャン』と比較して書きたかったが,間に合わなかった作品だ。公開日の翌日に映画館に観に行った。神と人間のハーフである少年パーシー・ジャクソンが遭遇する冒険物語で,またまた食傷気味のファンタジーである。新味と言えば,現代社会の中にギリシャ神話の神々が登場するので,少し親しみがもてることだろうか。『ハリー・ポッター』シリーズの2作目までを監督したクリス・コロンバスがメガホンをとっているので,それなりに面白く作られている。神のパワーアイテムを巡る攻防というのは,いかにもRPG感覚だ。VFX的にはかなりの大作で,半人半獣のケンタウロス(ピアース・ブロスナン)の上半身と下半身の繋ぎ目の仕上げは見事で,メデューサ(ユマ・サーマン)の頭でとぐろを巻く多数の蛇のクオリティも高かった。GW公開の『タイタンの戦い』にもメデューサが登場するから,比べてみるといいだろう。かなり子供向けの設定の映画だったが,会場内は中高生がほとんどだった。いや,大学生と思しき男女も結構いた。大学生が大真面目でこの映画を観るとは,現代日本の教育水準は相当低いということか。    
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  (上記のうち,『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』はO plus E誌には非掲載です)  
   
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