head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
title
 
O plus E誌 2015年5月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ザ・トライブ』:ウクライナ発の話題作だ。一瞬たりとも目を離せないという緊張感をもって,この映画を熟視した。カンヌ映画祭や世界各国で数々の賞を得ているというだけではない。登場人物の大半が聾唖者で,全編手話のみ,字幕も音楽もない。かろうじて,自然音(足音,ドアの開閉等々)だけはあるという設定だ。この驚くべき条件と「少年は愛を欲望した。少女は愛なんか信じていなかった」というコピーだけの情報で,この映画に臨んだが,「あらすじ」を読んでから観るんだったと後悔した。ジェスチャーや表情で物語の展開は読めるようになるが,それでも全く理解できない外国語の映画より,少しマシな程度だ。ある種のキワモノの域を出ないが,最後の15分の展開,結末は衝撃だった。可能なら,手話の意味を字幕にし,完全に無音で(即ち,聾唖者達と同じ条件で)この映画を観てみたい。DVD で,そのモードを作ってくれることを切望しておく。
 『あの日の声を探して』:舞台となるのは1999年の第2次チェチェン紛争下の町で,ロシア軍の軍事侵攻で両親を殺され,声をなくした少年と,彼を見守るEU女性職員の物語である。フランス,グルジア合作だが,映画中では仏語,英語,ロシア語等が入り乱れる。監督と主演女優は,『アーティスト』(11)のミシェル・アザナヴィシウスとベレニス・ベジョ。離れ離れになった姉弟の再会を描く感動の物語なのだが,評論家筋の評価がさほど高くないのは,本作がフレッド・ジンネマン監督の話題作『山河遥かなり』(48)の焼き直し(題名は,共に「The Search」。筆者は未見)だからだろうか。本線の物語の裏で,ロシアの穏やかな一青年が,やがて冷酷なロシア兵と化して行く様の描写も秀逸だ。感動とともに,今も世界中で絶えない民族間の対立を憂い,強国の軍事介入を苦々しく感じる。
 『シンデレラ』:本来メイン欄で紹介すべき一作だが,本号は語りたい作品が多く,止むなく長めの短評に回さざるを得なかった。世界中の誰もが知っているシンデレラは,前々号で紹介したディズニー映画『イントゥ・ザ・ウッズ』にも登場していたが,イメージが違うと書いたばかりだ。本作も同じディズニー作品だが,一言で言えば,サクセス・ストーリーの代名詞であるシンデレラ物語を,そのイメージ通りに実写映画化し,魔法やお城も,期待通りにCG/VFXで強化している。強いて言えば,シンデレラは内気な受身の女性でなく,積極的な自分の意志をもった現代風女性として描かれている。この主演女優には,長編初主演となる英国の新進女優リリー・ジェームズが抜擢された。ノーブルな香りがする正統派の美女である。彼女が森で出会った青年キット(リチャード・マッデン)に恋心を抱くので,またまたディズニーは外して来たのかと思いきや,実はしっかり彼が王子様で,こちらもいかにものイケメンだ。キャストのトップにクレジットされているのは,意地悪な継母役のケイト・ブランシェット。オスカー女優らしい貫録で,この物語をリードする。映像的には,しっかりCGマジックで,カボチャを馬車に,トカゲを御者に変身させてくれる。それだけでなく,12時を過ぎ,魔法が解けて元に戻る様も,VFXで見せてくれるのが嬉しい。馬に変身するネズミ達は,最初からCGで描かれている。継母,義姉2人,シンデレラの4人の衣装が,終始CMYKの4色で使い分けられていて,子供にも分かりやすい。その中で,舞踏会でのシンデレラのブルーのドレスは一際目立った。この色合い,デザインだけで,来年のオスカー候補(衣装デザイン部門)だろう。
 『龍三と七人の子分たち』:北野武監督の第17作目で,『アウトレイジ』(10)『アウトレイジ ビヨンド』(12)に続くヤクザものだという。彼の監督としての才能に疑問を感じる筆者は,前作も酷評した。ところが,今回は,単純な続編『アウトレイジ3』ではなく,元ヤクザの70歳のジジイが,7人の子分を率い,詐欺集団のガキどもを懲らしめる話である。主演の藤竜也の実年齢は73歳,8人の俳優の平均年齢が72歳というジジイ集団の世直し譚は痛快に違いない。『REDリターンズ』『エクスペンダブルズ』シリーズ等,最近洋画でも老人パワーものが目立つが,和風ピカレスク映画を期待した。ところが,この手の映画はテンポが第1なのに,終始モタモタしている。若頭役の近藤正臣のジジイぶりは乙な味であったが,中尾彬以下のジジイが全く冴えない。痛快さはどこにもない。随所で笑いを誘おうとしているのは分かるが,全く笑えない。このネタで,よくぞここまでクソ面白くない映画が作れたものだ。
 『アルプス 天空の交響曲シンフォニー』:山岳映画には感動の物語が多いが,これは登攀記ではない。アルプス山脈の大自然をシネフレックス・カメラで捕えた映像を柱に,山と関わる人々の生活を加えたドキュメンタリーだ。「何だ,ヒマラヤじゃなくて,ずっと低いアルプスか」「IMAX 3Dで上映する高解像度映像ではないのか」とバカにするなかれ。アルプスの成り立ちから始まり,ヘリの下部に取り付けた防振HDカメラが,際立った崖,尾根を歩く人々,スキー,バンジージャンプ,スカイダイビング等々の模様を,他に類のない見事な映像で見せつける。単眼映像なのに,見ていて足がすくんだ。鷲の首に装着したカメラが捉えた3kmの急降下は,あまりの迫力に,ただただ驚かされる。素晴らしい。絶対に映画館の大きなスクリーンで見るべき映画である。
 『ラスト5イヤーズ』:ブロードウェイ・ミュージカルの映画化作品で,女優志望のキャシー(アナ・ケンドリック)と小説家志望のジェイミー(ジェレミー・ジョーダン)の5年間の愛の結末を描いている。知り合い,激しい恋に落ち,結婚,そして次第に心がすれ違い,やがて破局となるが,そのままストレートに描いている訳ではない。2人で交互に計14曲を歌うが,女性が破局から時間を逆順で遡るのに対して,男性は出会いから別れまでを素直に時間軸を辿っている。即ち,時間軸が交錯するのはたった1点だ。この前提を理解していないと,物語を追うのが少し辛い。朗々とした歌曲の歌詞に,男女の心の触れ合いとすれ違いに至るまでが込められているが,日本語字幕ではそれが伝え切れていない感がある。ラストの手の込んだ演出はなかなか洒落ていて,もう一度見直したくなる。
 『群盗』:韓国製の時代劇で,かなりの力作なのだが,この映画は少し損をしている。特徴のない野暮な題名,坊主頭の武骨な主人公のポスターでは,全く重苦しいイメージだからだ。『悪いやつら』(11)の天才監督ユン・ジョンビンの最新作というから,尚更暗く感じてしまう。実際には,オープニングから西部劇風の軽快な語り口で,ナレーションも付されていて,実に展開が分かりやすい。日本の観客には馴染みが薄いが,冒頭から有名俳優が続々出て来るというから,きっと韓国の観客にはワクワクする進行なのだろう。時代設定は朝鮮王朝末期の1862年で,極貧の生まれの畜人・トルムチ(ハ・ジョンウ)は盗賊団に拾われ,後に義賊となって民衆を苦しめる圧政と戦うという物語である。主要登場人物それぞれに個性があり,エンタメのツボを心得ている。敵役が強いほど面白いというが,宿敵の剣豪武官チョ・ユン(カン・ドンウォン)はその典型だ。邦画時代劇なら,佐々木小次郎を演じさせたくなるような冷徹な美丈夫である。見どころは,中国の武侠映画+西部劇の面白さだが,ただの西部劇ではなく,音楽はエンニオ・モリコーネ風で,マカロニ・ウェスタンを彷彿とさせる。韓国製だから,ビビンバ・ウェスタンかキムチ・ウェスタンとでも呼ぶべきか。味付けは悪くない。
 『フォーカス』:ウィル・スミスの最新作で,今回の役柄は天才詐欺師だ。ヒロインのマーゴット・ロビーにスリの手練手管を教え,やがて恋に落ちるラブ・コメディだという。軽快なタッチの娯楽作を期待したが,まさにその通りの展開で,前半は様々なスリの手口を見せてくれるシーンにワクワクする。なるほど「世界の天才スリ師」に技術指導を仰いだだけのことはある。その早業描写には,VFXの力も借りている。3年後の設定の後半は,世界の富豪を相手の一大コン・ゲームであり,誰が誰を騙しているのか,どこまで本気なのか,先が読めない。そして,当然観客の裏をかく,しかるべきエンディングが待っている。エンドロールで流れる2曲目は,レイ・コニフ・シンガーズが歌う「風のささやき (The Windmill of Your Mind)」だった。映画通なら,あの大泥棒映画に捧げるオマージュだと分かるだろう。
 『ブラックハット』:題名は,コンピュータ・ネットワークを攻撃する悪質なハッカー達の呼称で,善意の「ホワイトハット」の反語だ。香港の原子炉を破壊し,シカゴの金融市場を荒らした凶悪犯を追跡するため,米中合同捜査チームは,元ブラックハットで収監中のニコラス(クリス・ヘムズワース)を釈放して,捜査に協力させるという筋立てだ。クライム・アクションとしては在り来たりの設定だが,IT管理やハッキングの描写はかなり現代風で,筆者はこの表現力に注目した。当初,知的なハッカー役に,筋骨隆々の「マイティー・ソー」俳優は合わないと感じたが,後半の大アクション展開には丁度良かった。難点として,原発破壊や凄腕に殺し屋との銃撃戦の大仕掛けにしては,狙った現金が7,400万ドル(約9億円)とは,ちと安過ぎないか。これは元手資金で,更にもう一儲けを企んだとはいえ,この規模のテロなら,もう2桁上でないと割りが合わない。
 『小さな世界はワンダーランド』:「ドラマチック・ドキュメンタリー」とは,大自然を描き,今や著名ブランドとなった「BBCアース」が生み出す新ジャンルである。博物館等の高解像度大型スクリーンをターゲットにした,ストーリー性のある動物もの映画作品群のようだ。その第1作は,CGアニメの老舗ピクサーとタッグを組んだ作品というので,誤った先入観でこの映画を観てしまった。主人公のシマリスとスコーピオンマウスは,てっきりCG製であり,これを自然界の実写映像に合成しているのだと思った。このCG品質は凄い。技術の進歩とはいえ,森の自然に見事に溶け込んでいる。その反面,CGキャラなら,物語としてもっと冒険してもいいと感じた。ところが,後で調べると,動物達はすべて本物だった。それならそれで感心する。巣の中の大量のドングリは,どう見てもCGならではの光景だ。よくぞ,こんなアングルの映像をカメラで捕えたものだと,改めて感心し,感嘆する。
 『ホーンズ 容疑者と告白の角』:主演はダニエル・ラドクリフ。『ハリー・ポッター』シリーズ全8作が終わって4年になるが,その印象が強過ぎ,作品選びにも苦労しているようだ。本作では,恋人殺しの嫌疑をかけられた青年役だが,苦悩の日々を過ごす内,ある朝起きると頭に角が生えていた。この角には,それを見たものに真実(本音)を語らせる不思議なパワーがある。という設定だが,とんでもない本音の連続は,コメディとして抜群の面白さだ。真犯人探しもサスペンスとして上々だったのに,結末が全くのお笑いだ。いくら魔法使い少年が主役で,監督がホラー出身,原作者はスティーヴン・キングの息子といっても,こりゃないよ。謎解きの緊迫感が,一挙に吹き飛んでしまった。
 『百日紅(さるすべり)~Miss HOKUSAI~』:奇妙な英語の副題が付いているが,純然たる邦画のセル調アニメーション映画である。主人公は,葛飾北斎の娘で,自らも浮世絵師であったお栄(葛飾応為)の自由闊達な生き方を描いている(「北斎」は父の雅号だから,「ミス北斎」は変だ)。原作は,漫画家で,江戸風俗研究家であった杉浦日向子が1980年代半ばに描いた漫画作品で,漫画家としての代表作である。アニメーション監督の原恵一が,没後10年に早世した原作者を偲んでアニメ映画化した。「杉浦日向子の世界がスクリーンに咲き乱れる!」のキャッチコピー通り,江戸情緒たっぷりに両国橋や吉原を描写し,市井の生活の中に,妖怪,もののけ,亡者まで登場させて,盛り沢山だ。日頃から,表現力としては3D-CGが絶対的に勝ると主張している筆者であるが,浮世絵師が題材の本作には,セル調アニメの方が適していると言わざるを得ない。ただし,それなら北斎や歌川豊国の名画を映画中に盛り込んで欲しかったところだ。さらに言えば,主人公のお栄の容貌は,目がぱっちりでなく,浮世絵風に切れ長であって欲しい。そう思いながら観ていたのだが,後になって,大きな瞳のはっきりとした目鼻立ちは,杉浦日向子に似せて描いたのかと納得した。
 『真夜中のゆりかご』:デンマーク映画で,原題は『A Second Chance』だが,洒落た邦題を付けたものだ。共に乳児をもつ,刑事のカップル,前科者のカップルが織りなす家族をテーマにしたサスペンス・スリラーだ。ふとした出来心から刑事が犯した罪の行方を,同僚の刑事が追うという筋立てだ。静かで,クールなタッチは,なるほど「北欧サスペンスの傑作」と言うだけのコクがある。2人の女性の描写が細やかだと思ったら,やはり女性監督だった。貧富の差,感情の起伏の描き方も上手い。主人公の刑事に感情移入するよう設定されているのだろうが,私はアル中の同僚刑事の視点で見てしまった。ラストがいい。スリラーのはずが,心が暖まり,少し幸せな気分になった。
 『ラン・オールナイト』:『96時間』(98) のリーアム・ニーソンの無敵ぶりは,とにかく痛快だった。地味な名優から,一躍アクション・スターに大変身した。既に同シリーズで3作,そしてジャウム・コレット=セラ監督でも『アンノウン』(11)『フライト・ゲーム』(14)と本作で3作目である。今回はマフィアの殺し屋というが,その無敵振りは同工異曲だから,いくら何でも食傷気味だ。もっと違った役柄の彼を観てみたい。そう思って観始めたのだが,超ハイテンポのノンストップ・アクションに,すっかり飲み込まれてしまった。考えてみれば,ジェイソン・ステイサムも,似たようなアクション一辺倒だ。我らが健さんとて,仁侠路線の頃は,ほとんど同じような役ばかりだった。本作で敵対するのは,エド・ハリスと彼の手下たちで,義理と人情の狭間で,本作では息子を守りつつ,朝まで16時間疾走し続ける。ドスと銃が違うだけで,高倉健と鶴田浩二の共演,息子役に岡崎二朗あたりを配した仁侠映画を彷彿とさせる 筋立てだ。エンタメとしては,上々の出来である。
 『モンキー・マジック 孫悟空誕生』:副題から分かるように,中国古典の「西遊記」の前日譚で,スーパー・モンキーの孫悟空が妖術をマスターする過程を描くアクション・ファンタジーである。「あれっ!? その映画は以前の号で紹介されていて,映画館での上映も既に終わったはずだ」と思う読者がいても不思議はない。少し前に紹介したのは『西遊記~はじまりのはじまり~』(14年12月号)であって,孫悟空,猪八戒,沙悟浄が出会って,三蔵法師と天竺を目指すまでを描いていた。チャウ・シンチー節満載の娯楽作品で,中国では2013年に公開されている。本作は2014年の公開作品だが,同じく前日譚でも,玄奘三蔵も猪八戒も沙悟浄も登場しない。天界と魔界の争いの中から生まれた孫悟空(ドニー・イェン)だけが活躍する物語である。いくら誰もが知っている古典とはいえ,毎年似たような同工異曲の大作が登場して,よく中国人観客も飽きないものだ。筆者はといえば,本作の導入部の大味さに興をそがれ,語り口も好きになれず,最後まで面白いと感じられなかった。チョウ・ユンファはじめ,助演陣は豪華で,クライマックスの盛り上げもしっかりしている。CG/VFXの利用場面も多々あるものの,いずれもチープな描き方だった。ボリューム感はあり,素材は悪くないのに,味付けが口に合わない田舎料理のような感じである。昼食に,そう悪くない広東料理のコースを食べた数時間後に,北京料理のフルコースの無理やり食べさせられる感じだと言えば,もはや食指が動かなった様子が伝わるだろうか。
 
   
  ()  
 
  (上記の内,『群盗』『百日紅』『モンキー・マジック』は,O plus E誌には非掲載です)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next